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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第72話「虚空に、問う」

魔法使いが——工房に——駆け込んできたのは。





——それから——半刻、後、だった。







「——遅く——なりました——!」






——彼女も。






——ひどい——顔を——していた。







「——魔法使いさんも——寝てないんですか」






「——寝られる——わけ——ないです——!」







——彼女は。






——分厚い——帳面を——机に——叩きつけた。







「——昨日から——コメントが——止まらないんです——!」






「——え?」






「——虚空の——方々、もう——気づいてます——!」








——誠が。






——目を——見開いた。







「——気づいてる、って……夜が——来ないことに?」






「——はい——! 祝賀会の——配信を——見てた——方々が——!」







——魔法使いは。






——帳面を——めくった。







「——"あれ——沈まなくない?"」






「——"待って——反対側に——置いたなら——夜が——なくなるのでは"」






「——"みんな——気づいてる?"」








「…………」







——賢者が。






——がっくりと——机に——突っ伏した。







「——見て——おる——側は——気づいて——おったのか」






「——だが——なぜ——教えて——くれん——!」







「——それが——ですね」







——魔法使いは。






——気まずそうに——言った。







「——皆さん——書いては——くれてたんです」






「——祝賀会の——最中に——ずっと」







「——でも——私」






「——嬉しくて——コメント——読んでませんでした」








——工房が。






——静まり返った。







「…………」






「——読んで——いれば」






「——せめて——半日は——早く——気づけた、な」








「——ごめんなさい——!!」






——魔法使いが。






——床に——手を——ついた。







「——私が——ちゃんと——見ていれば——!」







「——半日で——何が——変わりますか」







——誠が——静かに——言った。







「——え?」






「——半日——早く——知っても——消せません」






「——それに——あの、時。皆——本当に——嬉しそうでした」






「——あなたの——実況で——世界中が——泣いてたんです」








——誠は。






——魔法使いの——前に——湯呑みを——置いた。







「——あれを——止めなくて——よかったと——僕は——思います」








「…………」







——魔法使いは。






——ぐしゃぐしゃの——顔で——麦茶を——飲んだ。








「——さて」






——賢者が——身を——起こした。







「——泣いて——おる——場合では——ない。問いを——出すぞ」






「——はい——!」








——魔法使いが。






——虚空に——向かって——手を——広げた。







「——皆さん——お待たせ——しました——!」






「——ええと——その」







——彼女は。






——一度——深く——頭を——下げた。







「——皆さんが——教えて——くださっていたのに」






「——私が——読んで——いませんでした」






「——本当に——ごめんなさい——!」








——虚空に。






——文字が——流れ始めた。







「……あ」






「——なんと——書いてある」








——魔法使いは。






——読み上げた。







「——"いや——祝賀会は——見てて——楽しかったから——いい"」






「——"あの——泣きながら——実況してるの——よかった"」






「——"謝るな"」






「——"それより——本題"」








「…………」






——魔法使いが。






——また——泣き出した。







「——泣くな——! 進まん——!」






「——はい——! すみません——!」








「——では——問いだ」






——賢者が——紙を——読み上げた。







「——"我らが——作った——人工の——太陽が——消せない"」






「——"消す——仕掛けを——作って——いなかった"」






「——"だが——星を——引く——役目は——果たして——おる"」







「——"よって——問う"」








——賢者は。






——一度——誠を——見て。






——そして——読んだ。







「——"あれを——光らない——ものに——できないか"」








——虚空が。






——一瞬——静まった。







——そして。






——文字が——濁流のように——流れ始めた。








「——うわあ——! 速い——! 速いです——!」






「——落ち着いて——読め——!」








——魔法使いは。






——必死に——目で——追った。







「——"無理——核融合は——光るのが——仕事"」






「——"光を——止めたら——それ——太陽じゃない"」







「——やはり——駄目か」







「——待って——ください——! 別の——のも——あります——!」







「——"覆えば?"」








「…………覆う?」







——一色が。






——顔を——上げた。







「——待って。今——なんて」






「——"覆えば?"、です——!」






「——他にも——! "傘を——差せ"、"蓋を——しろ"、"日除けを——作れ"、って——!」








——一色が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——そうか」






「——消さなくて——いいのよ」






「——見えなく——すれば——いいのよ——!」








「——待て。落ち着け、一色」






賢者が——制した。






「——覆う、と——言うが——どうやって——覆う」






「——あれは——遥かな——高みに——ある——ぞ」







「——分かってるわ」







——一色の——目は。






——久しぶりに——輝いていた。







「——でも——考えて。私たちは——もう——あそこまで——物を——届けたのよ」






「——四段の——レールガンで」







「——それは——そうだが——!」








「——もう一つ——コメントが——!」






——魔法使いが——叫んだ。







「——"それ——日食と——同じでは"」







「——にっしょく?」






「——ええと——"間に——何かが——入ると——暗くなる——あれ"、だそうです——!」








——賢者が。






——ぴたり、と——止まった。







「……日食」






「——古い——記録に——あったな。"昼——暗くなる"、と」







——彼は。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——つまり——月が——太陽を——隠す——ことが——ある、という、ことか」






