第67話「殴って、いいですか」
「——一週間、後だ」
⸻
⸻
⸻
賢者が——地図を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それ以上は——待てん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——そんなに——急ぐ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——桜庭が——計算を——寄越した」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者の——顔は——強張っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——落下の——速さが——また——上がって——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——半年も——空ければ——地下も——保たん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——こうして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——次の——試射までの——一週間が——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房では。
⸻
⸻
⸻
⸻
一色が——夜通し——レールガンを——分解していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——砲身に——傷が——入ってる。三門とも」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一週間で——直りますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——直すのよ。他に——道が——ないもの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——鬼族が——鋼を——運び。
⸻
⸻
⸻
——虫人族が——細かい——部品を——組み。
⸻
⸻
⸻
——怪獣たちが——重い——枠を——支えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——グオ。ここでいいか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう少し——右——! ありがとう——ございます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下の——広間では。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔族たちが——横に——なっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しい……」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地上に——一日——立つのが——あれほど——きついとは——な」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——今回は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔族は——全員——地下に——配される。
⸻
⸻
⸻
⸻
——念話は——地面を——越えて——届く。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——試して——みたが——確かに——届く」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔王が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地上の——列にも——遅れず——回る」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よかった——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——荒野では。
⸻
⸻
⸻
⸻
——妙な——男が——素振りを——していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬん——! ぬん——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——鋼のような——腕。
⸻
⸻
⸻
⸻
——割れた——腹。
⸻
⸻
⸻
⸻
——盛り上がった——背。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あの」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠が——おそるおそる——声を——かけた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どちら様——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——む? 俺だ、田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——振り向いた——顔は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレート、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ア、アルフレート様——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠が——飛び上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——痩せた——! いや——痩せたどころじゃ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートは——腕を——曲げて——見せた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——太い——筋が——盛り上がる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二年——動き続けた」
⸻
⸻
⸻
⸻
彼は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——歩いた。芋を——運んだ。薪を——割った。地下を——掘った」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——気づけば——こう——なって——おった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——レベルは——どうなんですか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それが、な」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——虚空を——見つめて。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——首を——かしげた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——上限まで——行って——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔物も——倒して——おらんのに、な」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——芋を——運んで——おっただけだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分からん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートは——ふっと——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——お前が——言って——おっただろう」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"数字に——出なくても——変わって——おるものは——変わって——おる"、と」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうやら——遅れて——数字が——追いついた——らしい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ならば——お前も——飛べ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——駆け寄ってきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——四門目に——乗れ——! さらに——高く——飛べる——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ。よかろう」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いいんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一方。
⸻
⸻
⸻
⸻
——光の勇者と——英雄は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ほとんど——動かなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鍛錬は——せんのですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今——鍛えても——間に——合わん」
⸻
⸻
⸻
⸻
光の勇者は——横に——なったまま——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それより——身体を——治す。骨が——まだ——痛む」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——当日——万全で——飛べねば——意味が——ない」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……成長——しましたね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——試射の——前夜。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下の——奥に——いる——魔王を——訪ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん。いいですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——少し——言いにくそうに——切り出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——明日——もし——何か——あったら」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さんを——殴っても——いいですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——目を——丸くした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——殴る、だと?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕、変な——体質が——あるんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——真面目な——顔で——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕が——触って——相手が——本気で——応えると……相手が——覚醒するんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——星喰いの、時——魔族の——皆さんが——覚醒したの——覚えて——ますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あれです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……ああ。あの、時か」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は——腕を——組んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——なぜ——殴る」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——触るだけでは——駄目、なのか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——相手が——"本気で——応える"、必要が——あるんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——申し訳なさそうに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——優しく——触っても——何も——起きなくて」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——思いっきり——ぶつからないと——駄目、みたいで」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——構わぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いいんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ。むしろ——遠慮——するな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は——にやり、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前の——拳など——蚊が——止まった——ほども——感じぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——好きなだけ——殴れ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ありがとう——ございます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ただし——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔王は——ふと——真顔に——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——今——それを——言う」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——当日——黙って——殴れば——よかろう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——きょとん、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だって——人を——殴るんですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——先に——断らないと——失礼じゃ——ないですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——長い、こと——黙って。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——低く——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——妙な——男だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よく——言われます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——当日。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さーん——! 一週間ぶりの——試射です——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
竜の——背から——魔法使いの——声が——降る。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今回は——改善点が——四つ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔族の——皆さんは——地下に——! 念話は——地面を——越えます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——レールガンは——四段に——! 四門目には——なんと——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——アルフレートさんが——乗ります——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——"誰"、"痩せた?"、"別人"、って——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二年——歩いた——甲斐が——ござんしたねェ」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸が——扇子を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆様。人は——変われるんで——ござんすよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二百キロが——鋼に——なるんで——さァ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメント——爆発——してます——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——総員——配置——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地上に——一万二千。
⸻
⸻
⸻
——地下に——魔族。
⸻
⸻
⸻
——空に——竜。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——光——送れ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——スライムの——光が——世界を——駆けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——全世界……受けた』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一門目——発射——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドンッ——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二門目。
⸻
⸻
⸻
⸻
——三門目。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——四門目——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドンッ——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬおおおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートの——絶叫と、共に。
⸻
⸻
⸻
⸻
——鉛の——箱が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——前回を——遥かに——超える——高みへ——消えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——届いた——!! 余裕で——届いた——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者が——絶叫した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——詠唱——始め——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下で。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が——目を——閉じた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
(——回せ)
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——涼しい——地の底から。
⸻
⸻
⸻
⸻
——三百の——魔族へ。
⸻
⸻
⸻
——三百から——一万二千へ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一——! 二——! 三——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——声が——重なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——渦が——生まれる。
⸻
⸻
⸻
⸻
——白い——光が——ともる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——光った——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——続いて——ます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——五分、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぐ……っ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下で。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——額に——汗が——浮いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——問題——ない。……だが——長い」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——念話を——回し続けるのが——これほど——削るとは……」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——十分。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——身体が——傾いだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——駆け寄って。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いきます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごつん。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠の——拳が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——胸を——叩いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——次の——瞬間。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——身体が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——赤黒く——輝いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おおおおお——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——覚醒——した——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——念話が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——一気に——太くなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——拍が——強く——なった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地上まで——はっきり——届いて——おる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——十五分。
⸻
⸻
⸻
⸻
——再び——魔王の——膝が——折れかけた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう一度——いきます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごつん。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぐおおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二度目の——輝き。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——角が——伸び。
⸻
⸻
⸻
——身体が——一回り——膨れ上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二度——覚醒したぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そんなことが——あるのか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——二十分。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——光が——安定——しません——! あと——少し——足りません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔法使いの——声が——飛ぶ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——来い——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——三度目の——拳。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごつん。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——その、瞬間。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——真紅に——染まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬううううう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——姿が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——変わった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四本の——角。
⸻
⸻
⸻
——背に——広がる——影。
⸻
⸻
⸻
——全身を——巡る——紋様。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——こ、これは——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——真祖の——姿——! 千年——誰も——至らなんだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔族たちが——ざわめいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王の——念話が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——世界を——包んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
(——聞け——!! 全ての——者よ——!!)
