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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第73話「作物が、眠れない」

四日目。





——最初に——悲鳴を——上げたのは。






——人では——なかった。








「——師匠——! 大変です——!」






——ルカが——泥だらけで——駆け込んできた。







「——畑が——! 畑の——豆が——!」








——誠が——駆けつけると。






——地下の——一角に——設けられた——畑で。






——豆の——蔓が。






——だらり、と——垂れていた。







「……これは」







——葉は——枯れて——いない。






——虫も——ついていない。






——水も——足りている。







——だが。







——実が。






——一つも——ついていなかった。








「——おかしいです——! 昨日まで——花が——咲いてたのに——!」






「——落ちたのか」






「——落ちました——! 全部——!」








——誠は。






——しゃがみ込んで——蔓に——触れた。







——温かい。






——葉が——温かい。








「——ルカ。この——畑の——鏡、いつから——閉めてない?」






「——え?」








——地下の——畑には。






——地上の——光を——導く——鏡が——ある。






——そして——夜には——それを——閉じて——暗くする。







——だが——夜が——来ないので。







「——ずっと——開けっぱなしです」






「——だって——夜が——ないですから」








「…………」







——誠は。






——立ち上がった。







「——ルカ。じいちゃんが——言ってた、こと——覚えてるか」






「——え?」






「——"作物にも——寝る——時間が——要る"、って」








——ルカが。






——目を——見開いた。







「——それ——聞いたこと——あります——!」






「——でも——僕、たとえ話だと——思って——ました——!」







「——僕も——そう——思ってた」







——誠は。






——垂れた——蔓を——見つめた。







「——じいちゃんは——理屈は——知らなかったと——思う」






「——でも——毎日——畑を——見て——気づいてたんだ」






「——夜が——ないと——実が——つかない、って」








「——ルカ——! 走れ——!」






「——は、はい——!」






「——地下じゅうの——畑を——見てこい——! 全部——だ——!」








——そして——半日、後。







——集まった——報告は。






——絶望的、だった。








「——第三層の——芋——花が——落ちました」





「——第五層の——麦——穂が——出ません」





「——菜っ葉は——ひょろひょろに——伸びて——倒れました」








「——なんという——ことだ」






——賢者が——蒼白に——なった。






「——食い扶持が——絶えるぞ」







「——貯えは——どれくらい——ありますか」







——誠が——一色に——尋ねた。







「——地下じゅうを——合わせて……三月、といったところね」






「——それも——切り詰めて——の——話よ」








「——三月」







——誠は。






——目を——閉じた。







——蓋を——作る、だの。





——空に——浮かべ続ける、だの。






——そんな——話をして——いる——場合では——なかった。








——三月で。






——皆——飢える。








「——賢者さん。一色さん」






——誠は——目を——開けた。







「——お二人は——蓋の——話を——進めて——ください」






「——お前は——どうする」








「——僕は——畑を——やります」








「…………は?」






「——世界が——かかっておるのだぞ——!」






「——だから——です」







——誠は——静かに——言った。







「——蓋が——できるまで——何年——かかりますか」






「——それは……分からん」






「——じゃあ——それまで——皆——何を——食べるんですか」








「…………」







「——僕、八百屋です」







——誠は。






——前掛けを——結び直した。







「——星は——救えません。でも——畑なら——分かります」









——こうして。






——誠の——戦いが——始まった。








「——まず——鏡を——閉めます——!」






——誠は——地下じゅうに——触れを——出した。







「——一日の——うち——決まった——時間だけ——鏡を——閉じて——ください——!」






「——畑を——真っ暗に——します——!」








「——だが——どれくらい——閉じればよい」






「——分かりません」







——誠は——正直に——言った。







「——だから——試します」






「——一つの——畑は——四刻。一つは——六刻。一つは——八刻」






「——どれが——一番——実を——つけるか——見ます」








「——それは——何日——かかる」






「——ひと月は——かかります」






