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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第83話「推進器、って、なんですか」

弓の——骨組みが——半分ほど——組み上がった——頃。





——また——皆瀬が——揺れた。







『——誠……来たよ』






「——え? 何が——ですか」






『——上から』








——工房が。






——一瞬で——静まり返った。







「——神様——!?」






「——読め——! 早く——読め——!」







——賢者が——飛んできた。






——前回の——ことが——あるので。






——顔が——妙に——険しい。








『——ええと……"誠くん"』







『——"かえし、ありがとうな"』








「…………」







『——"三日——寝かせたら——ほんまに——角が——取れたわ"』







『——"感謝——感謝や"』








「——蕎麦の——礼か——!」






賢者が——歯噛みした。







『——"うまい——蕎麦、できた"』






『——"天界の——連中にも——振る舞うたら——好評でな"』






『——"鼻が——高かったわ"』








「——もう——よい——! 切れ——!」






「——待ってください——!」







——誠が——止めた。







「——皆瀬さん。まだ——続いてますか」






『——うん。……もうちょっと——ある』








『——"そや。礼に——なるか——分からんけどな"』








——賢者の——動きが。






——止まった。







『——"その——弓な"』








「…………」






「——弓、って——言いました?」







『——うん』








——工房の——空気が。






——変わった。







——弓を——作って——いることを。






——誰も——天に——伝えて——いない。








『——"矢に——推進器——つけたら——ええかも——しれんで"』








「——すいしんき?」







『——"まあ——しらんけど"』







『——"ほな"』








——そして。






——気配は——消えた。








「…………」






「——おい」







——賢者が。






——低い——声で——言った。







「——今の——聞いたか」






「——聞きました」








「——なぜ——弓のことを——知って——おる」







「——僕たち——一言も——伝えて——ません」







——誠が——静かに——言った。







「——蕎麦つゆの——作り方しか——送ってません」








「…………」







——一色が。






——腕を——さすった。







「——見られてる、ってこと?」






「——だろうな」








「——じゃあ——なんで——蕎麦の——話しか——しないのよ——!」







——一色が——叫んだ。







「——見てるなら——分かってるでしょう——! こっちが——どれだけ——!」






「——一色さん」







——誠が——遮った。







「——今は——推進器の、方を——考えましょう」








「……そうね」







——一色は。






——深く——息を——吐いた。







「——ごめんなさい。取り乱したわ」









——半刻、後。






——広間に——顔ぶれが——集められた。








「——議題は——一つだ」







——賢者が——紙に——大きく——書いた。







——「推進器とは——何か」








「——分かる——者は——おるか」







——沈黙。







「——"推し進める——器"、だから——押す——道具——ですかね」







——誠が——言った。







「——それは——字を——読んだ、だけであろう」






「——すみません」








「——矢に——つける、と——言って——おった」







——英雄が——静かに——言った。







「——ならば——矢を——押す——ものだ」






「——弓で——放った——後も——押し続ける——何か、か」








「——待て」







——賢者が。






——顔を——上げた。







「——それは——聞いた、ことが——あるぞ」






「——え?」








「——ずっと——前だ。虚空の——賢人が——言って——おった」







——賢者は——記憶を——たどった。







「——星を——動かす——手立ての——一つに」






「——"炎を——後ろに——噴き出して——前に——進む——筒"、が——あった」








「——"ロケット"、です——!」







——魔法使いが——帳面を——開いた。







「——あります——! ここに——!」






「——"星を——動かせる——大きさの——ものは——人には——作れない"、って——書いてありますけど——!」








「——だが——今回は——星では——ない」







——賢者が——身を——乗り出した。







「——矢だ」






「——矢を——押すだけなら——遥かに——小さくて——済む——!」








「——確かめましょう——!」









——高座が——組まれた。







「——皆さーん——! 本日の——問いです——!」







——魔法使いが——虚空に——向かって——札を——掲げた。







「——"矢に——つける——推進器を——作りたい"——!」






「——"どうすれば——いいですか"——!」








「——待て。付け加えろ」







——賢者が——言った。







「——"我らが——使えるのは——火薬と——魔法と——水車だけだ"、と」






「——できぬ——ことを——並べられても——困るからな」








「——賢者さん——学びましたね」






「——うるさい」









——そして。






——虚空が——流れ始めた。







「——来ました——!」






「——読め——!」








「——"それ——ロケット花火と——同じ"——!」








「——はなび?」







「——"筒に——火薬を——詰めて——後ろに——穴を——開ける"——!」






「——"火を——つけると——後ろから——勢いよく——噴き出して——筒が——前に——飛ぶ"——!」








「——それだけか——!?」






「——"原理は——それだけです"、って——!」








——賢者が。






——ぽかん、と——した。







「——そんな——単純な、ことか」






「——注意も——来てます——!」








「——"穴が——小さいと——爆発する"——!」






「——"火薬を——詰めすぎても——爆発する"——!」






「——"曲がると——あさっての——方に——飛ぶ"——!」






「——"必ず——人の——いない——場所で——試すこと"——!」








「——爆発ばかり、だな」






「——"実際——爆発します"、って——!」








「——それと——もう一つ——!」







——魔法使いが——目を——見開いた。







「——"矢を——回転させろ"——!」






「——回す?」







