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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第77話「四百十二」

竜の——食レポから——三日、後。





——首領が。






——分厚い——束を——持って——現れた。







「——調べ——上げた」






「——早い——ですね——!」






「——地下の——隅々まで——三日で——回った」







——首領は。






——束を——机に——置いた。







「——配給に——並べぬ——者。四百十二」








「…………」







——誠は。






——束を——めくった。







——一枚に——一人。






——名前。住んでいる——層。事情。






——そして——家族の——数まで——書かれている。








「——ここまで——調べたんですか」






「——監視は——我らの——本分だ」






「——だから——監視じゃ——ないですってば」








「——ただ、な」







——首領が。






——妙に——渋い——顔を——した。







「——調べる——うちに——気が——重く——なった」






「——え?」







「——読んで——みるが——よい」








——誠は。






——一枚を——手に——取った。








——第七層。老女。足が——動かず。三日——何も——食べていない。







——次の——一枚。







——第四層。男。目が——見えず。隣人が——分けていたが——その、隣人も——尽きた。







——次。







——第九層。子ども——三人。親は——去年——地上で——倒れた。








「…………」







——誠の——手が。






——止まった。








「——去年」






「——うむ」








——去年、だった。







——去年から。






——この——子どもたちは。






——三人だけで——暮らしていた。







——その、間。






——誠は——世界中を——回っていた。








「……気づいてなかった」







——誠は。






——束を——抱えたまま——うずくまった。







「——同じ——地下に——住んでて」






「——一年——気づいてなかった」








「——田中」






——首領が。






——低く——言った。







「——お前は——星を——救おうと——しておった」






「——それは——それで——大事な、ことだ」







「——でも——」






「——だが」








——首領は。






——束を——指した。







「——星を——救っても——この、四百十二が——死んで——おっては」






「——何を——救ったことに——なる」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——首領。ありがとう——ございました」






