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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第74話「浮かべ続ける」

畑の——手当てを——ルカと——エリナに——託して。





——誠は——数日ぶりに——工房へ——顔を——出した。







——そこは。






——ひどい——有様だった。








「——駄目だ——! 落ちる——!」






「——もっと——高くよ——! 上げなさい——!」






「——これ以上は——無理です——!」








——工房の——真ん中に。






——大きな——盥が——据えられ。






——その、上で。






——小さな——石が——魔法で——浮かんでいた。







——だが。






——数を——数える——間に。






——ぽとり、と——落ちる。








「——何を——してるんですか」






「——おお、田中か」







——賢者が——振り返った。






——目の——隈が——さらに——濃くなっている。







「——蓋の——話だ。まず——一番——簡単なことから——試して——おる」






「——簡単なこと?」






「——"物を——空に——留めておく"、ことだ」








——賢者は。






——落ちた——石を——拾い上げた。







「——魔法で——浮かせる、ことは——できる」






「——だが——術者が——力を——注ぐのを——やめれば——落ちる」






「——半刻も——保たん」








「——それ——人工太陽の、時と——同じ——問題ですね」






「——そうだ」







——賢者は——渋い——顔で——頷いた。







「——人の——力は——尽きる」






「——ずっと——浮かべ続ける、には——人の——手を——離れねば——ならん」








「——では——どうすれば」







——一色が。






——机の——上の——図を——指した。







「——考え方は——二つ、あるわ」







「——一つ。下から——支える」






「——柱を——立てて——その、上に——蓋を——乗せる」








「——柱、ですか」






「——現実的では——ないわ」







——一色は——あっさりと——首を——振った。







「——あの——高さまで——柱を——立てるなら」






「——この、星の——山を——全部——積み上げても——足りない」







「——だから——却下」








「——もう——一つは」






「——落ち続けさせる」








「…………は?」







——誠が。






——きょとん、と——した。







「——落とすんですか?」






「——落ち続けさせるのよ」








——一色は。






——石を——一つ——手に——取って。






——横に——放った。







——石は——弧を——描いて——床に——落ちた。







「——今——石は——落ちたわね」






「——はい」






「——では——もっと——強く——投げたら?」






「——もっと——遠くに——落ちます」







「——もっと——もっと——強く——投げたら?」








「——もっと——遠くに……」







——誠は。






——そこで——言葉を——止めた。







「……あれ」






「——気づいた?」








「——星は——丸い、んですよね」






「——そうよ」






「——ということは」







——誠は。






——自分の——手で——弧を——描いた。







「——落ちてる——間に——地面の、方が——逃げていく?」








——一色が。






——目を——見開いた。







「……そう」






「——ものすごく——強く——横に——投げたら」






「——落ちても——落ちても——地面に——届かない」






「——ずっと——落ち続けて——ぐるぐる——回る」








「——それ——月と——同じ——ですか」






「——虚空の——方々は——そう——言って——いたわ」








——賢者が。






——うんざりした——顔で——口を——挟んだ。







「——理屈は——それでよい」






「——だが——問題は——そこでは——ない」







「——では——どこ——ですか」








「——ぐるぐる——回るのだぞ」







——賢者は。






——指で——輪を——描いた。







「——ということは——ずっと——同じ——場所には——おらん」






「——回って——おるのだからな」








「…………あ」







——誠の——顔が。






——強張った。







「——じゃあ——隠せる——時と——隠せない——時が」






「——そうだ」








「——一日の——うち——ほんの——わずかな——間だけ——影が——差す」






「——後は——素通りだ」







「——それでは——夜には——ならん」








——工房が。






——重い——空気に——沈んだ。








「……振り出し、か」







——一色が。






——机に——突っ伏した。







「——柱は——立たない。回すと——留まらない」






「——留めるには——人が——注ぎ続けるしかない」






「——だけど——人は——尽きる」








「——同じ——ところに——戻って——きたな」






賢者が——低く——言った。







「——"人の——手を——離れても——独りで——続く——もの"」






「——それが——要る、という——結論に」








——誠は。






——二人の——顔を——見比べた。








