第81話「涼しくなる、方法」
風の——騒動が——一段落した——頃。
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——賢者が。
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——妙に——真剣な——顔で——工房に——現れた。
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「——魔法使いを——呼べ」
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「——また——虚空に——問うんですか」
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「——うむ」
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——賢者は。
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——紙を——机に——広げた。
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「——考えたのだ」
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「——我らは——今——"蓋"、の——ことばかり——考えて——おる」
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「——だが——あれは——何年——かかるか——分からん」
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「——はい」
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「——ならば——その、間」
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——賢者は——顔を——上げた。
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「——"どう——涼しく——過ごすか"、を——問うべきでは——ないか」
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「…………」
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——誠が。
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——目を——見開いた。
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「——それ——すごく——いいと——思います」
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「——そうか」
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「——はい。だって——星を——救っても——その、前に——皆が——参ったら——意味が——ないですから」
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「——お前の——受け売りだ」
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——賢者は。
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——ぶっきらぼうに——言った。
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「——"蓋が——できるまで——皆は——何を——食うのか"、と——お前が——言ったであろう」
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「——あれで——目が——覚めた」
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——半刻、後。
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——地下の——広間に——高座が——組まれた。
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「——皆さーん——! 本日の——問いは——こちら——!」
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——魔法使いが——虚空に——向かって——札を——掲げた。
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「——"涼しく——なる——方法を——教えて——ください"——!」
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「——ずいぶん——素朴に——なったな」
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——駄々丸が——茶々を——入れた。
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「——先だっては——星を——救う——だの——太陽を——作る——だの——言うて——おったのに」
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「——そこが——大事なんです——!」
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——魔法使いが——胸を——張った。
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「——身近な——問いの、方が——答えが——たくさん——来ます——!」
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——そして。
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——彼女の——言った——通りに——なった。
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「——う、うわあ——!」
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「——どうした」
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「——流れが——今までで——一番——速いです——!」
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——虚空を。
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——文字が——滝のように——落ちていく。
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「——待って——ください——! 書き取れません——!」
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「——落ち着け——! 一つずつ——読め——!」
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「——ええと——! "打ち水"——!」
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「——それは——やって——おる」
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「——"すだれ"——! "日除け"——!」
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「——やって——おる」
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「——"氷を——首に——当てろ"——!」
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「——氷が——ないのだ——!」
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「——あ——! 面白いのが——来ました——!」
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——魔法使いが——身を——乗り出した。
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「——"霧を——出せ"——!」
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「——霧?」
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「——"水を——細かい——粒に——して——撒くと——蒸発する、時に——熱を——奪う"——!」
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「——"滝の——そばが——涼しいのと——同じ——理屈"、だそうです——!」
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——一色が。
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——ぱっ、と——顔を——上げた。
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「——それなら——できるわ——!」
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「——できるのか——!?」
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「——水は——ある。皆瀬さんの——網で——地下じゅうに——通ってる」
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——一色は——早口で——言った。
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「——後は——細かい——粒に——する——仕掛けだけ」
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「——穴の——小さい——口金を——作れば——いい」
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「——他にも——来てます——!」
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——魔法使いが——叫んだ。
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「——"扇風機"——!」
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「——せんぷうき?」
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「——"羽根を——回して——風を——起こす——道具"、だそうです——!」
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——その、瞬間。
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——広間に——いた——全員が。
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——誠を——見た。
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「…………」
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「——なんですか」
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「——お前——それ——魔法で——やって——おらんか」
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——賢者が——言った。
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「——え?」
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「——風を——起こす——であろう」
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「——五分で——切れますけど」
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「——コメントが——!」
