第75話「イーッ、と、忍者」
工房の——議論が——袋小路に——入った——頃。
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——地下では——別の——問題が——起きていた。
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「——師匠——! また——です——!」
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——ルカが——駆け込んできた。
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「——どうした」
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「——保存食が——また——減ってます——!」
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——数え終えた——保存食は。
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——広間の——一角に——まとめて——置かれ。
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——一覧が——壁に——貼り出されている。
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——その、数が。
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——合わなく——なっていた。
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「——どれくらい——だ」
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「——干し芋が——三十——! 干し肉が——二十——!」
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「——昨日も——同じくらい——減ってました——!」
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——誠は。
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——腕を——組んだ。
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(——盗み、か)
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——気持ちは——分かる。
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——四月しか——ない、と——知らされたのだ。
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——怖くなって——手を——出す——者が——いても——おかしくない。
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——だが。
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——放って——おけば。
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——皆が——真似を——する。
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——そうなれば——一覧など——意味を——なさない。
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「——見張りを——立てましょう」
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——光の勇者が——名乗り出た。
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「——俺が——立とう——!」
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「——だ、駄目です——!」
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——誠が——慌てて——止めた。
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「——なぜだ——!」
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「——勇者さんが——立ったら——皆——怯えます」
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「——それに——捕まえたら——どうするんですか」
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「——決まって——おろう——! 縛り上げて——さらし者に——」
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「——それは——駄目です」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——怖くて——手を——出した——人を——さらしたら」
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「——地下が——真っ二つに——なります」
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「——では——どうする——!」
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「——それが——難しくて」
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——その、時。
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——後ろで。
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——ぽん、と——手を——打つ——音が——した。
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「——旦那。あっしに——任せちゃ——もらえやせんか」
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——駄々丸、だった。
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「——駄々丸さん?」
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「——へえ。こう——見えて——昔は——夜の——仕事も——やって——おりやしてね」
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——誠は。
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——ふと——思い出した。
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——そうだ。
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——この、男は。
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——落語家に——なる——前は。
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「——忍者、でしたっけ」
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「——元、でさァ。もう——足腰が——きつうござんす」
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「——だが——駄々丸——一人では——広すぎる」
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賢者が——口を——挟んだ。
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「——手が——足らんぞ」
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「——それなら——ねェ」
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——駄々丸が。
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——にやり、と——した。
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「——ちょうど——手の——空いてる——連中が——おりやす」
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——半刻、後。
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——広間の——隅に。
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——黒ずくめの——一団が——整列していた。
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「——イーッ——!」
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「——イーッ——!」
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「……悪の組織の——皆さん」
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——誠は。
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——遠い——目を——した。
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「——なぜ——この——人たちを」
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「——考えて——ごらんなせェ、旦那」
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——駄々丸は。
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——扇子を——開いた。
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「——黒い——装束。夜目が——利く。物音を——立てねェ」
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「——おまけに——数が——多くて——命令に——よく——従う」
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「——これ——忍びの——条件、まんまで——ござんしょう」
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「…………」
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「——言われて——みれば」
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「——だが——待て——!」
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——首領が——歩み出た。
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「——我らは——悪の——組織だぞ——!」
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「——見張り、など——正義の——仕事では——ないか——!」
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「——いえいえ、首領の——旦那」
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——駄々丸は。
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——芝居がかった——調子で——言った。
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「——これはねェ。"監視"、で——ござんす」
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「——民を——見張り。逆らう——者を——見つけ出す」
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「——これ以上——悪の——組織らしい——仕事が——ござんすかい」
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——首領が。
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——ぴたり、と——止まった。
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「…………」
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「——む」
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「——言われて——みれば——確かに」
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「——首領——! それは——詭弁です——!」
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誠が——思わず——叫んだ。
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「——旦那。黙って——おくんなせェ」
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「——ですが——!」
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「——よかろう——!」
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——首領が——マントを——翻した。
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「——暗黒教団デスクロウ——! 監視の——任に——就く——!」
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「——イーッ——!!」
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「——いいんですか——それで——!」
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——こうして。
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——駄々丸の——指導による——訓練が——始まった。
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「——いいですかい。忍びの——一。足音を——立てぬこと」
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「——イーッ——!」
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「——返事も——せぬこと」
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「——イーッ——!」
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「——だから——せぬこと——!」
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「——イーッ——!!」
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「——駄々丸さん。無理じゃ——ないですか」
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「——いや。旦那。見てなせェ」
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——駄々丸は。
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——首領を——手招きした。
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「——首領の——旦那。命じて——おくんなせェ」
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「——"声を——出すな"、と」
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「——うむ——! 者ども——! 声を——出すな——!」
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——次の——瞬間。
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——広間が。
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——しん、と——静まり返った。
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「…………」
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「——え」
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——誠が。
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——ぽかんと——した。
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「——静かに——なった」
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「——命じられりゃ——できるんでさァ」
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——駄々丸は——にやにや——していた。
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「——この、連中。とにかく——命令に——忠実で——ござんしてね」
