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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

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第33話「レベル、二兆」

行列決戦は。




思いのほか——長引いた。






「——はい——次の、方ー——!」





誠が——整理券を——読み上げる。






「——我こそは——魔王軍——四天王が——一人——!」




「——ふん——! 何人目、だ——!」






——ドンパチ。






「——ぐわあ——! 覚えて——おれ——!」





「——次——!」






——ドンパチ。







そして——奇妙な——ことが——起こり始めた。






「——ぬ? 妙だな」





光の勇者が——首を——かしげた。






「——戦うたびに——レベルが——やたら——上がるぞ」






「え? どのくらい——ですか?」





「レベル——1、から——始まって……今——852、だ」






「——852——!?」





誠は——目を——剥いた。





「たった——半日で——!?」






「——うむ。おかしい」





賢者が——眼鏡を——押し上げた。





「魔王軍の——連中も——倒されるたびに——次の、者が——強くなっている」




「互いに——引っ張り合うように——強さが——跳ね上がっているのだ」







——そして。





事態は——加速した。






「——次の、方——!」





「——我こそは——真・四天王——第一位——!」





「——ふん——! ならば——俺の——新技を——受けてみろ——!」






——ドゴォォォン!!!






山が——一つ——吹き飛んだ。






「——ちょ、ちょっと——! 山——壊さないで——!」





「——すまん——! 加減が——効かん——!」






「——レベル——3万——突破——!」





「——こっちは——5万だ——!」







夕方に——なる、頃には。





数字は——もはや——手が——つけられなく——なっていた。






「——レベル——100万——!」




「——1000万——!」




「——1億——!」






「……えっと」





誠は——整理券を——持ったまま——立ち尽くした。






「——それ、もう——何が——なんだか——分からないですよね?」





「——うむ! 分からん——! だが——強い——!」






「——次の、方——! ……あの、次の方——名前は?」





「——我は——超・究極・真・大魔王——第七形態——!」





「——長い——!」







夜に——なる、頃。






「——レベル——1兆——突破ォォォ——!」





武闘家が——雄叫びを——上げた。






「——ふはは——! 我は——2兆——!」





魔王軍の——幹部が——応じた。






「……二兆」





誠は——呆然と——呟いた。






「——ねえ、賢者さん。レベル——二兆、って——どのくらい——強いんですか?」





「……分からん」





賢者は——静かに——首を——振った。






「もはや——数字が——大きすぎて——比較——できん。1兆と——2兆の——差が——どれほどか——誰にも——分からんのだ」




「——強い、ということしか——分からん」






「じゃあ——数える——意味……」





「——ない、な」






賢者は——遠い——目を——した。







そして——ついに。





技の——名前も——おかしくなり始めた。






「——喰らえ——! "山を——砕く——一撃"——!」





——ドゴォン。






「——甘い——! "大陸を——砕く——一撃"——!」





——ドゴゴゴォン!!!






「——ぬかせ——! "星を——砕く——一撃"——!」






「——待った待った待った——!!!」






誠が——全力で——止めに——入った。






「——それ——撃ったら——僕たちの——住んでる——星も——割れますよね——!?」





「…………」






武闘家が——ぴたり、と——拳を——止めた。






「……む。言われて——みれば」





「言われる——前に——気づいて——ください——!」






「——では——"星を——砕かない——程度の——一撃"、で——いこう」





「——なんですか——それ」






武闘家は——真剣な——顔で——修行を——始めた。






「——ぬん——! ……ぬぬぬ。難しい——! 加減が——難しい——!」






「——なあ、旦那」





隣で——見ていた——駄々丸が——ぽつり、と——言った。






「あの、旦那がた……レベルが——二兆に——なって——星まで——砕けるように——なったそうで」





「はい」





「——ときに——この、暑さは——どうなりやした?」






「……え?」






誠は——空を——見上げた。






夜だ、というのに。





空気は——じっとりと——生ぬるい。






昼間の——地上は——相変わらず——灼熱で。





人は——地下から——出られない。







——何も。





——変わって——いなかった。






「……あれ」





誠は——愕然と——した。






「レベル——二兆に——なっても……暑さは——全然——収まってない」





「——へえ」





駄々丸が——にやり、と——した。






「山を——砕こうが。大陸を——砕こうが。星まで——砕けようが」




「——この、暑さにゃ——一切——効きゃ——しやせんで」






「…………」





誠は——言葉を——失った。







——強くなれば。





——世界は——救えるはず、だった。






なのに。






レベルが——1から——二兆に——なっても。





星を——砕く——力を——手に——入れても。






——世界は——一ミリも——救われて——いない。






「——次の、方ー——!」





背後では——まだ——行列が——続いている。






「——レベル——3兆ォォォ——!」






その、雄叫びを——聞きながら。





誠は——ただ——生ぬるい——夜空を——見上げていた。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「行列決戦、すごいことに、なってる。戦うたびに、勇者も、魔王軍も、どんどん、レベルが、上がって……半日で、852。夕方には、1億。夜には、1兆、2兆。二兆って、何? 賢者さんに、"どのくらい強いの"、って聞いたら、"数字が、大きすぎて、比較できない。強い、ってことしか、分からない"、って。数える意味、ないよね。技も、"山を砕く"、から、"大陸を砕く"、になって、ついに、"星を砕く一撃"、が、出た。慌てて、止めた。僕らの星も、割れるって。武闘家さん、"星を砕かない程度の一撃"、を、練習し始めた。難しいらしい。……でも、駄々丸さんに、"この暑さは、どうなりやした?"、って、聞かれて、はっと、した。レベル、二兆に、なっても……暑さ、全然、収まってない。何も、変わってない。星を、砕ける、力が、あっても、この、暑さには、効かない。……なんだか、怖くなった。じいちゃん、強さって、なんだろう」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。レベルが——二兆に——なろうと。三兆に——なろうと。



——この、世界を——灼いている——"それ"、には。



——ただの——一度も——届かないことを。


そして——「強くなれば——世界は——救える」、という——誰もが——信じて——疑わなかった——その、前提こそが。



——この、物語で——最初に——砕け散る——ものであることも——今は……まだ、誰も——気づかない。

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