第64話「人工太陽・一号」
半年が——過ぎた。
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集団詠唱の——稽古は——毎日——続き。
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鉛の——箱は——数を——揃え。
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石の——採掘は——交代を——守って——進んだ。
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各地の——魔族の——長も——半分ほどが——首を——縦に——振った。
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「——集まったのは——四千と——少しか」
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賢者が——名簿を——めくった。
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「——万には——遠いな」
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「——だが——やってみねば——足りぬ、ことすら——分からん」
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魔術師が——言った。
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「——一度——試すべきです」
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——こうして。
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——「人工太陽・一号」の——試射が——決まった。
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——当日。
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——人の——住まぬ——荒野に。
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四千を——超える——魔術師と——魔族が——並んだ。
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「——すごい——景色ですね」
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誠は——思わず——呟いた。
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——人と——魔族が。
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——肩を——並べて——立っている。
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——かつては——考えられなかった——光景、だった。
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——空には。
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五十メートルの——竜が——旋回していた。
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「——皆さーん——! 見えてますかー——!」
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その——背から。
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魔法使いの——声が——響く。
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「——本日は——いよいよ——! 人工太陽——一号——試射——!」
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「——半年の——準備が——ついに——実を——結ぶ——瞬間です——!」
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「——コメント——どんな——感じや?」
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藤原が——尋ねる。
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「——すごい——勢いです——! "ついに"、"見に来た"、"がんばれ"、って——!」
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「——虚空の——方々も——この、世界の——皆さんも——一緒に——見てます——!」
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「——へえ——皆様。ご覧——ください——ましょう」
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竜の——背の——高座から。
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駄々丸が——扇子を——広げた。
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「——下に——並ぶは——四千の——人と——魔族」
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「——昨日まで——斬り合って——おった——連中が。今日は——肩を——並べて——おりやす」
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「——世の中——分からんもんで——ござんすねェ」
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「——コメント——"泣ける"、"いい話"、って——!」
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「——まだ——泣くには——早うござんす」
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——荒野の——中央。
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——光の勇者が——立っていた。
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——半年で。
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——その、体は——見違えていた。
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「——勇者さん。準備は——いいですか」
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「——うむ」
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彼は——鉛の——箱を——構えた。
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「——半年——投げ続けた。前より——遥かに——飛ぶ」
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——指揮台には。
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——魔術師が——立った。
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「——皆——! 私の——手を——見よ——!」
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「——四千の——声を——一つに——!」
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——だが。
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——ここで——問題が——起きた。
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「——見えん——! 後ろが——見えん——!」
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「——指揮の——手が——遠すぎる——!」
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「——ええい——! 中継の——者を——立てろ——! 十列ごとに——一人——!」
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「——それでは——拍が——遅れます——!」
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「——構わん——! やるしかない——!」
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——そして。
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——もう一つ。
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「——おい——! 魔族が——倒れて——おるぞ——!」
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「——なんだと——!?」
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——見れば。
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——列の——あちこちで。
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魔族たちが——ぐったりと——座り込んでいた。
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「——暑い……」
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「——駄目だ……頭が——ふらつく……」
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「——魔王さん——! 大丈夫——ですか——!」
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——魔王も。
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——顔色が——悪かった。
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「……我らは——地の底の——者だ」
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彼は——荒い——息で——言った。
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「——涼しい——洞に——住んで——おった」
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「——この、灼熱の——地上に——四千も——並ばせるのは……無茶——だったのだ」
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「——では——中止——します——!」
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誠が——叫んだ。
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「——ならぬ——!」
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魔王が——首を——振った。
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「——ここまで——来たのだ。やらせろ」
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「——でも——!」
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「——魔族の——誇りだ。口を——挟むな」
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「——いくぞ——!」
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魔術師が——手を——上げた。
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「——一——! 二——! 三——!」
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——光の勇者が。
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——渾身の——力で——箱を——放り上げた。
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「——ぬおおおお——!!」
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——箱が——天へ——舞い上がる。
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——同時に。
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四千の——声が——重なった。
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「——うおおおお——!」
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「——空が——鳴ってます——! すごい——渦です——!」
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魔法使いが——絶叫した。
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「——コメントも——爆発——してます——! "いけ"、"いけ"、って——!」
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——渦の——中心が。
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——白く——光り始めた。
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「——光った——! 光ったぞ——!」
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「——いける——!」
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——だが。
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——その、光は。
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——生まれた、そばから。
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——ふらふらと——揺らいだ。
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「——渦が——乱れて——おる——!」
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魔術師が——叫んだ。
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「——後ろの——列が——遅れて——おる——! 拍が——合わん——!」
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「——中継が——間に——合いません——!」
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——そして。
