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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第67話「殴って、いいですか」

「——一週間、後だ」





賢者が——地図を——広げた。






「——それ以上は——待てん」






「——なぜ——そんなに——急ぐ」






「——桜庭が——計算を——寄越した」






賢者の——顔は——強張っていた。






「——落下の——速さが——また——上がって——おる」






「——半年も——空ければ——地下も——保たん」








——こうして。






——次の——試射までの——一週間が——始まった。








——工房では。






一色が——夜通し——レールガンを——分解していた。







「——砲身に——傷が——入ってる。三門とも」






「——一週間で——直りますか」






「——直すのよ。他に——道が——ないもの」







——鬼族が——鋼を——運び。





——虫人族が——細かい——部品を——組み。





——怪獣たちが——重い——枠を——支えた。







「——グオ。ここでいいか」






「——もう少し——右——! ありがとう——ございます——!」








——地下の——広間では。






——魔族たちが——横に——なっていた。







「——涼しい……」






「——地上に——一日——立つのが——あれほど——きついとは——な」







——今回は。






——魔族は——全員——地下に——配される。






——念話は——地面を——越えて——届く。







「——試して——みたが——確かに——届く」






魔王が——言った。






「——地上の——列にも——遅れず——回る」






「——よかった——!」








——そして——荒野では。






——妙な——男が——素振りを——していた。







「——ぬん——! ぬん——!」







——鋼のような——腕。






——割れた——腹。






——盛り上がった——背。







「……あの」






誠が——おそるおそる——声を——かけた。






「——どちら様——ですか」






「——む? 俺だ、田中」








——振り向いた——顔は。






——アルフレート、だった。







「——ア、アルフレート様——!?」






誠が——飛び上がった。






「——痩せた——! いや——痩せたどころじゃ——!」






「——うむ」







——アルフレートは——腕を——曲げて——見せた。






——太い——筋が——盛り上がる。







「——二年——動き続けた」






彼は——静かに——言った。






「——歩いた。芋を——運んだ。薪を——割った。地下を——掘った」






「——気づけば——こう——なって——おった」







「——レベルは——どうなんですか——!」






「——それが、な」







——アルフレートは。






——虚空を——見つめて。






そして——首を——かしげた。







「——上限まで——行って——おる」






「——え——!?」






「——魔物も——倒して——おらんのに、な」






「——芋を——運んで——おっただけだ」








「——なぜ——!」






「——分からん」







——アルフレートは——ふっと——笑った。






「——だが——お前が——言って——おっただろう」






「——"数字に——出なくても——変わって——おるものは——変わって——おる"、と」






「——どうやら——遅れて——数字が——追いついた——らしい」








「——ならば——お前も——飛べ——!」






光の勇者が——駆け寄ってきた。






「——四門目に——乗れ——! さらに——高く——飛べる——!」






「——うむ。よかろう」






「——いいんですか——!?」








——一方。






——光の勇者と——英雄は。






——ほとんど——動かなかった。







「——鍛錬は——せんのですか」






「——今——鍛えても——間に——合わん」






光の勇者は——横に——なったまま——言った。






「——それより——身体を——治す。骨が——まだ——痛む」






「——当日——万全で——飛べねば——意味が——ない」







「……成長——しましたね」






「——ふん」








——そして——試射の——前夜。







——誠は。






——地下の——奥に——いる——魔王を——訪ねた。







「——魔王さん。いいですか」






「——なんだ」








——誠は。






——少し——言いにくそうに——切り出した。







「——明日——もし——何か——あったら」






「——魔王さんを——殴っても——いいですか」








「…………」






「……は?」







——魔王が。






——目を——丸くした。







「——殴る、だと?」






「——はい」






「——なぜ」








「——僕、変な——体質が——あるんです」






誠は——真面目な——顔で——言った。






「——僕が——触って——相手が——本気で——応えると……相手が——覚醒するんです」






「——星喰いの、時——魔族の——皆さんが——覚醒したの——覚えて——ますか」






「——あれです」







「……ああ。あの、時か」







——魔王は——腕を——組んだ。






「——だが——なぜ——殴る」






「——触るだけでは——駄目、なのか」







「——相手が——"本気で——応える"、必要が——あるんです」






誠は——申し訳なさそうに——言った。






「——優しく——触っても——何も——起きなくて」






「——思いっきり——ぶつからないと——駄目、みたいで」







「——ふむ」







——魔王は。






——しばらく——考えて。






