表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
344/466

第84話「五つの、推進器」

火薬の——筒を——矢に——括りつけて。





——十日ほど——試した。







——荒野の——果てで。






——人を——遠ざけて。






——一本ずつ。








「——三本目——! 点火——!」






——ひゅう、と。






——矢が——空へ——伸びた。







「——飛んだ——!」






「——回って——おる——! 真っ直ぐだ——!」








——羽根を——斜めに——した——効き目は。






——確かに——あった。







——だが。







「——落ちたな」







——賢者が——渋い——顔で——空を——見上げた。







「——一色。どれほどだ」






「——普通に——射るより——少し——遠く、ね」







——一色は——帳面を——閉じた。







「——でも——"少し"、よ」






「——あれを——押しやるには——桁が——足りない」








「——火薬を——増やせば——どうだ」






「——四本目で——やったわ」








——一色は。






——遠くの——黒い——跡を——指した。







「——あれよ」






「——爆発——したのか」






「——虚空の——方々が——"実際——爆発します"、って——書いてた——通りに、ね」








「——ぬう」







——賢者は。






——しばらく——唸って。






そして——言った。







「——聞き直すぞ」






「——え?」







「——"花火と——同じ"、とだけ——聞いて——満足して——おった」






「——だが——他にも——やり方が——あるのでは——ないか」









——こうして——高座が——組まれた。







「——皆さーん——! 本日の——問いです——!」







——魔法使いが——札を——掲げた。







「——"推進器には——どんな——種類が——ありますか"——!」








——虚空が——ざわめいた。







「——来ました——! ええと——五つ——あるそうです——!」






「——五つも——か——!」








「——一つ目——! "液体式"——!」







——魔法使いが——読み上げた。







「——"燃える——液と——燃やす——ための——液を——混ぜて——燃やす"——!」






「——"止めたり——また——点けたり——できる"、そうです——!」








「——止められるのか——!」







——賢者が——身を——乗り出した。







「——それは——ありがたい——!」






「——"ただし——仕組みが——ひどく——複雑"、と——!」








「——二つ目——! "固体式"——!」






「——"燃える——ものと——燃やす——ものが——固まりに——なっている"——!」






「——"簡単で——置いておける。だが——点けたら——もう——止まらない"——!」








「——それが——我らの——やって——おるものか」






「——たぶん——そうです——!」








「——三つ目——! "混ぜ物式"——!」






「——"固体と——液体を——組み合わせた——中間"、だそうです——!」








「——四つ目——!」







——魔法使いが。






——妙な——顔で——読んだ。







「——"電気で——粒を——加速して——噴き出す"——!」








「——なんだと?」






「——"押す——力は——ものすごく——弱い"——!」







「——なんだ。使えぬではないか」







——賢者が——手を——振った。







「——待って——ください——! 続きが——あります——!」








「——"だが——燃料の——持ちが——桁違いに——よい"——!」






「——"何年も——押し続けられるので——長い——旅に——向いている"——!」









——その、瞬間。







——工房の——空気が。






——止まった。








「…………」






「——おい」







——賢者が。






——かすれた——声で——言った。







「——今——なんと——言った」






「——"弱いが——何年も——押し続けられる"、です——!」








——賢者は。






——ゆっくりと——机の——上の——紙を——引き寄せた。







——そこには——ひと月——前に——自分で——書いた——一行が——ある。








——「人の——力は——尽きる」








「…………これだ」







——彼は——立ち上がった。







「——これだ——!! 我らが——ずっと——探して——おったものだ——!!」







「——賢者さん——! 落ち着いて——!」








「——考えて——みろ——!」







——賢者は——荒野の——方を——指した。







「——あれを——一撃で——押しやろうと——するから——桁が——足らんのだ——!」






「——だが——弱くとも——何年も——押し続けられるなら——!」






「——いつかは——遠ざかる——!!」








「——賢者」







——一色が。






——静かに——遮った。







「——それ——"電気で"、って——言ったわよ」








「…………」







——賢者が。






——固まった。







「——エアコンの——時と——同じよ」







——一色は——淡々と——言った。







「——仕組みは——分かる。でも——電気が——ない」






「——地下じゅうの——水車を——集めても——足りないの」








「…………」







——工房が。






