第60話「三つの、道」
三日目。
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大広間の——空気は。
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——前の——二日とは——まるで——違っていた。
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誰も——騒がなかった。
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名乗る——者も——いなかった。
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——「選んで——抜かれて——おる」。
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その——言葉が。
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——全員の——胸に——重く——沈んでいた。
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「——賢者。始めろ」
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光の勇者が——静かに——言った。
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「——邪魔は——せん」
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「……ふん。今更、か」
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賢者は——ぼそり、と——言って。
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そして——紙と——ペンを——引き寄せた。
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「——魔法使い。問いを——出せ」
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「——はい——!」
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魔法使いは——大きく——息を——吸って。
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虚空に——向かって——言った。
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「——問いは——一つ——です」
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「——"この——星が——太陽に——落ちていく。どうすれば——止められますか"」
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——広間が。
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——しん、と——静まった。
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——誰も——身動き——しなかった。
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そして。
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「……来ました」
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魔法使いが——ぽつり、と——言った。
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「——読め——!」
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魔法使いは。
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虚空に——浮かぶ——文字を——たどりながら。
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——ゆっくりと——読み上げた。
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「——"回避——方法は——三つ——考えられます"」
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「——三つ——!?」
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賢者が——ペンを——握り直した。
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「——三つも——あるのか——!」
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——「一つ、目」
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「——"星の——軌道を——変える"」
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「——それだ——! 我らが——考えて——おった——ことだ——!」
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「——具体的な——手段が——三つ——書かれています」
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魔法使いは——続けた。
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「——"一つ。巨大な——推進装置を——星に——取り付け——少しずつ——加速する"」
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「——推進——装置?」
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「——"ロケット"、と——書いてあります」
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「——なんだ——それは」
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「——分かりません——!」
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「——聞き返せ——!」
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——だが。
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返ってきた——説明を——聞いても。
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——誰にも——分からなかった。
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「——"炎を——後ろに——噴き出して——前に——進む——筒"、だそうです」
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「——それで——星が——動くのか?」
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「——"星を——動かせる——大きさの——ものは——人類には——作れない"、と」
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「……駄目、か」
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——「二つ、目の——手段」
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「——"小さな——星や——彗星を——用い——その——重さで——星を——引っ張る"」
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——賢者の——手が。
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——止まった。
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「…………」
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彼は——ゆっくりと——誠を——見た。
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「——田中」
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「——はい?」
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「——お前が——言った、ことだ」
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「——"反対側から——引っ張れば——いい"、と」
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「…………」
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「——"重力アシスト"、と——呼ばれる——考え方だ、そうです」
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魔法使いが——付け加えた。
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「——"正式に——研究されている——方法"、だと」
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——広間が。
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——ざわり、と——揺れた。
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「——おい」
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武闘家が——呆然と——呟いた。
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「——あの——八百屋の——思いつきが……"正式な——研究"、だと?」
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「——僕、ただ——思ったこと——言っただけで——!」
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「——それが——恐ろしいのだ」
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賢者は——低く——言った。
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「——虚空の——賢人と——同じ——結論に。学も——なく——たどり着いて——おる」
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——「三つ、目の——手段」
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「——"非常に——長い——時間を——かけて——軌道を——外側へ——移す"」
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「——どれほどの——時間だ」
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「——"数千年——から——数万年"、と」
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「…………」
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「——間に——合わんな」
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——「二つ、目の——道」
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魔法使いは——次を——読み上げた。
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「——"原因を——取り除く"」
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「——ほう——!」
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賢者が——身を——乗り出した。
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「——詳しく——!」
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「——"巨大な——天体が——ぶつかって——軌道が——狂ったのなら——その——衝突を——事前に——防ぐ"」
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「——もう——狂っておるのだ。今更——防げん」
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「——それと——もう——一つ——書いてあります」
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魔法使いは。
