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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第59話「青葉第三中学校」

翌日。





賢者は——夜明け前から——大広間に——座っていた。






「——今日は——誰にも——邪魔——させん」






目の下に——濃い——隈を——作って。





——ぶつぶつと——呟いている。






「——自己紹介——禁止。私語——禁止。竜——立入——禁止」






「——賢者さん。落ち着いて——ください」






「——落ち着いて——おる——! 私は——今日——絶対に——本題を——やる——!」








——だが。






配信が——始まって——三分で。







「——あ——! 昨日の——コメント——まだ——続いてます——!」






魔法使いが——虚空を——見て——声を——上げた。






「——読むな——! 本題を——!」






「——でも——"あの——二人——知ってる"、って——人が——いて——!」







——その、瞬間。






ネクロマンサーと——鈴木が。





——同時に——身を——乗り出した。






「——読んで——くれ——!」






「——頼む——!」






「——おい——!」








——魔法使いは。






賢者を——ちらり、と——見て。






そして——申し訳なさそうに——読み上げた。







「——"それ——たぶん——うちの——学校の——先輩"」






「——学校——!?」






ネクロマンサーが——立ち上がった。






「——俺——学校——行ってた——のか——!?」






「——覚えて——ないのか——!」






「——覚えて——ない——! でも——今——聞いたら——なんか——胸が——熱い——!」







「——他にも——! "あの——団体——見覚えある"、"同じ——学年に——いた"、って——!」






「——読んで——! もっと——読んで——!」






厨二病の——若者たちが——一斉に——魔法使いに——群がった。







「——待て——! 待て、貴様ら——!」






賢者が——両手を——挙げた。






「——今は——星の——話を——!」






「——賢者——黙って——おれ——! 俺の——過去が——分かるかも——しれんのだ——!」






「——貴様——昨日まで——"冥府の——門を——開く——者"、とか——名乗って——おったろうが——!」








——そして。






その——喧騒の——中で。






魔法使いが——ふと——目を——見開いた。







「——あ。……学校の——名前が——書いてあります」






「——なんと——!?」






「——ええと——」







魔法使いは。






虚空の——文字を——たどりながら。






——ゆっくりと——読み上げた。







「——"青葉第三中学"」








——ガシャン。







——湯呑みが——割れる——音が——した。







「…………」






一同が——振り向く。







——誠が。






——立ち上がっていた。







湯呑みを——取り落とした——その、手が。





——震えていた。







「——田中?」






「……もう一度」






誠の——声は。





——聞いた、ことの——ないほど——低かった。






「——もう一度——言って——ください」






「——え? ええと……"青葉第三中学"、です」








——誠は。






その場に——立ち尽くしたまま。






——動かなかった。







(——青葉第三中学)






(——青葉——第三——中学)







——知っている。






——知っているどころでは——ない。







——坂の——上に——あった。





——校門の——脇に——古い——桜が——一本。





——春に——なると——花びらが——校庭の——隅に——溜まって。





——掃除当番が——毎年——文句を——言っていた。






——三階の——理科室からは——町が——一望——できた。





——木曜の——給食は——揚げパンだった。







——そして。






——誠が——通っていた——学校、だった。








「——田中——! どうした——!」






賢者が——駆け寄る。






「——顔が——真っ白だぞ——!」






「……賢者さん」






誠は——ゆっくりと——顔を——上げた。






「——僕の——学校、です」






「——なんだと?」






「——青葉第三中学。……僕が——通ってた——学校です」








——広間が。






——ざわり、と——揺れた。







「——待て——! では——貴様らは——!」






賢者が——ネクロマンサーたちを——振り返る。






「——田中と——同じ——学校の——者——だと——いうのか——!?」








——ネクロマンサーは。






——ぽかんと——して——誠を——見た。






「……え」






「——お前——同じ——学校?」






「——山田さん——! 覚えて——ませんか——!」






誠は——必死に——言った。






「——坂の——上の——学校です——! 校門の——横に——大きな——桜が——あって——!」





「——三階の——理科室から——町が——見えて——!」





「——木曜の——給食が——揚げパンで——!」







「…………」






——ネクロマンサーの——顔から。






——血の気が——引いていった。







「——揚げパン」






彼は——ぽつり、と——繰り返した。






「——揚げパン。……木曜」






「——覚えて——ますか——!?」







——彼は。






——両手で——顔を——覆った。







「——味が——分かる」






絞り出すような——声、だった。






「——甘くて。粉が——指に——ついて」






「——分かるんだ。舌が——覚えてる」






「——なのに——!」






彼は——絶叫した。






「——なのに——なんで——お前の——顔が——出てこないんだ——!!」








——広間が。






——しん、と——静まった。







「——おかしいだろ——!」






鈴木も——頭を——抱えた。






「——学校は——分かる——! 揚げパンも——分かる——!」






「——なんで——人の——顔だけ——ないんだ——!?」








——誠は。






——動けなかった。







(——なんで)






(——僕は——全部——覚えてるのに)






(——この、人たちは——なんで)