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——魔法使いが。
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——妙な——顔を——した。
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「——"それ——さっきの——八百屋の——魔法じゃん"、って——!」
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「——"人力扇風機"、"燃費が——悪い"、って——!」
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「——ひどい——言われようです——!」
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「——だが——道具なら——切れぬ、ということか」
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——一色が——目を——輝かせた。
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「——羽根を——回す——力さえ——あれば——ずっと——風が——出る」
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「——その、力は——どこから——取るの——!?」
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「——"水車"、と——書いてあります——!」
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「——地下水路が——あります——!」
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「——それだ——!!」
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——だが。
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——虚空の——助言は——それだけでは——なかった。
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「——"エアコン"、というのも——来てます——!」
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「——なんだ——それは」
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「——ええと……"部屋の——熱を——外に——捨てる——仕掛け"、だそうです——!」
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「——"冷やすのでは——なく——熱を——運び出す"、と——!」
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「——なんという——ことだ」
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——賢者が——身を——乗り出した。
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「——熱を——運び出す、だと——! そんな、ことが——できるのか——!」
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「——"できます"、って——!」
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「——では——作れ——!」
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「——待ってください——!」
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——魔法使いが——虚空を——読み続けた。
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「——"ただし——たくさんの——電気が——要る"、と——!」
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「——でんき?」
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「——雷の——ことだ」
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——一色が——渋い——顔で——言った。
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「——帝国では——少しだけ——扱えるわ。レールガンにも——使った」
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「——でも——あれは——一度きりの——大放出よ」
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「——ずっと——流し続ける、なんて——今の——私たちには——無理」
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「……駄目、か」
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——賢者が——うなだれた。
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「——せっかく——熱を——運び出せる、と——聞いたのに」
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「——もう一つ——変なのが——来ました——!」
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——魔法使いが——首を——かしげた。
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「——"ペルチェ素子"——!」
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「…………なんだと?」
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「——ぺる……なんですか——それ」
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「——ええと——! "二種類の——違う——金属を——くっつけて——電気を——流すと"——!」
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「——"片方が——冷たく——なって——もう片方が——熱く——なる"、と——!」
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——工房が。
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——静まり返った。
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「…………」
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「——そんな——ことが——あるか——!」
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——賢者が——叫んだ。
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「——金属を——くっつけただけで——冷える、だと——!?」
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「——"本当です"、って——!」
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「——待って」
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——一色が。
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——ゆっくりと——立ち上がった。
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「——それ——面白いわ」
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「——試して——みたい」
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——こうして。
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——四つの——試みが——同時に——始まった。
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——まず——霧。
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——これは——三日で——できた。
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「——皆瀬さん——! 水を——強く——押して——ください——!」
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『——うん……いくよ』
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——細い——口金から。
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——白い——霧が——ふわり、と——広がった。
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「——おお——!」
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「——涼しい——! 顔が——涼しい——!」
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「——滝の——そばみたいだ——!」
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「——一色さん——! どうですか——!」
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「——下がってるわ。……はっきり、と」
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——一色は——満足げに——頷いた。
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「——しかも——水は——地下水路から——いくらでも——取れる」
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「——これは——広めましょう」
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——次に——扇風機。
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——これは——十日ほど——かかった。
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「——回れ——! 回れ——!」
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「——駄目です——! 羽根が——折れました——!」
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「——もっと——薄く——軽く——!」
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——だが——十日目。
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——地下水路の——脇に——据えられた——水車が。
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——ごとり、ごとり、と——回り始め。
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——その、力が——軸を——通って。
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——大きな——羽根を——回した。
