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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

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第55話「掘りに、行く」

賢者の——涙の——一件は。




——それきり——進展しなかった。






「——思い出せん」





賢者は——悔しそうに——首を——振った。






「——あの、言葉を——聞いた——瞬間だけ——胸が——熱くなった。だが——それだけだ」






「——焦らないで——ください」






誠は——静かに——言った。






「——今は——やることが——ありますから」






「……そうだな」








——ウランの——採掘。






それが——次の——課題、だった。







「——まず——鉛の——防具を——作るわ」





一色が——設計図を——広げた。






「——全身を——覆う——重い——鎧。それと——長い——柄の——道具。手で——触れずに——掴めるように」






「——重さは?」






「——鉛だもの。……相当よ」







——試作された——鎧は。






とんでもない——代物、だった。







「——ぐっ……お、重い——!」






厨二病の——若者が——一歩も——動けない。






「——これでは——歩けんぞ——!」






「——だが——薄くすれば——遮れない」







——難題、だった。







「——ワシが——やろか?」






そこへ——のっそりと——グランデルが——現れた。






「——グランデルさん——!」






「——鬼族なら——このくらいの——重さ——なんとも——ないィ」






グランデルは——鎧を——ひょい、と——持ち上げた。






「——ほれ。軽い——ものだァ」






「——おお——!」







——だが。






誠は——首を——振った。






「——駄目です」






「——なんでだァ?」






「——鎧を——着られても……グランデルさんが——危ないです」






誠は——真剣な——顔で——言った。






「——竜が——死ぬんですよ。鬼族が——平気だと——誰が——言えますか」






「——せやけど——誰かが——行かなあかんやろ」






藤原が——腕を——組んだ。






「——石は——地の底に——あるんや。取りに——行かん、ことには——始まらへん」








——議論は——紛糾した。






「——俺が——行く——!」






光の勇者が——名乗り出た。






「——俺は——主人公だ——! こういう、時に——動かずして——何が——主人公か——!」






「——駄目です——!」






誠が——即座に——止めた。






「——なぜだ——!」






「——死ぬかも——しれないからです——!」






「——俺は——死なん——! レベルが——!」






「——レベルは——関係——ないって——藤原さんが——言ったでしょう——!」







——誠が。






珍しく——声を——荒らげた。






「…………」






光の勇者が——黙り込む。







「——すみません」






誠は——すぐに——頭を——下げた。






「——でも——誰かが——死ぬ、かも——しれない——方法は……」






「——僕は——嫌です」








——沈黙。






やがて。






「——では——どうする、田中」






賢者が——静かに——尋ねた。






「——石が——なければ——太陽は——作れん」





「——太陽が——なければ——星は——落ちる」






「——結局——誰かが——行かねば——ならんのだ」






「…………」







誠は——唇を——噛んだ。






——分かっている。





——分かっているのだ。






けれど。







「……もう少し——考えさせて——ください」






誠は——絞り出すように——言った。






「——一日でいい。もう少しだけ——考えます」








その、夜。






誠は——一人。





工房の——隅で——資料を——めくっていた。






——藤原の——証言。




「近くに——長く——おったら——死ぬ」





——賢者の——推論。




「見えぬ——熱。触れずとも——蝕む——力」





——一色の——設計。




「鉛で——遮る」







(——距離。遮蔽。……そして)






誠は——ふと——顔を——上げた。






(——時間)







「——藤原さん——!」






誠は——飛び起きて——藤原を——探した。






「——なんや、こんな——夜中に」






「——一つ——教えて——ください——!」






誠は——息を——切らして——尋ねた。






「——竜が——死ぬのは——"どのくらい"、そこに——いた——時ですか——!?」






「——え?」






「——一瞬——通っただけでも——死にますか——!?」







——藤原は。





——きょとん、と——して。






そして——首を——振った。






「——いや。通り過ぎる——だけなら——なんも——起きへん」






「——死ぬのは——巣を——作ったり——して……何日も——何ヶ月も——おった——奴や」







——誠の——目が。





——輝いた。






「——それです——!」






「——なんや——急に」






「——短い——時間なら——大丈夫、なんですね——!?」






「——まあ——そうやな」







「——賢者さん——! 一色さん——!」






誠は——皆を——叩き起こした。







「——方法が——あります——!」






「——なんだと——!?」






「——一人が——長く——掘るから——危ないんです——!」






誠は——早口で——まくし立てた。






「——なら——大勢で——短く——交代すれば——いい——!」






「——一人——数分だけ——潜って——上がってくる——! すぐ——次の、人が——潜る——!」






「——一人あたりの——時間を——うんと——短くすれば……誰も——長く——浴びずに——済みます——!」







——工房が。





——静まり返った。






そして。






「…………」






賢者が——ゆっくりと——立ち上がった。






「——馬鹿な。そんな——単純な——ことに」






「——気づかなかった、なんて——ね」






一色が——苦笑した。






「——私たち——"どうやって——耐えるか"、ばかり——考えていたわ」






「——"耐えない"、という——手が——あった、のか」







「——でも——大勢——要りますよ——!」






誠が——言った。






「——何百人——いや——何千人——必要かも——しれません——!」






「——なら——集めるまでだ」






光の勇者が——立ち上がった。






「——俺が——声を——かける。世界中を——回ってでも——な」






「——おうよ——! 鬼族も——出すゥ——!」





「——うちも——竜の——連中——連れてくるわ」





「——HAHAHA——! 我らも——加わろう——!」







——次々と。






声が——上がった。







その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「ウランを、掘りに、行く方法で、揉めた。鉛の鎧は、重すぎて、動けない。グランデルさんが、"ワシが"、って、言ってくれたけど、断った。竜が、死ぬのに、鬼族が、平気だなんて、誰にも、言えない。勇者さんも、"俺が行く"、って、言ったけど、止めた。つい、大声、出しちゃった。誰かが、死ぬかも、しれない方法は、嫌だ。賢者さんに、"では、どうする"、って、聞かれて、答えられなかった。……でも、夜、資料を、見てて、気づいた。"時間"。藤原さんに、聞いたら、"通り過ぎるだけなら、なんも、起きへん。死ぬのは、何ヶ月も、おった奴"、って。それだ! 一人が、長く、掘るから、危ない。大勢で、短く、交代すれば、いい。一人、数分だけ。そう言ったら、皆、固まって……"どうやって、耐えるか、ばかり、考えていた。耐えない、という手が、あったのか"、って。でも、何千人も、要る。そしたら、勇者さんが、"俺が、声を、かける。世界中を、回ってでも"、って。皆も、次々。じいちゃん、誰も、死なせないよ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。「一人が——長く」、では、なく——「大勢で——短く」。



——この——たった——それだけの——考え方が。



——やがて——星そのものを——動かす、時にも……まったく——同じ——形で——用いられることを。


そして——この——採掘のために——世界中から——集まる——人々の——群れこそが。



——後に——世界を——救う——"繋がり"、の……最初の——かたちで、あったことも——今は……まだ、誰も——気づかない。

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