第79話「闇は、涼しいのか」
地下に——夜が——戻って。
⸻
⸻
⸻
——人々の——顔が——少し——和らいだ——頃。
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——ふと——妙なことを——思いついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あの、賢者さん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変なことを——聞いても——いいですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前の——"変なこと"、は——大抵——変では——ないから——言え」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——闇の——魔法って——影を——作るんですよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——む?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影って——涼しいじゃ——ないですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——賢者の——手が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今——地下の——温度が——上がってて——困ってますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——続けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さんの——冷やす——仕掛けも——追いつかない、って」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なら——闇の——魔法で——影を——作ったら——少しは——涼しく——ならないかな、と」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——賢者は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくりと——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ネクロマンサーを——呼べ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——半刻、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田が——工房に——現れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだよ。忙しいんだけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前——何を——して——おった」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鈴木と——中学の——話」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——忙しくは——ない、な」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——山田さん。闇の——魔法って——影を——出せますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田は——きょとん、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——出せるけど。……なんで?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しく——なりませんか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——黙って。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——考えたこと——なかった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——闇の——魔法って——普通——敵を——包んで——目を——潰すとか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そういう——使い方しか——しないから」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やって——みてくれ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——賢者が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ここで?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ。一色。温度を——測れ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——手を——かざした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふっ……。我が——右腕に——宿りし——闇よ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——口上は——よい——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——形から——入らないと——出ないんだよ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——次の——瞬間。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房の——一角が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——すう、と——翳った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——光が——遮られた——わけでは——ない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そこだけが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——濃い——影に——沈んでいる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色。どうだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って。……あら」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——目を——見開いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——下がってるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どれほどだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それなりに、よ。木陰に——入ったくらい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おお——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当だ——! 涼しい——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——影の——中に——入って——歓声を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え。俺の——魔法——そんな——ことに——使えるの?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぽかんと——していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ずっと——"世界を——滅ぼす——闇"、とか——言ってたのに」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しいだけ、かよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——十分——すごいです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——真剣に——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——山田さん。仲間の——皆さんも——同じ——魔法——使えますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——闇の——系統は——七人くらい——いるけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——呼んで——ください——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——「涼み処」、が——作られる、ことに——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第五層の——広場に——影を——張ります——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——触れを——出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——暑さで——参ってる——方は——どうぞ——お越し——ください——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——特に——お年寄りと——小さな——お子さん——優先で——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——初日は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——うまく——いった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ああ……生き返る……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しいねえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——闇の——魔法も——役に——立つもんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふっ……礼には——及ばぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田が——満更でも——ない——顔で——ふんぞり返っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——三日目から。
⸻
⸻
⸻
⸻
——雲行きが——怪しく——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——師匠——! 大変です——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカが——駆け込んできた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼み処が——大変な——ことに——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——第五層に——駆けつけた——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——絶句した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬん——! ぬん——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふはは——! 涼しいと——身体が——動くわ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——HAHAHA——! 腕立て——五百回——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——涼み処が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——鍛錬場に——なっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武闘家。
⸻
⸻
⸻
——アメリカン・ヒーロー四人。
⸻
⸻
⸻
——鬼族の——若い衆。
⸻
⸻
⸻
——アルフレート。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——なぜか——宇宙防衛隊。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——何を——してるんですか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おお、田中——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが——汗だくで——振り返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ここは——よいぞ——! 涼しいから——存分に——動ける——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地上は——暑くて——鍛錬に——ならんからな——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いや——ここ——お年寄りと——子どもの——ための——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言いかけて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——気づいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場の——隅に。
⸻
