第76話「竜の、大食い食レポ」
地下は——沈んでいた。
⸻
⸻
⸻
——夜が——来ない。
⸻
⸻
⸻
——畑が——実らない。
⸻
⸻
⸻
——貯えは——四月。
⸻
⸻
⸻
⸻
——誰もが——うつむいて——歩いていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——これは——いけません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——机を——叩いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——顔が——死んでます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そりゃあ——な」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者が——げんなり——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——笑える——状況では——ない」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でも——このままだと——蓋が——できる——前に——皆——参っちゃいます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——帳面を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それに——視聴者さんからも——要望が——来てるんです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——要望?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"あの——食レポ——また——見たい"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——馬鹿を——言え——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者が——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——食い扶持が——四月しか——ないのだぞ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——その、さなかに——大食い、だと——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆が——怒り狂うわ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それが——ですね——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——にっこりと——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今回は——私が——食べません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——誰が——食う」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——天井の——穴を——指した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——藤原さんです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——天井から。
⸻
⸻
⸻
⸻
——五十メートルの——首が——ぬっ、と——降りてきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんや。うち、呼んだ?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——藤原さん——! 大食い——してください——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——せやから——食いもん——ないんちゃうんか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ここが——味噌なんです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——身を——乗り出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——藤原さん。普段——何を——食べてるんですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え? そら——まあ……岩とか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………岩?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——素っ頓狂な——声を——出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——岩、食べるんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うちら——竜は——な。鉱物が——主食や」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鉄とか——銅とか。産地に——よって——味が——違うねん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それです——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——飛び上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——人が——食べないものなら——誰も——困りません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——しかも——見たことない——から——絶対——盛り上がります——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——賢者は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——黙って。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……好きに——せい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——地上の——荒野で。
⸻
⸻
⸻
⸻
——奇妙な——催しが——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さーん——! お待たせ——しました——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが——虚空に——手を——振る。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本日は——特別——企画——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"竜の——大食い——食レポ"——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——どうや」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すごい——勢いです——! "待ってた"、"何それ"、"竜が——食べるの?"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——へえ、皆様」
⸻
⸻
⸻
⸻
——竜の——背の——高座から。
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸が——扇子を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本日の——献立は——岩で——ござんす」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——人が——食えぬ——ものを——食う。実に——ありがてェ——お人で——ござんすねェ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うるさいわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野には。
⸻
⸻
⸻
⸻
——山と——積まれた——岩が——並んでいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——グランデルと——鬼族が——運んできた——ものだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おうよ——! たんと——食えェ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——一皿目——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが——札を——掲げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——北の——山で——採れた——鉄鉱石——! 二十貫——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——首を——伸ばして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ばくり。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごり、ごり、ごり。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——食べた——!! 岩を——食べました——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——爆発——してます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——んー」
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくりと——味わって。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ええな。北の——鉄は——渋みが——ある」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——噛むと——じわっと——鉄の——味が——広がってな」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——後味が——すっきり——しとる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本格的——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ちゃんと——食レポ——してます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二皿目——! 南の——銅鉱石——三十貫——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ばくり。ごり、ごり。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おお——これは——甘い」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——銅は——脂が——のっとる。口ん中で——とろける——感じや」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鉄が——白飯なら——銅は——魚やな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——たとえが——分かりやすい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——"腹減ってきた"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——岩でか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野には。
⸻
⸻
⸻
⸻
——いつのまにか——人だかりが——できていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下から。
⸻
⸻
⸻
——うつむいていた——人々が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぞろぞろと——出てきていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おい——竜が——岩を——食っとるぞ——!」
⸻
⸻
⸻
「——あんな——でかいのが——入るのか——!」
⸻
⸻
⸻
