第80話「風が、出た」
それは——まったくの——偶然だった。
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——涼み処の——番を——していた——誠が。
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——暇に——任せて。
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——山田の——真似を——して——みた、だけ、だった。
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「——ええと。確か——こう——手を——かざして」
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「——"我が——右腕に——宿りし——闇よ"、でしたっけ」
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——ぶわっ。
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「——うわあっ——!?」
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——突然。
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——誠の——周りに。
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——強い——風が——巻き起こった。
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「——な、なんですか——これ——!」
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——涼み処に——いた——年寄りたちが。
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——一斉に——顔を——上げた。
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「——おお——!」
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「——風だ——! 涼しい——!」
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「——誠さん——! あんた——今——何を——した——!」
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「——分かりません——! 真似——しただけです——!」
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——賢者と——山田が——飛んできた。
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「——もう一度——やって——みろ——!」
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「——え、ええと」
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——誠が。
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——同じように——手を——かざすと。
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——ぶわっ。
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——また——風が——巻いた。
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「——出た——!」
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「——おかしい——! 田中は——魔法が——使えぬはずだ——!」
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——賢者が——目を——剥いた。
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「——それに——闇の——魔法では——ない——! これは——風だ——!」
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「——え? そうなんですか?」
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「——山田——! お前の——詠唱を——真似て——なぜ——風が——出る——!」
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「——知らねえよ——!」
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——山田も——困惑していた。
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「——ていうか——俺の——詠唱、間違ってるし」
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「——"我が右腕に宿りし闇"、じゃ——なくて——"我が——右腕に——眠りし——闇"、だし」
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「——あ。すみません」
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「——間違えた——詠唱で——別の——魔法が——出るなど——聞いた、ことが——ない——!」
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——そして。
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——五分ほど——して。
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——ふっ、と——風が——止んだ。
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「——あれ」
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「——止まったな」
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「——もう一度——できるか」
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——誠が——手を——かざしたが。
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——何も——起きなかった。
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「——駄目——みたいです」
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「——妙に——だるいですし」
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「——魔力切れ、だな」
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——賢者が——腕を——組んだ。
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「——一度に——五分。それで——空に——なる、と」
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「——術者としては——最低の——部類だ」
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「——ひどい——言われようですね」
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「——だが」
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——賢者は。
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——妙な——顔を——した。
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「——なぜ——使えるのだ」
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「——え?」
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「——お前——レベルが——分からんのであろう」
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「——神様は——三くらいは——ある、って——言ってましたけど」
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「——三で——風の——魔法は——出ん——!」
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——賢者が——叫んだ。
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「——魔法とは——修めた——者が——修めた——分だけ——使える——ものだ——!」
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「——真似だけで——出るはずが——ない——!」
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「——じゃあ——なんで——出たんでしょう」
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「——それを——聞いて——おるのだ——!」
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——だが。
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——理屈より——先に。
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——事態が——動いた。
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——翌朝。
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「——師匠——! 師匠——!」
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——ルカが——揺すり起こした。
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「——ん……なんだ」
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「——風——出てます——!」
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「……え?」
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——誠が。
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——身を——起こすと。
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——寝床の——周りに。
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——そよそよと——風が——回っていた。
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「——寝てる——間に——!?」
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「——ずっとじゃ——ないです——! たまに——出てます——!」
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——ルカは——目を——輝かせていた。
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「——僕、隣で——寝てたんですけど——めちゃくちゃ——快適でした——!」
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「——最近で——一番——よく——眠れました——!」
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「…………」
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——誠は。
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——自分の——手を——見つめた。
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(——僕、寝てる——間に——魔法を——使ってるのか)
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——そして。
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——その、話が——広まるのに。
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——半日と——かからなかった。
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——その、夜。
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——いや——「四刻の——闇」、の——刻限。
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——誠が——寝床に——向かうと。
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——すでに。
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——人が——寝ていた。
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「……あの」
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「——あら、誠さん」
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——おかみさんが——にっこりと——笑った。
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「——お邪魔してるよ」
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「——なぜ——ここに——!?」
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「——風が——出るって——聞いてね」
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「——うちの——ばあさんが——暑くて——眠れんと——言うから」
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——見れば。
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——第七層の——老女も——横に——なっていた。
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「——すまんねえ。今夜だけ——貸しておくれ」
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「——い、いいですけど——!」
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——だが。
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——「今夜だけ」、では——済まなかった。
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——三日、後。
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「——ちょっと——待ってください」
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——誠は。
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——自分の——寝床を——見て——立ち尽くした。
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——十数人が。
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——所狭しと——並んで——寝ていた。
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「——おばあちゃんが——五人」
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「——おかみさんが——三人」
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「——子どもが——四人」
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「——……多いです——!」
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「——静かに——おし。子どもが——起きるだろ」
