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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

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第53話「竜に、聞く」

文を——出して——五日、後。





——町の——上空が。





——影に——覆われた。






「——な、なんだ——!?」






——ばさり、と。






——巨大な——翼が——風を——打つ。







——地下の——大広間の——天井には。






——換気の——ために——大きな——穴が——開いている。







——その、穴から。






——長い——首が。






——ぬっ、と——差し込まれた。







「——久しぶりやなあ、田中くん」






「——藤原さん——!」








——藤原。






前作の——仲間。






龍族と——なった——元・同級生。







——五十メートルを——超える——巨体。






——広間には——到底——入らないので。






——首だけを——穴から——下ろしている。







「——うわあ——! で、でかい——!」






ルカが——腰を——抜かした。






「——なんや、坊主。竜、初めてか」






「——こ、こんなに——近くで——見るのは——!」








「——藤原さん。窮屈じゃ——ないですか」






誠が——見上げて——尋ねた。






「——まあ——な。首、痛いわ」






藤原は——けろり、と——言った。






「——けど——しゃあないやろ。入られへんもん」








「——文、読んだで。ずいぶん——大事に——なっとるやんか」






「——はい……。実は——」







誠は——事情を——説明した。






星が——太陽に——落ちていること。




人工の——太陽を——作ろうと——していること。




そのために——「ウラン」、なる——石が——要ること。







「——ふうん」






藤原は——じっと——聞いていた。






「——で、その——ウランっちゅう——石を——うちが——知っとる、と」






「——ご存知——ですか?」






「——知っとるよ」







——あっさりと。






藤原は——頷いた。






——首が——動いた、だけで。






——広間の——空気が——ぶわっ、と——揺れた。







「——わっ——! 資料が——飛ぶ——!」






「——すまんすまん」








「——ただな」






藤原の——声が——低くなった。






「——あれは——触ったら——あかん——石や」








「——触ったら——駄目?」






「——うちら——竜はな。地の底を——ようけ——飛ぶやろ」






藤原は——静かに——語り始めた。






「——せやから——地の底の、ことは——だいたい——知っとる。どこに——何の——鉱脈が——あるかも」






「——その、中に——一つだけ——絶対に——近寄ったら——あかん、って——言い伝えられてる——場所が——あんねん」






「——どんな——場所ですか」






「——見た目は——ただの——鉱脈や。黒っぽい——石が——ごろごろ——しとる」







——藤原の——目が。





——細くなった。






「——けどな。そこに——長く——おった——竜は……死ぬ」







「——え」






「——火傷も——せえへん。傷も——つかへん。なんも——起きへん」






「——けど——しばらく——して……鱗が——抜けて。血を——吐いて。……死ぬ」






「——うちら——竜は——頑丈やで? 火も——毒も——効かへん」






「——その——うちらが——死ぬんや」








——広間が。






——静まり返った。







「——それだ」






賢者が——かすれた——声で——言った。






「——見えぬ——熱。触れずとも——蝕む——力」






「——それこそが——"放射能"、というものの——正体で——あろう」







「——ほな——それが——欲しい、っちゅうことか」






藤原は——渋い——顔を——した。






——竜の——顔なので。





——渋い——顔かどうかは——正直——分かりにくいが。






——長い——付き合いの——誠には——分かった。







「——田中くん。あんた——分かって——言うてるか?」






「……はい」






「——掘りに——行った——人間、死ぬで」






「…………」








——重い——沈黙が——落ちた。







「——ならば——我らが——行こう」






光の勇者が——立ち上がった。






「——我らは——レベルが——高い。多少の——毒など——効かん」






「——甘い」







——藤原が——即座に——切り捨てた。






——首が——ぐいっ、と——光の勇者に——近づく。






——巨大な——眼が。





——すぐ——目の前に——迫った。







「——ひっ」






光の勇者が——のけぞった。







「——うちら——竜が——死ぬんやで。レベルの——問題や——ないねん」






