第44話「太陽が、大きい」
賢者と——話した——数日、後。
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久しぶりに——夜の——地上に——出る——用が——できた。
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日が——落ちれば。
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地上も——なんとか——動ける。
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畑の——手入れは——今や——夜の——仕事、だった。
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「——師匠。今夜は——薬草の——収穫、ですね」
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「ああ。ルカ、水筒——持ったか?」
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「——はい——!」
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地上に——出ると。
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生ぬるい——夜風が——頬を——撫でた。
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「……夜でも——蒸すなあ」
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「——ですね」
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二人は——黙々と——薬草を——摘んだ。
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——そして。
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作業が——一段落した——頃。
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東の——空が。
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——うっすらと——白み始めた。
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「——おっと。そろそろ——戻らないと」
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「——はい」
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籠を——担いで——立ち上がった——その、時。
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——誠は。
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ふと——東の——空を——見た。
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——そして。
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——動けなく——なった。
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「…………」
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「——師匠? どうしました?」
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——太陽が。
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昇ってくる。
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——大きい。
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「……ルカ」
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誠の——声は——かすれていた。
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「——はい?」
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「——あの——太陽。……大きく——ないか?」
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ルカも——東の——空を——見た。
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「——え? そう——ですか? いつも通りに——見えますけど」
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「……そう——か」
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ルカは——まだ——幼い。
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「昔の——太陽」を——知らない。
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——だが。
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誠は——覚えている。
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祖父と——並んで——見た——朝日。
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八百屋の——店先から——見上げた——夕日。
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星喰いとの——戦いの、後に——皆で——見た——あの——空。
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——あの——頃の——太陽は。
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——こんなに——大きくは——なかった。
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「……気の——せい、だよな」
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誠は——呟いた。
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——第一話から——ずっと。
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何度も——何度も——繰り返してきた——その、言葉を。
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——けれど。
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今度、ばかりは。
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——打ち消せなかった。
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昇る——太陽は。
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——地平線を——押しのけるように——大きく。
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そして——その、光は。
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——朝だ、というのに。
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——もう——肌を——灼き始めていた。
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「——師匠——! 熱いです——! 早く——戻りましょう——!」
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「……ああ」
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地下へ——駆け降りながら。
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誠の——頭の中では。
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——これまでの——すべてが。
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——一つに——繋がろうと——していた。
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——北の——年寄りの——たわごと。
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「太陽が——年々——近づいて——きている、気が——する」
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——一色の——問いかけ。
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「最近——太陽が——少し——大きく——見えない?」
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——駄々丸の——戯言。
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「この、暑さ。溶ける——氷。沈む——島。全部——あの、太陽の——せい、だとしたら?」
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——キャプテン・フリーダムの——叫び。
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「太陽——という名の——悪党だな——! 任せろ——!」
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——賢者の——恐怖。
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「魔王でも——ない。魔法でも——ない。剣でも——届かん」
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——そして。
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賢者が——書物を——閉じる——前に。
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——見上げていた——天井の——遥か——上。
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「…………」
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誠は——地下の——通路で——立ち止まった。
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「——師匠?」
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「……ルカ」
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誠の——声は。
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——自分でも——驚くほど——震えていた。
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「——賢者さんを——呼んできてくれ」
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「——今すぐ、だ」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「夜、薬草を、採りに、地上に、出た。帰り際、日の出を、見た。……太陽が、大きかった。ルカは、"いつも通り"、って、言うけど、あの子は、昔の、太陽を、知らない。僕は、覚えてる。じいちゃんと、見た、朝日。店先から、見た、夕日。星喰いの後に、皆で、見た、空。……あの頃の、太陽は、こんなに、大きくなかった。ずっと、"気のせい"、って、思ってきた。何度も、何度も。でも、今日は、打ち消せなかった。北の、年寄りが、言ってた。一色さんも、言った。駄々丸さんも、言った。フリーダムさんは、殴りに、行った。賢者さんは、天井の、上を、見上げて、"まさか"、って、言った。……全部、同じ、ところを、指してる。じいちゃん。僕、たぶん、分かっちゃった。でも、まだ、信じたくない。だから、賢者さんを、呼んだ。……確かめないと」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——そして——この、夜。
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初めて——誠は。
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——「まだ知らない」、の——外側に——足を——踏み出した。
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長い、長い——あいだ。
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誰もが——見上げながら。
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誰もが——「まさか」、と——目を——そらしてきた——その、答えに。
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——ただ一人。
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戦う、力も——レベルも——持たない——八百屋の——男が。
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——たどり着こうと——していた。




