表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
299/447

第43話「賢者の、沈黙」

翌日から。




賢者の——様子が——おかしくなった。






「——賢者さん。ご飯——ですよ」





誠が——声を——かけても。





「……ああ」





と——上の空で——答えるだけ。






食事にも——ろくに——手を——つけず。





一日中——書物と——にらめっこを——している。






「——おい、賢者。何を——しておる」





光の勇者が——覗き込んだ。






「……計算だ」





「計算?」






「——気温の——上昇率。海面の——上昇量。極地の——融解速度」





賢者は——紙に——数字を——書き殴りながら——言った。






「——これらの——変化は——一定では——ない。加速——している」





「——加速?」






「——去年より——今年。今年より——来年。変化の——幅が——大きくなっている」





「——つまり——この、異変は——年々——ひどく——なる、ということだ」






「…………」






その場に——いた——皆が——黙り込んだ。






「——では——賢者よ」





英雄が——静かに——尋ねた。






「——この、加速は——いつまで——続く。そして——最後は——どうなる」






賢者の——手が——止まった。






「…………」






「——賢者?」






「——分からん」






賢者は——顔を——上げずに——言った。






「——原因が——分からねば——終わりも——読めん」






「……そうか」







——だが。






誠は——気づいてしまった。






——賢者の——手が。





——かすかに——震えていた、ことに。







その、夜。






誠は——賢者の——もとを——訪ねた。






「——賢者さん。お茶——持ってきました」





「……ああ。すまない」






誠は——湯呑みを——置いて。





そして——隣に——腰を——下ろした。






「——賢者さん」





「……なんだ」






「——何か——分かったんじゃ——ないですか」






賢者の——肩が——ぴくり、と——動いた。






「……なぜ——そう——思う」





「——手が——震えてました」






「…………」






賢者は——長い、こと——黙っていた。






そして——やがて。





——ぽつり、と——言った。






「……仮説が——ある」





「はい」






「——だが——口には——できん」






「——なぜ、ですか」






賢者は——ゆっくりと——誠を——見た。






その、目には。





——学者の——冷静さでは、なく。





——剥き出しの——恐怖が——あった。






「——もし——それが——正しければ」





賢者は——声を——絞り出した。






「——我々に——できることは——何も——ない」






「…………」






「——魔王でも——ない。魔法でも——ない。剣でも——届かん」





「——どんな——英雄が——何人——集まろうと……手も——足も——出ん」





「——そういう——類の——ものだ」







誠は——ぞくり、と——した。






「……それを——言ったら——どうなるんですか」






「——皆が——絶望する」





賢者は——静かに——言った。






「——勝てぬ、と——知れば——人は——立てなく——なる」




「——だから——言えん。……確証を——得るまでは」







「……賢者さん」





誠は——静かに——言った。






「——僕は——それでも——知りたいです」





「——なぜだ」






「——知らないと——何も——できないから、です」






誠は——真っ直ぐに——賢者を——見た。






「——相手が——分かれば——たとえ——勝てなくても……備える、ことは——できます」




「——どれだけ——時間が——あるのか。どこまで——ひどく——なるのか。それが——分かれば——人を——逃がす——準備も——できます」





「——絶望する、かも——しれません。でも——何も——知らないまま——ある日——突然——終わる、よりは」




「——ずっと——いいです」







賢者は。





——長い、こと——誠を——見つめていた。






そして。






「……お前は——強いな」





と——呟いた。






「——僕、レベル三——くらいだ、そうですけど」





「——そういう——強さでは——ない」






賢者は——ふっと——笑って。





そして——湯呑みを——手に——取った。






「……分かった」





「——確証を——得たら——真っ先に——お前に——言おう」






「——ありがとう——ございます」






「——ただし」






賢者は——茶を——一口——飲んで。





そして——静かに——付け加えた。






「——覚悟——して——おけ」





「——それは——お前が——今まで——見てきた——どんな——脅威とも——違う」





「——星喰い、などとは——比べ物にも——ならん」







誠は——ごくり、と——喉を——鳴らした。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「賢者さんの、様子が、おかしい。ずっと、計算してる。"変化が、加速してる。去年より、今年、今年より、来年、ひどくなる"、って。"最後は、どうなる"、って、聞かれても、"分からん"、って。……でも、手が、震えてた。夜、お茶を、持って、行って、"何か、分かったんじゃ"、って、聞いたら……"仮説が、ある。でも、口には、できん"、って。"もし、正しければ、我々に、できることは、何もない。魔王でも、魔法でも、剣でも、届かん。どんな英雄が、何人、集まっても、手も足も、出ない"、って。……怖かった。でも、"それでも、知りたい。知らないと、何も、できない。相手が、分かれば、勝てなくても、備えられる。何も、知らないまま、ある日、突然、終わるより、ずっといい"、って、言った。賢者さん、"お前は、強いな"、って。……"確証を、得たら、真っ先に、言う"、って。でも、"覚悟しておけ。星喰いなどとは、比べ物にも、ならん"、って。じいちゃん、僕、怖い。でも、逃げないよ」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。賢者が——「口には——できん」、と——飲み込んだ——その、仮説が。



——恐ろしいほど——正しかった、ことを。


そして——「知らないまま——終わるより——ずっと——いい」、と——言い切った——その、覚悟こそが。



——やがて——世界中の——誰にも——できなかった——ことを……この、モブに——だけ——為さしめる、ことに——なるのも——今は……まだ、誰も——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