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「——"イーッ"、も——命じられて——ないから——言ってた——だけで」
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「——なるほど——!」
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——そして——その夜。
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——いや——夜は——来ないので。
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——皆が——寝静まった——頃。
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——保存食の——山の——周りに。
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——黒い——影が——音も——なく——散った。
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「——見事なもんで——ござんしょう」
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——柱の——陰から。
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——駄々丸が——ささやいた。
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「——本当に——気配が——ないですね」
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「——へえ。あっしより——上手いかも——しれやせん」
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——やがて。
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——一つの——影が——山に——近づいた。
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——小さな——影、だった。
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——干し芋に——手を——伸ばす。
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「——今だ——!」
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——だが。
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——誠が——それを——制した。
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「——待って——ください」
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「——旦那?」
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——誠は。
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——ゆっくりと——歩み出て。
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——そして。
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——普通に——声を——かけた。
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「——こんばんは」
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——影が。
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——飛び上がった。
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「——ひっ——!」
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——それは。
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——十にも——満たない——女の子、だった。
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「…………」
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——駄々丸が。
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——扇子を——下ろした。
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「——ごめんなさい——! ごめんなさい——!」
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——女の子は。
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——泣き出した。
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「——弟が——お腹——空かせてて——!」
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「——母ちゃんが——病気で——並べなくて——!」
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「…………」
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——誠は。
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——しゃがみ込んだ。
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「——お母さん、病気なのか」
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「——う、うん……」
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「——並べないから——配給が——受け取れないんだね」
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「——うん……」
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——誠は。
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——目を——閉じた。
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(——僕の——落ち度だ)
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——配給の——仕組みを——作った——時。
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——「並べない——人」、のことを——考えていなかった。
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「——ごめんな」
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——誠は——言った。
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「——え?」
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「——僕が——悪かった」
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「——並べない——人の、ことを——考えてなかった」
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——女の子が。
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——ぽかんと——した。
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「——怒らないの?」
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「——怒らないよ」
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——誠は——干し芋を——三つ——手に——取って。
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——女の子に——持たせた。
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「——これ——持っていきなさい」
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「——それから——明日から——うちに——おいで」
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「——僕が——届けるから」
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——女の子は。
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——干し芋を——抱えて。
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——泣きながら——走っていった。
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——その、後ろ姿を。
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——黒ずくめの——一団が。
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——じっと——見送っていた。
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「……首領」
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——誠が——振り返った。
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「——お願いが——あります」
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「——なんだ」
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「——地下じゅうを——回って——ください」
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——誠は——頭を——下げた。
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「——盗む——人を——探すんじゃ——なくて」
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「——"並べない——人"、を——探して——ください」
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「——病気の——人。動けない——人。子どもだけの——家」
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「——見つけて——教えて——ください」
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「…………」
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——首領は。
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——長い、こと——黙って。
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そして——低く——言った。
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「——それは——監視、では——ないな」
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「——はい。違います」
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「——悪の——組織の——仕事でも——ない」
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「——はい」
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——首領は。
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——ふん、と——鼻を——鳴らして。
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——そして——マントを——翻した。
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「——者ども——!」
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「——イーッ——!」
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「——散れ——! 弱き——者を——探し出せ——!」
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「——一人——残らずだ——!」
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「——イーーーッ——!!」
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——黒い——影が。
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——一斉に——地下に——散っていった。
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「——……見事な——もんで——ござんすねェ」
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——駄々丸が——呟いた。
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「——駄々丸さん。ありがとう——ございました」
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「——あっしは——何も——してやせんよ」
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——彼は。
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——扇子で——口元を——隠して。
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——そして——にやり、と——した。
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「——ただ——ねェ、旦那」
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「——はい?」
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「——盗人を——捕まえに——行って」
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「——配り方を——直して——帰ってくる、お人は」
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「——あっしは——一人しか——知りやせん」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「保存食が、減ってた。盗みだ。見張りを、立てることに、なったけど、勇者さんが立つと、皆、怯えるし、捕まえて、さらし者にしたら、地下が、真っ二つになる。……そしたら、駄々丸さんが、"あっしに任せろ"、って。あの人、元、忍者だった。でも、一人じゃ、手が足りない。それで、連れてきたのが——悪の組織の、皆さん。黒い装束、夜目が利く、物音を立てない、数が多くて、命令によく従う。忍びの条件、まんま、だって。首領さんが、"我らは悪の組織だぞ"、って渋ったけど、駄々丸さんが、"これは、監視でござんす。民を見張り、逆らう者を見つけ出す。これ以上、悪の組織らしい仕事が、ありますかい"、って。……詭弁だ。でも、首領さん、納得してた。訓練で、"イーッ"、が、うるさかったけど、首領さんが、"声を出すな"、って命じたら、ぴたっと、静かに、なった。命じられれば、できるらしい。……そして、盗んでたのは、十にもならない、女の子だった。弟が、腹を空かせてて、母ちゃんが、病気で、並べないから、って。……僕の落ち度だ。配給の仕組みを、作った時、"並べない人"、のことを、考えてなかった。干し芋を、持たせて、"明日から、うちにおいで、僕が届けるから"、って言った。それから、首領さんに、お願いした。"盗む人を探すんじゃなくて、並べない人を、探してください"、って。首領さん、"それは、監視ではないな"、"悪の組織の仕事でもない"、って。でも、"者ども、散れ! 弱き者を、探し出せ!"、って。……ありがたい。駄々丸さんが、なんか、言ってたけど、よく、聞こえなかった。じいちゃん。僕、まだまだ、抜けてます」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。この、夜——黒ずくめの——一団が——地下じゅうを——駆け回って。
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——見つけ出した——「並べない——者」、の——数が。
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——四百を——超えて——いたことを。
そして——その——四百の——名が。
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——後に——なって——世界を——動かす——名簿に——化けることも。
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——今は……まだ、誰も——知らない。