——重く——沈んだ。








「——五つ目も——読みますか」







——魔法使いが——おずおずと——言った。







「——読め」







「——ええと……"原子炉の——熱で——噴き出させる"——!」






「——"まだ——研究の——段階"、だそうです——!」








「——向こうでも——できて——おらぬのか」






「——はい——!」








「——では——論外だ」









「——では——聞くぞ」







——賢者は。






——覚悟を——決めた——顔で——言った。







「——"作り方を——教えて——くれ"、と——問え」






「——はい——!」









——だが。






——返ってきた——答えは。






——短かった。








「……あの」







——魔法使いが。






——困った——顔を——した。







「——"作り方は——お教え——できません"、って——!」








「——なんだと——!?」







「——"あれは——ひどい——高温と——高圧を——扱う——危うい——仕掛けです"——!」






「——"手順を——安全に——お伝えする、ことが——できません"——!」








「——今更——何を——言うか——!」







——賢者が——立ち上がった。







「——太陽の——作り方は——教えたであろう——!」






「——星の——動かし方も——!」








「——待って——ください」







——誠が——止めた。







「——あれ——全部——"どうなっているか"、の——話でした」






「——"どう——作るか"、は——一度も——聞いてません」








「…………」







——賢者は。






——ゆっくりと——腰を——下ろした。







「……確かに、な」








「——それに」







——誠は——続けた。







「——四本目、爆発しましたよね」






「——僕たちが——教わった——通りに——やってても——爆発したんです」







「——もっと——難しい——ものの——作り方を——聞いて——書いた——通りに——やって」






「——誰かが——死んだら」








「…………」






「——教えた——方も——寝覚めが——悪いと——思います」









——工房が。






——静まった。







「……あの」







——魔法使いが——虚空を——見た。







「——コメントが——来てます」






「——なんと」








「——"そういうこと"、って——」








「…………」







——賢者は。






——長い、こと——黙って。






そして——ぼそり、と——言った。







「——すまなんだ、と——伝えてくれ」









——だが。






——虚空は——それで——終わらなかった。








「——あ——! たくさん——来ました——!」






「——今度は——なんだ」








「——"作り方は——無理だけど——考え方なら"——!」






「——"そっちには——魔法が——あるんだから——組み合わせたら?"——!」








「…………なんだと?」








——魔法使いが。






——必死に——書き取り始めた。








「——"燃やす——のは——火の——魔法で——安定させろ"——!」






「——"圧が——偏るなら——風の——魔法で——均せ"——!」






「——"壁が——焼けるなら——氷の——魔法で——冷やせ"——!」








——工房が。






——ざわめいた。







「——待て——! それは——!」







——魔術師が——身を——乗り出した。







「——燃える——ものを——火で——安定させる、だと——!?」






「——そんな——使い方は——考えた、ことも——ない——!」








「——だが——できるのか」






「——……できる、かも——しれん」







——魔術師は。






——自分の——杖を——見つめた。







「——火の——魔法は——燃え方を——操る——ものだ」






「——燃やすだけでは——ない。……弱めることも——できる」








「——それだ——!!」







——賢者が——叫んだ。







「——爆発するのは——燃え方が——暴れるからだ——!」






「——ならば——火の——術者が——手綱を——握れば——!」








「——まだ——あります——!」







——魔法使いが——叫んだ。







「——"重い——ものを——持ち上げるのが——大変なら——重力の——魔法で——軽くしろ"——!」






「——"噴き出す——道が——狭いなら——空間の——魔法で——広げろ"——!」








「——待て待て——!」







——一色が——手を——挙げた。







「——魔法で——全部——できるなら——最初から——魔法だけで——いいでしょう」






「——なぜ——わざわざ——組み合わせるの」








「——あ。それも——書いてあります——!」







「——"魔力は——尽きるから"、って——!」








「…………」







——一色が。






——目を——見開いた。







「——"押す——力そのものは——火薬に——任せろ"——!」






「——"魔法は——それを——整えるのに——だけ——使え"——!」






「——"そうすれば——少ない——魔力で——長く——保つ"——!」









——工房が。






——しん、と——静まった。








「……なるほど」







——一色が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——魔法を——"力"、として——使うから——尽きるのね」