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——ぶうん。
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「——回った——!!」
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「——風が——出てる——!!」
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「——しかも——止まらん——!!」
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「——五分で——切れませんね」
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——誠が——しみじみと——言った。
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「——道具は——偉いです」
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「——落ち込むな——!」
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——一方。
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——エアコンは。
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——三十日——粘って。
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——諦められた。
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「——駄目だわ」
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——一色が——両手を——挙げた。
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「——仕組みは——分かった。だけど——電気が——桁違いに——足りない」
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「——地下じゅうの——水車を——全部——繋いでも——一部屋——分も——動かせない」
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「——悔しいのう」
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賢者が——歯噛みした。
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「——答えは——目の前に——あるのに——手が——届かん」
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「——でも——一色さん」
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——誠が——尋ねた。
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「——仕組みは——分かったんですよね」
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「——ええ。図に——して——残してあるわ」
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「——なら——いつか——電気が——増えたら——作れますね」
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「…………」
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——一色は。
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——ふっ、と——笑った。
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「——そうね。……そういう——考え方も——あるわね」
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「——負けたんじゃ——なくて——先に——置いておくだけ、か」
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——そして——最後の——一つ。
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——二種類の——金属。
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「——できたわ」
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——一色が。
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——小さな——板を——持ってきた。
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「——鬼族に——頼んで——珍しい——金属を——探して——もらったの」
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「——これに——雷を——少しだけ——流すと」
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——ぱち、と——火花が——散り。
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——そして。
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「——ひゃっ——!」
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——触れた——誠が——手を——引っ込めた。
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「——冷たい——! 本当に——冷たい——!」
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「——馬鹿な——!」
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——賢者が——飛びついた。
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「——本当だ——! 冷えて——おる——!」
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「——金属を——くっつけただけ、なのに——!」
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「——でもね」
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——一色は——渋い——顔を——した。
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「——冷えるのは——この、板だけ」
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「——部屋を——冷やすには——何万枚——要るか——分からないわ」
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「——では——使い道が——ないではないか——!」
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——だが。
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——誠は。
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——その——板を——じっと——見つめていた。
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「——一色さん」
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「——何?」
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「——これ——薬を——冷やせませんか」
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「…………あ」
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——一色が。
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——目を——見開いた。
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「——今——薬が——傷んで——困ってるんです」
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——誠は——早口で——言った。
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「——暑くて——保たなくて。病人の——薬が——駄目に——なるんです」
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「——部屋は——冷やせなくても——薬箱くらいなら——冷やせませんか」
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「…………」
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——一色は。
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——板を——見て。
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——誠を——見て。
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——そして——笑い出した。
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「——あなた——本当に」
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「——なんですか」
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「——"使えない"、を——"どこでなら——使えるか"、に——変えるのが——上手すぎるわ」
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——さらに。
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——虚空からの——助言には——おまけが——あった。
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「——"手で——持てる——小さい——扇風機も——ある"、って——!」
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「——手で——持てる?」
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「——"歩きながら——顔に——風を——当てられる"、そうです——!」
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「——それは——便利だな」
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「——でも——水車が——ないと——回りませんよね」
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「——"手で——ぐるぐる——回すのでも——いい"、と——!」
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「——それは——ただの——団扇では——ないのか」
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賢者が——顔を——しかめた。
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「——団扇より——楽です——!」
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——試作を——回してみた——魔法使いが——言った。