「——貯えは——三月、だぞ——!」







「——だから——今日から——始めます」









——そして。






——誠は——もう一つ——動いた。







「——皆さん——! 家に——ある——保存食を——出して——ください——!」






「——取り上げるんじゃ——ありません——! 数えるんです——!」







「——なぜだ——!」






「——どこに——何が——どれだけ——あるか——分からないと」






「——足りない——場所に——回せません」








——人々は。






——渋った。







「——出したら——取られるんじゃ——ないのか」






「——うちには——子どもが——いるんだ」








——当然、だった。






——誰もが——怯えていた。








「——では——僕から——出します」







——誠は。






——八百屋の——蔵を——開け放った。







「——うちの——漬物、乾物、保存食——全部です」






「——数えて——記録して——皆さんに——見えるように——貼り出します」








「——おい——! 全部——出すのか——!」






「——はい」






「——お前の——家は——どうする——!」







「——うちも——皆さんと——同じ——分だけ——もらいます」








——広間が。






——静まった。








「……」






「——おい」







——昨日。






——誠を——罵っていた——農夫が。






——のっそりと——立ち上がった。







「——うちの——芋も——数えろ」







「——え?」






「——数えるんだろう。持ってくる」








——彼は。






——ぶっきらぼうに——言って。






——そして——付け加えた。







「——昨日は——悪かったな」






「——いえ。あれは——当然です」






「——当然でも——言い過ぎた」








——一人。





——また——一人。






——保存食が——集まり始めた。







「——うちも——出す——!」





「——干し肉なら——ある——!」





「——数えるだけ、だな? 数えるだけ、なら——!」








——その——列に。






——魔族が——並び。





——鬼族が——並び。





——悪の組織が——律儀に——整列した。







「——イーッ——!」






「——皆さん、何を——お持ちですか」






「——保存食だ。世界征服の——ために——備蓄して——おった」






「——備蓄——してたんですか」






「——当然だ。組織たる——もの」








——そして——三日、後。






——広間の——壁に。






——巨大な——一覧が——貼り出された。







——どこに——何が——どれだけ——あるか。






——誰の——目にも——見える——形で。








「——三月と——十日、です」






——誠が——皆に——告げた。







「——切り詰めれば——四月」






「——それが——僕たちに——残された——時間です」








「——それまでに——畑を——立て直します」







——誠は——深く——頭を——下げた。







「——手を——貸して——ください」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「四日目。畑が、おかしくなった。豆の花が、全部、落ちた。葉は、枯れてないのに、実が、つかない。……鏡を、ずっと、開けっぱなしにしてたからだ。夜が、ないから。じいちゃんが、言ってた。"作物にも、寝る時間が要る"、って。僕、たとえ話だと、思ってた。違った。じいちゃんは、理屈は、知らなかったと思う。でも、毎日、畑を、見て、気づいてたんだ。地下じゅう、調べたら、芋も、麦も、菜っ葉も、全部、駄目だった。貯えは、三月。……賢者さんと、一色さんには、蓋の話を、進めてもらうことに、した。僕は、畑をやります、って言ったら、"世界がかかっているのだぞ"、って、怒られた。でも、蓋ができるまでに、皆、飢えたら、意味がない。僕は、八百屋だ。星は、救えないけど、畑なら、分かる。鏡を、決まった時間だけ、閉めることにした。何刻、閉めればいいかは、分からないから、四刻、六刻、八刻で、試す。ひと月、かかる。それから、皆の、保存食を、数えることにした。取り上げるんじゃ、なくて、数えるだけ。皆、怖がったから、まず、うちの蔵を、全部、開けた。……そしたら、昨日、僕を、罵った農夫さんが、"うちの芋も、数えろ"、って。"昨日は、悪かったな"、って。それから、皆、次々。魔族も、鬼族も、悪の組織まで。悪の組織、世界征服のために、備蓄してたらしい。……全部で、三月と十日。切り詰めて、四月。それが、僕たちの、時間です。じいちゃん。畑、立て直します」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。祖父が——遺した——「作物にも——寝る——時間が——要る」、という——たった——一言が。




——これから——幾万の——腹を——繋ぐことに——なるのを。


そして——世界を——救う——話が——遠くで——動いて——いる——その——傍らで。




——地味に——鏡を——開け閉めし。





——地味に——実の——数を——数える——日々が。





——始まろうと——していることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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