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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第58話「おー、山田じゃないか」

ライブの——開始——直前。





——揉めた。






「——待て——! 俺も——出る——!」






光の勇者が——机の——前に——割り込んできた。






「——え——!? 勇者さん——!?」






「——考えて——みろ——! これは——世界を——救う——催しだ——!」






「——ならば——主人公たる——俺が——中心に——おらねば——おかしいであろう——!」







「——ならば——俺も——だ——!」





「——フフ。私も——参りましょう」





「……座らせて——もらおう」






——武闘家。魔術師。英雄。





次々と——机の——前に——並び始めた。






「——我らも——加わるぞ——!」






厨二病の——若者たちが——ぞろぞろと。






「——HAHAHA——! 出よう——!」






アメリカン・ヒーローたちも——どっしりと。







「——待て待て待て——!!」






賢者が——絶叫した。






「——何人——座る——気だ——! これは——学問の——場だぞ——!」






「——皆——主人公だ——! ならば——皆——中心だ——!」






「——理屈が——おかしい——!」








——そして。






その——騒ぎの——最中。







——ずうん。






——地面が——揺れた。







「——な、なんだ——!?」







——大広間の——天井に——開いた——大穴から。






——巨大な——顔が——ぬっ、と——降りてきた。







「——なあ。うちも——混ぜてくれへん?」







「——ふ、藤原さん——!」







——藤原、だった。






——五十メートルの——竜の——姿、で。







「——藤原さん——! 大きすぎて——入りませんよ——!」






「——せやから——首だけ——突っ込むわ」







——ずずず、と。






天井の——穴から。





——長い——首が——大広間の——中まで——伸びてきた。







「——おおお——!」





「——竜が——降りてきたぞ——!」






観客が——沸く。







「——あの、藤原さん」






誠が——おそるおそる——尋ねた。






「——人の——姿に——なった、ほうが——楽じゃ——ないですか?」







——すると。






藤原は——少し——黙って。






そして——さらり、と——言った。







「——なれへんのや」







「——え?」






「——ええから。始めよ」








——誠は。






何か——言いたかったが。






——その、時は——騒ぎに——流されてしまった。








「——では——始めますね——!」






魔法使いが——虚空に——向かって——手を——振った。






「——皆さん——こんにちは——! 本日は——特別企画——!」






「——"異世界賢者と——話そう——ライブ"——!!」







「——おお——! 始まったぞ——!」







「——では——早速——本題に——」






賢者が——身を——乗り出した——その、時。







「——待て——!」






光の勇者が——手を——挙げた。






「——まずは——自己紹介であろう——!」






「……は?」






「——虚空の——者どもは——我らを——知らんのだぞ——! 名乗るのが——礼儀だ——!」







——賢者が。






嫌な——予感に——顔を——引きつらせた。






「——待て。三十人——おるのだぞ」






「——手短に——やる——!」








——手短では——なかった。







「——我が——名は——光の勇者——!」






「——遥かなる——異界より——この、世界の——危機を——救わんと——降り立った——選ばれし——者——!」





「——数多の——魔王を——屠り——幾多の——民を——導き——今——ここに——立つ——!」





「——すなわち——真の——主人公とは——この、俺で——ある——!」






「——長い——!!」






賢者が——机を——叩いた。






「——これが——手短だ——!」







「——次——! 俺だ——! 拳一つで——山を——砕く——者——! 主人公は——俺だ——!」






「——フフ。知の——極致に——至った——魔術師です。主人公は——私、ですが」






「……英雄と——呼ばれている。主人公とは——語る——ものではない」






「——語って——おるではないか——!」







——そして——厨二病の——若者たちの——番が——来た。






「——我が、名は——漆黒の——剣聖——!」





「——闇を——統べる、者——!」





「——封印されし——右腕の——覚醒者——!」





「——虚無を——喰らう——者——!」





「——終焉を——導く——者——!」







——二十人。





——延々と——続いた。







「——魔法使いさん。コメント、どうなってます?」






誠が——小声で——尋ねると。






「——ええと……」






魔法使いは——気まずそうに——目を——泳がせた。






「——"自己紹介——長すぎ"、"本題——はよ"、"まだ——始まらないの"、って……」






「——ほら——!」






賢者が——叫んだ。






「——虚空の——者どもも——呆れて——おるぞ——!」






「——ふん——! 礼儀は——大事だ——!」








——さらに。






「——HAHAHA——! 自由と——正義の——ヒーロー——! キャプテン・フリーダム——!」






「——キャプテン・フェイラーで——ござんしょう」






観客席から——駄々丸の——声が——飛ぶ。






「——うぬぬ——!」







「——最後に——一つ——いいか——! ここまで——見て——くれて——ありがとう——! よかったら——高評価と——」






「——お前の——配信では——ない——!」







「——うちは——藤原や。竜やっとる。以上」






「——短い——! 見習え——!」







「——我は——魔王で——ある」






——広間が——ざわめいた。






「——魔王が——なぜ——おる——!」






「——我も——暑いのだ」








——そして。






