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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第62話「割り振り」

旅立ちの——前に。





——大広間で——最後の——談合が——開かれた。






「——さて」






賢者が——大きな——地図を——広げた。






「——回る——先は——多い。北の——氷の——一族。山の——一族。地底の——一族」






「——それに——各国の——魔法学院。帝国。海沿いの——都市」






「——田中——一人で——回って——おっては——十年——かかる」







「——では——手分けだな——!」






光の勇者が——身を——乗り出した。






「——役割を——決めよう——!」








——こうして。






長い——長い——役割決めが——始まった。








「——まず——私だ」






賢者が——地図の——南を——指した。






「——各国の——魔法学院と——大学を——回る」






「——学者どもは——理屈で——動く。私が——数を——見せて——説けば——応じよう」






「——お似合いですね」






「——ふん。当然だ」








「——ならば——我は——魔族だ」






魔王が——のっそりと——立ち上がった。






「——各地の——長に——話を——通す。我の——言う、ことを——聞かぬ——者も——多いが」






「——顔つなぎ——くらいは——できる」






「——助かります——!」






「——ただし」






魔王は——誠を——見た。






「——最後に——頭を——下げるのは——お前だ。我が——連れて——行く」






「——分かりました」








「——では——俺は——!」






光の勇者が——手を——挙げた。






「——各国の——王に——会う——! 国を——動かすのは——王だ——!」






「——勇者さんが——ですか?」






誠は——不安げに——尋ねた。






「——なんだ——その——顔は」






「——いえ……その。喧嘩に——なりませんか」






「——ならん——! 俺は——変わった——!」







——一同が——揃って——目を——そらした。






「——なぜ——皆——目を——そらす——!」







「——まあ——勇者殿は——肩書きが——効く」






賢者が——取りなした。






「——"魔王を——四十七体——倒した——勇者"、が——来た、となれば——王も——門前払いは——せぬ」






「——ただし——話は——短く——せよ。自己紹介は——三行までだ」






「——ぐっ」








「——では——私は——!」






魔法使いが——ぴょん、と——手を——挙げた。






「——全世界——実況——配信——します——!」







「……なんだと?」






「——皆さんが——回る——様子を——ずっと——配信するんです——!」






魔法使いは——目を——輝かせて——言った。






「——考えて——みて——ください——! この、世界の——人たち、まだ——半分も——事情を——知りません——!」






「——遠くの——村や——里には——文も——届きません——!」






「——でも——配信なら——同時に——伝わります——!」







「——待て。この、世界の——者に——お前の——配信が——見えるのか」






賢者が——訝しんだ。






「——見えます——!」






魔法使いは——きっぱりと——言った。






「——最初は——虚空の——方々だけ——だったんですけど」






「——この、世界でも——見られるように——術式を——組んだんです——! 魔法学院で——習った——遠見の——魔法と——合わせて——!」






「——なんという——ことだ」






賢者が——呆然と——した。






「——お前——学院で——真面目に——学んで——おったのだな」






「——はい——! 食レポの——合間に——!」






「——合間か——!」








「——それに——ですね」






魔法使いは——真面目な——顔で——続けた。






「——各地の——長さんを——説得する——ところを——皆が——見てたら」






「——"あの——里も——協力した"、って——分かります」






「——そしたら——次の——里も——断りにくく——なります」







——一同が。






——ぽかんと——した。






「……こいつ」






賢者が——低く——言った。






「——恐ろしい、ことを——さらり、と——言うな」






「——え? 駄目——ですか?」






「——いや。有効だ。……有効すぎる」








「——ほな——うちは——足やな」






天井から——藤原が——首を——伸ばした。






「——地図を——見てみ。歩いとったら——何年——かかんねん」






「——うちが——運んだる」






「——助かります——! 藤原さん——!」







「——それに——な」






藤原は——にやり、と——した。






「——うち——空から——見せたるわ」






「——空から?」






「——魔法使いの——嬢ちゃんを——背中に——乗せて——空を——飛ぶ」






「——上から——世界を——映したら——皆——分かるやろ」






「——溶けた——氷も。沈んだ——島も。灼けた——地上も」








——広間が。






——静まった。






「……それは」






賢者が——かすれた——声で——言った。






「——千の——言葉より——効くな」






「——せやろ」








「——ならば——あっしも——乗せて——おくんなせェ」






観客席から——駄々丸が——立ち上がった。






「——駄々丸さん?」






「——嬢ちゃん——一人で——喋り続けるのは——骨で——ござんしょう」






駄々丸は——扇子を——開いた。






「——それに——ねェ。旦那がた」






「——重い——話ばかり——聞かされて——人は——動きやせん」






「——笑いが——要るんでさァ」







「——落語を——やる、と?」






「——竜の——背中で——一席。乙な——もんでしょう」