「……旦那」






その、時。






観客席の——隅から。






——駄々丸が——立ち上がった。






「——駄々丸さん」






「——気づきなすったか」






駄々丸は——静かに——言った。






「——あっしはねェ。ずっと——分かって——おりやした」







「…………」






「——なぜ——言わなかったんですか」






「——言って——どうなりやす」







——駄々丸の——声には。





——珍しく——苦い——ものが——混じっていた。






「——あっしが——"こいつは——お前の——同級生だ"、と——言ったところで」






「——向こうさんは——思い出せねェんですよ」






「——思い出せねェものを——"思い出せ"、と——迫るのは……」






「——ただの——拷問で——さァ」







「…………」






「——だから——待って——おりやした」






駄々丸は——扇子を——開いた。






「——向こうさんが——独りで——たどり着くまで、ね」








——重い——沈黙が——広間に——落ちた。







——だが。






その、空気を。







「——あ——! ちょっと——待って——ください——!」






魔法使いの——声が——破った。






「——なんだ——! また——コメントか——!」






「——はい——! "トム"、という——方から——!」






「——誰だ——それは——!」






「——分かりません——! でも——"ドイツ人の——トム"、だそうです——!」






「——どいつじん?」







——一同が——きょとん、と——した。







「——それで——"生き別れの——妹を——探している"、と——」






「——妹? 誰の——話だ」






「——分かりません——! ……あ」







——魔法使いが。






虚空を——見て。





——そして——妙な——顔を——した。







「——"見つけた"、と——書いてます」






「——ほう——! 誰だ——!」






「——ええと……」







魔法使いは——おそるおそる。






——天井の——大穴を——指した。







「——竜の——方——です」







「…………」






「…………は?」








——天井から。






五十メートルの——首が——ぐいっ、と——降りてきた。







「——うちが——なんやて?」






「——"妹"、だ、そうです」






「——誰の——!?」






「——ドイツ人の——トムさんの——!」







——藤原は。






しばらく——黙って。






そして——静かに——言った。







「——うち——日本人やで」






「——ですよね——!」






「——それに——五十メートルやで」






「——ですよね——!!」






「——妹が——五十メートルの——竜な——兄って——なんやねん」







「——コメント——続いてます——! "間違いない"、"うちの——妹も——気が——強かった"、"目つきが——そっくりだ"、と——!」






「——目つきで——判断——するな——!」







「——HAHAHA——! ならば——俺も——兄弟かも——しれん——!」






「——貴様は——関係——なかろう——!」








「——もう——駄目だ——!!」






賢者が——机に——崩れ落ちた。






「——本題が——! 二日——連続で——!!」







「——魔法使いさん。コメント——なんて?」






「——ええと……"そっちが——本題だったんじゃないの"、と……」






「…………」








——賢者は。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「……いや」






彼は——静かに——言った。






「——虚空の——者どもの——言う、通りだ」






「——え?」







賢者は——ネクロマンサーを——見た。






——そして——誠を——見た。







「——考えて——みろ、田中」






「——学校は——覚えて——おる。給食の——味も——覚えて——おる」






「——だが——人の——顔だけが——ない」






「——これは——ただの——物忘れでは——ない」







賢者の——声が——低くなった。






「——"選んで——抜かれて"、おる」








——広間が。






——ぞくり、と——静まった。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「今日、湯呑みを、落とした。コメントに、学校の名前が、書いてあった。"青葉第三中学"。……僕の、学校だ。坂の上にあって、校門の横に、桜が一本。春になると、花びらが、校庭の隅に、溜まって、掃除当番が、毎年、文句を、言ってた。三階の理科室から、町が、一望できた。木曜の給食は、揚げパン。……全部、覚えてる。山田さんに、話したら、"揚げパンの味は、分かる。舌が、覚えてる。なのに、なんで、お前の顔が、出てこないんだ"、って、叫んだ。鈴木さんも、"学校は分かる、揚げパンも分かる、なんで、人の顔だけ、ないんだ"、って。……なんで、僕だけ、全部、覚えてるんだろう。駄々丸さんが、"ずっと、分かっておりやした。でも、思い出せないものを、思い出せ、と、迫るのは、拷問だ。だから、待ってた"、って。……それから、ドイツ人のトムさんが、"生き別れの妹を、見つけた"、って。藤原さんを。竜を。"うち、日本人やで"、"五十メートルやで"、って、藤原さん。目つきが、そっくりだって。ひどい。……最後に、賢者さんが、真剣な顔で、言った。"人の顔だけが、ない。これは、ただの物忘れでは、ない。選んで、抜かれておる"、って。……じいちゃん。背筋が、寒くなった」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。「選んで——抜かれた」、という——賢者の——言葉が。



——恐ろしいほど——正確で、あったことを。


そして——抜かれたのが——記憶——だけでは——なかったことも。



——竜からは——人の——姿が。



——勇者からは——力が。




——そして——ただ一人。




——誠からは——何も——抜かれて——いない、ことの——意味も——今は……まだ、誰も——知らない。

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