第37話「原因を、探す」
魔王討伐が——失敗に——終わって。
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数日が——過ぎた。
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英雄たちは——地下で——ふさぎ込んでいた。
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倒すべき——敵が——いない。
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それは——彼らにとって。
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——存在意義を——失うのと——同じ、だった。
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「——おい、モブ……いや、田中」
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光の勇者が——気まずそうに——声を——かけてきた。
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「はい?」
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「……お前は——どう——思う。この、暑さの——原因を」
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初めて——意見を——求められた。
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「僕は——ずっと——同じことを——思ってます」
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誠は——静かに——言った。
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「誰かが——やってる、んじゃ——ない。もっと——大きな——"仕組み"、が——狂ってる、気が——するんです」
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「仕組み……」
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「はい。だから——僕は——調べたいと——思ってます」
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「調べる? どうやって」
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「——地味に、です」
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誠は——にっこりと——笑った。
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こうして。
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誠の——調査が——始まった。
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まず——誠が——したのは。
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——記録を——集める、ことだった。
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「町の——古い——記録を——見せて——ください」
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「農家の——皆さん。何年前から——作物の——出来が——変わりましたか?」
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「漁師さん。海の——水位、いつ頃から——上がり始めました?」
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誠は——一人ひとりに——聞いて——回った。
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そして——それを——丁寧に——書き留めていく。
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「——師匠、それ——何の——役に——立つんですか?」
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ルカが——不思議そうに——尋ねた。
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「うん。ばらばらの——話でもね」
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誠は——手を——止めずに——答えた。
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「たくさん——集めて——並べると……見えてくるものが——あるんだ」
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「じいちゃんが——言ってた。"一つの、畑だけ——見てても——天気は——分からん。村じゅうの、畑を——見て——初めて——分かる"、って」
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「……なるほど」
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そして——数日、後。
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誠の——手元には。
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膨大な——記録が——積み上がっていた。
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「——一色さん。これ——見て——もらえますか」
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誠は——ちょうど——町に——滞在していた——一色を——呼んだ。
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「あら。何——これ」
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「町の——人たちから——聞いた——話です。いつ頃から——何が——変わったか」
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一色は——記録に——目を——通して。
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そして——だんだん——真剣な——顔に——なった。
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「……誠。これ——すごいわ」
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「え?」
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「見て。全部の——記録が——同じ——時期を——指してる」
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一色は——記録を——並べ替えた。
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「暑くなり始めたのも。氷が——溶け始めたのも。海が——満ち始めたのも」
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「——全部——ある、一つの——時期から——始まってる」
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「……いつ、ですか」
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一色は——顔を——上げて。
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そして——静かに——言った。
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「——星喰いとの——戦いが——終わった、直後よ」
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——え。
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誠の——時間が——止まった。
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「……星喰いとの——戦いの——後、から?」
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「ええ。記録が——そう——語ってる」
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「……偶然、ですよね」
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誠の——声は——かすれていた。
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「たまたま——同じ——時期だっただけ、で……」
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「……そうかも——しれない」
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一色も——記録から——目を——離さずに——言った。
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「でも——誠。これだけ——すべての——記録が——同じ、点を——指してる、なら」
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「——偶然と——決めつけるのは……危険だと——思う」
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「…………」
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誠は——記録を——見つめたまま。
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——動けなかった。
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星喰いとの——戦い。
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あれは——世界を——救った——戦いだ。
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皆で——力を——合わせて。
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繋がりの、陣を——放って。
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星を——焼こうとする——脅威を——退けた。
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誇るべき——勝利、だったはず、だ。
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——それが。
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もし。
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——今の——この、異変の。
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——始まり、だったと——したら。
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「……いや」
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誠は——強く——首を——振った。
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「そんな——はず——ない。あれは——正しい——ことだった」
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「あの、時——ああ——しなければ……世界は——焼かれていたんだ」
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「……ええ。そうね」
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一色も——静かに——頷いた。
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「あの、選択が——間違って——いたとは——私も——思わない」
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「ただ——事実として……時期が——重なっている。それだけよ」
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「……はい」
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けれど——誠の——胸には。
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——重たい——澱のような——ものが——沈んだ。
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その、夜。
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誠は——地下の——寝床で——なかなか——眠れなかった。
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(——まさか)
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(——僕たちが——世界を——救った——あの、戦いが)
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(——今の——これを——招いた、なんて)
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——そんなことは。
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——あってはならない。
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誠は——目を——閉じて。
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そして——心の中で——呼びかけた。
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(——神様)
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(——教えて——ください)
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(——一体——何が——起きてるんですか)
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——返事は。
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——なかった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「原因を、調べることに、した。地味に。町の人に、いつから、何が、変わったか、聞いて回って、書き留めた。じいちゃんの、"一つの畑だけ、見てても、天気は、分からん。村じゅうの畑を、見て、初めて、分かる"、って、教え。一色さんに、見てもらったら……全部の、記録が、同じ、時期を、指してるって。暑くなったのも、氷が溶けたのも、海が満ちたのも、全部……"星喰いとの、戦いが、終わった、直後"、から。……嘘だと、思いたい。だって、あれは、世界を、救った、戦いだ。みんなで、力を、合わせて、掴んだ、勝利だ。一色さんは、"あの選択が、間違ってたとは、思わない。ただ、時期が、重なってる、それだけ"、って。……そうだよね。偶然だよね。神様に、呼びかけたけど、返事は、なかった。じいちゃん、僕、怖い。何か、とんでもない、ことが、起きてる気が、する」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。彼が——地味に——集めた——その、記録が。
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——世界の——真実に——最も——近い——場所まで——たどり着いていたことを。
そして——「偶然だ」と——打ち消した——その、"重なり"、こそが。
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——やがて——彼の——胸を——最も——深く——抉る……残酷な——因果で、あったことも——今は……まだ、知らない。
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——神様が——なぜ——返事を——しなかったのかも。




