第34話「魔王も、暑い」
行列決戦は——三日、三晩——続いた。
⸻
⸻
四天王が——倒れ。
⸻
真・四天王が——倒れ。
⸻
超・究極・真・大魔王・第七形態が——倒れ。
⸻
⸻
⸻
そして——ついに。
⸻
⸻
⸻
行列の——最後尾に——並んでいた——者の——番が——来た。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい……最後の、方ー……」
⸻
⸻
⸻
誠は——もう——声も——枯れていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ。ご苦労だったな、整理係」
⸻
⸻
⸻
のっそりと——歩み出てきたのは。
⸻
⸻
⸻
——立派な——角を——生やした。
⸻
⸻
⸻
威厳の、ある——大男、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——貴様——まさか——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——剣を——構えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「いかにも」
⸻
⸻
⸻
大男は——重々しく——名乗った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我こそが——魔王である」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おおおおっ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
勇者たちが——沸き立った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ついに——出たか——! 貴様が——この、世界を——灼いていた——元凶——!」
⸻
⸻
⸻
「——貴様を——倒せば——すべては——元に——戻る——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——覚悟——しろ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
だが——魔王は。
⸻
⸻
⸻
剣も——抜かず。
⸻
⸻
⸻
ただ——ぼんやりと——空を——見上げて。
⸻
⸻
⸻
そして——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……なあ。お前たち」
⸻
⸻
⸻
「——なんだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——暑く——ないか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
一同が——固まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「いや——我が——魔王城も——な」
⸻
⸻
⸻
魔王は——だるそうに——首の——汗を——拭った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「近頃——暑くて——かなわんのだ。玉座に——座っておっても——汗が——止まらん」
⸻
⸻
「配下の——者どもも——次々——倒れる。溶岩地帯の——連中など——熱すぎて——住めんと——言い出す——始末で、な」
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あの」
⸻
⸻
⸻
誠が——おそるおそる——手を——挙げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「魔王軍も……暑いんですか?」
⸻
⸻
⸻
「暑いに——決まって——おろう」
⸻
⸻
⸻
魔王は——心底——うんざりした——顔で——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「我らとて——生き物だ。この、異常な——暑さには——ほとほと——参っておる」
⸻
⸻
「魔王城も——地下に——移そうか、と——本気で——検討——しておるところだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ま、待て——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——うろたえた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——この、暑さは——貴様の——仕業では——ないのか——!?」
⸻
⸻
⸻
「——は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
魔王は——本気で——きょとん、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「なぜ——我が——自分の、住処まで——灼かねば——ならんのだ」
⸻
⸻
⸻
「そんな——ことをして——我に——何の——得が——ある」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
——正論、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——で、では——誰が——!」
⸻
⸻
⸻
「知らん」
⸻
⸻
⸻
魔王は——即答した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「我らも——原因を——探しておる。だが——皆目——見当が——つかん」
⸻
⸻
「魔族の——長老どもに——聞いても——"こんなことは——歴史上——一度も——ない"、と——言うばかりでな」
⸻
⸻
⸻
⸻
——しん。
⸻
⸻
⸻
⸻
荒野に。
⸻
⸻
⸻
気まずい——沈黙が——落ちた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……えっと」
⸻
⸻
⸻
誠が——おずおずと——口を——開いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「じゃあ——この、戦い……なんだったんですか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「「「「…………」」」」
⸻
⸻
⸻
⸻
誰も——答えられなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ま、まあ——だ——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——ごほん、と——咳払いを——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——原因は——ともかく——! 魔王は——魔王——! 倒すべき——存在に——変わりは——ない——!」
⸻
⸻
⸻
「——おい。人の話を——聞いておったか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——問答無用——! 主人公は——魔王を——倒す——ものだ——!」
⸻
⸻
⸻
「——だから——なぜだ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——結局。
⸻
⸻
⸻
戦いは——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ドゴォォォン!!!
⸻
⸻
⸻
⸻
レベル——三兆と——魔王の——激突。
⸻
⸻
⸻
⸻
大地が——割れ。
⸻
⸻
空が——鳴り。
⸻
⸻
⸻
荒野は——見る影も——なくなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
そして——半日、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぐ……お、おのれ……」
⸻
⸻
⸻
魔王は——膝を——ついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——見たか——! これが——主人公の——力——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——勝ち誇る。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——これで——世界は——救われた——!」
⸻
⸻
⸻
「——おおおおっ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
歓声が——上がる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
その、瞬間。
⸻
⸻
⸻
誠は——ふと——顔を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——暑い。
⸻
⸻
⸻
⸻
肌を——灼く——熱さは。
⸻
⸻
⸻
——一分たりとも——和らいで——いなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あれ」
⸻
⸻
⸻
⸻
歓声が——少しずつ——静まっていく。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……おい」
⸻
⸻
⸻
武闘家が——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しく——ならんぞ?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
一同が——空を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
太陽は——沈もうと——しているのに。
⸻
⸻
⸻
⸻
空気は——じりじりと。
⸻
⸻
⸻
——変わらず——灼けていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——な、なぜだ——!」
⸻
⸻
⸻
光の勇者が——愕然と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王は——倒した——! なのに——なぜ——世界は——元に——戻らん——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
膝を——ついた——魔王が。
⸻
⸻
⸻
——はあ、と——深い——ため息を——ついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……だから——言ったであろうが」
⸻
⸻
⸻
「我では——ない、と」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
誰も——何も——言えなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
誠は——ただ——立ち尽くして。
⸻
⸻
⸻
⸻
生ぬるい——夕暮れの——空を——見上げていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
(——じゃあ)
⸻
⸻
⸻
⸻
(——本当の——原因は)
⸻
⸻
⸻
⸻
(——一体——何なんだ)
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「ついに、魔王が、出てきた。立派な角の、大男。でも、いきなり、"お前たち、暑くないか"、って。魔王軍も、暑さで、参ってるって。"配下が、次々、倒れる。魔王城も、地下に、移そうか、検討中"、って。勇者さんが、"この暑さは、貴様の仕業では"、って聞いたら、"なぜ、自分の住処まで、灼かねば、ならん。何の得がある"、って。……正論、だった。原因、魔王も、探してるけど、分からないって。"歴史上、一度もない"、って。じゃあ、この戦い、なんだったの、って聞いたら、誰も、答えられなかった。でも、勇者さんが、"魔王は、倒すもの"、って、結局、戦って……倒した。"これで、世界は、救われた"、って、みんな、大喜び。……でも、暑さ、全然、変わらなかった。一分も、涼しく、ならなかった。みんな、静かになった。魔王が、"だから、我ではない、と、言ったであろうが"、って。……じいちゃん。じゃあ、本当の、原因は、なんなんだろう。僕、怖いよ」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
まだこの時の誠は知らない。魔王を——倒しても——世界が——涼しく——ならなかった、この——一日こそが。
⸻
——この、物語の——本当の——始まりで、あったことを。
そして——「倒すべき——敵を——倒せば——世界は——救われる」、という——長い、長い——物語の——約束事が。
⸻
——この、世界では——最初から——一度も——成り立って——いなかったことも——今は……まだ、誰も——認めたくないのだった。




