表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
319/449

第63話「それぞれの、日々」

旅立ちの——号令が——かかって。





——世界が——動き始めた。








——地下の——大空洞。






そこは——今や。





——巨大な——稽古場に——なっていた。







「——止め——! 止め——!」






魔術師が——杖を——振り上げた。






「——揃って——おらん——! 三列目——遅れて——おるぞ——!」






「——す、すみません——!」








——集団詠唱の——稽古、だった。







「——いいか——! 万の——魔力を——束ねるとは——万の——声を——一つに——することだ——!」






魔術師は——並んだ——者たちに——向かって——叫んだ。






「——一人でも——ずれれば——渦は——崩れる——!」






「——ずれた——魔力は——互いを——打ち消し合う——! 万の——力が——千にも——ならぬ——!」







「——では——どう——します」






弟子が——尋ねた。






「——指揮を——立てる」






魔術師は——きっぱりと——言った。






「——一人が——前に——立ち——皆に——拍を——示す」






「——皆は——その、手だけを——見る」








——こうして。






魔術師は——指揮台に——立った。







「——では——いくぞ——! 私の——手を——見よ——!」






——すう、と。






彼の——手が——上がる。







「——一。二。三——!」







——声が——重なった。






——空気が——震え。





——渦が——生まれる。







「——おお——! 揃って——おる——!」






「——だが——まだ——五十人だ」






魔術師は——汗を——拭いながら——言った。






「——これが——万に——なった、時——私の——手が——見えるのか」






「——それも——考えねば——ならん」








——一方。






——地上の——工房では。






一色が——図面を——広げていた。







「——鉛の——箱を——量産するわ」






「——石を——運ぶ——ためよ。掘る——道具も——要る」






「——長い——柄の——鋏。遠くから——掴める——もの」






「——それと——測る——道具ね」







「——測る?」






「——どれだけ——浴びたか——分からねば——交代——できないでしょう」






一色は——真剣な——顔で——言った。






「——見えぬ——ものを——測る——仕掛け。これが——一番——難しいわ」








——地下の——一角では。






スライムたちが——せっせと——働いていた。







『——北へ……網を——伸ばす』






皆瀬の——声が——響く。






『——山の——里まで……あと——三日』






「——皆瀬さん。無理——しないで——ください」






『——だいじょうぶ……。交代で——やってる』








——そして。






——魔法学院の——一室では。






魔法使いが——虚空に——向かって——喋り続けていた。







「——というわけで——今日も——質問——お願いします——!」






「——"見えない——熱を——測る——方法"、について——何か——ご存知の——方——!」







——虚空に。






——文字が——流れ始める。







「——おお——! たくさん——来ました——!」






魔法使いは——必死に——書き取った。






「——"感光する——板を——使う"、"ガイガー"、……ええと——読めません——!」






「——待って——ください——! ゆっくり——お願いします——!」








——彼女の——手元には。






——分厚い——帳面が——積み上がっていた。







「——魔法使いさん。それ——全部——書き取ったんですか」






訪ねてきた——誠が——目を——丸くした。






「——はい——! でも——半分——意味が——分かりません——!」






「——分からないのに——書いてるんですか」






「——だって——賢者さんなら——分かるかも——しれませんから——!」







——誠は。






——少し——感心して——彼女を——見た。







「——えらいですね」






「——そんな——! 私、これしか——できませんから——!」






「——それが——できる——人が——いないんですよ」








——竜の——背に——括られた——高座では。






駄々丸が——扇子を——構えていた。







「——いけねェ。今の——間が——悪い」






彼は——首を——振って——最初から——やり直した。







「——さても——皆様。空から——ご覧——いただいて——おりやすがねェ」






「——あすこの——海。昔は——島が——ございやした」






「…………」






「——いや。ここで——間を——置きすぎると——重くなる」






「——もう半拍——早く——落とすか」








「——駄々丸さん。何を——してるんですか」






誠が——覗き込んだ。






「——ああ、旦那。稽古で——さァ」






「——落語の?」






「——へえ。……旦那。落語ってなァ——中身より——"間"、なんでさァ」







駄々丸は——扇子を——ぱちり、と——閉じた。






「——同じ——話でもねェ。落とし方——一つで——笑いにも——なりゃ——涙にも——なる」






