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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第87話「細くて、太い」

矢の——形を——巡って。





——議論は——十日——続いた。







「——細くすれば——風に——負けん」






「——だが——火薬が——入らん」






「——太くすれば——火薬は——入る」






「——だが——風に——煽られる」








「——堂々巡りだ——!」







——賢者が——机に——突っ伏した。








「——細くて——太い——矢が——要るのよね」







——一色が——ぼんやりと——言った。







「——それは——言葉として——おかしいであろう——!」






「——分かってるわよ」









——そこへ。






——荷を——運び終えた——誠が——顔を——出した。







「——まだ——揉めてるんですか」






「——揉めて——おる——!」








「——細くしたいけど——火薬が——入らない、でしたっけ」






「——そうだ」








——誠は。






——矢を——手に——取って——眺めた。








「——あの。火薬って——全部——一度に——燃えるんですか」







「——む?」






「——上から——順に——燃えるんですよね」








「——まあ——そうだが」







「——じゃあ——下の——方の——火薬は」







——誠は。






——矢の——尻を——指した。







「——燃えるまで——ずっと——運ばれてる、ってことですよね」








「…………」







——工房が。






——止まった。








「……なんだと?」







「——いえ。うちの——荷車と——同じだな、と——思って」







——誠は——のんびりと——言った。







「——四百軒——回るのに——最初は——全部——積んで——出てたんです」






「——でも——重くて——進まなくて」







「——今は——途中に——置き場を——作って——分けて——運んでます」








「…………」







——賢者が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——一色」






「——ええ」






「——聞いたか」






「——聞いたわ」








「——待って——ください。僕、何か——言いました?」








「——切り離せば——よいのだ——!!」







——賢者が——叫んだ。







「——燃え終わった——筒を——捨てるのよ——!!」







——一色も——立ち上がった。







「——そうすれば——残りは——軽くなる——! 細いままでも——高く——飛ぶ——!」








「——待て——! それは——前に——聞いた——ぞ——!」







——魔術師が——身を——乗り出した。







「——レールガンを——多段に——した、時だ——!」






「——厨二病の——小僧が——言って——おった——!」








「——"ロケット"、は——そうなって——おる、と——書いてありました——!」







——魔法使いが——帳面を——めくった。







「——"多段式"、です——!」








「——同じ——ものに——二度——たどり着いたのか——!」







——賢者が——天を——仰いだ。







「——なぜ——気づかなんだ——!!」








「——名前が——違ったからよ」







——一色が——冷静に——言った。







「——あの、時は——"レールガンを——繋ぐ"、話だった」






「——今は——"矢を——細くする"、話」






「——同じ——ことだと——気づかなかっただけ」








「……ぬう」









——こうして。






——矢は——生まれ変わった。







——三つの——筒を——縦に——繋ぎ。






——燃え終わった——ものから——順に——落とす。







——一本ずつは——細い。






——だが——合わせれば——火薬は——足りる。








「——切り離しは——どうする」







「——それこそ——手綱の——仕事です」







——魔法使いが——言った。







「——見て——いれば——燃え終わりは——分かります」






「——そこで——留め具を——外せば——いいんです」








「——遠くから——できるのか」






「——皆瀬さんの——鏡が——あれば」









——十日、後。






——荒野に——新しい——矢が——立った。







「——細いな」







——グランデルが——覗き込んだ。







「——前のは——ワシの——腕くらい——あったのになァ」






「——今度は——ルカの——腕くらいです」








「——僕の——腕、そんなに——細くないです——!」









「——では——一回目——! 点火——!!」







——ひゅう。







——矢が——伸びた。







「——一段目——燃え終わります——!」






——魔法使いが——鏡を——睨んだ。







「——今——!!」







——ぽとり。







——一段目の——筒が——落ちた。







——そして。







——矢が。






——ぐん、と——伸びた。








「——伸びた——!!」






「——軽くなったからだ——!!」








「——二段目——! 今——!!」







——ぽとり。







——さらに——伸びる。








「——縄が——! 縄が——足りません——!!」







——縄を——押さえていた——鬼族が——叫んだ。







「——止めろ——!!」







——ぴん、と。







——縄が——張り。






——矢が——止まった。








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。








「——一色さん」







——誠が——尋ねた。







「——今——何尺——ですか」








「……七十尺、よ」







——一色の——声が——震えていた。







「——でも——縄が——張ってなかったら」






「——たぶん——その、倍は——行ってた」








「——おおおお——!!」







——荒野が——沸いた。









——だが。






——賢者だけが。






——難しい——顔を——していた。








「——喜んで——おる——場合では——ないぞ」






「——え?」







「——縄が——足りぬ、ということは」







——彼は——静かに——言った。







「——縄では——追えぬ、ところまで——来た、ということだ」








「…………」







——歓声が。






——すう、と——引いた。








