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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第70話「水時計だけが、知っている」

三日目の——朝。





——いや。






——朝と——呼んでいいのかどうか。






——誠には——もう——分からなかった。








「——師匠」






——ルカが——静かに——隣に——座った。







「——僕、昨日の——夜のこと」






「——ずっと——考えてました」







「……ああ」






「——師匠が——皆に——言わなかったの」






「——僕、分かります」








——誠は——ルカを——見た。







「——でも——今日は——言うんですよね」






「——ああ」






「——僕、隣に——いていいですか」








——誠は。






——しばらく——黙って。






そして——ルカの——頭に——手を——置いた。







「——ありがとう」








——だが。






——誠が——口を——開く——より——先に。







——地下は。






——ざわつき始めていた。








「——おい。今——何時だ」






「——さあ……。飲み明かしたから——分からん」






「——腹が——減ったから——昼、だろう」






「——さっきも——そう——言ってなかったか?」








——人々が。






——首を——かしげ始めた。








「——水時計を——見てこい」







——柱に——刻まれた——水時計。






——地下では——それだけが——時を——告げる。







「……おい」






——覗きに行った——男が。






——妙な——顔で——戻ってきた。







「——どうした」






「——朝だ。……三日目の、朝だ」






「——三日目——!?」







「——待て。じゃあ——俺たち——二晩——飲んで——おったのか」






「——そんな——はずが——! 夜は——一度も——来てないぞ——!」








——広間が。






——ぴたり、と——静まった。








「…………」






「——今——なんて——言った」






「——夜が——来てない、と」








——誰かが。






——階段を——駆け上がっていった。







——そして。






——すぐに——駆け下りてきた。







「——明るい——!!」






「——外——真昼だ——!!」








——ざわめきが。






——一気に——広間を——覆った。







「——どういう——ことだ——!」





「——太陽は——どこへ——行った——!」





「——おい——! 誰か——説明しろ——!」








——誠は。






——ゆっくりと——立ち上がった。







(——ああ)






(——時間だ)








「——皆さん——!」







——その、声に。






——広間が——振り返った。








「——説明します。壇上に——上がらせて——ください」








——誠が——壇に——立つと。






——数千の——目が——集まった。







——賢者が——傍らに——並ぶ。






——一色も。





——アルフレートも。





——魔王も。






——そして——ルカが——誠の——後ろに——立った。








「——結論から——言います」






——誠は。






——一切——ぼかさなかった。







「——夜は——来ません」







——ざわり。







「——僕たちが——作った——太陽は——星の——反対側に——あります」






「——だから——本物の——太陽が——沈むと——入れ替わりに——昇ってきます」






「——空に——常に——どちらかが——ある、ということです」








「——ま、待て——!」






——誰かが——叫んだ。






「——では——涼しく——なるのは——いつだ——!」






「——なりません」








——誠は——きっぱりと——言った。







「——夜が——ない、ということは」






「——星が——冷える——時間が——ない、ということです」






「——今より——暑く——なります」








——広間が。






——凍りついた。








「……そんな」






「——じゃあ——夜の——畑仕事は——」






「——できません」








——それは。






——地下に——住む——者たちにとって。






——最も——重い——一言、だった。








——地上が——灼けて——以来。






——人々は——夜に——畑を——耕してきた。






——それだけが——食い扶持を——繋ぐ——道だった。








「——待ってくれ——!」






——農夫の——一人が——立ち上がった。






「——じゃあ——わしらは——何を——食えばいい——!」






「——今——考えて——います」






「——考えて——いる、だと——!?」








——空気が。






——きしり、と——音を——立てた。







「——消せば——いいだろう——!」






——別の——声が——飛んだ。






「——灯したんだから——消せるはずだ——!」






「——そうだ——! 消せ——!」








——誠は。






——一度——息を——吸って。






——そして——言った。







「——消せません」








「…………」






「——なんだと」







「——消す——仕掛けを——作って——いませんでした」








——広間が。






——爆発した。







「——作って——いない——!?」





「——二年も——かけて——!?」





「——ふざけるな——!」








——罵声が——飛んだ。






——初めて。






——誠に——向かって。








「——待て——!!」






賢者が——一歩——前に——出た。






「——それは——私の——落ち度だ——! 田中では——ない——!」






「——私よ——!」






一色も——叫んだ。






「——設計を——した、のは——私——!」








「——お二人とも——下がって——ください」







——誠は。






——静かに——二人を——制した。







「——田中——!」






「——最初に——"反対側から——引っ張れば——いい"、と——言ったのは——僕です」







——誠は——広間を——見渡した。







「——皆さんに——頭を——下げて——回ったのも——僕です」






「——だから——僕が——言われるのが——筋です」








——罵声が。






——ぴたり、と——止まった。








「…………」







——だが。






——止まったのは。






——ほんの——一瞬、だった。








「——なら——どうしてくれる——!」






「——うちの——畑は——どうなる——!」






「——謝って——済む、ことか——!」








——誠は。






——逃げなかった。






——一つ、ずつ。






——顔を——見て。






——聞いた。








「——申し訳——ありません」






「——謝っても——畑は——戻りません。分かって——います」






「——それでも——今は——それしか——言えません」








——広間に。






——重い——空気が——垂れ込めた。








——その、時。






——後ろから。






——小さな——声が——した。







「——師匠は——悪くないです——!」







——ルカ、だった。







「——ルカ」






「——だって——! 師匠が——動かなかったら——皆——ただ——待ってるだけ——だったじゃ——ないですか——!」







——少年は。






——涙を——ためて——叫んだ。







「——師匠は——! 二年——ずっと——!」






「——ルカ。いいんだ」







——誠は。






——ルカを——後ろに——庇った。







「——皆さん。今日は——どうか——言いたいことを——言ってください」






「——ただ——一つだけ——お願いが——あります」








——誠は——深く——頭を——下げた。







「——明日から——手を——貸して——ください」







「——僕は——必ず——消す——方法を——探します」






「——でも——一人では——無理です」








——広間は。






——答えなかった。







——ただ。






——誰も。






——出て行かなかった。







その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「今日、全部、話した。夜は、来ない。涼しくならない。夜の畑仕事も、できない。そして、消せない。……皆、怒った。当たり前だ。二年、頑張ったのに、余計に、ひどくなったんだから。賢者さんと、一色さんが、"私の落ち度だ"、って、庇ってくれた。でも、下がって、もらった。最初に言い出したのは、僕だし、頭を下げて回ったのも、僕だから。僕が、言われるのが、筋だ。罵られた。生まれて、初めてかもしれない。……ルカが、"師匠は悪くない"、って、泣いて、叫んでくれた。あの子を、後ろに、庇った。子どもに、庇われるようじゃ、駄目だ。最後に、頭を下げて、お願いした。"明日から、手を貸してください。必ず、消す方法を、探します。でも、一人では、無理です"、って。……返事は、なかった。でも、誰も、出て行かなかった。それだけで、十分だ。じいちゃん。明日から、やり直します」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。誰も——広間を——出て行かなかった——この、日が。




——後に——なって——皆が——「あの日が——分かれ目だった」、と——語る、日に——なることを。


そして——「消す——方法」、を——探す——旅が。




——彼らが——想像した——どんな——道よりも——遠く。





——そして——思いも——よらぬ——場所へ——続いていることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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