そして——言った。







「——構わぬ」






「——いいんですか——!?」






「——うむ。むしろ——遠慮——するな」







——魔王は——にやり、と——した。






「——お前の——拳など——蚊が——止まった——ほども——感じぬ」






「——好きなだけ——殴れ」







「——ありがとう——ございます——!」








「——ただし——田中」






魔王は——ふと——真顔に——なった。






「——なぜ——今——それを——言う」






「——え?」






「——当日——黙って——殴れば——よかろう」








——誠は。






——きょとん、と——した。







「——だって——人を——殴るんですよ」






「——先に——断らないと——失礼じゃ——ないですか」







「…………」







——魔王は。






——長い、こと——黙って。






そして——低く——笑った。







「——妙な——男だ」






「——よく——言われます」








——そして——当日。







「——皆さーん——! 一週間ぶりの——試射です——!」






竜の——背から——魔法使いの——声が——降る。






「——今回は——改善点が——四つ——!」






「——魔族の——皆さんは——地下に——! 念話は——地面を——越えます——!」






「——レールガンは——四段に——! 四門目には——なんと——!」







「——アルフレートさんが——乗ります——!」







「——コメント——"誰"、"痩せた?"、"別人"、って——!」






「——二年——歩いた——甲斐が——ござんしたねェ」






駄々丸が——扇子を——広げた。






「——皆様。人は——変われるんで——ござんすよ」






「——二百キロが——鋼に——なるんで——さァ」







「——コメント——爆発——してます——!」








「——総員——配置——!!」







——地上に——一万二千。





——地下に——魔族。





——空に——竜。







「——光——送れ——!!」







——スライムの——光が——世界を——駆けた。







『——全世界……受けた』







「——一門目——発射——!!」







——ドンッ——!!






「——うおおお——!!」







——二門目。






——三門目。






——そして。







「——四門目——!!」







——ドンッ——!!







「——ぬおおおおお——!!」







——アルフレートの——絶叫と、共に。






——鉛の——箱が。






——前回を——遥かに——超える——高みへ——消えた。







「——届いた——!! 余裕で——届いた——!!」






賢者が——絶叫した。







「——詠唱——始め——!!」







——地下で。






——魔王が——目を——閉じた。







(——回せ)







——涼しい——地の底から。






——三百の——魔族へ。





——三百から——一万二千へ。







「——一——! 二——! 三——!!」







——声が——重なった。






——渦が——生まれる。






——白い——光が——ともる。







「——光った——!!」






「——続いて——ます——!!」








——だが。







——五分、後。







「——ぐ……っ」







——地下で。






——魔王の——額に——汗が——浮いた。







「——魔王さん——!」






「——問題——ない。……だが——長い」






「——念話を——回し続けるのが——これほど——削るとは……」








——十分。






——魔王の——身体が——傾いだ。







「——魔王さん——!!」







——誠は。






——駆け寄って。






——そして——叫んだ。







「——いきます——!!」







——ごつん。







——誠の——拳が。






——魔王の——胸を——叩いた。







「——ぬ——!?」







——次の——瞬間。







——魔王の——身体が。






——赤黒く——輝いた。







「——おおおおお——!?」






「——覚醒——した——!!」








——魔王の——念話が。






——一気に——太くなった。







「——拍が——強く——なった——!!」






「——地上まで——はっきり——届いて——おる——!!」








——十五分。






——再び——魔王の——膝が——折れかけた。







「——もう一度——いきます——!!」







——ごつん。







「——ぐおおおお——!!」







——二度目の——輝き。






——魔王の——角が——伸び。





——身体が——一回り——膨れ上がった。







「——二度——覚醒したぞ——!!」






「——そんなことが——あるのか——!?」








——そして——二十分。







「——光が——安定——しません——! あと——少し——足りません——!」






魔法使いの——声が——飛ぶ。







「——魔王さん——!!」






「——来い——!!」







——三度目の——拳。







——ごつん。








——その、瞬間。







——地下が。






——真紅に——染まった。







「——ぬううううう——!!」







——魔王の——姿が。






——変わった。







——四本の——角。





——背に——広がる——影。





——全身を——巡る——紋様。







「——こ、これは——!!」






「——真祖の——姿——! 千年——誰も——至らなんだ——!!」






魔族たちが——ざわめいた。








——そして。






——魔王の——念話が。






——世界を——包んだ。







(——聞け——!! 全ての——者よ——!!)