「——"手綱"、として——使えば——いい」








「——馬を——走らせるのは——馬の——脚だ」







——賢者が——低く——言った。







「——手綱は——ただ——向きを——決める、だけだ」






「——だから——人が——握って——おられる」








「——それです——!」







——誠が——手を——打った。







「——今まで——僕たち——魔法で——全部——やろうと——してました」






「——太陽を——押し潰すのも——蓋を——浮かべるのも」






「——だから——尽きたんです」








「——うむ」






「——でも——馬に——走らせて——手綱だけ——握るなら」






「——ずっと——保ちますよね」









「——ただし」







——一色が。






——冷や水を——浴びせた。







「——いいことばかりでは——ないわ」







——彼女は——指を——折った。







「——一つ。手綱を——握る——術者が——ずっと——要る」






「——二つ。術者が——倒れたら——その——瞬間に——暴れる」






「——三つ。魔法陣が——傷めば——効かなく——なる」






「——四つ。作った——ことのない——ものだから——何が——起きるか——分からない」








「——それでも——やる——価値は——ある」







——賢者が——言った。







「——だが——一色。お前の——言う、通りだ」






「——術者が——倒れたら——暴れる——ものを」






「——人の——おる、ところで——試しては——ならん」









——そして——散会の——間際。







「——あの」







——魔法使いが——手を——挙げた。







「——最後に——変な——コメントが——来てて」






「——なんだ」








「——"それ——もう——魔導ロケットじゃん"、って——」








「——まどう?」






「——"名前を——つけろ"、って——言われてます——!」








「——名など——どうでも——よい——!」






——賢者が——手を——振った。







「——よくないです——!」







——魔法使いが——反論した。







「——名前が——ないと——皆に——説明——できません——!」






「——"火薬と——魔法を——組み合わせた——やつ"、じゃ——長すぎます——!」








「——ふむ。……では——何と——する」








——一同が。






——揃って——誠を——見た。







「——なぜ——僕を——見るんですか」






「——お前が——つけろ」






「——え——!?」








——誠は。






——しばらく——考えて。






そして——言った。








「——"手綱"、で——いいんじゃ——ないですか」








「…………」






「——それは——推進器の——名では——ないぞ」







「——でも——一番——大事なのは——そこ、ですよね」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——押すのは——火薬です。僕たちが——するのは——手綱を——握ることだけです」






「——忘れないように——そう——呼びましょう」








「…………」







——賢者は。






——ふん、と——鼻を——鳴らして。






——そして——紙に——書いた。








——「手綱式——推進器」








「——コメント——なんて?」






「——"地味"、"らしい"、"好き"、って——!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「火薬の筒を、矢につけて、十日、試した。三本目は、飛んだ。羽根を斜めにしたから、回って、真っ直ぐ、行った。でも、"普通に射るより、少し遠く"、だけ。四本目で、火薬を増やしたら、爆発した。……賢者さんが、"聞き直すぞ"、って。推進器に、他の種類は、ないのか、って。そしたら、五つ、あった。液体式——止めたり、また点けたり、できるけど、複雑。固体式——簡単だけど、点けたら止まらない。僕たちの、やつ。混ぜ物式——中間。それから、四つ目。"電気で、粒を加速する。押す力は、ものすごく弱い"。賢者さん、"使えぬ"、って、手を振ったけど、続きが、あった。"だが、燃料の持ちが、桁違いで、何年も、押し続けられる"。……賢者さん、固まって、ひと月前に、自分で書いた紙を、引き寄せた。"人の力は、尽きる"、って書いてあるやつ。"これだ"、って、叫んだ。でも、一色さんが、"電気よ"、って。エアコンと、同じ。仕組みは分かるのに、電気がない。五つ目は、向こうでも、まだ、できてないらしい。……それで、"作り方を教えてくれ"、って、聞いたら、"お教えできません"、って。"ひどい高温と高圧を扱う、危うい仕掛けで、手順を、安全に伝えられません"、って。賢者さん、"今更、何を"、って、怒ったけど、僕、思った。今まで聞いてきたのは、全部、"どうなっているか"、の話で、"どう作るか"、は、一度も、聞いてなかった。それに、四本目、教わった通りにやっても、爆発した。もっと難しいものを、書いた通りに、やって、誰かが死んだら、教えた方も、寝覚めが悪い。……そう言ったら、コメントが、"そういうこと"、って。賢者さん、"すまなんだ、と伝えてくれ"、って。……でも、そこで、終わらなかった。"作り方は無理だけど、考え方なら"、"そっちには、魔法があるんだから、組み合わせたら?"、って。燃えるのを、火の魔法で安定させる。圧が偏るなら、風で均す。壁が焼けるなら、氷で冷やす。魔術師さん、"そんな使い方は、考えたこともない。でも、できるかもしれん"、って。一色さんが、"魔法で全部できるなら、最初から魔法だけで、いいでしょう"、って言ったら、"魔力は尽きるから"、"押す力は、火薬に任せて、魔法は、整えるのにだけ使え"、って。……賢者さんが、"馬を走らせるのは、馬の脚だ。手綱は、向きを決めるだけだ"、って。それです。今まで、僕たち、魔法で、全部やろうと、してました。だから、尽きたんです。……名前を、つけろ、って言われたから、"手綱"、にしました。押すのは、火薬。僕たちがするのは、手綱を握ることだけ。忘れないように。じいちゃん、道が、見えてきた気がします」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「魔法を——力として——使うから——尽きる」、という——この——気づきが。




——弓の——矢を——飛ばす、ためだけの——ものでは——なかったことを。


そして——虚空の——賢人が——ただ一つ——「作り方は——教えられぬ」、と——断った——その、線引きが。




——遥かに——遠い——場所に——いる——別の——誰かの。





——長い——沈黙と——同じ——理由から——引かれて——いたことも。





——今は……まだ、誰も——気づいて——いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