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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「魔王の、優しい呪い」

異変に——最初に——気づいたのは。





——やはり——ルカ、だった。







「——師匠。最近——変じゃ——ないですか」






「——何が——だ」







「——皆さん——挨拶——してきます」








「——それは——いいこと、だろう」






「——しすぎ、なんです」








——ルカは——通路を——指した。







「——おはようございます——!」






「——おはようございます——!」






「——おはようございます——!」








——すれ違う——者が。






——一人——残らず——律儀に——頭を——下げていく。







——魔族も。





——鬼族も。





——悪の組織も。







「——イーッ——!」






「——挨拶——してますね、あれも」








「……確かに——多いな」









——だが。






——それだけでは——なかった。








「——通路が——綺麗——すぎます」







——一色が——渋い——顔で——言った。







「——先週まで——泥だらけだったのに」






「——今——磨いてあるわ」








「——誰が——やったんですか」






「——それが——皆——"気づいたら——やってた"、と——言うのよ」









——さらに。







「——おかしいのだ——!」







——賢者が——寝不足の——ない——顔で——現れた。







「——賢者さん。隈が——消えてますね」






「——それが——おかしいのだ——!」








——彼は——机を——叩いた。







「——昨夜も——徹夜で——計算する——つもりで——おった」






「——だが——闇が——来た——途端に——猛烈に——眠く——なってな」






「——気づいたら——朝だ——!」








「——三日——続いて——おる——!!」







「——よく——眠れてるなら——いいじゃ——ないですか」






「——学者としては——困る——!!」









——極めつけは。






——光の勇者、だった。







「——おい、田中」






「——はい」






「——俺は——強いか」








「——え? まあ——強いと——思いますけど」






「——そうか。……では——聞け」







——光の勇者は——胸を——張った。







「——俺は——星が——落ちようと——恐れは——せん——!」







——そして。






——口が——勝手に——続いた。








「——本当は——毎晩——怖くて——眠れん」








「…………」






「…………」







「——今——なんて?」






「——言って——おらん——!」







「——言ってました」








「——違う——! 俺は——毎日——余裕で——!」







「——皆の——前では——強がって——おるが——一人に——なると——膝が——震える」








「——止まらん——!!」







——光の勇者が——口を——押さえた。







「——なんだ——これは——! 嘘が——つけん——!!」









——調べは——すぐに——ついた。







『——魔王』







——皆瀬が——ぷるん、と——揺れた。







『——夜中に……通路で——何か——唱えてた』








「——魔王さん——!?」









——第九層。






——魔王の——住処。







——扉を——開けた——誠は。







——絶句した。








「…………」







——真紅の——巨躯が。






——玉座に——腰かけている。







——四本の——角。





——背に——広がる——影。





——全身を——巡る——紋様。







——そして。







——猫が——十四匹。








「——ま、魔王さん——!?」






「——来たか」







——魔王は——重々しく——頷いた。







——膝の——上に——三匹。






——肩に——二匹。






——角に——一匹——ぶら下がっている。








「——威厳が——ありません——!!」







——控えていた——幹部が——涙目で——訴えた。







「——毎日——こうなのです——!」






「——追い払っても——追い払っても——集まって——参ります——!」








「——猫に——罪は——ない」







——魔王は——静かに——猫を——撫でた。








「——あの——魔王さん」







——誠が——切り出した。







「——地下で——変なことが——起きてるんです」






「——皆が——挨拶——しすぎたり——夜に——眠くなったり——嘘が——つけなく——なったり」








「——我だ」







——魔王は——あっさりと——認めた。







「——え——!?」






「——呪いを——かけた」








「——呪い——!?」







——誠が——身構えた。







「——なんで——そんなことを——!」








「——皆——疲れて——おったからだ」








「…………え?」








——魔王は。






——猫を——膝に——載せたまま——語り始めた。








「——夜が——四刻しか——ない」






「——だが——皆——その、四刻すら——寝ずに——働いて——おった」






「——特に——あの——学者だ」








「——賢者さん——!」






「——三日で——倒れると——見た」







——魔王は——ふん、と——鼻を——鳴らした。







「——だから——闇が——来たら——眠くなる——呪いを——かけた」








「…………」







「——通路も——だ」







