第49話「机上の、空論」
「——太陽を——作る?」
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一色の——言葉に。
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大広間が——ざわめいた。
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「——もう一つ——太陽を——作るのよ」
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一色は——落ち着いた——声で——続けた。
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「——この、星の——反対側。太陽と——向かい合う——位置に」
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「——両側から——引かれれば——釣り合う。落下が——止まる——はず」
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——一瞬の——沈黙の——後。
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「——馬鹿な——!」
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魔術師が——叫んだ。
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「——太陽を——作る、など——! 神の——所業——ですぞ——!」
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「——理屈は——通っている」
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賢者が——低く——言った。
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「——だが——実現性は——別だ」
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賢者は——一色を——見た。
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「——一色。お前は——本気で——できると——思って——いるのか」
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「……分からないわ」
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一色は——正直に——答えた。
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「——でも——他に——道が——ないなら。まず——計算——してみるべきよ」
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こうして。
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——計算が——始まった。
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だが——それは。
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——想像を——絶する——作業、だった。
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「——駄目だ。桁が——足りん」
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三日、後。
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賢者が——紙を——投げ出した。
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「——太陽と——同じ——引く力を——出すには……この、星、全部を——燃やしても——足りん」
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「——待って。同じ——力は——要らないわ」
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一色が——別の——紙を——広げた。
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「——落下を——完全に——止める——必要は——ない。"遅らせる"、だけでも——時間が——稼げる」
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「——なら——もっと——小さくても——いい、はず」
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「——では——どれほど——小さくて——いい」
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「——それを——計算するのよ」
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——議論は——毎日——続いた。
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「——引く力は——重さで——決まる。ならば——重い——ものを——集めれば——いい」
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「——どれほど——集める。山——一つ——分では——足りんぞ」
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「——大陸——一つ——分、かしら」
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「——どうやって——空に——上げる——気だ——!」
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「…………」
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——行き詰まる。
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「——では——重さでは、なく——魔力で——代用——できませんか」
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魔術師が——口を——挟んだ。
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「——魔力の——渦は——物を——引き寄せます。あれを——巨大化——すれば」
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「——それだ——!」
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一色が——顔を——輝かせた。
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「——星喰いの、時。私たちは——世界中の——レールガンを——繋いだ」
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「——同じ、ように——世界中の——魔力を——繋げば……」
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「——待て。それは——一瞬の——話だ」
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賢者が——冷や水を——浴びせた。
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「——レールガンは——一度——撃てば——終わりだ。だが——今回は——違う」
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「——星の——落下を——止め続ける、のだぞ」
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「——一日。一月。一年。ずっと——魔力を——注ぎ続ける、のか?」
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「…………」
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「——世界中の——魔術師が——不眠不休で——注いでも——数日と——保つまい」
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——また——行き詰まった。
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「……つまり」
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一色が——重い——声で——言った。
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「——"自分で——燃え続ける——もの"、が——要る、のね」
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「——そうだ。人の——手を——離れても——独りで——燃え続ける——何か、が」
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「——そんな——ものが——ありますか」
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「——ある」
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賢者が——ぽつり、と——言った。
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「——現に——空に——一つ——浮かんで——おる」
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——一同が。
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——押し黙った。
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太陽。
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——それを——真似る、しか——ない。
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——だが——どうやって。
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議論は——ひと月——続いても。
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——結論に——至らなかった。
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「——駄目だ」
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ある日。
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賢者が——ついに——匙を——投げた。
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「——机上の——空論だ。理屈は——立つ。だが——作れん」
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「——我々には——太陽を——真似る——術が——ない」
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「…………」
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工房が——重い——空気に——沈んだ。
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その、時。
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——ずっと——隅で——茶を——注いでいた——誠が。
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ふと——顔を——上げた。
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「……あの」
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「なんだ、田中」
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「——太陽って——何で——燃えてるんですか?」
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——きょとん、と——した——顔で。
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誠は——そう——尋ねた。
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「——何で……だと?」
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「——はい。薪でも——油でも——ないですよね。あんなに——長い、こと——燃えてるんだから」
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「——それは……」
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賢者が——言葉に——詰まった。
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「……知らん」
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「——え?」
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「——誰も——知らんのだ」
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賢者は——愕然と——した——顔で——言った。
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「——我々は——太陽を——真似ようと——していた。だが——そもそも——太陽が——何で——燃えているのかを……知らんのだ」
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——沈黙。
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そして。
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「——調べましょう」
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一色が——立ち上がった。
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「——真似るなら——まず——相手を——知らないと」
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「——世界中の——記録を——集めるわ。古い——文献。天文の——記録。魔族の——伝承も」
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「——それなら」
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誠が——手を——挙げた。
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「——僕、集めるの——得意です」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「一色さんが、"太陽を、作る"、って、言い出した。星の反対側に、もう一つ、置いて、釣り合わせる。皆、"馬鹿な"、って。でも、"他に、道が、ないなら、まず、計算してみるべき"、って。それから、毎日、議論。でも、行き詰まってばかり。"桁が足りん"、"大陸一つ分の重さを、どうやって、空に上げる"、"魔力じゃ、数日も、保たない"。……"自分で、燃え続けるものが、要る"、って、話に、なって、賢者さんが、"現に、空に、一つ、浮かんでる"、って。太陽を、真似るしか、ない。でも、ひと月、議論しても、答えが、出なくて、賢者さん、"机上の空論だ"、って、匙を、投げた。……だから、僕、聞いてみた。"太陽って、何で、燃えてるんですか?"、って。そしたら、賢者さん、固まって、"知らん。誰も、知らんのだ"、って。真似ようと、してたのに、相手を、知らなかった。一色さんが、"まず、調べましょう"、って。記録集めなら、僕、得意です。じいちゃん、まだ、始まってすら、いなかったみたい」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。「太陽は——何で——燃えているのか」、という——彼の——素朴な——問いが。
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——この、長い——挑戦の……本当の——出発点で、あったことを。
そして——その——答えを——探す——旅が。
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——思いも——よらぬ——場所へ——彼らを——導くことも——今は……まだ、知らない。