「——ならば——理屈としては——通る」








——工房が。






——にわかに——ざわめいた。







「——待ってください——!」






——誠が——手を——挙げた。







「——月って——ものすごく——大きいですよね」






「——そんな——ものを——僕たちが——作れるんですか」








——一色と——賢者が。






——同時に——黙り込んだ。







「…………」






「——聞いて——みてくれ、魔法使い」






「——はい——!」








——そして。






——しばらく——して。






——返ってきた——言葉は。







「——"月ほど——大きくなくて——いい"」






「——"近くに——置けば——小さくても——隠せる"」








「…………」







——誠は。






——ぽかんと——した。







「——どういう——ことですか」






「——簡単だ」







——賢者が——指を——立てた。







「——目の前に——指を——一本——立てて——みろ」






「——こう——ですか?」






「——それで——遠くの——山が——隠れるであろう」








——誠は。






——自分の——指を——見つめた。







「——あ」






「——近ければ——小さくても——隠せる、のだ」








「——じゃあ——!」






「——落ち着け——!」






——賢者が——一喝した。







「——言うのは——たやすい」






「——だが——考えて——みろ」







「——それは——空の——高みに——蓋を——浮かべ続ける、ということだ」






「——落ちても——ならぬ。流れても——ならぬ」






「——常に——同じ——場所に——在り続けねば——意味が——ない」








——工房が。






——静まった。







「……そんなこと」






「——できるんですか」








——一色は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。







「——分からない」






「——でも——"消す"、よりは——遥かに——目が——ある」








「——では——調べるぞ」






——賢者が——紙を——広げた。







「——魔法使い。虚空の——方々に——伝えてくれ」






「——"また——長く——なる"、と」








——魔法使いが。






——それを——伝えると。






——虚空に。






——短い——文字が——流れた。







「……なんて——書いてあります?」







——魔法使いは。






——それを——読んで。






——そして——また——泣きそうな——顔に——なった。







「——"待ってる"」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「魔法使いさんが、来た。虚空の方々、もう、気づいてたって。祝賀会の配信を、見ながら、"あれ、沈まなくない?"、"反対側に置いたなら、夜がなくなるのでは"、って、ずっと、書いてくれてた。でも、魔法使いさん、嬉しくて、コメントを、読んでなかったって。土下座してた。……半日、早く知っても、消せないし、あの時、皆、本当に、嬉しそうだったから、止めなくて、よかったと思う、って言った。虚空の方々も、"祝賀会は、見てて楽しかったからいい"、"謝るな"、"それより本題"、って。優しい人たちだ。それで、賢者さんが、問いを、出した。"あれを、光らないものに、できないか"、って。答えは、"無理。核融合は、光るのが仕事"。……でも、別の答えも、あった。"覆えば?"、"傘を差せ"、"蓋をしろ"、"日除けを作れ"。一色さんが、飛び上がった。"消さなくていい、見えなくすればいい"、って。それから、"日食と同じでは"、って。月が、太陽を隠すことが、あるらしい。でも、月なんて、大きなもの、作れない、って言ったら、"月ほど大きくなくていい。近くに置けば、小さくても隠せる"、って。賢者さんが、指を立てて、"遠くの山が隠れるだろう"、って。……本当だ。近ければ、小さくても、いい。でも、賢者さんが、"空の高みに、蓋を浮かべ続けるということだ。落ちても、流れても、ならぬ"、って。……途方もない。でも、一色さんが、"消す、よりは、遥かに目がある"、って。虚空の方々に、"また長くなる"、って、伝えたら、"待ってる"、って。じいちゃん。また、始まります」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「近ければ——小さくても——隠せる」、という——この——当たり前の——理屈が。




——彼らを——また——長い——長い——年月へ——引きずり込むことを。


そして——その——道の——果てで。




——虚空の——賢人が——ただ一度だけ——口に、して。





——そして——「できない」、と——切り捨てた——ものと。





——もう一度——出会うことに——なるのも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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