第50話「太陽を、知らない」
太陽を——調べる。
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言うのは——簡単、だった。
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だが——始めてみると。
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——それは——恐ろしく——地味な——作業、だった。
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「——町の——古い——記録は——これで——全部です」
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誠は——埃だらけの——巻物を——工房に——運び込んだ。
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「——ご苦労。……ふむ」
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賢者が——一つずつ——広げていく。
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「——"今年の——夏は——暑し"。……天気の——記録だな」
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「——"日食——あり。昼——暗くなる"。……ほう。これは——使えるかも——しれん」
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「——"収穫——豊作"。……いらん」
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——三日、かけて。
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——使えた——記録は——二枚、だった。
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「……気が——遠く——なりますね」
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「——だが——やるしか——ない」
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誠は——各地に——文を——出した。
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帝国の——書庫へ。
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各地の——神殿へ。
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大学へ。
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そして——魔族の——里へも。
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「——太陽に——ついての——記録が——あれば——どんな——些細な——ものでも——お送り——ください」
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——文には。
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こう——書いた。
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「——"星を——救う——ため、です"」
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そして——返事が——届き始めた。
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「——師匠——! また——荷が——届きました——!」
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ルカが——台車を——押してくる。
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「——おお——! 今度は——どこから?」
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「——南の——神殿から——です——!」
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——世界中から。
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記録が——集まってきた。
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天文の——観測図。
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日の出と——日の入りの——記録。
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日食の——言い伝え。
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太陽を——巡る——神話。
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「——すごい——量ですね」
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「——だが——ほとんどが——役に——立たん」
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賢者は——渋い——顔を——した。
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「——"太陽は——神の——目である"。"太陽は——燃える——馬車である"」
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「——神話ばかりだ。誰も——中身を——知らん」
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——確かに。
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人は——太陽を——毎日——見上げながら。
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——その、正体を——何も——知らなかった。
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「……あれ」
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そんな——ある日。
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記録を——整理していた——誠が——手を——止めた。
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「——どうした」
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「——いえ。ちょっと——変だな、と——思って」
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誠は——数枚の——紙を——並べた。
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「——北の——観測記録と——南の——観測記録。日食の——時刻が——ずれてるんです」
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「——当然だ。場所が——違えば——見え方も——違う」
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「——はい。でも——このずれ、方が……」
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誠は——指で——なぞった。
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「——去年と——今年で——違うんです」
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——賢者の——手が。
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——止まった。
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「……見せろ」
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賢者は——紙を——ひったくって。
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——食い入るように——見つめた。
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「……本当だ」
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彼の——声が——震えた。
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「——ずれが——広がっている。つまり——太陽が——大きく——見える——角度が——変わっている」
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「——これで——"どれだけ——近づいたか"、が——測れる——!」
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「——え? 本当ですか——!?」
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「——うむ。よく——気づいた、田中——!」
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——初めて。
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賢者が——興奮した——顔で——誠の——肩を——叩いた。
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「——僕、ただ——並べただけ、ですけど」
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「——その"並べる"、が——難しいのだ——!」
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——だが。
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肝心の——「太陽が——何で——燃えているか」は。
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——依然——分からなかった。
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「——世界中の——記録を——集めても——駄目、か」
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ふた月、後。
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賢者は——疲れ果てて——机に——突っ伏した。
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「——この、世界の——誰も——太陽の——中身を——知らん」
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——その、時。
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工房の——入り口で。
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——ぽつり、と——声が——した。
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「——この、世界には——おらんかも——しれんが」
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一同が——振り返る。
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——英雄が——立っていた。
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「——どういう——意味だ」
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「——考えても——みろ」
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英雄は——静かに——言った。
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「——ここには——別の——世界から——来た——者が——大勢——おる」
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「——別の——世界にも——太陽は——あった」
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「——その、世界の——誰かが……知って——いるかも——しれん」
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——一同が。
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——固まった。
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「……そうか」
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賢者が——ゆっくりと——立ち上がった。
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「——我々は——この、世界の——中でばかり——探して——いた」
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「——だが——答えは——外から——来ていたのだ」
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「——ちょっと——待って——ください——!」
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誠が——慌てて——立ち上がった。
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「——じゃあ——転移してきた——皆さんに——聞いて——回れば——!」
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「——うむ。だが——数が——多いぞ。厨二病の——連中だけでも——二十人を——超える」
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「——大丈夫です——!」
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誠は——にっこりと——笑った。
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「——聞いて——回るのは——得意ですから」
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——だが——その、時。
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英雄が——ふと——目を——伏せた。
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「……ただし」
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「——はい?」
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「——聞き方には——気を——つけろ」
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英雄の——声は。
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——妙に——静かだった。
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「——"お前の——世界の——話を——聞かせろ"、というのは……」
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「——者に——よっては——酷な——問いだ」
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「……え?」
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誠が——聞き返す——前に。
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英雄は——踵を——返して。
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——工房を——出ていった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「太陽を、調べ始めた。ものすごく、地味な、作業。町の古い記録、三日、かけて、使えたの、二枚だけ。各地に、文を、出した。"星を、救うため"、って、書いたら、世界中から、記録が、届いた。でも、ほとんど、神話。"太陽は、神の目"、"燃える馬車"。誰も、中身を、知らない。ただ、記録を、並べてたら、日食の、ずれ方が、去年と、今年で、違うのに、気づいた。賢者さんが、"これで、どれだけ、近づいたか、測れる"、って、興奮してた。僕、ただ、並べただけ、なのに。でも、"太陽が、何で、燃えてるか"、は、ふた月、経っても、分からない。……そしたら、英雄さんが、"この世界には、いなくても、別の世界から、来た者が、大勢いる。その世界の誰かが、知ってるかも"、って。そうか! 明日から、皆に、聞いて回る。……でも、英雄さん、最後に、"聞き方には、気をつけろ。お前の世界の話を、聞かせろ、は、者によっては、酷な問いだ"、って。……どういう、意味だろう」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。英雄が——なぜ——「酷な——問いだ」、と——言ったのかを。
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そして——明日から——始まる——聞き取りが。
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——太陽の——正体、だけでなく。
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——空から——降ってきた——者たちの……誰にも——言えなかった——ものにまで。
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——触れて——しまうことも——今は……まだ、知らない。