⸻
⸻
⸻
——年寄りたちが——身を——寄せ合って——座っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆。
⸻
⸻
⸻
⸻
——汗を——かいていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おばあちゃん——! 大丈夫——ですか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いや……なんだかねえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——老女は——手で——顔を——扇いだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影は——涼しいんだけどねえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あの——若い衆が——暑いんだよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくりと——広場の——中央を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——筋肉の——塊が——二十人ばかり。
⸻
⸻
⸻
⸻
——汗を——飛ばしながら——雄叫びを——上げている。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さん——! 温度——測ってもらえますか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——呼ばれた——一色は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——測って——そして——渋い——顔を——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影を——張る——前より——高いわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——高い——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——人が——集まれば——熱が——出るのよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色は——ため息を——ついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ましてや——あれだけ——動けばね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影で——下げた——分を——全部——打ち消して——お釣りが——来てるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本末転倒じゃ——ないですか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おい——! 貴様ら——出て行け——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——賢者が——怒鳴った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
武闘家が——不服そうに——振り返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我らは——鍛えて——おるのだぞ——! 世界の——ために——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前たちが——いると——涼み処が——暑いのだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——馬鹿な——! 影は——涼しかろう——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前たちが——熱いのだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぐぬぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武闘家が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——自分の——腕を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——湯気が——立っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……確かに——熱いな」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——自覚が——なかったのか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——割って——入った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——追い出すのは——やめましょう」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——地上で——鍛錬——できないんですよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ。あの——暑さでは——身体が——壊れる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——鍛えねば——次の——大仕事に——備えられん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——じゃあ——分けましょう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——手を——打った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼み処を——二つ——作ります」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一つは——お年寄りと——子どもの——ための——静かな——場所」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう一つは——鍛錬する——方々の——ための——場所」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それでは——闇の——術者が——足りん」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——七人しか——おらんのだぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——おずおずと——手を——挙げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鍛錬してる——奴らの、方は」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影、要らないんじゃ——ない?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だって——どうせ——熱くなるんだろ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——山田は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なら——涼しくしても——無駄じゃん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——確かに」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——道理だな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て——! それでは——我らは——どこで——鍛える——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武闘家が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空いてる——坑道が——あります」
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——影は——張れませんけど——涼み処より——広いです」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それに——皆さんが——熱を——出しても——誰にも——迷惑が——かかりません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬ。……まあ——それなら」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それと——一つ——お願いが——あります」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——にっこりと——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鍛錬の——ついでに——荷物を——運んで——もらえませんか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだと?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——配給の——荷、四百十二軒——分——あるんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——重いので——ちょうど——鍛錬に——なるかと」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぷっ、と——吹き出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うまいことを——言うわ、こいつは」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やめてください——! 僕、本気ですから——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よかろう——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——武闘家が——腕を——鳴らした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——重い、ほど——鍛えられる——! 全部——持ってこい——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——HAHAHA——! 我らも——運ぼう——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——涼み処は——静けさを——取り戻し。
⸻
⸻
⸻
⸻
——配給は——見違えて——早く——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ああ——静かに——なった」
⸻
⸻
⸻
⸻
——老女が——ほっと——息を——ついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——さっきまでは——なんだったんだろうねえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——若い——方々は——元気ですから」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——苦笑した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でも——おかげで——荷物が——早く——届くように——なりました」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうかい。ありがたいねえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「変なことを、思いついた。闇の魔法って、影を作るんだから、涼しいんじゃ、ないか、って。賢者さんに、言ったら、山田さんを、呼べ、って。山田さん、"考えたこと、なかった。闇の魔法は、敵の目を潰すとか、そういう使い方しか、しない"、って。やってみたら、本当に、涼しくなった。木陰に入ったくらい。山田さん、"ずっと、世界を滅ぼす闇、とか言ってたのに、涼しいだけかよ"、って、ぽかんと、してた。十分、すごいです。……それで、第五層に、涼み処を、作った。お年寄りと、子ども優先で。初日は、よかった。でも、三日目に、行ったら——鍛錬場に、なってた。武闘家さん、ヒーローさんたち、鬼族の若い衆、アルフレート様、なぜか、宇宙防衛隊まで。"涼しいから、存分に動ける"、って。……おばあちゃんが、"影は、涼しいんだけどねえ、あの若い衆が、暑いんだよ"、って。一色さんに、測ってもらったら、影を張る前より、温度が、高かった。人が集まると、熱が出るし、あれだけ動けば、なおさら。武闘家さん、自分の腕を見たら、湯気が、立ってた。自覚、なかったらしい。……追い出すのは、やめて、分けることにした。でも、闇の術者が、七人しか、いない。そしたら、山田さんが、"鍛錬してる奴らの方は、影、要らないんじゃない? どうせ、熱くなるんだから、涼しくしても、無駄じゃん"、って。……道理だ。空いてる坑道を、使ってもらうことにして、ついでに、配給の荷運びを、お願いした。"重いので、ちょうど、鍛錬に"、って。アルフレート様に、笑われた。本気なのに。……涼み処は、静かになって、配給は、早くなりました。じいちゃん、一石二鳥です」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。「闇は——影だから——涼しい」、という——この——他愛ない——思いつきが。
⸻
⸻
——長らく——「滅ぼす——ため」、にしか——使われて——こなかった——力に。
⸻
⸻
⸻
——初めて——別の——名を——与えたことを。
そして——その——名が。
⸻
⸻
——遥かに——遠い——日に。
⸻
⸻
⸻
——もっと——ずっと——大きな——ものを——覆うことに——なるのも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、誰も——知らない。