「——"独楽が——倒れないのと——同じ"——!」






「——"回っていると——真っ直ぐ——飛ぶ"、そうです——!」








「——なんという、ことだ」







——賢者が——唸った。







「——独楽など——子どもの——玩具だぞ」






「——それが——空を——飛ぶ——矢に——効くのか」








「——それなら」







——誠が——ふと——言った。







「——羽根を——斜めに——つければ——いいんじゃ——ないですか」








「——なぜだ」






「——風車と——同じです」







——誠は——手で——回して——見せた。







「——羽根が——斜めだと——風を——受けて——勝手に——回ります」






「——矢が——飛べば——風は——当たりますよね」








「…………」






——一色が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——コメント——なんて——言ってる?」






「——ええと——!」








「——"それ——正解"、って——!」






「——"八百屋——また——正解した"、って——!」








「——また、か——!」







——賢者が——頭を——抱えた。







「——なぜだ——! なぜ——お前ばかり——!」






「——僕、風車を——毎日——見てますから」







——誠は——きょとん、と——した。







「——地下じゅうで——回ってるじゃ——ないですか」








「…………」






「——それだけ、か」






「——それだけ、です」









——議論は——夜まで——続いた。







——いや——夜は——四刻しか——ないので。






——闇が——来て——明ける——まで。








「——では——まとめる」







——賢者が——紙を——掲げた。







「——一つ。矢の——後ろに——筒を——つけ——火薬を——詰める」






「——二つ。後ろに——穴を——開け——噴き出させる」






「——三つ。羽根を——斜めに——して——回転させる」






「——四つ。人の——おらぬ——場所で——試す」








「——火薬は——どこから——手に——入れる」







——英雄が——尋ねた。







「——それなら」







——広間の——隅から。






——声が——した。








「——我らが——持って——おる」







——首領、だった。







「——首領——!?」






「——世界征服の——ために——備蓄して——おった」






「——備蓄——しすぎです——!」








「——ちょうど——よかろう」







——首領は——マントを——翻した。







「——者ども——! 火薬庫を——開けよ——!」






「——イーッ——!!」









——散会した——後。






——誠は——一人——広間に——残っていた。








「——旦那」







——駄々丸が——隣に——腰を——下ろした。







「——考え事で——ござんすか」






「——はい」








「——神様の、ことです」







——誠は——天井を——見上げた。







「——弓のこと——見てたんです」






「——なら——星が——落ちてることも——夜が——来ないことも——知ってるはずです」








「——でしょうな」







「——なのに——蕎麦の——話しか——しないんです」








「——旦那は——腹が——立ちやすか」








——誠は。






——しばらく——考えて。






そして——首を——振った。








「——いえ」






「——ほう」







「——あの、人——昔から——そうなんです」







——誠は——ぽつり、と——言った。







「——肝心なことは——絶対に——言わないんです」






「——でも——後から——考えると」






「——いつも——一番——大事な、ことを——ぽろっと——置いていってるんです」








「——今日の——"推進器"、も」






「——"しらんけど"、って——言ってました」






「——あれ——絶対——知ってます」








「…………」







——駄々丸は。






——煙管を——ふかして。






そして——ふっ、と——笑った。








「——旦那。噺の——世界にゃ——ね」






「——"言わぬが——花"、って——言葉が——ござんす」







「——知って——ますけど」







「——あれァ——ね」







——駄々丸は。






——天井を——見上げた。







「——"言えねェ"、時にも——使うんでさァ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「また、神様から、連絡が、来た。皆瀬さん経由で。内容は、"かえし、ありがとうな"、"三日、寝かせたら、本当に、角が取れた"、"感謝感謝"、"うまい蕎麦、できた"、"天界の連中にも、好評で、鼻が高かった"。賢者さん、また、怒ってた。……でも、最後に、こう言った。"そや。礼になるか、分からんけどな"、"その弓な"、"矢に、推進器、つけたら、ええかも、しれんで"、"まあ、しらんけど"。……弓のこと、僕たち、一言も、伝えてない。蕎麦つゆの作り方しか、送ってない。一色さんが、"見られてる、ってこと?"、って。賢者さんが、"だろうな"、って。一色さん、"見てるなら、こっちの状況も、分かってるでしょう"、って、叫んだ。……気持ちは、分かる。でも、今は、推進器を、考えることにした。虚空の方々に、聞いたら、"ロケット花火と、同じ"、って。筒に、火薬を詰めて、後ろに、穴を開ける。火をつけると、噴き出して、前に飛ぶ。それだけ、らしい。注意が、いっぱい来た。穴が小さいと爆発、詰めすぎても爆発、曲がると、あさっての方に飛ぶ、必ず、人のいない場所で。……"実際、爆発します"、って。それから、"矢を回転させろ"、"独楽が倒れないのと同じ"、って。だから、"羽根を斜めにつければ、風車と同じで、勝手に回りますよね"、って言ったら、"それ、正解"、"八百屋、また正解した"、って。賢者さんに、"なぜ、お前ばかり"、って、怒られた。地下じゅうで、風車が回ってるから、毎日、見てるだけです。……火薬は、悪の組織の皆さんが、備蓄してた。世界征服のために。備蓄しすぎです。……夜、駄々丸さんに、話した。"神様、弓のことは、見てるのに、蕎麦の話しか、しない"、って。腹が立つか、って聞かれたけど、立たない。あの人、昔から、肝心なことは、絶対に、言わない。でも、後から、考えると、いつも、一番大事なことを、ぽろっと、置いていってる。今日の、"しらんけど"、も、絶対、知ってる。……駄々丸さんが、"言わぬが花、ってのは、言えねえ時にも、使うんでさァ"、って。じいちゃん。神様、何か、言えないことが、あるのかな」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「言わぬが——花」、という——駄々丸の——その——一言が。




——遥かな——天に——いる——男の——胸の——内を。





——寸分——違わず——言い当てて——いたことを。


そして——「しらんけど」、と——付け加えた——その——男が。




——なぜ——弓のことを——知って——いながら。





——星のことは——一度も——口に——しないのかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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