「——今度の——旅は——重い——話ばかりだ」






「——それを——聞かせる、にゃあ……どこで——笑わせ。どこで——静かに——させるか」






「——そいつを——今——組み立てて——おりやす」







「——大変——なんですね」






「——旦那の——麦茶と——同じでさァ」






駄々丸は——にやり、と——した。






「——一杯——出す——間合いを——間違えりゃ——ただの——茶で——ござんす」








——地上の——荒野では。






——光の勇者が——一人。






——巨岩を——投げ上げていた。







「——ぬん——!」






——ごう、と。






岩が——天へ——舞い上がる。






——そして——落ちてくる。







「——まだ——足らぬ」






彼は——汗を——拭った。






「——勇者さん。何を——してるんですか」






「——鍛錬だ」







光の勇者は——荒い——息の——まま——言った。






「——石を——天まで——投げ上げる——役だ。だが——今の——腕では——届かん」






「——一色殿に——測って——もらったが——高さが——十分の一も——足らぬ、そうだ」






「——では——毎日——投げる。それしか——ない」







「——王様に——会いに——行く——役も——ありますよね?」






「——それは——朝だ。夕は——鍛錬だ」








——誠は。






——その、姿を——しばらく——見ていた。







——かつて。






「主人公は——俺だ」、と——喚いていた——男が。






——今は——誰も——見ていない——荒野で。






——黙々と——岩を——投げている。







「——勇者さん」






「——なんだ」






「——麦茶、置いときますね」






「……ああ」








——そして。






——夜。







誠は——一人。






地上に——出て——月を——見上げていた。







(——神様)






(——聞こえて——ますか)







——返事は——なかった。







(——神様。聞きたい、ことが——あるんです)






(——あの、戦いの——後から——皆——何かを——奪われてます)






(——藤原さんは——人の——姿を。アルフレート様は——力を)






(——山田さんたちは——顔の——記憶を)







(——そして——星が——落ちてます)






(——全部——繋がってるんじゃ——ないですか)








——沈黙。






——月は——ただ——静かに——浮かんでいる。







(——神様)






(——僕、怒って——ないですから)






(——だから——出てきて——ください)








——それでも。






——返事は——なかった。








「……そう——ですか」






誠は——ぽつり、と——呟いた。







「——じゃあ——僕、待ちます」






「——毎晩——ここに——来ますから」






「——気が——向いたら——出てきて——ください」








——誠は。






持ってきた——湯呑みを——地面に——置いた。







——麦茶が——一杯。






——月明かりに——揺れていた。







「——冷たいうちに——どうぞ」








——そして——誠は。






——地下へと——降りていった。








——後には。






——月と。





——麦茶が——一杯。






——残された。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「皆、それぞれの、支度を、始めた。魔術師さんは、集団詠唱の、稽古。"一人でも、ずれたら、渦が崩れる。万の力が、千にも、ならん"、って。指揮者を、立てることに、したらしい。でも、"万になった時、私の手が、見えるのか"、って、悩んでた。一色さんは、鉛の箱と、掘る道具と、"見えない熱を、測る仕掛け"。これが、一番、難しいって。皆瀬さんは、水の網を、北へ、伸ばしてる。魔法使いさんは、毎日、配信で、質問して、帳面が、山積み。"半分、意味が、分かりません"、って言うから、"分からないのに、書いてるんですか"、って聞いたら、"賢者さんなら、分かるかも、しれませんから"、って。えらいなあ。駄々丸さんは、竜の背中で、落語の稽古。"落語は、中身より、間だ。同じ話でも、落とし方一つで、笑いにも、涙にもなる"、って。"旦那の麦茶と、同じでさァ。一杯、出す間合いを、間違えりゃ、ただの茶だ"、って。……勇者さんは、荒野で、一人、岩を、投げてた。"石を、天まで、投げ上げる役だが、今の腕では、届かん。十分の一も、足らぬ"、って。毎日、投げるしか、ないって。誰も、見てないのに。麦茶、置いてきた。……夜、月に、話しかけた。神様に。"皆、何かを、奪われてる。全部、繋がってるんじゃ、ないですか"、って。返事は、なかった。だから、言った。"僕、怒ってないですから。毎晩、来ますから、気が向いたら、出てきてください"、って。麦茶、一杯、置いてきた。じいちゃん。神様、飲んでくれるかな」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。この——夜——月の——下に——置かれた——麦茶が。



——翌朝——空に——なっていることを。


そして——それが——毎晩——続く、ことも。



——けれど——神が——決して——姿を——見せない、ことも。




——今は……まだ、知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