「——う、うわあ——! 頭に——直接——!」






「——地上の——全員に——届いて——ます——!!」







(——拍を——刻む——!! 我に——合わせよ——!!)







「——一——! 二——! 三——!!」








——一万二千の——声が。






——これまでに——ないほど——一つに——なった。







——渦が——引き締まる。






——揺らいでいた——光が。






——ぴたり、と——止まった。







——そして。







——白い——光が。






——強く。





——強く。






——燃え上がった。







「…………」







——荒野が。






——静まり返った。








「——詠唱——止めて——みろ——!!」






賢者が——叫んだ。






「——な、なんだと——!?」






「——止めろ——! 確かめるのだ——!!」








——一万二千の——声が。






——止まった。







——渦が——消える。







——だが。








——光は。






——消えなかった。








「…………」






「……燃えて——おる」






賢者の——声が——震えた。






「——独りで——燃えて——おる——!!」








——荒野が。






——爆発した。







「——うおおおおお——!!」





「——できた——!! できたぞ——!!」





「——二年だ——!! 二年——かかったんだ——!!」







——抱き合う——者。





——泣き崩れる——者。





——地面に——突っ伏す——者。







「——皆さん——!! 成功——です——!!」






魔法使いが——涙声で——叫んだ。






「——人工太陽——点火——成功——!!」






「——コメントが——! コメントが——見えません——!! 流れが——速すぎて——!!」







「——へえ、皆様」






駄々丸が——扇子を——閉じた。






「——たった今——この、世界に——二つ目の——灯りが——ともりやした」






「——人と。魔族と。鬼と。竜と。虫と。……それに——世界征服を——企んどった——連中の——手で」






「——大した——もんで——ござんす」








——地下では。






——真紅の——魔王が。






——どしん、と——腰を——下ろしていた。







「——魔王さん——! 大丈夫ですか——!」






「……ふん」







——魔王は。






——自分の——手を——見つめて。






そして——低く——笑った。







「——三度も——殴られたのは——初めてだ」






「——すみません——!」






「——礼を——言って——おる」







——彼は——四本の——角に——触れた。






「——千年——誰も——至らなんだ——姿だ」






「——それが——人間に——殴られて——出るとはな」







「——魔王さんが——本気で——応えて——くれたからです」






誠は——微笑んだ。






「——僕は——ただ——殴っただけです」







「——ふん」







——魔王は。






——ゆっくりと——立ち上がって。






そして——言った。







「——麦茶を——くれ」






「——はい——! すぐ——お持ちします——!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「一週間で、また、打つことに、なった。星の落下が、速まってて、待てないって。皆、必死だった。一色さんは、夜通し、レールガンの、修理。魔族の皆さんは、地下で、休養。今回は、地下から、念話を、回す。……それと、アルフレート様が、別人に、なってた。二年、歩いて、芋を運んで、薪を割って、地下を掘って……筋肉、モリモリ。しかも、レベルが、上限まで、行ってた。魔物、一体も、倒してないのに。"数字に出なくても、変わってるものは、変わってる"、って、僕が言ったこと、覚えててくれた。"遅れて、数字が、追いついたらしい"、って。四門目に、乗ることに、なった。……前の夜、魔王さんに、聞いた。"何かあったら、殴っていいですか。覚醒できるかも"、って。魔王さん、"構わぬ。お前の拳など、蚊が止まったほども、感じぬ"、って。それから、"なぜ、今、言う。当日、黙って、殴ればよかろう"、って。……人を、殴るんだから、先に、断らないと、失礼でしょう。魔王さん、笑ってた。当日。四段、飛んで、高さは、余裕。詠唱も、揃った。でも、二十分、続けて、魔王さんが、限界に。だから、殴った。一度目で、覚醒。二度目で、また、覚醒。三度目で……姿が、変わった。四本の角。"真祖の姿。千年、誰も、至らなんだ"、って、魔族の皆さんが。念話が、世界中に、届いて、一万二千が、完全に、一つに、なって……光が、燃え上がった。賢者さんが、"詠唱を、止めろ"、って。止めても、光は、消えなかった。独りで、燃えてた。……成功した。二年。皆、泣いてた。じいちゃん。できたよ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。空に——ともった——二つ目の——灯りが。



——世界中を——歓喜に——沸かせた——この、夜が。



——彼らが——最後に——心から——笑えた——夜で、あったことを。


そして——その、光が。




——二度と——沈まぬ、ことも。





——今は……まだ、誰も——気づいて——いない。

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