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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第71話「消してください」

翌朝。





——地下の——工房に。






——誠が——一番——早く——入った。







——だが。






——先客が——いた。








「……一色さん」







——一色は。






——机に——向かったまま。






——振り返らなかった。







「——寝てないんですか」






「——寝られる、わけ——ないでしょう」








——机の——上には。






——書き潰した——紙が——山を——なしていた。







「——設計図を——全部——見直したわ」






一色の——声は——掠れていた。






「——二年分。最初の——一枚から」







「——それで?」








——一色は。






——ようやく——振り返った。







——ひどい——顔、だった。







「——どこにも——ないの」






「——"止める"、という——項目が」






「——一つも——ない」








——彼女は。






——紙の——山を——手で——示した。







「——"どう——集めるか"。"どう——押し込むか"。"どう——高く——上げるか"」






「——"どう——揃えるか"。"どう——測るか"。"どう——運ぶか"」







「——全部——ある」






「——"どう——消すか"、だけが——ない」








「…………」







——誠は。






——紙を——一枚——手に——取った。







——確かに。






——どこにも——書かれていなかった。








「——ねえ、誠」






「——はい」






「——なぜだと——思う」








——一色は。






——机に——突っ伏した。







「——私、技術者よ」






「——帝国で——橋を——架けた。水路を——引いた。地下都市を——作った」






「——橋には——必ず——"壊す——手順"、を——書くの」






「——水路にも——"止める——弁"、を——付けるの」






「——当たり前の——ことなの」







「——なのに——今回だけ——書かなかった」








「……なぜ、ですか」








——一色は。






——顔を——伏せたまま——言った。







「——"消す、日が——来る"、と——思って——いなかったのよ」







「——え?」






「——だって——あれは——星を——救う——ものだもの」






「——永遠に——燃えて——いてくれなければ——困る——ものだもの」







「——"消す"、なんて——考えることが」






「——失敗を——考えることに——なるから」








——誠は。






——言葉を——失った。








「——縁起でも——ない、と——思ったの」






——一色は——自嘲した。






「——技術者が——縁起を——担いだのよ」






「——一番——やっては——いけないことを」








「……一色さん」







——誠は。






——湯呑みを——机に——置いた。







「——麦茶です」






「——今、そんな——気分じゃ——」






「——飲んで——ください」








——一色は。






——渋々——手に——取って。






——一口——飲んで。







——そして。






——ぽろり、と——涙を——こぼした。







「……ごめんなさい」






「——謝るのは——僕の——役目です」






「——昨日、僕が——独り占めしました」








——一色は。






——ふっ、と——笑った。







「——ずるいわ、あなた」






「——そうですか?」






「——全部——一人で——引き受けて」






「——こっちが——謝る——場所を——なくすの」








——そこへ。






——賢者が——入ってきた。







——彼も——目が——赤かった。







「——揃って——おるな」






「——賢者さんも——寝てないんですか」






「——寝た。二刻ほど」






「——寝てないのと——同じです」








「——それより——だ」






——賢者は——紙を——広げた。







「——昨夜——考えた。消す——手立てを——並べる」






「——一つ。魔力の——供給を——断つ」







「——それは——駄目です」






——誠が——即座に——言った。






「——なぜだ」






「——あれ——もう——魔力で——燃えて——ないですよね」








——賢者の——手が。






——止まった。







「…………」






「——試射の——時。詠唱を——止めても——消えませんでした」






「——"独りで——燃えて——おる"、って——賢者さんが——喜んだじゃ——ないですか」








「——……そうだ」






——賢者は——頭を——抱えた。







「——我らが——一番——喜んだ——ことが」






「——今、我らを——縛って——おるのだ」








「——二つ、目は」






「——うむ。……"燃料を——尽きさせる"」








——三人が。