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「——腕を——振らなくて——いいから——お年寄りでも——できます——!」
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「——だが——回し続けるのは——疲れよう」
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「——それなら」
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——誠が。
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——ちらり、と——広間の——隅を——見た。
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「——イーッ——!」
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——黒ずくめの——一団が。
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——整列していた。
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「——首領。お願いが——あります」
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「——なんだ」
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「——涼み処で——これを——回して——もらえませんか」
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「——ふん——! 我らを——奉仕の——道具に——する——気か——!」
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「——いえ。監視の——ついでに」
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——首領が。
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——ぴたり、と——止まった。
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「……ついでに?」
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「——はい。涼み処に——立って——回しながら——皆さんの——様子を——見張るんです」
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「——具合の——悪い——人を——見つけたら——教えて——ください」
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「——む。……なるほど」
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——首領は。
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——マントを——翻した。
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「——者ども——! 監視の——任だ——! 回せ——!」
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「——イーッ——!!」
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——そして——ひと月、後。
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——地下は。
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——見違えていた。
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——通路には——霧が——漂い。
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——水路の——脇では——水車が——回り。
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——広場では——大きな——羽根が——風を——送り。
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——涼み処では——黒ずくめが——黙々と——把手を——回していた。
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「——どうだ、一色」
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——賢者が——尋ねると。
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——一色は——帳面を——見て——言った。
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「——霧で——少し。風で——少し。合わせて——それなりに」
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「——地下の——温度が——ひと月——前より——下がってるわ」
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「——おお——!」
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「——ただし」
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——一色は——顔を——上げた。
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「——外は——上がり続けてる」
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「——今は——追いつけてるけど——このままでは——いずれ——負けるわ」
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「……分かって——おる」
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——賢者は——静かに——言った。
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「——これは——時を——稼いだだけだ」
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「——だが——時が——稼げねば——何も——始まらん」
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——広間では。
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——霧の——中を——子どもたちが——駆け回っていた。
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「——冷たーい——!」
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「——虹が——出てる——!」
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——年寄りたちが。
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——大きな——羽根の——前で——目を——細めていた。
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「——ああ——極楽だ」
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「——長生きは——するもんだねえ」
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「——旦那」
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——駄々丸が——隣に——立った。
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「——ずいぶん——涼しく——なりやしたねェ」
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「——はい」
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「——星は——一つも——救えて——おりやせんが」
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「——そうですね」
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——誠は——霧の——向こうを——見ていた。
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「——でも——今日——一人も——倒れませんでした」
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「——先月は——毎日——誰かが——倒れてたのに」
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——駄々丸は。
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——扇子を——ぱちり、と——閉じた。
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「——それを——世間じゃ——救った、と——言うんで——ござんすよ」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「賢者さんが、"蓋ができるまで、どう涼しく過ごすかを、問うべきでは"、って。すごく、いいと思った。星を救っても、その前に、皆が参ったら、意味がない。……虚空の方々に、"涼しくなる方法"、を、聞いたら、今までで、一番、たくさん、答えが来た。魔法使いさんが、"身近な問いの方が、答えが来る"、って。本当だった。まず、霧。水を、細かい粒にして撒くと、蒸発する時に、熱を奪うって。滝のそばが涼しいのと、同じ理屈。三日で、できた。皆瀬さんの水の網が、あったから。次が、扇風機。羽根を回して、風を出す道具。……コメントで、"それ、さっきの八百屋の魔法じゃん"、"燃費が悪い"、って、言われた。ひどい。でも、水車で、回したら、五分で切れなかった。道具は、偉い。エアコンっていうのは、駄目だった。"熱を外に運び出す"、仕組みらしくて、賢者さん、大興奮したけど、電気が、桁違いに足りない。一色さん、三十日、粘って、諦めた。でも、図は、残してあるって言うから、"いつか電気が増えたら、作れますね"、って言った。"負けたんじゃ、なくて、先に置いておくだけ、か"、って、笑ってた。それから、変なやつ。二種類の金属を、くっつけて、電気を流すと、片方が冷える。本当に、冷えた。でも、板一枚だけ。部屋は、無理。だから、"薬を冷やせませんか"、って、聞いた。今、暑くて、薬が、傷んで、困ってたから。一色さん、笑って、"使えない、を、どこでなら使えるか、に変えるのが、上手すぎる"、って。手で持つ、小さい扇風機も、作った。回すのが疲れるから、悪の組織の皆さんに、"監視のついでに"、って、お願いした。……ひと月で、地下が、それなりに、涼しくなった。ただ、外は、上がり続けてるから、いずれ、負けるって。賢者さんが、"時を稼いだだけだ。だが、時が稼げねば、何も始まらん"、って。駄々丸さんに、"星は、一つも救えてない"、って言ったら、"今日、一人も、倒れなかったんでござんしょう。それを、世間じゃ、救った、と言うんで、ござんすよ"、って。じいちゃん、今日は、いい日でした」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。この、日——一色が——「先に——置いておくだけ」、と——言って——しまい込んだ——図面が。
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——いつか——引き出される——日が——来ることを。
そして——「使えない」、を——「どこでなら——使えるか」、に——変える——その、癖が。
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——遥かに——大きな——ものに——向けられる——日が——来ることも。
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——今は……まだ、誰も——知らない。




