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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第88話「三月の、一日目」

三月。





——それが——誠が——切った——期限、だった。







——縄が——届かない——高みで。






——誰も——乗せずに——手綱を——握る——方法。







——それを——見つける——ための——三月。









「——まず——できないことを——並べます」







——初日。






——誠は——工房に——皆を——集めた。







「——できないこと、だと?」






「——はい」








——誠は——紙を——広げた。







「——今まで——僕たち——"どうすれば——できるか"、ばかり——考えてきました」






「——でも——三月しか——ありません」







「——だから——先に——"絶対に——無理なこと"、を——消します」






「——残ったものだけ——調べます」








「……なるほど」







——賢者が——腕を——組んだ。







「——商人の——やり方だな」






「——八百屋です」









——こうして。






——紙が——埋まっていった。








——「縄を——長くする」——重さで——飛ばない。無理





——「矢を——大きくする」——風に——負ける。無理





——「魔力を——遠くまで——飛ばす」——届かない。無理





——「術者を——乗せる」——これしか——残らない








「——三つ——消えて——一つ——残ったな」







——賢者が——渋い——顔を——した。







「——それでは——三月——待つ——意味が——ない」








「——いえ」







——誠は——首を——振った。







「——僕、一つ——聞き忘れてました」






「——何を——だ」








「——"なぜ——手綱が——要るのか"、です」








「…………は?」







——工房が——妙な——顔を——した。







「——決まって——おろう。爆発するからだ」






「——そうですよね」








——誠は。






——ルカの——帳面を——机に——置いた。







「——でも——これ——見て——ください」








——そこには。






——矢の——記録が——写してあった。







——ルカが——豆で——やっていたのと——同じ——形式で。






——日付。風。火薬。手綱。結果。








「——賢者さんが——言いましたよね」







——誠は——頁を——指した。







「——"爆発した——日は——全部——風が——強い——日だ"、って」






「——うむ」








「——じゃあ——風が——弱い——日は——爆発してませんよね」







「——それは——そうだが」








「——手綱を——握ってても——握ってなくても、ですか」








「…………」







——賢者の——動きが。






——止まった。








「——待て」






「——一色さん。ここ、見て——ください」








——誠は——別の——頁を——めくった。







「——十七日目。手綱——効かせ損ねた、って——書いてあります」






「——でも——結果は——"無事"、です」








「…………」







——一色が。






——帳面を——ひったくった。







「——他にも——ある」







——彼女は——早口に——なった。







「——二十三日目。三十一日目。四十五日目」






「——手綱が——半端だった——日でも——風が——弱ければ——無事」








「——ということは」







——誠が——静かに——言った。







「——手綱は——"爆発を——止める"、ためじゃ——ないんじゃ——ないですか」







「——"風に——負けないように——する"、ためなんじゃ——ないですか」








「…………」







——工房が。






——静まり返った。








「——同じ、ことでは——ないのか」







——魔術師が——尋ねた。







「——違います」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——爆発を——止めるなら——ずっと——見てないと——駄目です」






「——でも——風に——負けないように——するだけなら」







「——風の——強い——ところを——通る、時だけで——いいです」








「…………」







——賢者が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——一色。風は——どこまで——強い」






「——測ったわ」








——一色は——帳面を——めくった。







「——地面から——百尺くらいまでが——一番——荒れてる」






「——それより——上は——むしろ——落ち着いてるの」








「——なんだと——!?」







「——空は——高いほど——荒れると——思って——おったぞ——!」








「——竜に——聞いたのよ」







——一色は——天井を——指した。







「——藤原さんが——"低いとこが——一番——揺れる。上は——楽や"、って」








「——なぜ——早く——言わぬ——!!」






「——聞かれなかった、って」








「——また——それか——!!」









——だが。






——賢者は——すぐに——顔を——上げた。







「——待て。ならば——だ」







——彼は——紙に——書いた。







「——手綱が——要るのは——百尺までだ」






「——そこを——過ぎれば——放って——おいても——飛ぶ」








「——百尺なら——縄が——届きます——!」







——魔法使いが——叫んだ。







「——地面から——見えます——!」






「——乗らなくて——いいんです——!」









——工房が。






——ざわめいた。








「——待って」







——だが——一色が——止めた。







「——一つ——落とし穴が——あるわ」






「——なんです——!?」








「——百尺を——過ぎた——後よ」







——一色は——図を——描いた。







「——手綱が——なくなったら——真っ直ぐ——飛ぶ——保証が——ない」






「——少しでも——傾いたら——どんどん——ずれていく」







「——狙った——ところに——当たらないわ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——一色さん。矢は——回ってますよね」






「——ええ。羽根を——斜めに——してるから」








「——独楽は——回ってる——間は——倒れませんよね」






「——ええ」






「——じゃあ——回ってる——間は——真っ直ぐ——飛びませんか」








「…………」







——一色は。






——じっと——図を——見つめた。







「——理屈では——そう」






「——でも——回りが——弱まったら——終わりよ」








「——なら——回りを——強くすれば——いいんじゃ——ないですか」







「——どうやって」








「——羽根を——もっと——斜めに——します」







——誠は——さらり、と——言った。







「——それだと——前に——進む——力が——減るわよ」






「——じゃあ——ちょうどいい——角度を——探します」








「——探す、と——言うが——どうやって」







——賢者が——尋ねると。






——誠は——にっこりと——笑った。








「——数えます」







「…………」







「——角度を——変えて——飛ばして——記録して」






「——一番——真っ直ぐ——飛ぶ——角度を——見つけます」








「——それこそ——何百本——要るぞ——!」






「——三月——あります」








「…………」







——賢者は。






——ふん、と——鼻を——鳴らして。






——そして——立ち上がった。








「——よかろう」






「——数えるぞ」









——その、夜。






——誠は。






——ルカの——帳面を——返しに——行った。








「——ルカ。ありがとうな」






「——え? 何が——ですか」







「——お前が——記録の——書き方を——教えてくれたから」







——誠は——帳面を——渡した。







「——今日——大事なことが——分かったんだ」








「——僕、何も——してませんよ——!?」






「——してたんだよ」








——誠は——笑った。







「——半年——毎日——数えてただろう」






「——あれが——なかったら——今日の——話は——出てこなかった」








「…………」







——ルカは。






——帳面を——胸に——抱えて。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——師匠」






「——ん?」






「——僕、もっと——数えます」








「——ああ。頼む」









——そして。






——三月の——一日目が——終わった。







——残りは——八十九日。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。

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