第63話「それぞれの、日々」
旅立ちの——号令が——かかって。
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——世界が——動き始めた。
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——地下の——大空洞。
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そこは——今や。
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——巨大な——稽古場に——なっていた。
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「——止め——! 止め——!」
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魔術師が——杖を——振り上げた。
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「——揃って——おらん——! 三列目——遅れて——おるぞ——!」
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「——す、すみません——!」
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——集団詠唱の——稽古、だった。
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「——いいか——! 万の——魔力を——束ねるとは——万の——声を——一つに——することだ——!」
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魔術師は——並んだ——者たちに——向かって——叫んだ。
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「——一人でも——ずれれば——渦は——崩れる——!」
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「——ずれた——魔力は——互いを——打ち消し合う——! 万の——力が——千にも——ならぬ——!」
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「——では——どう——します」
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弟子が——尋ねた。
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「——指揮を——立てる」
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魔術師は——きっぱりと——言った。
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「——一人が——前に——立ち——皆に——拍を——示す」
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「——皆は——その、手だけを——見る」
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——こうして。
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魔術師は——指揮台に——立った。
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「——では——いくぞ——! 私の——手を——見よ——!」
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——すう、と。
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彼の——手が——上がる。
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「——一。二。三——!」
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——声が——重なった。
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——空気が——震え。
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——渦が——生まれる。
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「——おお——! 揃って——おる——!」
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「——だが——まだ——五十人だ」
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魔術師は——汗を——拭いながら——言った。
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「——これが——万に——なった、時——私の——手が——見えるのか」
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「——それも——考えねば——ならん」
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——一方。
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——地上の——工房では。
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一色が——図面を——広げていた。
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「——鉛の——箱を——量産するわ」
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「——石を——運ぶ——ためよ。掘る——道具も——要る」
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「——長い——柄の——鋏。遠くから——掴める——もの」
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「——それと——測る——道具ね」
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「——測る?」
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「——どれだけ——浴びたか——分からねば——交代——できないでしょう」
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一色は——真剣な——顔で——言った。
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「——見えぬ——ものを——測る——仕掛け。これが——一番——難しいわ」
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——地下の——一角では。
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スライムたちが——せっせと——働いていた。
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『——北へ……網を——伸ばす』
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皆瀬の——声が——響く。
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『——山の——里まで……あと——三日』
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「——皆瀬さん。無理——しないで——ください」
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『——だいじょうぶ……。交代で——やってる』
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——そして。
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——魔法学院の——一室では。
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魔法使いが——虚空に——向かって——喋り続けていた。
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「——というわけで——今日も——質問——お願いします——!」
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「——"見えない——熱を——測る——方法"、について——何か——ご存知の——方——!」
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——虚空に。
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——文字が——流れ始める。
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「——おお——! たくさん——来ました——!」
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魔法使いは——必死に——書き取った。
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「——"感光する——板を——使う"、"ガイガー"、……ええと——読めません——!」
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「——待って——ください——! ゆっくり——お願いします——!」
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——彼女の——手元には。
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——分厚い——帳面が——積み上がっていた。
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「——魔法使いさん。それ——全部——書き取ったんですか」
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訪ねてきた——誠が——目を——丸くした。
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「——はい——! でも——半分——意味が——分かりません——!」
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「——分からないのに——書いてるんですか」
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「——だって——賢者さんなら——分かるかも——しれませんから——!」
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——誠は。
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——少し——感心して——彼女を——見た。
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「——えらいですね」
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「——そんな——! 私、これしか——できませんから——!」
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「——それが——できる——人が——いないんですよ」
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——竜の——背に——括られた——高座では。
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駄々丸が——扇子を——構えていた。
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「——いけねェ。今の——間が——悪い」
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彼は——首を——振って——最初から——やり直した。
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「——さても——皆様。空から——ご覧——いただいて——おりやすがねェ」
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「——あすこの——海。昔は——島が——ございやした」
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「…………」
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「——いや。ここで——間を——置きすぎると——重くなる」
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「——もう半拍——早く——落とすか」
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「——駄々丸さん。何を——してるんですか」
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誠が——覗き込んだ。