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——次の——一行を——読んだ。
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「——"人工的な——事故が——原因なら"」
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「——"その——推進を——止める"」
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——誠の——手から。
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——湯呑みが——滑り落ちた。
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——二日——連続、だった。
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「——田中?」
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「…………」
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「——おい——! どうした——!」
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——誠は。
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床に——散った——破片を——見つめたまま。
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——動かなかった。
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(——人工的な——事故)
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(——人が——起こした——ことなら)
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(——止められる)
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——それは。
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——希望、だった。
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——だが——同時に。
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(——止められる、って、ことは)
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(——僕たちが——やった、ってことだ)
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「……賢者さん」
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誠は——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——今の——聞きましたか」
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「——聞いた」
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賢者の——顔も。
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——強張っていた。
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「——星喰いとの——戦いの——直後から——異変が——始まった」
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「——竜は——姿を——奪われ。勇者は——力を——奪われ。あの、者たちは——記憶を——奪われた」
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「——そして——星が——落ち始めた」
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「——それが——もし」
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賢者は——絞り出すように——言った。
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「——"人が——起こした——事故"、で——あるなら」
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「…………」
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——広間の——誰も。
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——口を——きけなかった。
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「——三つ、目の——道は」
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魔法使いが——静かに——続けた。
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「——"星を——諦める"」
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「——なんだと——!?」
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「——"軌道を——直せないなら——人を——他の——場所へ——移す"」
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「——"月。あるいは——別の——星。もしくは——宇宙に——浮かぶ——住処へ"」
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——広間が——ざわめいた。
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「——月に——住む——だと?」
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「——そんなことが——できるのか——!?」
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「——一色さん。どう——思います?」
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——一色は。
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首を——横に——振った。
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「——空を——飛ぶ——ものすら——ないのよ、私たちには」
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「——竜が——飛べるくらいで。月まで——なんて」
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「——うちも——空の——果てまでは——無理やで」
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天井から——藤原が——言った。
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「——息が——できへんようになる」
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「……駄目、か」
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「——では——問いを——重ねる——!」
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賢者が——机を——叩いた。
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「——魔法使い——! こう——聞け——!」
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「——"より——進んだ——技術なら——何が——できるか"——!」
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「——はい——!」
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——しばらく——して。
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魔法使いが——読み上げた。
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「——"未来の——技術として——考えられている——ものが——三つ"」
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「——"一つ。巨大な——惑星を——造り変えて——恒星に——する"」
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「——星を——太陽に——変える、だと——!?」
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「——"木星"、という——名の——巨大な——星が——挙げられています」
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「——この、世界には——ないな」
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「——"二つ。褐色矮星に——燃料を——供給する"」
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「——かっしょく——わいせい?」
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「——"太陽に——なりきれなかった——星"、だそうです」
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「——それも——ないな」
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「——"三つ"」
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魔法使いは——次を——読んだ。
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「——"ブラックホールの——周りの——力を——用いる"」
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「——ぶらっく——ほーる?」
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——聞き慣れない——響きに。
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一同が——首を——かしげた。
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「——なんだ——それは」
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「——ええと……"光さえ——抜け出せないほど——強く——引く——もの"、と」
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——その、瞬間。
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——賢者の——ペンが。
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——紙の——上で——止まった。
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「…………」
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「——賢者さん?」
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「…………待て」
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賢者は——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——今——なんと——言った」
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「——え? "光さえ——抜け出せないほど——強く——引く——もの"、です」
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——賢者は。
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自分が——書いた——問いの——紙を——引き寄せた。
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——そこには——こう——書かれていた。
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——「強く——引く——もので。太陽で——ないものは——何か」