「——泥が——溜まって——おった。病が——出る」






「——だが——誰も——手が——回らぬ」






「——ゆえに——散らかりを——見たら——掃除したく——なる——呪いを」








「——挨拶は——!?」







「——人と——魔族が——並んで——暮らして——おる」







——魔王は——目を——伏せた。







「——だが——互いに——口を——きかぬ」






「——このままでは——いずれ——揉める」







「——ならば——顔を——見たら——挨拶する——ように——すれば——よい」








「——嘘が——つけないのは——!?」







「——あの——勇者だ」







——魔王は——渋い——顔を——した。







「——強がってばかりで——誰にも——弱音を——吐かぬ」






「——ああいう——者から——先に——潰れる」







「——だから——本音を——吐かせた」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——魔王さん」






「——なんだ」






「——それ——呪いじゃ——ないですよね」








「——呪いだ」






「——違います」






「——呪いだ」








「——魔王様。恐れながら」







——幹部が——控えめに——口を——挟んだ。







「——それは——祝福では——ございませんか」








「…………」







——魔王は。






——腕を——組んで。






——少し——照れくさそうに——目を——そらして。






——そして——言った。








「——名が——"祝福"、では」






「——魔王らしく——ないだろう」








「——そこ——ですか——!!」









——だが。






——魔王は——真顔に——戻って——言った。








「——田中。呪いとは——何だと——思う」






「——え? 人を——苦しめる——ものでは」








「——違う」







——魔王は——首を——振った。







「——呪いとは——本来」






「——"相手の——生き方を——少し——変える——魔法"、だ」








「…………」







「——傷つける、ためだけの——ものでは——ない」







——彼は——猫を——撫でた。







「——だが——長い——年月の——うちに」






「——人は——それを——傷つける、ためにしか——使わなく——なった」







「——だから——名が——悪く——なった」








「…………」







——誠は。






——ふと——思い出していた。







——山田の——闇の——魔法。







——「世界を——滅ぼす——闇」、と——名乗って——いたものが。






——影を——作って——皆を——涼ませていた。








「——魔王さん。僕、分かります」







「——ほう」







「——僕、毎日——麦茶を——配ってるんです」







——誠は——静かに——言った。







「——ただの——麦茶です。何の——力も——ありません」






「——でも——三年——配ってたら」






「——皆——少しずつ——変わりました」








「——それも——呪い、ですか」








——魔王は。






——じっと——誠を——見て。






——そして——低く——笑った。








「——お前の、方が——質が——悪い」






「——なぜですか——!」







「——我のは——解ける」







——魔王は——猫を——膝から——下ろした。







「——だが——お前のは——解けん」









——ちなみに。






——呪いは——他にも——あった。








「——魔王さん。子どもが——ピーマンを——食べるように——なったのは」






「——我だ」






「——親御さんが——泣いて——喜んでました」








「——転んでも——痛くないのは」






「——我だ。年寄りが——多いのでな」








「——喧嘩が——長続きしないのは」






「——三十数えると——笑顔に——なる——呪いだ」








「——会議で——皆の——腹が——鳴るのは——!?」






「——怒鳴ろうと——すると——鳴るように——した」








「——あれ——魔王さんの——せいだったんですか——!!」







——誠は——頭を——抱えた。







「——この前——賢者さんが——怒鳴ろうと——して——腹が——鳴って」






「——皆——笑って——喧嘩が——収まったんです——!」







「——狙い通りだ」









——そして。






——誠が——ふと——尋ねた。








「——迷子を——放って——おけなくなるのも——魔王さんですか」







「——ああ。……あれは——効きすぎた」







——魔王は——渋い——顔を——した。







「——我が——配下が——全員——迷子探しに——出て——おる」






「——魔族の——里が——空だ」








「——それ——悪の組織と——同じ——状態です——!」









——ひとしきり——笑った——後。






——誠は——ふと——真顔に——なった。








「——魔王さん。一つ——聞いても——いいですか」






「——なんだ」







「——そんなに——いろいろ——できるなら」







——誠は——天井を——見上げた。







「——星に——呪いを——かけることは——できないんですか」








「…………」







——魔王の——動きが。






——止まった。








「——"落ちるのを——やめる——呪い"、とか」






「——"皆が——幸せに——終わる——呪い"、とか」








「…………」







——魔王は。






——長い、こと——黙っていた。







——猫が——一匹。






——彼の——膝に——戻ってきた。








「……一度」