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——う、うわあ——! 頭に——直接——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地上の——全員に——届いて——ます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
(——拍を——刻む——!! 我に——合わせよ——!!)
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一——! 二——! 三——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一万二千の——声が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——これまでに——ないほど——一つに——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——渦が——引き締まる。
⸻
⸻
⸻
⸻
——揺らいでいた——光が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぴたり、と——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——白い——光が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——強く。
⸻
⸻
⸻
——強く。
⸻
⸻
⸻
⸻
——燃え上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まり返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——詠唱——止めて——みろ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——な、なんだと——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——止めろ——! 確かめるのだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一万二千の——声が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——渦が——消える。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——光は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——消えなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……燃えて——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
賢者の——声が——震えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——独りで——燃えて——おる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——爆発した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うおおおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
「——できた——!! できたぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
「——二年だ——!! 二年——かかったんだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——抱き合う——者。
⸻
⸻
⸻
——泣き崩れる——者。
⸻
⸻
⸻
——地面に——突っ伏す——者。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——!! 成功——です——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔法使いが——涙声で——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——人工太陽——点火——成功——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——コメントが——! コメントが——見えません——!! 流れが——速すぎて——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——へえ、皆様」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸が——扇子を——閉じた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——たった今——この、世界に——二つ目の——灯りが——ともりやした」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——人と。魔族と。鬼と。竜と。虫と。……それに——世界征服を——企んどった——連中の——手で」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大した——もんで——ござんす」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下では。
⸻
⸻
⸻
⸻
——真紅の——魔王が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——どしん、と——腰を——下ろしていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん——! 大丈夫ですか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……ふん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——自分の——手を——見つめて。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——低く——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三度も——殴られたのは——初めてだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すみません——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——礼を——言って——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——四本の——角に——触れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——千年——誰も——至らなんだ——姿だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それが——人間に——殴られて——出るとはな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さんが——本気で——応えて——くれたからです」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕は——ただ——殴っただけです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくりと——立ち上がって。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——麦茶を——くれ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい——! すぐ——お持ちします——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「一週間で、また、打つことに、なった。星の落下が、速まってて、待てないって。皆、必死だった。一色さんは、夜通し、レールガンの、修理。魔族の皆さんは、地下で、休養。今回は、地下から、念話を、回す。……それと、アルフレート様が、別人に、なってた。二年、歩いて、芋を運んで、薪を割って、地下を掘って……筋肉、モリモリ。しかも、レベルが、上限まで、行ってた。魔物、一体も、倒してないのに。"数字に出なくても、変わってるものは、変わってる"、って、僕が言ったこと、覚えててくれた。"遅れて、数字が、追いついたらしい"、って。四門目に、乗ることに、なった。……前の夜、魔王さんに、聞いた。"何かあったら、殴っていいですか。覚醒できるかも"、って。魔王さん、"構わぬ。お前の拳など、蚊が止まったほども、感じぬ"、って。それから、"なぜ、今、言う。当日、黙って、殴ればよかろう"、って。……人を、殴るんだから、先に、断らないと、失礼でしょう。魔王さん、笑ってた。当日。四段、飛んで、高さは、余裕。詠唱も、揃った。でも、二十分、続けて、魔王さんが、限界に。だから、殴った。一度目で、覚醒。二度目で、また、覚醒。三度目で……姿が、変わった。四本の角。"真祖の姿。千年、誰も、至らなんだ"、って、魔族の皆さんが。念話が、世界中に、届いて、一万二千が、完全に、一つに、なって……光が、燃え上がった。賢者さんが、"詠唱を、止めろ"、って。止めても、光は、消えなかった。独りで、燃えてた。……成功した。二年。皆、泣いてた。じいちゃん。できたよ」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
まだこの時の誠は知らない。空に——ともった——二つ目の——灯りが。
⸻
——世界中を——歓喜に——沸かせた——この、夜が。
⸻
——彼らが——最後に——心から——笑えた——夜で、あったことを。
そして——その、光が。
⸻
⸻
——二度と——沈まぬ、ことも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、誰も——気づいて——いない。