「——今日から——回ります」









——そして。






——誠の——新しい——日課が——始まった。








——朝。






——畑の——鏡を——開ける。






——実の——数を——数える。







——それから。






——荷車を——引いて——地下を——回る。








「——こんにちは。田中青果店です」







——第七層の——老女は。






——戸を——開けた——誠を——見て。






——しばらく——きょとん、と——していた。







「……誰だい」






「——配給を——お持ちしました」






「——わしは——並んで——おらんよ」






「——足が——お悪いと——伺いました」








——老女は。






——干し芋を——受け取って。






——そして。






——ぽろぽろと——泣き出した。







「——ど、どうしました——!?」






「——いや……すまん、ね」







——老女は。






——涙を——拭った。







「——三日——誰とも——喋って——おらんかった」






「——腹が——減ったのは——構わんが」






「——誰も——来んのが——こたえてなあ」








「…………」







——誠は。






——腰を——下ろした。







「——お茶——淹れましょうか」






「——え?」






「——麦茶なら——持ってます」









——その日。






——誠が——回れたのは。






——十一軒、だった。








「——十一……」







——夜。






——いや。






——夜が——来ないので——ただ——遅い——時刻に。







——誠は。






——束を——広げて——うなっていた。







「——四百十二軒。一日——十一軒」






「——一巡りに——三十七日」








「——それでは——遅すぎるわね」







——一色が——覗き込んだ。







「——はい」






「——手分けを——しなさいよ」






「——それが」








——誠は。






——言い淀んだ。







「——今日——回って——分かったんですけど」






「——皆さん——食べ物より——"人が——来る、こと"、を——待ってるんです」







「——三日——誰とも——喋って——ない、って——言われました」






「——だから——荷物だけ——置いて——帰るのは——違う、気が——して」








「…………」







——一色は。






——しばらく——黙って。






そして——ぽつり、と——言った。







「——あなた——本当に——面倒くさい——人ね」






「——すみません」






「——褒めてるのよ」









——翌日。






——誠が——荷車を——引いて——出ようと——すると。







——店先に。






——見覚えの——ある——顔が——立っていた。








「——あの……」







——先日の——女の子、だった。







「——あ。お母さん——どうですか」






「——だいぶ——いいの——!」







——女の子は。






——ぺこり、と——頭を——下げた。







「——それで——あの——お礼が——したくて」






「——お礼?」








「——うちの——隣の——おじいちゃん」






——女の子は。






——真剣な——顔で——言った。







「——目が——見えないの」






「——だから——私が——持ってっても——いい?」








——誠は。






——目を——見開いた。







「……いいのか」






「——うん——! すぐ——隣だから——!」









——それが。






——始まり、だった。








——三日、後。







——第七層の——老女の——家に——寄ると。






——すでに——誰かが——来ていた。








「——あら、誠さん」







——近所の——おかみさん、だった。







「——おばあちゃんの——ところ——通り道だからね」






「——ついでに——寄ってるのよ」








「——それに——ねえ」






——老女が——笑った。







「——わし、この、人の——愚痴を——聞いてやっとるんだ」






「——ちょっと——おばあちゃん——!」






「——旦那が——だらしないと——いう——話でな」






「——言わないで——!」








——誠は。






——思わず——笑ってしまった。









——十日、経つ——頃には。






——束の——半分ほどに。






——誰かの——名前が——書き添えられていた。








——第七層。老女。→ 隣の——おかみさんが——毎日。





——第四層。目の——不自由な——男。→ 隣家の——娘が——毎日。





——第九層。子ども——三人。→ 同じ層の——若い——夫婦が——引き取り。








「——なんだ——これは」






——束を——見た——賢者が——目を——見張った。







「——お前が——回った——のか」






「——いえ。僕は——百軒くらいです」







——誠は——頭を——掻いた。







「——残りは——皆さんが——勝手に」






「——勝手に?」








「——"うちの——隣だから"、"通り道だから"、って」






「——一人が——始めたら——次の——人が——始めて」






「——気づいたら——半分——埋まってました」








「…………」







——賢者は。






——束を——じっと——見つめた。







——四百十二の——名。






——その——半分に。






——別の——名前が——添えられている。







——誰かと——誰かが。






——線で——結ばれている。








「……田中」






「——はい」






「——これは——何だ」








「——え? 配給の——記録ですけど」








——賢者は。






——首を——振った。







「——違う」






「——これは——地図だ」








「——地図?」






「——誰が——誰と——繋がって——おるかの——地図だ」







——彼は。






——ゆっくりと——束を——机に——置いた。







「——こんな——ものを——見たのは——初めてだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「首領さんが、名簿を、持ってきた。四百十二人。配給に、並べない人。一枚に、一人ずつ、名前と、住んでる層と、事情が、書いてあった。……第九層に、子どもが三人だけの家が、あった。親は、去年、地上で、倒れたって。去年から、あの子たち、三人だけで、暮らしてたんだ。僕、その間、世界中を、回ってた。同じ地下に、住んでて、一年、気づかなかった。……首領さんが、"星を救っても、この四百十二が、死んでおっては、何を救ったことになる"、って。今日から、回ることにした。第七層の、おばあちゃん。干し芋を、渡したら、泣いた。"三日、誰とも、喋ってなかった。腹が減るのは構わんが、誰も来んのが、こたえる"、って。麦茶を、淹れて、座った。……一日、十一軒しか、回れなかった。四百十二軒だと、一巡りに、三十七日。一色さんに、"手分けしなさい"、って言われたけど、皆、食べ物より、人が来ることを、待ってるから、荷物だけ置いて帰るのは、違う気がする、って言った。"面倒くさい人ね"、"褒めてるのよ"、って。……そしたら、この前の、女の子が、来た。"隣のおじいちゃん、目が見えないの。私が、持ってっていい?"、って。それから、十日。名簿の、半分に、誰かの名前が、書き添えられてた。"うちの隣だから"、"通り道だから"、って、皆、勝手に、始めてた。僕が回ったのは、百軒くらい。賢者さんが、"これは、配給の記録じゃない。誰が誰と、繋がっているかの、地図だ"、って。……そうかな。じいちゃん。皆、優しいです」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。四百十二の——名と。




——そこに——書き添えられて——いった——名と。





——その、間に——引かれた——無数の——線が。





——ただの——配給の——記録では——なかったことを。


そして——賢者が——「初めて——見た」、と——呟いた——その、地図が。




——遥かに——遠い——日に。





——誰も——想像しなかった——使われ方を——することも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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