——ようやく——彼は——口を——開いた。







「——試みた」








「——え?」







「——星が——落ち始めた、と——聞いた——夜だ」







——魔王は——静かに——言った。







「——地上に——出て——空に——向かって——唱えた」






「——一晩——かけて——な」








「…………」







「——だが」







——彼は——目を——伏せた。







「——かからなんだ」








「——なぜ——ですか」







「——分からぬ」







——魔王は——首を——振った。







「——猫にも——人にも——魔族にも——かかる」






「——だが——世界そのものには——かからなんだ」







「——まるで」








——彼は。






——ゆっくりと——天井を——見上げた。








「——"かける——相手"、では——ないかのようだった」








「…………」







——誠は。






——何も——言えなかった。








「——だから——我は——人に——かけて——おる」







——魔王は。






——猫を——撫でながら——言った。







「——世界は——変えられぬ」






「——だが——人の——生き方は——少し——変えられる」







「——それが——我に——できる——ことだ」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。







「——ありがとう——ございます」







「——礼を——言うな」






「——呪いだぞ」








「——祝福です」






「——呪いだ」









——帰り道。






——通路は——妙に——磨き上げられていた。







「——おはようございます——!」






「——おはようございます」







——すれ違う——者が——皆——頭を——下げていく。







——遠くで。






——光の勇者が——誰かに——本音を——漏らして——赤面していた。








「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——魔王の——旦那の——仕業だ、そうで」






「——はい」








「——皆に——伝えやすか」








——誠は。






——少し——考えて。






——そして——首を——振った。








「——いえ。黙って——おきます」






「——ほう。なぜで?」








「——言ったら——皆——魔王さんに——礼を——言いに——行きます」







——誠は——笑った。







「——あの、人——困ると——思うので」








「——なるほど」







——駄々丸は。






——扇子を——ぱちり、と——閉じた。







「——旦那も——大概——人が——悪うござんすね」






「——優しさです」






「——同じで——ござんすよ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「地下で、変なことが、起きてた。皆、やたら挨拶するし、通路が、磨き上げられてるし、賢者さんは、夜に、猛烈に眠くなって、徹夜できないし、勇者さんは、嘘が、つけなくなってた。"星が落ちても恐れん"、って言った後に、"本当は毎晩、怖くて眠れん"、って、口が、勝手に。……皆瀬さんが、"魔王が、夜中に、通路で、何か唱えてた"、って。第九層に、行ったら、魔王さん、猫十四匹に、埋もれてた。幹部さんが、"威厳がありません"、って、泣いてた。……聞いたら、"我だ。呪いをかけた"、って。なんで、って聞いたら、"皆、疲れておったからだ"、って。賢者さんは、三日で倒れると、見たから、夜は眠くなる呪い。通路は、泥が溜まって、病が出るから、掃除したくなる呪い。人と魔族が、口をきかないと、いずれ揉めるから、挨拶の呪い。勇者さんは、強がってばかりで、ああいう者から先に潰れるから、本音を吐かせた。……それ、呪いじゃ、ないですよね、って言ったら、"呪いだ"、って。幹部さんが、"祝福では"、って言ったら、"名が、祝福では、魔王らしくないだろう"、って、照れてた。そこですか。でも、真顔で、"呪いとは、本来、相手の生き方を、少し変える魔法だ。傷つけるためだけの、ものではない。長い年月で、人が、傷つけるためにしか、使わなくなったから、名が悪くなった"、って。……山田さんの、闇の魔法と、同じだ。滅ぼす闇、って名乗ってたのが、皆を、涼ませてた。だから、僕も、麦茶の話を、した。ただの麦茶で、何の力もないけど、三年配ってたら、皆、少しずつ、変わりました、って。それも、呪いですか、って。そしたら、"お前の方が、質が悪い。我のは、解ける。だが、お前のは、解けん"、って。……最後に、聞いてみた。星に、呪いを、かけられないんですか、って。魔王さん、長いこと、黙って、"一度、試みた"、って。星が落ち始めた夜に、地上で、一晩、唱えたって。でも、かからなかった。"猫にも、人にも、魔族にも、かかる。だが、世界そのものには、かからなんだ。まるで、かける相手では、ないかのようだった"、って。……だから、"世界は変えられぬ。だが、人の生き方は、少し変えられる。それが、我にできることだ"、って。頭を、下げた。"礼を言うな。呪いだぞ"、って。祝福です。……皆には、黙っておくことにした。言ったら、皆、礼を言いに行って、あの人が、困るから。駄々丸さんに、"旦那も、人が悪うござんすね"、って言われた。優しさです。じいちゃん、魔王さん、いい人です」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。魔王が——ただ一度——失敗した——その、呪い。




——世界そのものには——かからなかった、という——その、事実が。





——何を——意味して——いたのかを。


そして——「かける——相手では——ないかのようだった」、という——その——言い方が。




——恐ろしいほど——正確で、あったことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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