「——うまそうに——食うなあ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三皿目——! 火山の——溶岩——固めた——もの——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ばくり。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごり、ごり、ごり、ごり。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——んんっ——! これは——辛い——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——喉が——焼けるわ——! せやけど——癖に——なる——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うちら——これ——酒の——あてに——するねん——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——竜の——酒の——あて——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——"知らない世界"、"文化が違う"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——十皿目を——過ぎた——頃。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ちょっと——待ってください——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔法使いが——虚空を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——要望が——来てます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんや」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"ブレス——見たい"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——は? 火——吐くんか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい——! "竜と——いえば——ブレス"、だそうです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——面倒くさそうに——首を——傾げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——別に——ええけど。誰も——おらん、方に——向けなあかんで」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大丈夫です——! 荒野の——向こうは——何も——ありません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ほな——いくで」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——大きく——息を——吸った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野の——空気が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごう、と——吸い寄せられる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——耳を——塞いで——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴォォォォォォォォッ——!!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——白い——奔流が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野を——一直線に——薙いだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——遥か——彼方の——岩山が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——溶けて——崩れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うおおおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——見物人が——沸き返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すごい——! すごいです——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔法使いが——絶叫した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメントが——止まりません——! "やば"、"cg?"、"本物?"、って——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふん。こんなん——序の口や」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——満更でも——ない——顔を——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——竜の——顔なので——分かりにくいが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——尻尾が——ぱたぱた——動いていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あ——! また——要望が——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今度は——なんや」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"目からビーム"、だそうです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——初めて——本気で——困惑した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——目から——何やて?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ビーム——です——! 光線——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そんなん——出るかいな——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"竜なら——出るはず"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——偏見や——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……いや。ちょっと——待ちや」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——似たようなん——できるかも——しれん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できるんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うちら——飛ぶ、やろ。夜も——飛ぶ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——目を——細めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——せやから——目から——光——出して——地面を——照らせるねん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——灯りやで。武器や——ないけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——見せて——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原の——両目が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——かっ、と——光った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二条の——光が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野を——舐めるように——照らし出す。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——出た——!! 目から——出ました——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——大興奮です——! "出た"、"実在した"、"すごい"、って——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——せやから——灯りやて」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——照れくさそうに——首を——振った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——尻尾は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——さっきより——大きく——動いていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——催しが——終わる——頃。
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野には。
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下の——人々が——ほとんど——出てきていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆。
⸻
⸻
⸻
⸻
——笑っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いやあ——面白かったなあ——!」
⸻
⸻
⸻
「——竜が——岩を——食うとは——なあ——!」
⸻
⸻
⸻
「——久しぶりに——笑ったわ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——その——光景を——見ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——旦那」
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸が——隣に——立った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——駄々丸さん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いい——顔に——なりやしたねェ。皆」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——四日ぶりに——見ました。皆さんの——笑った——顔」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——腹が——膨れた、わけじゃ——ござんせん」
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸は——扇子を——閉じた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——夜が——来た、わけでも——ござんせん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何一つ——解決——しちゃ——おりやせん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でも」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——へえ。でも——ねェ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——笑う——人々を——見渡した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——明日も——やろう、と——思える——顔で——ござんす」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——藤原さーん——! ありがとう——ございました——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——呼びかけると。
⸻
⸻
⸻
⸻
——藤原は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——首を——伸ばして——きた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なあ、田中くん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うち——役に——立ったか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——にっこりと——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日は——藤原さんが——一番——世界を——救いました」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——巨大な——竜が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぷい、と——顔を——背けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あほ。おだてても——なんも——出えへんで」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——尻尾が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ばたばたと——荒野の——土埃を——巻き上げていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「魔法使いさんが、"皆、顔が、死んでます"、って。それで、食レポを、やることに、なった。でも、食い扶持が、四月しか、ないのに、大食いなんて、って、賢者さんが、怒った。……そしたら、"今回は、私が、食べません"、って。食べるのは、藤原さん。竜は、岩が、主食なんだって。鉄とか、銅とか。産地で、味が違うって。知らなかった。人が食べないものなら、誰も、困らない。しかも、見たことないから、盛り上がる。……本当に、盛り上がった。北の鉄は、"渋みがあって、後味がすっきり"。南の銅は、"脂がのってて、口の中で、とろける。鉄が白飯なら、銅は魚"。ちゃんと、食レポに、なってた。溶岩は、"辛くて、喉が焼けるけど、癖になる。酒のあてにする"、って。……途中で、視聴者さんが、"ブレス見たい"、って。藤原さん、面倒くさそうに、火を、吐いたら、遠くの岩山が、溶けて、崩れた。皆、大興奮。それから、"目からビーム"、って。"そんなん出るかいな"、"偏見や"、って、怒ってたけど、"似たようなんできるかも"、って。夜、飛ぶときに、地面を照らす灯りが、目から出るらしい。見せてくれた。すごかった。……気づいたら、地下から、皆、出てきてて、荒野が、人で、いっぱいだった。皆、笑ってた。四日ぶりに、見た。駄々丸さんが、"腹が膨れたわけでも、夜が来たわけでもない。何一つ、解決しちゃいない。でも、明日もやろう、と思える顔でござんす"、って。……藤原さんに、"うち、役に立ったか"、って、聞かれたから、"今日は、藤原さんが、一番、世界を救いました"、って言った。"あほ"、って、そっぽ向かれたけど、尻尾が、ばたばた、してた。じいちゃん。今日は、いい日でした」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。竜が——ただの——余興で——見せた——その——二つの——力が。
⸻
⸻
——後に——なって——幾人もの——命を——繋ぐことに——なるのを。
そして——「明日も——やろう、と——思える——顔」、を——作った——この——一日が。
⸻
⸻
——四月しか——残されていない——彼らにとって。
⸻
⸻
⸻
——何よりも——大きな——一日で——あったことも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、誰も——数えて——いない。




