第39話「不死身の、魔王たち」
魔王討伐の——騒動から。
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しばらく——経った——ある日。
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「——おい、人間」
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地下の——八百屋に。
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——のっそりと。
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角の、生えた——大男が——入ってきた。
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「——うわあっ——! ま、魔王——!?」
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ルカが——飛び上がった。
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「——え? 魔王さん? 生きてたんですか」
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誠は——けろり、と——した。
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「——師匠——!? なんで——そんなに——平然と——!?」
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「ああ、うん。魔王さんたちは——死なないから」
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「——え?」
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「——うむ。我らは——不死だ」
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魔王は——当たり前の、ように——頷いた。
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「倒されても——数日、休めば——蘇る。魔族とは——そういう——ものだ」
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「——ええっ——!?」
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ルカが——目を——丸くした。
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「じゃ、じゃあ——勇者さんたちが——四十七体——倒した——魔王たちも——!?」
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「——皆——ぴんぴん、して——おるわ」
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魔王は——ぶすっ、と——言った。
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「——ただな。倒されるのは——痛いのだ。しばらく——寝込む。迷惑——極まりない」
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「あはは……。すみません、うちの——連中が」
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「——師匠——! 師匠は——知ってたんですか——!?」
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「うん。前から——知ってたよ」
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誠は——あっさりと——頷いた。
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「だから——整理券——配れたんだ。倒されても——死なないって——分かってたから」
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「——早く——言って——ください——!」
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「あれ? 言ってなかった、っけ」
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「——ときに、人間」
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魔王が——本題に——入った。
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「——今日は——礼を——言いに——来たのだ」
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「礼、ですか?」
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「——うむ。あの、時の——ことだ」
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魔王は——遠い——目を——した。
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——それは。
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星喰いとの——戦いの、頃の——話、だった。
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星喰いが——世界を——焼こうと——した、あの——時。
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魔族たちも——また——甚大な——被害を——受けていた。
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住処を——焼かれ。
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同胞を——失い。
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——瀕死の——まま——荒野を——さまよう——魔族の——群れが——あった。
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不死身の——魔族とて。
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星ごと——焼かれれば——蘇る——場所すら——ない。
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「——我らは——もう——だめだと——思った」
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魔王は——静かに——語った。
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「人間どもも——我らを——助けは——せぬ。魔族など——滅んでも——構わぬ、と——思っておろう、と」
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「——だが」
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魔王は——誠を——見た。
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「——お前だけは——違った」
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——そう。
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あの、時。
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倒れた——魔族たちを——見つけた——誠は。
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迷わず——駆け寄って。
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水を——飲ませ。
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薬草を——塗り。
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そして——一人ひとりの——手を——取ったのだ。
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「——生きてください」、と。
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「——あの、瞬間——だ」
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魔王の——声が——震えた。
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「——お前が——我らの——手を——取った——瞬間」
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「——我らの——内で——何かが——爆ぜた」
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「力が——満ちた。傷が——塞がった。そして——我らは……皆——一段——上の——存在へと——変わった」
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「——覚醒、だ」
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「…………」
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誠は——気まずそうに——頭を——掻いた。
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「あー……。あれ、僕の——体質——みたいな——もので……」
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「——体質——だと?」
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「はい。昔から——なんです。僕が——触って——相手が——本気で——応えると……なぜか——相手が——覚醒するんです」
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「僕自身は——全然——強くならないんですけど」
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「……ふん」
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魔王は——鼻を——鳴らした。
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「——体質だろうが——なんだろうが——構わん」
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「——我らが——救われた——事実は——変わらぬ」
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「あの、後——我らは——強く——なった。レベルも——跳ね上がった」
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「魔族の——歴史上——最も——強い——世代、だと——言われて——おる」
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「——それは——めでたい——ですね」
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「——だが」
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魔王は——ふう、と——息を——ついた。
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「——その、強さも——今の——この、暑さには——何の——役にも——立たん」
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「…………」
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——また、それか。
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誠は——重い——気持ちに——なった。
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「——ときに、人間」
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魔王が——ふと——言った。
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「——礼、ついでに——一つ——言っておく」
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「はい?」
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「——あの、勇者どもだが」
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魔王は——地上の、方を——顎で——示した。
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「——妙、だと——思わぬか」
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「妙、というと」
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「——奴らは——皆——"別の——世界"、から——来たと——言う」
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「——だが——世界と——いうものは……そう——簡単に——渡れる——ものでは——ない」
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魔王の——目が——鋭くなった。
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「——余程の——ことが——なければ——な」
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「——余程の——こと?」
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「——さあな。我にも——分からん」
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魔王は——立ち上がった。
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「——だが——気に——留めて——おけ。あれだけの——数の——"英雄"、が——一度に——流れ込んでくる、など」
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「——尋常では——ない」
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そう——言い残して。
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魔王は——のっそりと——去っていった。
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「……尋常じゃ——ない、か」
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誠は——その——言葉を——胸の中で——繰り返した。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「魔王さんが、店に、来た。ルカ、腰、抜かしてた。実は、魔族は、不死身なんだよね。倒されても、数日で、蘇る。だから、僕、整理券、平気で、配ってた。言い忘れてた。四十七体、倒された、魔王さんたちも、全員、ぴんぴん、してるって。ただ、"倒されるのは、痛い。迷惑極まりない"、って。ごめんなさい。それで、魔王さん、"礼を、言いに来た"、って。星喰いの時、瀕死で、さまよってた、魔族の人たちを、僕が、助けたこと。手を、取って、"生きてください"、って、言ったら……覚醒して、みんな、強くなったって。僕の、体質だけど。"体質だろうが、救われた事実は、変わらぬ"、って。……でも、"その強さも、今の暑さには、役に立たん"、って。それから、気になること、言われた。"あれだけの数の、英雄が、一度に、流れ込んでくるのは、尋常ではない。世界は、そう簡単に、渡れるものではない"、って。……確かに。なんで、あんなに、たくさん、来たんだろう」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。魔王が——最後に——残した——「尋常では——ない」、という——その、言葉が。
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——空から——降ってきた——英雄たちの……誰にも——言えない——事情に——触れる——ものであったことを。
そして——かつて——誠が——瀕死の——魔族の——手を——取って——救った、ように。
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——やがて——彼が——手を——取ることに——なるのが。
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「主人公」を——名乗る——あの——寂しい——英雄たちで、あることも——今は……まだ、知らない。




