第35話「まだ、上がいる」
魔王を——倒しても。
⸻
⸻
世界は——涼しく——ならなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
その、事実に。
⸻
⸻
⸻
討伐隊は——しばらく——茫然と——立ち尽くしていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かったぞ——!」
⸻
⸻
⸻
やがて——光の勇者が——顔を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——こいつは——"真の——魔王"、では——なかったのだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
膝を——ついていた——魔王が。
⸻
⸻
⸻
心底——嫌そうな——顔を——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——考えて、みろ——! こいつが——本物なら——倒した——瞬間に——世界は——元に——戻る——はず——!」
⸻
⸻
「——戻らぬ、ということは——! この、上に——さらなる——黒幕が——いるということ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おおっ——! なるほど——!」
⸻
⸻
⸻
「——さすが——勇者——! 冴えて——おるな——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おい」
⸻
⸻
⸻
魔王が——げんなり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「我より——上、など——おらんぞ。我が——魔王だ。頂点だ」
⸻
⸻
⸻
「——そう——言うと——思ったわ——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——ビシッ、と——指を——さした。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——黒幕は——必ず——そう——言うのだ——!」
⸻
⸻
⸻
「——そんな——理屈が——あるか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あの」
⸻
⸻
⸻
誠が——おそるおそる——口を——挟んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「もう——魔王探し、やめませんか。原因は——たぶん——別の——ところに——ある、と——思うんですけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——モブは——黙って——おれ——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者は——聞く耳を——持たなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いいか——! 世界に——異変が——ある、なら——必ず——黒幕が——いる——!」
⸻
⸻
「——それが——物語の——道理だ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
(——また——それか)
⸻
⸻
⸻
誠は——肩を——落とした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
こうして。
⸻
⸻
⸻
「真の——魔王」、探しが——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——三日、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——見つけたぞ——! 真の——魔王——!」
⸻
⸻
⸻
討伐隊が——引きずってきたのは。
⸻
⸻
⸻
——さらに——立派な——角の——生えた——老魔族、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我は——先代——魔王である……」
⸻
⸻
⸻
老魔族は——ぐったりと——していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「隠居——しておったのだが……なぜ——連れてこられたのだ……」
⸻
⸻
⸻
「——黙れ——! 貴様が——黒幕だな——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドンパチ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——倒したぞ——! これで——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
……暑い。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬうう——! まだ——上が——いるのか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——五日、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今度こそ——! 大魔王——!」
⸻
⸻
⸻
——ドンパチ。
⸻
⸻
⸻
……暑い。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ならば——! 極大魔王——!」
⸻
⸻
⸻
——ドンパチ。
⸻
⸻
⸻
……暑い。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——超越魔王——!」
⸻
⸻
⸻
「——真・超越魔王——!」
⸻
⸻
⸻
「——真・超越魔王・改——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
……暑い。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あの」
⸻
⸻
⸻
誠は——ついに——たまりかねて——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「その、人たち……ただの——魔族の——ご老人とか、では?」
⸻
⸻
⸻
「——黙れ——! こいつらは——黒幕だ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おい、人間」
⸻
⸻
⸻
倒された——魔族たちが——口々に——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——助けてくれ——! 我らは——ただの——隠居暮らしだ——!」
⸻
⸻
「——孫の、世話を——しておっただけだ——!」
⸻
⸻
「——というか——我らも——暑くて——参っておるのだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……ですよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——倒された——魔族たちに。
⸻
⸻
⸻
冷たい——麦茶を——配って——回った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「すみません……。うちの——連中が——ご迷惑を」
⸻
⸻
⸻
「——いや。この、麦茶は——うまい」
⸻
⸻
⸻
「——助かる。生き返るわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
倒された——魔族たちと。
⸻
⸻
⸻
麦茶を——飲みながら——並んで——座る——誠。
⸻
⸻
⸻
⸻
——なんとも——奇妙な——光景、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なあ、旦那」
⸻
⸻
⸻
隣で——駄々丸も——麦茶を——すすっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「あの、旦那がた……いつまで——やるつもりで、ござんしょうね」
⸻
⸻
⸻
「さあ……。倒しても——倒しても——涼しく——ならないのに」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そりゃァ、そうでさァ」
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——さらり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だって——原因は——魔王じゃ——ござんせんもの」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……駄々丸さん」
⸻
⸻
⸻
誠は——駄々丸を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
「駄々丸さんは——原因が——何か——分かってるんですか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸は。
⸻
⸻
⸻
しばらく——黙って——麦茶を——飲んで。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かっちゃ——おりやせん」
⸻
⸻
⸻
「けどねェ、旦那」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——空を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分からねえ、ってことは——分かってやす」
⸻
⸻
⸻
「魔王でも——ない。誰かの——悪だくみでも——ない」
⸻
⸻
⸻
「——もっと——でかくて。もっと——静かで。誰も——手が——届かねえ——ところで」
⸻
⸻
⸻
「——何かが——起きてる」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——ぞくり、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……それって」
⸻
⸻
⸻
「——ま、年寄りの——勘、でさァ」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——ふっと——笑って。
⸻
⸻
⸻
麦茶を——飲み干した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——さて。旦那。そろそろ——帰りやしょう」
⸻
⸻
⸻
「地下の——皆さんが——待って——おりやすよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……そうですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
背後では——まだ。
⸻
⸻
⸻
「——真・超越魔王・改・弐——!」、と——叫ぶ——声が——聞こえていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「魔王を、倒しても、涼しく、ならなかったから……勇者さんたち、"こいつは、真の魔王じゃ、なかった。上に、黒幕が、いる"、って、言い出した。それから、毎日、"真の魔王"、探し。先代魔王、大魔王、極大魔王、超越魔王、真・超越魔王・改……次々、連れてきて、倒してる。でも、全然、涼しく、ならない。倒された、人たち、"我らは、ただの、隠居暮らし"、"孫の、世話を、してただけ"、"というか、我らも、暑くて、参ってる"、って。……だよね。麦茶、配って、一緒に、飲んだ。魔族の、おじいさんたち、"生き返る"、って。……駄々丸さんが、言ってた。"原因は、魔王じゃ、ない。分からねえ、ってことは、分かってる。もっと、でかくて、静かで、誰も、手が、届かないところで、何かが、起きてる"、って。ぞくっと、した。じいちゃん、僕も、そんな気が、するよ」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
まだこの時の誠は知らない。駄々丸が——「年寄りの——勘」、と——笑って——片付けた——その、言葉が。
⸻
——寸分の——狂いも、なく——真実を——言い当てていたことを。
そして——「もっと——でかくて。もっと——静かで。誰も——手が——届かねえ——ところ」、で。
⸻
——本当に——起きていた——ことを——知った、とき。
⸻
——世界中の——英雄が——一人残らず——膝を——折ることに——なるのも——今は……まだ、誰も——知らない。