「——師匠——! 最高です——!」






魔法使いが——飛び上がった。






「——視聴者さん——絶対——喜びます——!」








——こうして。






役割が——次々と——埋まっていった。







「——我らも——働くぞ——!」






厨二病の——若者たちが——名乗り出た。






「——お前たちは——何が——できる」






「——荷運びと——設営——だ——!」






「——地味だな——!」






「——闇の——力で——運ぶ——!」






「——ただの——荷運びだ——!」







「——HAHAHA——! 我らは——道を——作ろう——!」






アメリカン・ヒーローたちが——腕を——鳴らした。






「——岩を——どけ——橋を——架ける——! 移動が——楽に——なるぞ——!」







「——ワシは——鬼族を——まとめるゥ」






グランデルが——のっそりと——言った。






「——うちの——連中は——ワシの——言うこと——聞くからなァ」







『——わたしたちは……水の、網で……知らせを——運ぶ』






皆瀬の——声が——響いた。






『——地下の——網を……各地まで——伸ばす。文より——早い』







「——私は——帝国よ」






一色が——言った。






「——技術者と——資材を——まとめる。それと——各国との——調整も」







「——俺は——各地の——武人を——集める」






武闘家が——拳を——鳴らした。






「——力仕事は——いくらでも——要ろう」







「……私は——記録を——取る」






英雄が——静かに——言った。






「——誰が——何を——約束したか。後で——揉めぬように」






「——地味ですが——一番——大事な——役です」








——そして。






一通り——決まった、ところで。






「——では——最後に——田中だ」






賢者が——顔を——上げた。






「——お前は——何を——やる」








——広間の——全員が。






——誠を——見た。







「——そうですね」






誠は——少し——考えて。






そして——言った。







「——麦茶を——配ります」







「…………」






「…………は?」







「——だって——皆さん——回る、先で——きっと——喉が——渇きますし」






誠は——真面目な——顔で——言った。






「——それに——お邪魔する、先の——方々にも——出せますし」






「——話を——聞いて——もらうには——まず——座って——もらわないと」






「——座って——もらうには——一杯——出すのが——早いんです」








——沈黙。






そして。






「——ぶはっ——!」






光の勇者が——吹き出した。






「——世界の——命運が——かかった——旅で——麦茶か——!」






「——大事ですよ——!」






「——HAHAHA——! それでこそ——モブだ——!」








——広間が——笑いに——包まれた。







——けれど。






その——笑いの——中で。







——駄々丸だけが。






——笑って——いなかった。







(——麦茶、ねェ)






(——旦那。あんた——分かって——言ってなさるか)








——賢者は——各国の——学者を——動かす。





——魔王は——魔族の——長を——動かす。





——勇者は——王を——動かす。





——一色は——技術を。武闘家は——力を。英雄は——記録を。





——魔法使いと——竜と——落語家は——世界中に——声を——届ける。







——だが。






——その、全員が。






——最後には——同じ——場所に——戻ってくる。







——麦茶を——持った——男の。





——傍らに。







(——こいつァ——一席、できるねェ)






駄々丸は——ひとり——にんまり、と——笑って。






そして——煙管を——ふかした。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「旅の、役割を、決めた。賢者さんは、各国の学院と、大学。学者は、理屈で動くから、って。魔王さんは、各地の魔族の長に、顔つなぎ。でも、"最後に、頭を下げるのは、お前だ"、って。勇者さんは、各国の王。心配だったけど、"魔王を、四十七体、倒した勇者"、っていう、肩書きは、効くらしい。ただし、自己紹介は、三行まで。魔法使いさんは、全世界、実況配信。この世界でも、見られるように、遠見の魔法と、合わせて、術式を、組んだんだって。学院で、ちゃんと、勉強してた。食レポの、合間に。しかも、"各地が、協力してるのを、皆が、見てたら、次の里も、断りにくくなる"、って。賢者さん、"恐ろしいことを、さらり、と言うな"、って。藤原さんは、皆を、乗せて、飛ぶ。それと、空から、世界を、映すって。溶けた氷、沈んだ島、灼けた地上。"千の言葉より、効く"、って。駄々丸さんも、竜の背中で、一席、やるって。"重い話ばかりじゃ、人は、動かない。笑いが、要る"、って。厨二病の子たちは、荷運び。ヒーローさんたちは、道づくり。グランデルさんは、鬼族。皆瀬さんは、水の網で、知らせを運ぶ。一色さんは、技術と資材。武闘家さんは、力仕事の人集め。英雄さんは、記録係。"誰が、何を、約束したか。後で、揉めぬように"。……最後に、"田中は、何を、やる"、って、聞かれた。僕は、麦茶を、配ります、って、言った。皆、笑ってた。でも、大事だと、思うんだ。話を、聞いてもらうには、まず、座ってもらわないと。座ってもらうには、一杯、出すのが、早い。じいちゃんが、いつも、そうしてた。じいちゃん、明日から、旅に、出るよ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。この、日——皆が——笑った——「麦茶——担当」、という——役目が。



——この、旅の——中で。



——どの——役目よりも——多くの——扉を——開けることに——なるのを。


そして——賢者も。魔王も。勇者も。竜も。落語家も。



——皆——それぞれの——道を——行きながら。



——気づけば——いつも——同じ——男の——隣に——戻ってきていた、ことも。




——今は……まだ、誰も——気づかない。

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