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「——僕の——家です、ここ——!」
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——そこへ。
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——通りかかった——武闘家が。
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——足を——止めた。
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「…………」
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「——武闘家さん——! 違うんです——!」
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「——何が——違うのだ」
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——武闘家は。
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——じっと——中を——覗き込んで。
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そして——低く——唸った。
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「——おい」
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「——はい」
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「——貴様——女に——囲まれて——寝て——おるのか」
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「——言い方——!!」
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——そして——翌日。
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——噂は——最悪の——形で——広まった。
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「——聞いたか——! 田中が——夜な夜な——女を——集めて——おるらしい——!」
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「——なんだと——!?」
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「——ハーレム、というやつだ——!」
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「——ハーレム——!?」
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「——待って——ください——!!」
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——誠が。
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——広間で——必死に——弁明した。
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「——おばあちゃんと——おかみさんと——子どもです——!」
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「——皆——暑くて——眠れないから——来てるだけです——!」
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「——ふん——! 言い訳を——するな——!」
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——光の勇者が——腕を——組んだ。
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「——世が——世なら——お前など——モブだぞ——!」
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「——なぜ——お前ばかり——!」
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「——今——モブって——言いましたよね——!?」
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「——待って——ください——!」
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——そこへ。
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——エリナが——現れた。
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「——エリナ——! 誤解なんだ——!」
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——だが。
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——エリナは。
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——けろり、と——した——顔で——言った。
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「——誤解も——何も。私が——呼んだのよ」
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「…………は?」
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「——だって——うちの——人。寝てる——間に——風を——出すんですもの」
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——エリナは——涼しい——顔で——続けた。
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「——独り占めしたら——もったいないでしょう」
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「——だから——眠れない——人に——声を——かけたの」
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「——お、奥方——それで——よいのか——!?」
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——武闘家が——うろたえた。
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「——何が——ですか?」
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「——だ、旦那が——他の——女と——!」
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——エリナは。
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——きょとん、と——した。
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「——七十過ぎの——おばあちゃんと——五歳の——子どもですよ」
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「——それに——私も——同じ——部屋で——寝てますけど」
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「…………」
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「——おい——貴様ら——聞いたか」
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「——ただの——雑魚寝、では——ないか——!」
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「——だから——最初から——そう——言ってます——!!」
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——だが。
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——騒動は——それで——終わらなかった。
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——五日、後。
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「……あの」
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——誠は。
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——自分の——寝床を——見て——遠い——目を——した。
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——三十人ほどが——寝ていた。
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——おばあちゃん。
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——おかみさん。
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——子ども。
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——そして。
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「——なぜ——魔王さんまで——いるんですか」
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「——暑いのだ」
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——真紅の——巨躯が。
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——部屋の——半分を——占めていた。
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「——おうよ——! ワシも——おるでェ——!」
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「——グランデルさんまで——!」
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「——イーッ——!」
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「——悪の組織——!! なんで——整列して——寝てるんですか——!!」
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「——ふん」
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——入り口から。
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——武闘家が——顔を——出した。
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「——なんだ。これでは——ハーレムでも——なんでも——ないな」
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「——ただの——寝床の——奪い合いだ」
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「——だから——最初から——!」
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「——では——俺も——寝る」
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「——寝るんですか——!?」
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——そして——騒ぎが——収まった——頃。
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——駄々丸が——ひょっこりと——現れた。
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「——旦那。えらい——人気で——ござんすねェ」
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「——笑わないで——ください」
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「——いやいや。感心——して——おりやす」
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——駄々丸は。
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——扇子で——寝床を——指した。
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「——ご覧なせェ。爺さん——婆さん——赤ん坊——鬼——魔王——悪の組織」
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「——昨日まで——口も——きかなんだ——連中が——並んで——寝て——おりやす」
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「——ただ——涼しいから——ですけどね」
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「——それで——十分で——ござんしょう」
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——駄々丸は。
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——にやり、と——した。
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「——旦那の——風は——五分で——切れるそうで」
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「——はい。情けない、限りです」
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「——いやいや」
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——彼は。
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——ぱちり、と——扇子を——閉じた。
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「——五分の——風で——三十人——寝かしつけたんで——ござんす」
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「——大した——ハーレムで——ござんすよ」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「変なことが、起きた。涼み処で、暇だったから、山田さんの詠唱を、真似してみたら……風が、出た。しかも、闇の魔法じゃ、なくて、風。賢者さんが、"間違えた詠唱で、別の魔法が出るなど、聞いたことがない"、って。しかも、五分で、魔力切れ。"術者としては、最低の部類だ"、って。ひどい。でも、賢者さんが、"なぜ、使えるのだ。お前、レベルが、三くらいなのだろう。三で、風の魔法は、出ん"、って。……なんで、出たんだろう。それより、大変だったのが、次の日。寝てる間にも、たまに、風が、出るらしくて、ルカが、"最近で、一番、よく眠れました"、って。……そしたら、噂が、広まって、夜、寝床に、行ったら、おばあちゃんとか、おかみさんとか、子どもとかが、寝てた。三日で、十数人。武闘家さんに、見つかって、"女に囲まれて寝ておるのか"、って。翌日には、"ハーレム"、とか、言われてた。違います。……エリナに、弁明したら、"誤解も何も、私が呼んだのよ。独り占めしたら、もったいないでしょう"、って。武闘家さんが、"それでよいのか"、って、うろたえてたけど、"七十過ぎのおばあちゃんと、五歳の子どもですよ。それに、私も、同じ部屋で寝てます"、って。……五日後には、三十人になってた。魔王さんも、グランデルさんも、悪の組織まで。整列して、寝てた。武闘家さんが、"これでは、ハーレムでもなんでもない。ただの、寝床の奪い合いだ"、って。だから、最初から、そう言ってます。……駄々丸さんが、"昨日まで、口もきかなんだ連中が、並んで寝ておりやす。五分の風で、三十人、寝かしつけたんで、大した、ハーレムで、ござんすよ"、って。じいちゃん、僕の家、狭いです」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。修めても——おらぬ——魔法が。
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——なぜ——ただの——真似で——出たのかを。
そして——賢者が——「三では——出ぬ」、と——叫んだ——その、言葉が。
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——ある——一点を——正確に——突いて——いたことも。
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——今は……まだ、誰も——気づいて——いない。