——顔を——見合わせた。







「——どれくらい——保つんですか」






「——分からん」






「——虚空の——賢人は——なんと?」








——賢者は。






——渋い——顔を——した。







「——本物の——太陽の——話だが——な」






「——"何十億年"、と——言って——おった」







「…………」






「——我らの——ものは——遥かに——小さい。だが——それでも」






「——待てる——長さでは——あるまい」








「——三つ、目は」






「——ない」








——賢者は。






——紙を——机に——放った。







「——一晩——考えて——二つだけだ」






「——どちらも——駄目だ」








——工房に。






——重い——沈黙が——落ちた。








「……あの」






——誠が——ぽつり、と——言った。







「——今更ですけど。一つ——聞いていいですか」






「——なんだ」







「——僕たち——あれを——"消したい"、んでしょうか」








「…………は?」







——賢者と——一色が。






——同時に——顔を——上げた。







「——何を——言って——おる。当たり前であろう」






「——でも」







——誠は。






——考えながら——言った。







「——あれ——ちゃんと——星を——引っ張ってるんですよね?」






「——それは——そうだ。桜庭の——計算でも——落下は——わずかに——緩んで——おる」







「——じゃあ——消したら——また——落ち始めますよね」








「…………」







——賢者が。






——ぴたり、と——固まった。







「——待て」






「——待て、田中」








「——僕たちが——困ってるのは——"明るいこと"、と——"熱いこと"、ですよね」






——誠は——ゆっくりと——続けた。







「——"引っ張ってること"、では——ないですよね」







「——だったら——消すんじゃ——なくて」








「——"光らない——ものに——できませんか"」








——工房が。






——静まり返った。








「…………」






「…………一色」






「……ええ」








——二人は。






——ゆっくりと——誠を——見た。







「——お前は——なぜ——そう——いうことを——思いつくのだ」






「——え? 変ですか?」






「——変だ」







——賢者は——頭を——振った。







「——我らは——"作った——ものを——どう——消すか"、で——頭が——一杯だった」






「——お前は——"何が——困って——おるのか"、から——考えて——おる」







「——順番が——違うのだ」








「——でも——できるんですか。光らないように、なんて」







——一色が——首を——振った。







「——分からないわ。……でも」







——彼女は。






——初めて——顔を——上げた。







「——"消す"、より——聞ける——問いに——なった」








「——魔法使いを——呼べ——!」






賢者が——立ち上がった。






「——虚空に——問う——!」







その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「朝、工房に、行ったら、一色さんが、徹夜で、設計図を、全部、見直してた。二年分、最初の一枚から。……"止める"、っていう項目が、どこにも、なかったって。"どう集めるか"、"どう押し込むか"、"どう上げるか"、全部、あるのに、"どう消すか"、だけが、ない。なぜか、聞いたら、"消す日が来る、と、思ってなかった"、って。"あれは、星を救うものだから、永遠に燃えていてくれなければ、困る。消すなんて、考えるのは、失敗を考えることになるから、縁起でもない、と思った"、って。……技術者が、縁起を、担いだ、って、自分を、責めてた。麦茶、出したら、泣いてた。賢者さんも、徹夜。消す手立て、二つ。魔力を断つ——でも、もう魔力で、燃えてない。燃料が尽きるのを待つ——本物の太陽で、何十億年。どっちも、駄目。……それで、僕、思ったことを、聞いてみた。"僕たち、本当に、消したいんでしょうか"、って。だって、あれ、ちゃんと、星を、引っ張ってる。消したら、また、落ち始める。困ってるのは、明るいことと、熱いこと。引っ張ってることじゃ、ない。だったら、"光らないものに、できませんか"、って。……二人とも、固まった。賢者さんが、"我らは、作ったものを、どう消すか、で頭が一杯だった。お前は、何が困っているのか、から考えている。順番が、違うのだ"、って。一色さんが、"消す、より、聞ける問いに、なった"、って。じいちゃん。また、聞いてみます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「光らない——ものに——できないか」、という——この、問いが。




——虚空の——向こうで。





——いつか——一度——出た——ことのある——答えに。





——静かに——近づいて——いたことを。


そして——その、答えが。




——「今の——技術では——できない」、と——切り捨てられた——ものであることも。





——今は……まだ、誰も——思い出して——いない。

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