第45話「確かめる」
「——賢者さん——!」
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地下の——工房に——飛び込むと。
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賢者は——すでに——起きていた。
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いや。
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——おそらく——寝ていなかった。
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「……田中か。こんな——時間に——どうした」
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誠は——息を——整えて。
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そして——真っ直ぐに——賢者を——見た。
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「——賢者さん。あなたの——仮説」
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「——太陽——ですね」
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——賢者の——手から。
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ペンが——落ちた。
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「…………」
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長い——沈黙。
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やがて——賢者は。
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——絞り出すように——言った。
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「……なぜ——分かった」
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「——今朝——日の出を——見ました」
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誠は——静かに——言った。
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「——昔より——大きいんです。ずっと——気の、せいだと——思ってました」
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「——でも——今朝——確信しました。あれは——気の、せいじゃ——ない」
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「——それに——賢者さん。あなた——書物を——閉じる——前に……天井の——上を——見上げてましたよね」
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「——見て——いたのか」
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「——はい」
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賢者は——深く——息を——吐いて。
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そして——椅子に——沈み込んだ。
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「……その、通りだ」
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「——私の——仮説は——太陽だ」
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とうとう。
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その——言葉が——口に——された。
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「——聞かせて——ください」
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「……いいのか」
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「——はい」
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賢者は——ゆっくりと——語り始めた。
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「——世界、全体が——均等に——熱く——なっている」
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「——北も——南も。海も——陸も。昼も——夜も」
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「——これが——できる——熱源は——一つしか——ない」
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「——太陽、ですね」
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「——そうだ」
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賢者は——紙を——広げた。
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そこには——無数の——数字と——図が——描かれていた。
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「——私は——記録を——集めた。お前が——町の、人々から——聞き取った——記録も——使わせて——もらった」
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「——そして——気温の——上昇率から——逆算した」
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「——結論から——言おう」
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賢者は——顔を——上げた。
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「——太陽が——熱く——なっているのでは——ない」
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「——この、星が——太陽に——近づいている」
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——ぞくり。
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誠の——背筋が——凍った。
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「……近づいて——いる」
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「——そうだ」
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「——星は——本来——決まった——道を——巡っている。だが——その、道が——狂った」
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「——この、星は——今——少しずつ——太陽に——引き寄せられている」
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「——だから——年々——熱く——なる。氷が——溶ける。海が——満ちる」
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「——すべて——説明が——つく」
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誠は——立っていられなく——なって。
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——その場に——座り込んだ。
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「……そんな」
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「——だから——言えなかった」
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賢者は——静かに——言った。
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「——相手は——魔王では——ない。悪意でも——ない」
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「——星の——運行、そのものだ」
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「——剣が——届くか? 魔法が——効くか? レベルが——十兆——あれば——星を——押し戻せるか?」
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「——できるはずが——ない」
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——重い——沈黙。
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「……賢者さん」
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誠は——かすれた——声で——尋ねた。
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「——あと——どのくらい、ですか」
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「……正確には——分からん」
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賢者は——目を——伏せた。
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「——だが——加速している。年々——速く——なっている」
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「——このまま、なら……そう——長くは——ない」
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「——まず——地上が——完全に——死ぬ。次に——海が——干上がる」
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「——そして——最後には——地下も——灼ける」
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「——この、星は——太陽に——飲まれる」
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「…………」
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誠は——両手で——顔を——覆った。
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——地下は——最後の——逃げ場では——なかった。
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——逃げ場など——どこにも——なかった。
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「……なぜ」
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誠は——呻いた。
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「——なぜ——星の——道が——狂ったんですか」
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「——それは——分からん」
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賢者は——首を——振った。
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「——星の——運行を——狂わせる、など……それこそ——神の——業だ」
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「——一体——何が——あれば——そんなことが——起きるのか。私には——見当も——つかん」
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——神の——業。
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その——言葉に。
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誠の——胸が。
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——どくん、と——鳴った。
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(——神様)
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(——"知る、順番が——ある"、って——言ってた)
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(——"気に——せんでええ"、って——言ってた)
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(——星喰いとの——戦いの、後から——異変が——始まった、って——言っても)
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(——"違う"、とは——言わなかった)
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「…………」
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誠は——ゆっくりと——顔を——上げた。
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その、目には。
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——恐怖と。
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——そして——ある——予感が——あった。
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「……賢者さん」
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「なんだ」
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「——僕、心当たりが——あるかも——しれません」
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賢者が——目を——見開いた。
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「——なんだと?」
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「——でも」
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誠の——声は——震えていた。
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「——それが——本当なら」
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「——これを——招いたのは……」
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——僕たちだ。
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その、言葉を。
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誠は——最後まで——言えなかった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「賢者さんに、"仮説は、太陽ですね"、って、言った。……当たってた。でも、"太陽が、熱くなってる"、んじゃ、なかった。"この星が、太陽に、近づいてる"、んだって。星の道が、狂って、引き寄せられてる。だから、年々、熱くなる。氷が、溶ける。海が、満ちる。全部、説明が、つく。……あと、どのくらいか、聞いたら、"加速してる。そう長くはない。地上が死んで、海が干上がって、最後は、地下も、灼ける"、って。逃げ場、なかったんだ。どこにも。"なぜ、星の道が、狂ったのか"、って、聞いたら、"分からん。星の運行を、狂わせるなど、神の業だ"、って。……神の、業。神様。"知る順番がある"。"気にせんでええ"。"星喰いの後から、異変が始まった"、って言っても、"違う"、とは、言わなかった。……僕、心当たりが、ある。でも、それが、本当なら。これを、招いたのは、僕たちだ。じいちゃん。僕、どうしたら、いい」
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一つの、月が——地下の——闇の——奥で。
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——ただ——静かに——揺れていた。