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「——ああ、旦那。稽古で——さァ」
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「——落語の?」
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「——へえ。……旦那。落語ってなァ——中身より——"間"、なんでさァ」
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駄々丸は——扇子を——ぱちり、と——閉じた。
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「——同じ——話でもねェ。落とし方——一つで——笑いにも——なりゃ——涙にも——なる」
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「——今度の——旅は——重い——話ばかりだ」
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「——それを——聞かせる、にゃあ……どこで——笑わせ。どこで——静かに——させるか」
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「——そいつを——今——組み立てて——おりやす」
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「——大変——なんですね」
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「——旦那の——麦茶と——同じでさァ」
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駄々丸は——にやり、と——した。
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「——一杯——出す——間合いを——間違えりゃ——ただの——茶で——ござんす」
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——地上の——荒野では。
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——光の勇者が——一人。
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——巨岩を——投げ上げていた。
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「——ぬん——!」
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——ごう、と。
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岩が——天へ——舞い上がる。
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——そして——落ちてくる。
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「——まだ——足らぬ」
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彼は——汗を——拭った。
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「——勇者さん。何を——してるんですか」
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「——鍛錬だ」
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光の勇者は——荒い——息の——まま——言った。
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「——石を——天まで——投げ上げる——役だ。だが——今の——腕では——届かん」
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「——一色殿に——測って——もらったが——高さが——十分の一も——足らぬ、そうだ」
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「——では——毎日——投げる。それしか——ない」
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「——王様に——会いに——行く——役も——ありますよね?」
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「——それは——朝だ。夕は——鍛錬だ」
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——誠は。
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——その、姿を——しばらく——見ていた。
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——かつて。
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「主人公は——俺だ」、と——喚いていた——男が。
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——今は——誰も——見ていない——荒野で。
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——黙々と——岩を——投げている。
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「——勇者さん」
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「——なんだ」
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「——麦茶、置いときますね」
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「……ああ」
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——そして。
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——夜。
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誠は——一人。
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地上に——出て——月を——見上げていた。
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(——神様)
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(——聞こえて——ますか)
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——返事は——なかった。
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(——神様。聞きたい、ことが——あるんです)
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(——あの、戦いの——後から——皆——何かを——奪われてます)
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(——藤原さんは——人の——姿を。アルフレート様は——力を)
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(——山田さんたちは——顔の——記憶を)
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(——そして——星が——落ちてます)
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(——全部——繋がってるんじゃ——ないですか)
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——沈黙。
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——月は——ただ——静かに——浮かんでいる。
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(——神様)
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(——僕、怒って——ないですから)
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(——だから——出てきて——ください)
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——それでも。
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——返事は——なかった。
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「……そう——ですか」
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誠は——ぽつり、と——呟いた。
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「——じゃあ——僕、待ちます」
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「——毎晩——ここに——来ますから」
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「——気が——向いたら——出てきて——ください」
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——誠は。
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持ってきた——湯呑みを——地面に——置いた。
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——麦茶が——一杯。
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——月明かりに——揺れていた。
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「——冷たいうちに——どうぞ」
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——そして——誠は。
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——地下へと——降りていった。
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——後には。
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——月と。
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——麦茶が——一杯。
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——残された。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「皆、それぞれの、支度を、始めた。魔術師さんは、集団詠唱の、稽古。"一人でも、ずれたら、渦が崩れる。万の力が、千にも、ならん"、って。指揮者を、立てることに、したらしい。でも、"万になった時、私の手が、見えるのか"、って、悩んでた。一色さんは、鉛の箱と、掘る道具と、"見えない熱を、測る仕掛け"。これが、一番、難しいって。皆瀬さんは、水の網を、北へ、伸ばしてる。魔法使いさんは、毎日、配信で、質問して、帳面が、山積み。"半分、意味が、分かりません"、って言うから、"分からないのに、書いてるんですか"、って聞いたら、"賢者さんなら、分かるかも、しれませんから"、って。えらいなあ。駄々丸さんは、竜の背中で、落語の稽古。"落語は、中身より、間だ。同じ話でも、落とし方一つで、笑いにも、涙にもなる"、って。"旦那の麦茶と、同じでさァ。一杯、出す間合いを、間違えりゃ、ただの茶だ"、って。……勇者さんは、荒野で、一人、岩を、投げてた。"石を、天まで、投げ上げる役だが、今の腕では、届かん。十分の一も、足らぬ"、って。毎日、投げるしか、ないって。誰も、見てないのに。麦茶、置いてきた。……夜、月に、話しかけた。神様に。"皆、何かを、奪われてる。全部、繋がってるんじゃ、ないですか"、って。返事は、なかった。だから、言った。"僕、怒ってないですから。毎晩、来ますから、気が向いたら、出てきてください"、って。麦茶、一杯、置いてきた。じいちゃん。神様、飲んでくれるかな」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この——夜——月の——下に——置かれた——麦茶が。
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——翌朝——空に——なっていることを。
そして——それが——毎晩——続く、ことも。
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——けれど——神が——決して——姿を——見せない、ことも。
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——今は……まだ、知らない。




