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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第69話「明けない朝」

祝いの——夜は。





——明けなかった。







——いや。






——正しくは。







——明ける、ということが——起きなかった。








「——おはよう——ございまーす——!」






ルカが——地下の——階段を——駆け上がってくる。






「——師匠——! 昨日は——皆さん——飲みすぎで——!」







——だが。






——誠は。






——店先の——椅子に——腰かけたまま。






——空を——見上げていた。







「……師匠?」






「——ルカ」






「——はい」






「——僕、一睡も——してないんだ」







「——え?」








——誠は。






——東の——空を——指した。







——そこには。






——昨日——ともした——光が。






——一晩中。






——一度も——欠けることなく。






——輝き続けていた。








「…………」







——ルカが。






——ゆっくりと——空を——見上げた。







「……あれ」






「——昨日と——同じ——場所に——ある?」






「——ああ」







「——動いて——ないんですか?」






「——動いてる」







——誠は——静かに——言った。







「——ちゃんと——空を——回ってる」






「——太陽が——沈むと——あれが——昇ってくる」






「——あれが——沈むと——太陽が——昇ってくる」








——ルカが。






——ぽかんと——した。







「……それって」






「——夜が——来ない、ってことだ」








——朝の——地下は。






——まだ——祝いの——余韻に——沈んでいた。







「——うう……頭が——痛い……」






「——昨日は——飲みすぎだ——!」






「——二年——ぶりの——酒だ——! 当然だろう——!」








——広間には。






——雑魚寝の——山が——できていた。







——人。魔族。鬼族。虫人族。






——悪の組織の——連中は——なぜか——整列して——寝ていた。







「——イー……」






「——寝言も——イー、なんですね」








「——おはよう、誠」






一色が——欠伸を——しながら——現れた。






「——珍しく——飲みすぎたわ。今、何時かしら」







「——一色さん」







——誠の——声に。






——一色が——顔を——上げた。







「……どうしたの。顔色が——悪いわ」






「——上に——来て——ください」








——そして。






——地上に——立った——一色は。






——三十秒ほど。






——一言も——発しなかった。







「…………」






「——一色さん」






「……ちょっと——待って」







——一色は。






——空を——見上げたまま。






——指を——折って——何かを——数え始めた。







——そして。







——がくり、と。






——膝を——ついた。







「——一色さん——!」






「……計算に——入れて——なかった」







——一色の——声は。






——震えていた。







「——引く力ばかり——見ていて」






「——光と——熱を——計算に——入れて——いなかった」







「——太陽が——二つに——なれば」






「——昼が——二倍に——なるのは——当たり前じゃ——ない」








——彼女は。






——顔を——覆った。







「——なんで——気づかなかったの」






「——こんな——単純な、ことに」








「——一色さんだけの——せいじゃ——ありません」






誠は——静かに——言った。






「——僕も——気づきませんでした」






「——二年——一度も」








——賢者が——呼ばれた。






——彼は——空を——見て。






——しばらく——黙って。






——そして——ただ——一言。







「——なんという——ことだ」







——と——呟いた。








「——賢者さん。落ち着いて——聞いて——ください」






誠が——言った。






「——あれ——消せますか」








——賢者は。






——ゆっくりと——一色を——見た。







「——一色。消灯の——手筈は」






「…………」






「——一色」








——一色は。






——うつむいたまま。






——首を——横に——振った。







「——ない、わ」






「——なんだと?」






「——灯すことしか——考えて——いなかった」







——彼女の——声が。






——かすれた。







「——二年——ずっと——"どうやって——灯すか"、だけを——考えて——いた」






「——"どうやって——消すか"、を……誰も——一度も——口に——しなかった」








——地上に。






——長い——沈黙が——落ちた。








「……いや」






賢者が——ぽつり、と——言った。






「——それは——一色の——落ち度では——ない」






「——私も——考えなんだ」






「——虚空の——賢人にも——聞かなんだ」







——彼は——自分の——手を——見つめた。







「——"どうやって——作るか"、ばかり——問うて」






「——"作った——後の、こと"、を——一度も——問わなんだ」








「——では——今から——聞きましょう」







——誠が——言った。







「——魔法使いさんを——起こして——きます」






「——待て、田中」







——賢者が——止めた。







「——なんですか」






「——皆に——どう——言う」








——誠は。






——地下の——方を——見た。







——そこからは。






——まだ——笑い声が——聞こえていた。







「——おい——! 誰か——水を——!」





「——飲みすぎだ——ざまあみろ——!」





「——昨日は——楽しかったなあ——!」








「…………」







——二年、だった。







——各地を——回り。





——頭を——下げ。





——骨を——折り。





——暑さで——倒れ。





——それでも——集まって。






——ようやく——昨日。






——皆で——泣いて——喜んだ。








「——一日、待って——ください」






——誠は——言った。







「——なんだと?」






「——今日——一日だけ。皆に——喜ばせて——あげて——ください」








「——田中。それは——」






「——分かってます」







——誠は——うつむいた。







「——隠すのは——駄目だって——分かってます」






「——前に——僕が——言ったんです。"知った、上で——どう——生きるかを——自分で——選んで——ほしい"、って」






「——だから——言います。必ず——言います」






「——でも——今日、だけは」








——彼の——声が。






——初めて——震えた。







「——二年、なんです」








——賢者は。






——長い、こと——黙って。






そして——ぼそり、と——言った。







「……一日、だな」






「——はい」






「——明日、だぞ」






「——はい」








——そして——その日。






——地下では。






——二日目の——祝いが——続いた。







「——誠さん——! 昨日は——ありがとう——!」






「——あんたの——おかげだ——!」






「——ようやく——一息——つけるなあ——!」








——誠は。






——笑って——麦茶を——注いだ。







「——はい。おかわり——どうぞ」






「——冷たいうちに」








——一日中。






——笑って——注ぎ続けた。








——そして——誰も——いなくなった——広間の——隅で。






——一人。






——空の——桶を——抱えて——座り込んだ。








その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「夜が、来なかった。一睡も、できなかった。……当たり前だった。星の反対側に、置いたんだから、太陽が沈む時に、あれが昇る。二年、一度も、気づかなかった。一色さんに、見せたら、膝を、ついた。"引く力ばかり見て、光と熱を、計算に入れてなかった"、って。賢者さんも、"作った後のことを、一度も問わなんだ"、って。……そして、消す仕掛けが、ない。灯すことしか、考えてなかった。誰も、一度も、消し方を、口にしなかった。……賢者さんに、"皆に、どう言う"、って、聞かれた。僕、"一日、待ってください"、って、言った。隠すのが、駄目なのは、分かってる。前に、僕が、言ったんだ。知った上で、選んでほしい、って。必ず、言う。でも、今日だけは。……二年、なんです。皆、二年、頑張ったんです。頭を下げて、骨を折って、暑さで倒れて。昨日、やっと、泣いて喜んだんです。だから、今日は、笑わせてあげたかった。一日中、麦茶を、注いだ。皆、"ありがとう"、って、言ってくれた。……じいちゃん。明日、言います。全部」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——いや。




——月は。




——二つの——光に——押し流されて。





——どこにも——見えなかった。






まだこの時の誠は知らない。この——「一日だけ」、が。




——彼が——生涯で——ただ一度。





——真実を——遅らせた——日で、あったことを。


そして——その、一日を——後に——悔いる、ことも。




——決して——なかった、ことも。





——今は……まだ、知らない。

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