第46話「言うべきか」
その日から。
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誠は——眠れなく——なった。
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——この、星は——太陽に——落ちていく。
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——逃げ場は——ない。
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——誰にも——止められない。
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その——事実が。
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——胸の——中で——重く——沈んでいた。
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「——師匠。おはようございます——!」
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朝。
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ルカが——元気に——店を——開ける。
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「——ああ。おはよう」
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「——今日の——芋、いい出来ですよ——! 夜の——畑仕事、頑張った——甲斐が——ありました——!」
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嬉しそうな——ルカの——顔。
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「——おはよう、誠さん」
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「——今日も——暑いねえ」
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「——でも——地下は——涼しくて——助かるよ」
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やってくる——町の——人々。
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避難民の——おかみさん。
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孫を——連れた——老人。
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新しい——住まいで——暮らし始めた——家族。
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——皆。
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——明日が——来ると——信じている。
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(——言えない)
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誠は——唇を——噛んだ。
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(——この、人たちに——どう——言えばいい)
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(——"星が——太陽に——落ちていきます"、と?)
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(——"逃げ場は——ありません"、と?)
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——賢者の——言葉が——蘇る。
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「——勝てぬ、と——知れば——人は——立てなく——なる」
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その、通りかも——しれない。
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けれど。
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「——師匠?」
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ルカが——首を——かしげた。
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「——大丈夫、ですか? 顔色——悪いです」
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「——ああ。ちょっと——寝不足で」
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誠は——笑顔を——作った。
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——嘘を——ついた。
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その、夜。
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誠は——賢者と——一色を——呼んだ。
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「——一色さんにも——聞いて——ほしいんです」
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賢者が——一色に——すべてを——説明した。
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聞き終えた——一色は。
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——しばらく——微動だに——しなかった。
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そして——ぽつり、と——言った。
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「……そう。やっぱり——太陽だったのね」
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「——一色さん。驚かないんですか」
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「——驚いてるわ。ただ……どこかで——覚悟——してたのかも——しれない」
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一色は——静かに——言った。
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「——私も——ずっと——太陽が——大きく——見えてた。認めたく——なかっただけ」
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三人は——しばらく——黙り込んだ。
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「——問題は」
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賢者が——口を——開いた。
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「——これを——公表——するか——否か、だ」
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「……」
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「——私は——反対だ」
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賢者は——きっぱりと——言った。
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「——希望の——ない——事実を——知らせて——何に——なる」
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「——人々は——絶望し。秩序は——崩れ。残された——時間すら——地獄に——なる」
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「——ならば——知らぬまま——最後の——日まで——穏やかに——暮らす、方が——よほど——慈悲——深い」
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——一理——あった。
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「……一色さんは?」
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「——私は——迷ってる」
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一色は——正直に——言った。
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「——技術者としては——知らせたい。少しでも——多くの——頭が——考えれば——何か——手が——見つかるかも——しれない」
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「——でも——為政者としては……怖い。人の——心が——折れる、のを——見たくない」
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二人の——視線が。
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誠に——向いた。
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「——田中。お前は——どう——思う」
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誠は。
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長い、こと——黙っていた。
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——ルカの——笑顔。
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——町の——人々の——「おはよう」。
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——避難民の——「ありがとう」。
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——それらを——思い浮かべながら。
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そして——ゆっくりと——口を——開いた。
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「……僕は」
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「——言うべきだと——思います」
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「——なぜだ」
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「——皆を——信じてるから、です」
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誠は——顔を——上げた。
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「——僕は——この、町の——人たちを——知ってます」
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「——氷が——溶けて。島が——沈んで。地上に——出られなく——なって」
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「——それでも——皆——地下を——掘って——水路を——引いて——畑を——作って——ここまで——来ました」
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「——一度も——諦めなかった」
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「——だから——僕は——信じます」
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「——本当のことを——知っても——あの、人たちは——立ってられる」
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「…………」
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「——それに」
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誠は——静かに——続けた。
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「——僕が——一番——嫌なのは」
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「——皆が——何も——知らないまま……ある日——突然——終わる、ことです」
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「——せめて——知って——いてほしい」
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「——知った、上で——どう——生きるかを——自分で——選んで——ほしい」
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「——それが——人に——対する——礼儀だと——思うんです」
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——沈黙。
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やがて。
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賢者が——深く——息を——吐いた。
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「……お前は」
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「——本当に——モブ、なのか」
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「——え?」
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「——いや」
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賢者は——首を——振って。
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そして——ふっと——笑った。
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「——分かった。お前の——言う、通りに——しよう」
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「——私も——賛成よ」
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一色も——頷いた。
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「——ただし——伝え方は——考えましょう。ただ——絶望を——投げつけるのでは——なく」
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「——"これから——どうするか"、と——一緒に——伝えるの」
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「——はい」
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こうして。
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——真実を——世界に——伝える、ことが——決まった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「賢者さんと、一色さんと、三人で、話した。真実を、公表するか、どうか。賢者さんは、反対。"希望のない事実を、知らせて、何になる。知らぬまま、穏やかに、暮らす方が、慈悲深い"、って。一色さんは、迷ってた。……僕は、"言うべきだ"、って、言った。だって、この町の人たち、氷が溶けて、島が沈んで、地上に出られなく、なっても、一度も、諦めなかった。地下を掘って、水路を引いて、畑を作って、ここまで来た。だから、信じてる。本当のことを、知っても、立ってられるって。それに、何も、知らないまま、ある日、突然、終わるのが、一番、嫌だ。知った上で、どう生きるか、自分で、選んでほしい。それが、人に対する、礼儀だと、思う。……賢者さんが、"お前は、本当に、モブなのか"、って。え? 一色さんが、"伝え方は、考えましょう。絶望だけじゃ、なく、これから、どうするか、と、一緒に"、って。……そうだね。じいちゃん、僕、皆を、信じるよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この——「言うべきだ」、という——たった一つの——選択が。
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——この、世界の——運命を……大きく——変える、ことに——なるのを。
そして——賢者が——思わず——漏らした——「お前は——本当に——モブ、なのか」、という——その、問いに。
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——いつか——世界が——答えを——出す——日が——来ることも——今は……まだ、知らない。