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「…………」
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「——賢者さん——! それって——!」
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「——待て——! 落ち着け——!」
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賢者は——自分にも——言うように——手を——挙げた。
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「——魔法使い。それは——作れるのか。聞け——!」
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「——はい——!」
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——長い——沈黙が——あった。
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そして。
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「……返ってきました」
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魔法使いの——声が——沈んだ。
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「——"いずれも——現在の——技術では——実現——できません"」
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「…………」
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——広間から。
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——ため息が——漏れた。
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「——ぬかりないな。虚空の——賢人は」
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賢者は——苦笑した。
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「——できぬ、ことを——できる、とは——言わぬ。誠実な——ことだ」
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「——それと」
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魔法使いが——最後に——付け加えた。
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「——念のため、と——して——もう一度——書いてあります」
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「——"本物の——恒星を——作るには——木星の——約八十倍の——質量の——水素が——必要"」
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「——"その——重さは——"」
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——魔法使いは。
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そこで——言葉に——詰まった。
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「——どうした」
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「——読めません」
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「——読めん、とは——なんだ」
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「——数の——書き方が——変わってて……」
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魔法使いは——困った——顔で——言った。
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「——一と——六の——後に……ゼロが——二十八個——並んでます」
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「…………」
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「——一色。読めるか」
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「……読める——けれど」
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一色の——顔は——蒼白、だった。
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「——口に——したく——ないわ」
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「——この、星を——何十万個——集めても——届かない」
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「——"人類が——集められる——規模では——ありません"、と——最後に——書いてあります」
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——広間が。
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——重い——沈黙に——沈んだ。
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「——結局——何も——できんのか」
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厨二病の——若者が——ぽつり、と——言った。
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「——三つの——道を——聞いて——三つ——全部——駄目、か」
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「——太陽は——作れん。月にも——行けん。星も——動かせん」
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——だが。
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その、時。
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「——いえ」
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——誠が。
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——静かに——言った。
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「——一つ——残ってます」
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一同が——振り向く。
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「——何が——だ」
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「——"原因を——取り除く"、です」
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誠は——立ち上がった。
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「——"人工的な——事故が——原因なら——その——推進を——止める"」
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「——これだけは——"できない"、と——書かれて——いません」
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「…………」
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「——確かに」
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賢者が——紙を——見直した。
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「——ロケットは——作れぬ。月へは——行けぬ。恒星は——重さが——足らぬ」
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「——だが——"原因を——止める"、については……何も——書かれて——おらん」
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「——だって——虚空の——方々は——知らないんです」
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誠は——静かに——言った。
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「——この、星の——原因が——何なのかを」
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「——だから——書けなかったんです」
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「——では——誰が——知っておる」
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——誠は。
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——ゆっくりと。
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——天井を——見上げた。
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——その、遥か——向こう。
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——月の——ある、方を。
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「……一人——います」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「三日目。やっと、本題が、始まった。皆、静かだった。虚空の賢人が、三つの道を、教えてくれた。一つ、星の軌道を、変える。巨大な"ロケット"を、付けて、加速する。小さな星や彗星の、重さで、引っ張る——これ、僕が、言ったやつと、同じだって。"重力アシスト"、っていう、ちゃんとした、研究らしい。びっくり。でも、数千年、かかるって。二つ、原因を、取り除く。天体の衝突なら、事前に防ぐ。そして——"人工的な事故が、原因なら、その推進を、止める"。……湯呑み、落とした。二日連続。だって、それって、"止められる"、けど、"僕たちが、やった"、ってことだ。三つ、星を、諦めて、月や、他の星へ、移る。……空を飛ぶものすら、ないのに。それから、未来の技術も、聞いた。惑星を、恒星に変える。褐色矮星に、燃料を、供給する。そして——"ブラックホール"。"光さえ、抜け出せないほど、強く、引くもの"、だって。賢者さんの問いと、同じだった。でも、"いずれも、現在の技術では、実現できません"、って。太陽を、作るには、一と六の後に、ゼロが、二十八個。一色さん、"口にしたくない"、って。……皆、"三つ全部、駄目か"、って、うなだれた。でも、僕、気づいた。"原因を取り除く"、だけは、"できない"、って、書かれてない。虚空の方々は、原因を、知らないから、書けなかったんだ。じゃあ、誰が、知ってるか。……一人、いる。じいちゃん。僕、明日、あの人に、会いに行くよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。虚空の——賢人が——「できない」、と——言い切った——その——三つ目の——未来の——技術。
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——「光さえ——抜け出せないほど——強く——引く——もの」。
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——それこそが。
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——最後に——この、世界を——救う、ものに——なることを。
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そして——「人が——起こした——ことなら——止められる」、という——その——一行が。
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——やがて——彼を——たった一人の——相手との。
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——世界で——一番——長い——交渉の——席に——座らせることも。
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——今は……まだ、誰も——知らない。