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「——ぐっ——!」
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——暑さに——耐えかねた——魔族が。
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——次々と——倒れ始めた。
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「——駄目だ——! 声が——減って——おる——!」
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——さらに。
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——投げ上げられた——箱が。
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——渦の——中心に——届く——前に。
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——落ち始めた。
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「——高さが——足らん——!!」
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賢者が——絶叫した。
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「——勇者——! もっと——上だ——!」
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「——これが——精一杯だ——!!」
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——揺らいだ——光は。
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——数える——ほどの——間だけ——ちらついて。
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——そして——消えた。
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——荒野に。
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——落下音が——響いた。
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——鉛の——箱が——地面に——転がる。
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「…………」
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——誰も——声を——出さなかった。
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「……失敗、です」
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魔法使いの——声が。
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——竜の——背から——落ちてきた。
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「——皆さん……失敗——しました」
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——荒野に。
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——重い——沈黙が——広がった。
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「——すまん」
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光の勇者が——膝を——ついた。
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「——俺の——腕が——足らなんだ」
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「——半年——投げ続けても——届かなんだ」
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「——我らも——だ」
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魔王が——うなだれた。
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「——暑さに——負けた。情けない」
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「——指揮が——届かなんだ」
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魔術師も——うなだれた。
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「——四千の——列に——一人の——手など——見えぬ、のだ」
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——その、時。
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——ぜえ、ぜえ、と。
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——荒い——息の——音が——近づいてきた。
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「——た、田中……」
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——アルフレートが。
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——ようやく——荒野に——たどり着いた。
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「——アルフレート様——! 今——着いたんですか——!?」
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「——う、うむ……。歩くのが——遅くて——な……」
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——半年——歩き続けても。
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——彼の——腹は。
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——まだ——立派に——出ていた。
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「——で。試射は——どうなった」
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「——終わりました。失敗です」
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「——な、なんと——! 見損ねたか——!」
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「——見損ねたも——何も——アルフレート様——何も——してませんよね」
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「——ぐっ」
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——重い——空気の——中に。
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——わずかに——笑いが——漏れた。
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「——皆さん——!」
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誠が——声を——上げた。
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「——お疲れ様でした——! 麦茶——用意してあります——!」
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「——倒れた——方から——順に——運びます——! 手の——空いてる——方——手伝って——ください——!」
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——誠は。
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——荒野を——駆け回った。
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——倒れた——魔族に——麦茶を——飲ませ。
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——濡れた——布で——体を——冷やし。
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——日陰へ——運ぶ。
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「……すまぬな、人間」
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魔族の——一人が——呟いた。
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「——役に——立てなんだ」
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「——来てくれた、だけで——十分です」
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誠は——笑った。
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「——ゆっくり——飲んでください」
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——そして——夕暮れ。
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——反省会が——開かれた。
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「——足りぬ——ものを——挙げよう」
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賢者が——紙を——広げた。
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「——一つ。数だ。四千では——足らぬ」
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「——二つ。指揮だ。手が——届かぬ」
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「——三つ。魔族の——暑さ対策」
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「——四つ。投げ上げる——高さ」
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「——多いですね」
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「——多い。だが——一つずつ——潰すしか——ない」
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「——それと——五つ、目が——ある」
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——誠が——言った。
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「——なんだ」
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「——麦茶が——足りませんでした」
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「…………」
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「——四千人——分——用意したつもりが——足りなくて」
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誠は——真面目な——顔で——言った。
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「——次は——倍——作ります」
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——賢者が。
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——ふっ、と——笑った。
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「——そうだな。それも——足りぬ、ものだ」
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「——書いておこう。"五つ。麦茶"」
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「——賢者さん。真面目に——書かないで——ください」
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「——真面目に——書いて——おる」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「人工太陽、一号、試射。四千人、集まった。人と、魔族が、肩を、並べて、立ってた。すごい景色だった。空には、藤原さんが、飛んで、魔法使いさんが、実況、駄々丸さんが、一席。コメントも、すごい勢いだったって。……でも、失敗した。理由は、いっぱい。まず、指揮が、届かない。四千人の列に、一人の手なんて、見えない。中継を、立てたけど、拍が、遅れた。それから、魔族の皆さんが、暑さで、次々、倒れた。地の底の人たちだから、灼熱の地上は、無茶だった。魔王さん、"魔族の誇りだ、口を挟むな"、って、止めさせて、くれなかった。そして、勇者さんが、投げた箱が、渦まで、届かなかった。半年、毎日、投げ続けたのに。"これが、精一杯だ"、って、膝を、ついてた。……アルフレート様は、試射が、終わってから、着いた。歩くのが、遅くて。半年、歩いても、まだ、太ってる。"見損ねたか"、って言うから、"何も、してませんよね"、って、言ったら、皆、少し、笑った。倒れた人に、麦茶を、配って、回った。魔族の人が、"役に立てなんだ"、って、言うから、"来てくれた、だけで、十分"、って。……夕方、反省会。足りないもの、四つ。数、指揮、暑さ対策、高さ。僕、五つ目を、言った。麦茶が、足りませんでした、って。次は、倍、作ります。賢者さん、笑って、"それも、足りぬものだ"、って、書いてくれた。じいちゃん。まだまだ、これからだよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この、日——紙に——書き並べられた——五つの——「足りぬ——もの」。
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——その——すべてを——潰すのに。
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——さらに——長い——年月が——かかる、ことを。
そして——賢者が——冗談で——書き足した——五つ目の——「麦茶」、が。
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——後に——なって。
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——一番——真面目な——項目だったと——皆が——知る、ことも。
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——今は……まだ、誰も——知らない。