「——縄を——長くすれば——いいんじゃ——ないですか」







——誠が——言ったが。







「——もう——無理よ」







——一色が——首を——振った。







「——これ以上——長くしたら——縄の——重さで——矢が——飛ばなく——なる」






「——今でも——ぎりぎり、なの」








「…………」







——荒野に。






——重い——沈黙が——落ちた。








——皆が。






——同じことを——考えていた。







——だが——誰も——言わなかった。









「——では——私が——乗ります」







——魔法使いが。






——あっさりと——言った。








「——駄目です——!!」







——誠が——即座に——遮った。







「——まだ——十回——数えてません——!」






「——今の——形に——してから——一回目です——!」








「——でも——縄が——届かないなら——十回も——数えられませんよ」







「——低いところで——数えます——!」







——誠は——食い下がった。







「——火薬を——減らして——低く——飛ばして——十回——!」






「——それで——安定してから——増やします——!」








「——それでは——高く——飛ばした、時の——ことが——分かりませんよ」








「…………」







——誠は。






——言葉に——詰まった。







——その——通り、だった。







——低いところで——何度——成功しても。






——高いところの——ことは——分からない。








——そして——高いところを——確かめるには。






——誰かが——乗る、しか——ない。









「——誠さん」







——魔法使いが——静かに——言った。







「——一つ——聞いても——いいですか」






「——はい」








「——誠さん——星喰いの——時、どうしたんですか」








「——え?」






「——あの、時も——誰かが——危ないことを——したはずです」






「——誠さんは——止めたんですか」








「…………」







——誠は。






——答えられなかった。







——あの、時。







——皆瀬たち——スライムは。






——命を——削って——盾に——なった。







——誠は。






——それを——止めなかった。







——止められなかった。








「……止めませんでした」







「——なぜですか」







「——他に——道が——なかったからです」








「——今は——道が——ありますか」








「…………」







——誠は。






——拳を——握った。








「——探します」






「——え?」







「——今は——ないです。だから——探します」







——誠は——顔を——上げた。







「——三月——ください」






「——三月——探して——見つからなかったら」






「——その、時は——止めません」








「…………」







——魔法使いは。






——しばらく——誠を——見て。






——そして——にっこりと——笑った。








「——分かりました。三月——待ちます」







「——ありがとう——ございます」








「——でも——三月、ですよ」







——彼女は——指を——立てた。







「——一日でも——延ばしたら——勝手に——乗りますからね」









——散会の——後。







「——旦那」







——駄々丸が——隣に——立った。







「——三月で——見つかりやすかね」






「——分かりません」








「——では——なぜ——三月と——言いなすった」








——誠は。






——空を——見上げた。







——二つの——光が——輝いている。








「——あの、人が——待って——くれる——限界だと——思ったからです」







——誠は——ぽつり、と——言った。







「——一年、と——言ったら——断られてました」






「——一月、では——短すぎます」








「……なるほど」







——駄々丸は。






——煙管を——ふかした。







「——旦那は——商人で——ござんすね」







「——八百屋です」







「——同じで——ござんすよ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「矢の形で、十日、揉めてた。細くすると、火薬が入らない。太くすると、風に負ける。……僕、荷車の話を、したんです。四百軒、回るのに、最初は、全部積んで、出てたけど、重くて、進まないから、途中に置き場を作って、分けて運ぶことにした、って。そしたら、賢者さんと、一色さんが、飛び上がった。"燃え終わった筒を、捨てればいい"、って。……レールガンを、多段にした時と、同じことだった。二度目なのに、気づかなかった。一色さんが、"名前が、違ったからよ"、って。……新しい矢は、三つの筒を、縦に繋いで、燃え終わったら、落とす。試したら、ぐんぐん、伸びて——縄が、足りなくなった。皆、沸いた。でも、賢者さんが、"喜んでる場合ではない。縄では、追えぬところまで、来たということだ"、って。……一色さんも、"これ以上、縄を長くしたら、重さで、飛ばなくなる"、って。皆、黙った。誰も、言わなかった。……そしたら、魔法使いさんが、"では、私が乗ります"、って、あっさり。駄目です、まだ十回、数えてません、って言ったけど、"縄が届かないなら、十回も、数えられませんよ"、って。低いところで数えても、高いところは、分からない。……その通りだった。それから、"星喰いの時、誰かが、危ないことを、したはずです。止めたんですか"、って、聞かれた。……止めませんでした。皆瀬さんたちが、盾になった。他に、道が、なかったから。"今は、道が、ありますか"、って。ないです。だから、探します、って言った。三月、ください、って。三月探して、見つからなかったら、止めません、って。魔法使いさん、笑って、"分かりました。でも、一日でも延ばしたら、勝手に乗りますからね"、って。……駄々丸さんに、なぜ三月と言ったのか、聞かれた。あの人が、待ってくれる限界だと、思ったから。一年なら、断られてた。一月では、短すぎる。"旦那は、商人でござんすね"、って。八百屋です。じいちゃん、三月で、道を、見つけます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、日——彼が——切った——「三月」、という——期限が。




——守られる、ことに——なるのか——どうかを。


そして——「道が——ないなら——探す」、と——言った——その——男が。




——本当に——見つけて——しまうことも。





——その——見つけ方が。





——誰一人——予想して——いない——ものであることも。





——今は……まだ、知らない。

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