第29話「傭兵団長、竜崎」
疫病が収束してから、一ヶ月が過ぎた。
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「田中、ちょっと、いいか」
ある日、竜崎が、村の誠の店を訪れた。以前のような快活さは戻っていたが、どこか、以前とは違う落ち着きが、その表情に加わっていた。
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「どうしたんだ、改まって」
「実は、部隊のことで、相談したいことがあってな」
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竜崎は、店の椅子に腰掛け、少し考えるように話し始めた。
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「あの一件以来、俺、色々考えたんだ。傭兵団っていうのは、戦って稼ぐのが本業だ。でも、それだけじゃ、駄目なんじゃないかって」
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「駄目、というと?」
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「あいつが死んだのは、疫病だった。剣も、盾も、何の役にも立たなかった。俺は、部下を守るためなら、剣を振るう覚悟はある。でも、病気からは、守ってやれなかった」
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誠は、黙って、竜崎の言葉に耳を傾けた。
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「だから、田中。俺の部隊に、お前の薬草の知識を、教えてもらえないか。応急処置とか、簡単な薬草の使い方とか。せめて、次に同じことが起きた時、俺たちだけでも、対処できるように」
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誠は、少し驚いた。
「竜崎が、そんなことを考えるようになるとは、思わなかった」
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「俺だって、変わるさ。あいつの死は、無駄にしたくない」
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こうして誠は、定期的に、竜崎の傭兵団に、基礎的な薬草知識と応急処置を教えるようになった。
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「いいか、この葉は、傷口の消毒に使える。こっちは、熱を下げる効果がある」
誠が、実際の薬草を手に、団員たちに説明していく。
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「田中さんの言うこと、ちゃんと覚えとけよ! 今度こそ、俺たちの手で、仲間を守るんだ!」
竜崎が、団員たちに、そう発破をかけた。
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「隊長、随分と、真剣ですね」
若い団員の一人が、少し驚いた様子で言った。
「当たり前だろ。俺たちは、剣を振るうだけが仕事じゃない。仲間の命を守るのも、仕事のうちだ」
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竜崎の変化は、団員たちにも、確実に伝わっていた。
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「田中さんよぉ」
ある日の稽古の後、竜崎が、少し照れくさそうに切り出した。
「実は、俺の部隊、名前を変えようと思ってるんだ」
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「名前を?」
「ああ。今までは、ただの『竜崎傭兵団』だったんだが……」
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竜崎は、少し考えてから、続けた。
「『守り竜団』ってのは、どうだ。戦うことだけじゃなく、守ることも、大事にする集団として」
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誠は、その名前に、微笑んだ。
「いい名前だと思う」
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「よし、決まりだ」
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それから、竜崎の部隊——守り竜団は、単なる戦闘集団としてだけでなく、疫病や災害の際の、後方支援にも積極的に関わるようになっていった。
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「田中さんの薬草知識のおかげで、うちの団は、随分と評判が良くなってな」
竜崎が、ある日、誇らしげに報告してきた。
「怪我人の治療も、素早くできるようになったし、疫病の兆候にも、早く気づけるようになった」
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「それは、竜崎たちの努力の成果だよ」
「いや、田中のおかげだ。感謝してる」
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「あの、竜崎」
誠は、少し気になっていたことを、尋ねてみた。
「あの兵士の妹さんは、その後、どうしてる?」
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竜崎の表情が、少し柔らかくなった。
「実は、時々、様子を見に行ってるんだ。まだ、若いのに、天涯孤独になっちまってな。何か、力になれることがないか、考えててさ」
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「そうか」
「今度、俺の団の、事務仕事を手伝ってもらおうかと思ってる。あいつも、少しずつ、前を向けるように」
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誠は、その言葉に、竜崎の中の、確かな成長を感じた。
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「竜崎、お前、いい隊長になったな」
「そうか? まだまだ、あいつが生きてたら、もっとうまくやれてたのかもしれないけどな」
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竜崎は、少し寂しげに笑いながら、そう呟いた。
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「でも、これからも、あいつの分まで、部下たちを守っていくよ」
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その日の別れ際、竜崎は、誠に、そう約束するように言った。
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「また、何かあったら、頼らせてもらうぞ、田中」
「ああ、いつでも」
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その夜、誠は祖父のノートに、こう書き加えた。
「竜崎が、傭兵団の在り方を、変えようとしている。戦うだけじゃなく、守ることも大切にする集団に。あの一件は、竜崎にとって、辛い経験だったはずだ。でも、それを、前に進む力に変えている。じいちゃん、人は、悲しみから、何かを学び、変わっていけるものなんだな」
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窓の外、二つの月が、静かに輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。この「守り竜団」が、この後の戦争や厄災の中で、田中商会と共に、多くの命を救っていく、心強い協力者になっていくことを。
そして、竜崎という一人の友の変化が、誠自身の商会の在り方にも、静かに影響を与えていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