最後の——一人が——立ち上がった。






——黒い——外套を——纏った。





痩せた——若者、だった。







「——ふっ……」






彼は——ゆっくりと——両手を——広げた。






「——我が——名は——死を——統べる——者」






「——冥府の——門を——開き。屍の——軍勢を——率いる——闇の——系譜」






「——ネクロマンサー——兼——闇魔術師——である」







「——長い——!」






「——"兼"、って——なんですか。"兼"、って」






誠が——思わず——ツッコんだ。








——それは。






その、直後に——起きた。








「——おー——!」






厨二病の——若者の——一人が。






——素の——声で——叫んだ。







「——山田じゃ——ないか——!」







——しん。






広間が——静まった。







「——どこ——行ってたんだ——! 探したぞー——!」







——ネクロマンサーが。






——ぴたり、と——動きを——止めて。






そして——ゆっくりと——振り向いた。







「——え」






「——鈴木?」






「——おう——!」






「——鈴木じゃ——ないか——!」







——二人は。






がっしりと——握手を——した。







「——いやー——久しぶり——! 元気か——!」






「——おかげさまで——! そっちは——!」






「——ぼちぼち——! ……で——最近——どう? 何——してる?」







「——ネクロマンサー——やってるよ」






「——へえ——! いいじゃん——!」






「——そっちは?」






「——俺は——闇の——覚醒者、かな」






「——おお——! かっこいいな——!」








——広間の。





——全員が。





——ぽかんと——していた。







「…………」






「——いや——待て——!!」






賢者が——立ち上がった。






「——貴様ら——知り合い、なのか——!?」






「——え? うん」






ネクロマンサーが——けろり、と——答えた。






「——こいつ——鈴木。……あれ?」







——そこで。






彼の——顔から。





——すっ、と——表情が——消えた。







「——なんで——俺、こいつのこと——知ってるんだ?」






「——え?」






鈴木、と——呼ばれた——若者も——固まった。






「——あ、れ? そういえば——なんで——俺——お前の——名前——知って……」







——二人は。






顔を——見合わせて。






——そして——同時に——青ざめた。







「——俺——どこで——こいつに——会ったんだ」






「——分からない。……何も——思い出せない」






「——なのに——なんで——名前だけ——出てくるんだ——!?」








——その、時。






——誠の——胸が。





——きゅう、と——鳴った。







(——山田)





(——鈴木)






(——その——名前……)







——誠は。






無意識に——一歩——前に——出た。







「——あの——! お二人は——!」






二人が——振り向く。






——そして。






じっと——誠の——顔を——見つめて。







「…………」






「……なんか」






「——この、人も——見たこと——ある——気が——する」






「——俺も」






「——でも——誰だっけ」






「——分からん」








——誠は。






その場に——立ち尽くした。







——喉の——奥まで。





——何かが——来ているのに。






——どうしても——出てこない。








「——……あー——!!」






その、静寂を。






賢者の——悲鳴が——破った。







「——本題が——! 一つも——始まって——おらん——!!」






「——あ」






「——もう——半日——経って——おるぞ——!!」







「——魔法使いさん。コメント——なんて?」






「——ええと……"感動の——再会——草"、"今日——何の——配信だっけ"、"賢者——可哀想"、って……」






「——本題を——やらせろ——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「ライブ、大変だった。英雄さんたち、"皆、主人公だから、皆、中心だ"、って、三十人近く、机の前に、並んだ。藤原さんも、天井の穴から、首だけ、突っ込んで、参加。あの人、五十メートルの、竜だから。"人の姿に、なったほうが、楽じゃ"、って、聞いたら、"なれへんのや"、って。……あれ? 前は、なれてたのに。聞き返す前に、騒ぎに、流されちゃった。それで、勇者さんが、"まずは、自己紹介"、って、言い出して……延々と、続いた。厨二病の子たち、二十人、全員。コメントは、"自己紹介、長すぎ"、"本題、はよ"、って。賢者さん、怒り狂ってた。……そして、最後の、ネクロマンサーさんの、自己紹介が、終わった、その時。厨二病の子の、一人が、"おー、山田じゃないか! どこ行ってたんだ、探したぞー"、って。ネクロマンサーさんが、"え、鈴木? 鈴木じゃないか"、って。二人、握手して、"最近どう、何してる?"、"ネクロマンサーやってるよ"、"へえ、いいじゃん"、って。皆、ぽかんと、してた。……でも、その後、二人とも、青ざめて、"なんで、俺、こいつのこと、知ってるんだ"、"何も、思い出せないのに、名前だけ、出てくる"、って。僕、二人の顔を、見た瞬間、胸が、きゅうっと、なった。山田。鈴木。……その名前、喉の奥まで、来てるのに、出てこない。二人も、"この人、見たことある気がする。でも、誰だっけ"、って。賢者さんが、"本題が、一つも、始まっておらん!"、って、絶叫してた。半日、経ってた。じいちゃん。僕、あの二人のこと、知ってる。絶対に、知ってるんだ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。「山田」、と。「鈴木」、と。



——その、二つの——名を。



——彼が——かつて——毎日——呼んでいた、ことを。


そして——名前だけが——先に——戻ってきて。



——顔と——思い出は——まだ——戻らない。



——その——歯痒い——ずれが。



——一体——何によって——生まれたのかも——今は……まだ、誰も——知らない。

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