第36話「帰ってきた、英雄たち」
「真の——魔王」、探しは。
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さらに——半月ほど——続いた。
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そして——ある日。
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討伐隊は——ぼろぼろに——なって——帰ってきた。
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「……ただいま——戻った」
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光の勇者の——声には。
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もう——威勢が——なかった。
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「——おかえりなさい——! 大丈夫ですか——!?」
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誠は——慌てて——迎えに——出た。
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五人の——自称・主人公も。
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厨二病の——若者たちも。
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アメリカン・ヒーローたちも。
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——全員が——疲れ切っていた。
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「——とりあえず——地下へ——! 冷たい——水と——ご飯が——ありますから——!」
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彼らは——ふらふらと——地下へ——降りて。
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そして——誠の——出した——食事に——無言で——かぶりついた。
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——しばらく。
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誰も——口を——きかなかった。
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やがて。
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「……なあ、モブ」
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光の勇者が——ぽつり、と——言った。
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「はい」
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「……俺たちは——何体——倒したと——思う」
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「えっと……。魔王が——一体。先代魔王。大魔王。極大魔王。超越魔王。真・超越魔王……」
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「——四十七体、だ」
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光の勇者は——虚ろな——目で——言った。
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「四十七体の——"魔王"、を——倒した」
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「レベルは——十兆を——超えた」
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「山を——砕き。大陸を——揺るがし。空を——裂いた」
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そして——彼は。
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ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——なのに」
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「——なぜ——世界は——一ミリも——涼しく——ならんのだ——!」
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その、声は。
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——悲鳴に——近かった。
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「…………」
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誠は——何も——言えなかった。
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「——俺は——主人公だ」
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光の勇者は——うわ言のように——呟いた。
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「——主人公は——世界を——救うものだ。敵を——倒し。危機を——退け。皆を——笑顔に——する」
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「——ずっと——そう——してきた。俺の——世界でも——そうだった」
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「……勇者さんの——世界?」
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誠が——聞き返すと。
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光の勇者は——はっと——して。
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——口を——つぐんだ。
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「……いや。なんでも——ない」
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(——今の——なんだろう)
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誠は——引っかかりを——覚えたが。
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追及は——しなかった。
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「——ええい——! 何か——見落として——いるはずだ——!」
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武闘家が——机を——叩いた。
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「——もっと——強い——敵が——! もっと——上の——黒幕が——!」
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「——落ち着け」
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英雄が——静かに——制した。
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「……我々は——おそらく——間違って——いる」
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「——なんだと——!?」
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「四十七体だ」
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英雄は——淡々と——言った。
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「四十七体——倒して——何も——変わらぬなら。四十八体目でも——変わらぬ」
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「——敵が——違うのだ」
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「…………」
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重い——沈黙が——落ちた。
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「……ならば」
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賢者が——低く——言った。
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「本当の——原因は——何だ」
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誰も——答えられなかった。
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その、夜。
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誠は——地下の——通路で。
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一人——座り込んでいる——光の勇者を——見つけた。
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「……勇者さん」
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「……ああ。モブか」
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誠は——黙って——隣に——腰を——下ろして。
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そして——麦茶を——差し出した。
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「……すまん」
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光の勇者は——それを——受け取って。
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ゆっくりと——飲んだ。
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「……なあ、モブ」
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「はい」
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「——俺が——主人公でなければ」
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光の勇者は。
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膝を——抱えたまま——ぽつり、と——言った。
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「——俺は——一体——何なんだ」
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誠は——目を——見開いた。
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その、言葉には。
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これまでの——威勢の——良さは——微塵も——なく。
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ただ——剥き出しの——不安、だけが——あった。
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「——勇者さん」
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誠は——静かに——言った。
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「勇者さんは——主人公じゃ——なくても……勇者さん、ですよ」
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「……何を——言っている」
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「だって——さっき」
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誠は——微笑んだ。
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「——帰ってきた、とき。厨二病の——子たちが——倒れそうだったのを……勇者さん、担いで——連れて——帰ってきたでしょう」
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「——っ」
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「見てましたよ、僕」
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光の勇者は——気まずそうに——目を——そらした。
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「……あれは——ただ——放って——おけなかった、だけだ」
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「——それで——十分じゃ——ないですか」
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誠は——きっぱりと——言った。
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「困ってる——人を——放って——おけない。それって——すごく——立派な、ことです」
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「主人公とか——肩書きとか——関係——ないですよ」
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光の勇者は。
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——長い、こと——黙っていた。
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そして——ぽつり、と——言った。
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「……お前は——変な、奴だな」
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「よく——言われます」
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その、夜。
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光の勇者は——初めて。
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——「モブ」、では、なく。
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「……なあ、田中」
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と——誠を——名前で——呼んだ。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「討伐隊が、ぼろぼろで、帰ってきた。魔王を、四十七体、倒したって。レベルは、十兆超え。山も、大陸も、砕いた。……でも、暑さは、一ミリも、変わってない。勇者さん、"なぜ、涼しく、ならんのだ"、って、悲鳴みたいな、声で。英雄さんが、"四十七体、倒して、変わらないなら、四十八体目でも、変わらない。敵が、違うのだ"、って。……みんな、黙っちゃった。夜、勇者さんが、一人で、座り込んでた。麦茶、持ってったら、"俺が、主人公でなければ、俺は、一体、何なんだ"、って。すごく、不安そうだった。帰ってきた時、倒れそうな、厨二病の子たちを、担いで、連れて帰ってたの、見てたから、"それで、十分、立派です"、って、言った。……そしたら、初めて、"田中"、って、名前で、呼んでくれた。じいちゃん、あの人、悪い人じゃ、ないんだよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。光の勇者が——漏らした——「俺の——世界でも——そうだった」、という——その、一言に。
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——どれほどの——痛みが——隠れていたのかを。
そして——「主人公で——なければ——俺は——何なんだ」、という——その、問いこそが。
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——空から——降ってきた——すべての——英雄が。誰にも——言えずに——抱えていた……たった一つの——恐怖で、あったことも——今は……まだ、知らない。