「——それは——生き物の——"仕組み"、そのものを——壊すもんや」






「——強かろうが——弱かろうが——関係——あらへん」







「…………」







——また。






「レベルでは——どうにも——ならない——もの」、だった。








「——では——どうする」






賢者が——唸った。






「——必要な——ものが——そこに——あると——分かっていて。だが——取りに——行けば——死ぬ」






「——手を——出せぬ、では——意味が——ない」








——その、時。






「……あの」






誠が——おずおずと——手を——挙げた。






「——藤原さん。その、石って——"近くに——いる、と"、駄目——なんですよね?」






「——せやな」






「——じゃあ——遠くに——いれば——大丈夫、ですか?」






「——まあ——そうやろな。距離が——あれば——薄まるはずや」






「——それと——間に——何か——挟んだら——どうですか?」






「——挟む?」






「——はい。たとえば——分厚い——石とか——土とか」






誠は——考えながら——続けた。






「——だって——地の底の——鉱脈なんですよね? なのに——地上の——僕たちは——今まで——平気でした」






「——それって——間に——土や——岩が——あったから、じゃ——ないですか?」








——藤原と——賢者が。






——同時に——顔を——上げた。






「……確かに」






「——道理だ」






賢者が——身を——乗り出した。






「——ならば——遮る——ものを——身に——まとえば……あるいは」






「——遠くから——道具で——掴めば——手も——触れずに——済む」






「——鉛は——どうかしら」






一色が——口を——挟んだ。






「——重くて——密な——金属。あれなら——遮れる、かも——しれない」







「——試す——価値は——ある——!」






工房が——にわかに——活気づいた。








「……なあ、田中くん」






その——喧騒の——中で。






藤原が——ぽつり、と——言った。







「——あんた——変わらへんなあ」






「——え?」






「——昔から——そうやったわ」







——巨大な——眼が。





——少しだけ——細まった。






——笑って——いるらしい。







「——皆が——"無理や"、って——言うてる、時に……一人だけ——"ほな——こうしたら?"、って——言うんや」






「——大した、こと——言うてへんのに。なんでか——そこから——道が——開くねん」







「——そう——ですかね」






「——せやで。ほんま——昔から——変わらへん」








——藤原は。






——ふと——遠い——目を——した。







「……なあ。田中くん」






「——はい?」






「——最近——妙な——連中が——ようけ——降ってきてる、って——聞いたけど」






「——あ、はい。転移者の——皆さん、ですね」






「——その、中に、な」







——藤原は。






——すう、と——鼻から——息を——吸った。







「——妙に——懐かしい——匂いの——する——奴が——おらへんか?」








——誠の——胸が。





——どくん、と——鳴った。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「藤原さんが、飛んできた。久しぶり。でも、五十メートルの、竜だから、広間に、入れなくて、天井の穴から、首だけ、突っ込んで、話した。"首、痛いわ"、って。ルカ、腰、抜かしてた。ウランのこと、聞いたら、"知っとる"、って。でも、"触ったら、あかん石"、だって。竜が、その鉱脈に、長くいると、火傷も、傷もないのに、しばらくして、鱗が抜けて、血を吐いて、死ぬ、って。竜は、火も、毒も、効かないのに。賢者さんが、"それこそが、放射能の正体だ"、って。勇者さんが、"我らはレベルが高い"、って、言ったら、藤原さん、顔を、ぐいっと、近づけて、"竜が死ぬんやで、レベルの問題やない。生き物の仕組みそのものを、壊すもんや"、って。勇者さん、のけぞってた。……また、レベルじゃ、どうにも、ならないもの。でも、僕、思ったこと、言った。"地の底の鉱脈なのに、地上の僕たちは、平気だった。間に、土や岩が、あったからじゃ?"、って。そしたら、皆、"道理だ"、って。一色さんが、"鉛なら、遮れるかも"、って。……藤原さんが、"あんた、昔から、変わらへんな。皆が、無理や、って言う時に、一人だけ、ほな、こうしたら?、って言う"、って。そうかな。それから、藤原さん、鼻を、すんすん、させて、"転移者の中に、妙に、懐かしい匂いの、する奴が、おらへんか?"、って。……どきっと、した」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。竜が——嗅ぎ分けた——「懐かしい——匂い」、が。



——一体——何の——匂いで——あったのかを。


そして——「触れれば——死ぬ——石」、を——巡る——この、挑戦が。



——やがて——誰かの——命を——本当に——奪うことに——なるのかも——今は……まだ、誰も——知らない。

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