「——あの」






「——なんだ」






「——それ——前にも——聞きましたよね」








「——聞いた」






——賢者が——苦い——顔を——した。







「——人工太陽を——作る、時に——な」






「——"人の——力では——押し続けられぬ"」






「——"だから——自らの——重さで——押す——ものが——要る"、と」








「——今度も——同じですね」






「——同じだ」








——賢者は。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——田中。気づいて——おるか」






「——何を——ですか」







「——我らは——二年——かけて——同じ——壁に——二度——ぶつかって——おる」








「——"人の——力は——尽きる"」







——彼は。






——それだけを——紙に——書いた。







「——これが——この、世界の——一番——大きな——壁だ」






「——星を——引くのも。空に——留まるのも」






「——全部——これに——阻まれて——おる」








——工房が。






——静まり返った。








「……あの、賢者さん」







——誠が。






——おずおずと——言った。







「——それ——逆に——考えたら——どうですか」






「——逆?」







「——"尽きない——力"、を——この、世界で——探すんです」








「……なんだと?」







「——だって——一つ——ありましたよね」







——誠は。






——天井を——指した。







「——太陽です」








「…………」






「——あれ——誰も——押してないのに——ずっと——燃えてます」






「——ずっと——星を——引いてます」






「——尽きてません」








「——それは——そうだが——!」






「——他にも——ありませんか」







——誠は。






——真剣な——顔で——言った。







「——この、世界に——"誰も——押してないのに——ずっと——続いてる——もの"」






「——それを——全部——書き出して——みませんか」








——賢者と——一色が。






——顔を——見合わせた。







「……なるほど」






「——"作れる——もの"、を——探すのでは——なく」






「——"既に——ある——もの"、を——数える、か」








「——書き出しましょう」







——一色が。






——新しい——紙を——広げた。







「——太陽。月」






「——潮の——満ち引き」






「——地の底の——熱」






「——風」








「——待て。星も——だ」






賢者が——付け加えた。






「——この、星も——誰も——押して——おらんのに——回り続けて——おる」








——紙が。






——少しずつ——埋まっていく。








「……あの」






——誠が——ふと——言った。







「——これ——全部——空の——ものですね」







「——む?」






「——太陽。月。星。潮。……全部——空に——関わる——ものです」








——賢者が。






——ぴたり、と——手を——止めた。







「…………確かに」







「——では——問おう」







——彼は。






——ペンを——置いた。







「——なぜ——空の——ものだけが——尽きぬのだ」








——誰も。






——答えられなかった。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「畑を、ルカと、エリナに、任せて、久しぶりに、工房に、行った。皆、蓋の話を、進めてた。まず、"物を、空に、留めておく"、実験。でも、魔法で、浮かせても、半刻も、保たない。人工太陽の時と、同じ問題。一色さんが、考え方は、二つ、って。柱を立てて、支える——でも、この星の山を、全部、積んでも、足りない。もう一つは、"落ち続けさせる"。……よく、分からなかったけど、石を、ものすごく、強く、横に、投げると、落ちてる間に、地面の方が、逃げていくらしい。星は、丸いから。それで、ずっと、落ち続けて、ぐるぐる、回る。月と、同じだって。……でも、賢者さんが、"ぐるぐる回るなら、同じ場所には、おらん"、って。隠せるのは、一日のうち、わずかな間だけ。それじゃ、夜には、ならない。……振り出しに、戻った。賢者さんが、"我らは、二年かけて、同じ壁に、二度、ぶつかっている"、って。"人の力は、尽きる"。それが、この世界の、一番大きな壁だって。だから、僕、逆に、考えてみませんか、って言った。"尽きない力"、を、この世界で、探すんです、って。太陽は、誰も押してないのに、ずっと燃えて、ずっと引いてる。他にも、ないですか、って。書き出したら、太陽、月、星、潮の満ち引き、地の底の熱、風。……でも、気づいた。全部、空のものだ。賢者さんが、"なぜ、空のものだけが、尽きぬのだ"、って。誰も、答えられなかった。じいちゃん。空って、なんなんだろう」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「なぜ——空の——ものだけが——尽きぬのか」、という——賢者の——この——問いが。




——星の——理を——問う——ことでは——なく。





——もっと——ずっと——近い——ところに——触れて——いたことを。


そして——その、答えを——知る——者が。




——長らく——沈黙を——保った——まま。





——空の——彼方で——牌を——並べて——いることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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