第38話「答えない、神様」
その、夜から。
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誠は——毎晩——月に——呼びかけるように——なった。
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(——神様)
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(——聞こえてますか)
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(——教えて——ください)
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だが——返事は——なかった。
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三日。
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五日。
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七日。
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そして——十日目の——夜。
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『——よお』
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——ふいに。
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頭の中に——あの——のんびりとした——声が——響いた。
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「——神様——!」
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誠は——飛び起きた。
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「——ずっと——呼んでたんですよ——! なんで——返事——してくれなかったんですか——!」
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『いやァ——すまんすまん。ちょいと——立て込んどってな』
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神様の——声は。
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いつも通り——飄々と——していた。
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『麻雀の——大会が——あってな。ワイ——三位や。惜しかったわ』
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「そんな——話——してる——場合じゃ——ないんです——!」
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誠は——珍しく——強い——口調で——言った。
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「——神様。この、世界——今——大変なことに——なってます」
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「暑くて——地上に——出られません。氷が——溶けて——島が——沈んで——人が——地下に——逃げ込んでます」
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「——魔王を——四十七体——倒しても——何も——変わりませんでした」
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『……ほう』
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「——そして」
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誠は——ぐっと——拳を——握った。
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「——調べたら——分かったんです。この、異変が——始まったのは……」
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「——星喰いとの——戦いが——終わった、直後、でした」
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——沈黙。
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しん、と。
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頭の中が——静まり返った。
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「……神様?」
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『…………』
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「神様——聞いてますか」
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『……ああ。聞いとるで』
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その、声は。
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——ほんの、少しだけ。
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——低かった。
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「——神様。教えて——ください」
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誠は——真っ直ぐに——尋ねた。
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「——僕たちが——星喰いを——倒した、こと。それが——今の——この、異変の——原因、なんですか?」
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——長い——沈黙。
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やがて。
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『——誠くん』
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神様は。
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いつもの——調子で——言った。
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『そんなこと——気に——せんでええ』
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「——え?」
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『あの、戦いはな。お前らが——命懸けで——掴んだ——正しい——勝利や』
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『あれが——なかったら——今頃——この、星は——とっくに——灰や』
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『誇っても——ええ、ことやで』
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「……でも——神様」
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『——ええから』
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神様の——声が。
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わずかに——強くなった。
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『気に——すんな。ええな』
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「…………」
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誠は——気づいてしまった。
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——神様は。
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「違う」、とは——言わなかった。
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「——神様」
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誠の——声は——震えていた。
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「——神様は——知ってるんですね」
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「——原因を。全部——知ってるんですね」
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——また——沈黙。
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そして。
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『……なあ、誠くん』
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神様の——声は。
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——今までで——一番——優しかった。
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『世の中にはな。知らんほうが——ええ、ことも——あるんや』
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『いや——正しくは、な』
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『——"知る、順番"、ってもんが——あるんや』
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「——順番?」
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『せや。今——お前が——それを——知っても……何も——できひん。ただ——潰れるだけや』
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『せやから——今は——言わへん』
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「——そんな——! 僕は——!」
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『——誠くん』
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神様は——静かに——遮った。
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『お前は——今——何を——してる?』
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「……え?」
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『地下でな。人に——飯——食わせて。水を——引いて。避難民を——受け入れて。魔族にまで——麦茶——配って』
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『——そういう、ことを——しとるやろ』
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「……それは——できることを——してるだけで」
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『——それで——ええんや』
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神様の——声は。
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どこか——祈るように——聞こえた。
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『それを——続けとき。今は——それが——一番——大事や』
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『——いずれ——嫌でも——分かる、時が——来る』
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『その、時に——お前が——立ってられるように……今は——地味に——続けとき』
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「…………」
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誠は——何も——言えなかった。
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『——ほな。またな』
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「——待って——! 神様——!」
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『——ああ、そや。誠くん』
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去り際に。
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神様は——ぽつり、と——付け加えた。
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『——お前——また——レベル——上がっとるで』
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「……こんな、時に——何を——」
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『——ええから。上がっとる。信じとき』
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そして——神様の——気配は。
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——すう、と——消えた。
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「…………」
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誠は——一人。
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地下の——暗がりで——座り込んでいた。
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(——神様は——知ってる)
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(——でも——教えて——くれない)
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(——"知る、順番"、って——なんだよ)
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悔しかった。
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けれど——同時に。
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——神様の——最後の——言葉が。
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妙に——胸に——残っていた。
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——その、時に——お前が——立ってられるように。
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——今は——地味に——続けとき。
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「……分かりましたよ」
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誠は——ぽつり、と——呟いた。
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「——続けます。地味に」
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「——じいちゃんに——そう——教わりましたから」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「十日ぶりに、神様が、来た。麻雀大会で、三位だったとか、どうでもいい話から。だから、全部、話した。暑さのこと、地下のこと、魔王を、四十七体、倒しても、変わらなかったこと。そして、"異変は、星喰いとの、戦いの直後から、始まってる。それが、原因なんですか"、って、聞いた。……神様、"違う"、って、言わなかった。"気にせんでええ"、"あれは、正しい勝利や"、って、言うだけ。だから、"神様は、知ってるんですね"、って、聞いたら……"知る、順番、ってもんが、ある。今、知っても、潰れるだけや。いずれ、嫌でも、分かる時が、来る。その時、立ってられるように、今は、地味に、続けとき"、って。悔しい。でも、じいちゃんと、同じこと、言うんだな。……最後に、また、"レベル、上がっとるで"、って。こんな時に。でも、"信じとき"、って。じいちゃん、僕、続けるよ。地味に」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。神様が——「知る、順番が——ある」、と——言った、その——本当の——理由を。
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——それが——誠を——守るための——嘘で、あったことを。
そして——こんな、時にまで——神様が——念を、押した——「レベルが——上がっとる」、という——その、一言に。
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——どれほど——深い——ごまかしが——隠れていたのかも——今は……まだ、知らない。




