第41話「歩く、勇者」
アルフレートの——ダイエットは。
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想像以上に——過酷な——道のり、だった。
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初日。
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「——ぜえ……はあ……。もう——だめだ……」
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地下通路の——四分の一で——脱落。
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三日目。
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「——ぐ……。三分の一……いけたぞ……」
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「——おお! 伸びましたね——!」
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七日目。
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「——半分——だ——! 半分——歩けた——!」
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「——すごい——! やりましたね——!」
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半月、後。
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「——一周——完了——!」
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アルフレートが——汗だくで——拳を——突き上げた。
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「——おめでとうございます——!」
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ルカが——拍手を——した。
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「——ふはは——! この、俺に——不可能は——ない——!」
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「——アルフレート様。前は——立つのにも——手を——貸してましたけどね」
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「——それは——言うな——!」
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そして——アルフレートは。
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約束通り——八百屋の——手伝いにも——復帰した。
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「——よし——! 芋の、袋——運ぶぞ——!」
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「——無理——しないで——くださいね」
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——ずしん。
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「——ぬ……ぐ……お、重い……」
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「あの、それ——ルカが——運んでる——やつです」
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「——小僧に——負ける、だと——!?」
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アルフレートは——妙な——ところで——火が——ついて。
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必死に——芋を——運び始めた。
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——ひと月、後。
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「——田中。……見よ」
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アルフレートが——神妙な——顔で——現れた。
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「どうしました?」
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「——帯が——一つ——緩んだ」
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「——おお——!」
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確かに——ほんの——少しだけ。
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腹の——出っ張りが——引っ込んだ——気が——した。
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「——すごいじゃ——ないですか——! 続けた——甲斐が——ありましたね——!」
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「——うむ」
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アルフレートは——じっと——自分の——手を——見つめた。
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「——なあ、田中」
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「はい?」
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「——これは——"レベル"、には——出ん、な」
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「え?」
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「——毎日——歩いて。芋を——運んで。腹が——少し——引っ込んだ」
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「——だが——俺の——レベルは——5、の——ままだ。一つも——上がって——おらん」
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アルフレートは——ふしぎそうに——首を——かしげた。
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「——なのに——不思議、だ」
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「——魔物を——倒して——レベルが——上がった、時よりも」
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「——今の、方が……"強くなった"、気が——する」
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誠は——目を——見開いた。
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「……アルフレート様」
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「——む?」
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「——それ、すごく——大事なこと——言ってますよ」
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「——そうか?」
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「はい」
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誠は——微笑んだ。
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「——数字に——出ない——成長、って——ありますよね」
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「——僕、ずっと——そう——思ってて」
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「僕、自分の——レベル——見えないんです。神様が——たまに——"上がってるで"、って——教えて——くれるだけで」
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「——だから——自分が——どれだけ——成長したのか——全然——分からない」
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「——最初は——それが——ちょっと——寂しかったんですけど」
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誠は——空を——見上げた。
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——正確には——地下の——天井を。
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「——最近は——思うんです。数字に——出なくても……ちゃんと——変わってるものは——変わってるんだな、って」
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「……ふむ」
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アルフレートは——腕を——組んで。
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そして——深く——頷いた。
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「——確かに、な」
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「——俺は——レベル——三千八百を——超えていた——頃より」
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「——今の、方が……ずっと——毎日が——楽しい」
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「——それ、いいですね」
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「——うむ」
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——と。
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その、時。
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「——ふん。何を——生ぬるい、ことを」
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通りかかった——武闘家が——鼻を——鳴らした。
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「——数字に——出ぬ——成長——だと? 笑わせるな」
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「——強さとは——数字だ。レベルが——すべてだ」
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「——現に——俺は——レベル——十兆——だぞ」
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「——じゃあ——武闘家さん」
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誠が——ふと——尋ねた。
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「——レベル——十兆に——なって——何か——変わりました?」
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「——む?」
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「暑さ——止められました?」
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「……いや」
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「島の——水没——止められました?」
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「……いや」
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「——じゃあ——十兆って——何、だったんですか?」
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「…………」
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武闘家は——言葉を——失った。
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「あ——す、すみません——! 意地悪な——言い方——しました——!」
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誠は——慌てて——謝った。
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「——いや」
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武闘家は——首を——振った。
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「……お前の——言う、通り、だ」
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「——俺の——十兆は……何も——救わなかった」
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彼は——自分の——拳を——じっと——見つめて。
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そして——静かに——去っていった。
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「……悪いこと——言っちゃったかな」
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「——いや」
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アルフレートが——首を——振った。
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「——あれは——奴が——自分で——考えねば——ならん、ことだ」
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「——俺も——そうだった、からな」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様の、ダイエット、続いてる。最初は、通路の、四分の一で、脱落。半月で、一周、できるように、なった。八百屋の、手伝いも、復帰。芋の袋、必死に、運んでる。ひと月で、"帯が、一つ、緩んだ"、って、報告に、来た。すごい! それで、アルフレート様が、いいこと、言った。"これは、レベルには、出ない。レベルは、5のまま。なのに、魔物を、倒して、レベルが、上がった時より、今の方が、強くなった気が、する"、って。……僕も、ずっと、そう、思ってた。自分の、レベル、見えないから、どれだけ、成長したか、分からない。最初は、寂しかったけど、最近は、"数字に、出なくても、変わってるものは、変わってる"、って、思う。武闘家さんが、"強さは、数字だ、レベルが、すべてだ、俺は十兆だ"、って言うから、つい、"十兆になって、暑さ、止められました?"、って、聞いちゃった。……言い過ぎた。でも、"お前の言う通りだ。俺の十兆は、何も、救わなかった"、って。じいちゃん、強さって、なんだろうね」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。アルフレートが——気づいた——「レベルに——出ない——成長」、という——その、言葉が。
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——やがて——誠、自身の——身に——起きる……とてつもない——"種明かし"、の——前触れで、あったことを。
そして——「自分の——レベルが——見えない」、という——誠の——ささやかな——寂しさが。
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——実は——寂しがるような——ものでは——まったく——なかったことも——今は……まだ、知らない。




