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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
沈む世界、再びの日常

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第32話「行列、整理いたします」

魔王討伐隊が——旅立って——数日、後。




思いがけない——報せが——届いた。






「——師匠——! 魔王軍が——見つかったそうです——!」





「——本当か——!?」






なんと。





討伐隊は——本当に。





「魔王軍」を——名乗る——一団を——発見した——という。






「じゃあ——本当に——魔王が——いたのか……」





誠は——半信半疑で。





現場へと——向かった。







——そして。





そこで——誠が——見たのは。






——長い、長い——行列、だった。






「……え?」






荒野の——真ん中に。





二つの——行列が——できていた。






片方は——勇者や——英雄や——厨二病の——若者たち。





もう片方は——角の、生えた——魔物や——魔族たち。






両者は——きちんと——一列に——並んで。





——順番を——待っていた。






「……何——これ」





誠は——ぽかんと——した。






「——おお、旦那! ちょうど——いいところに——!」





行列の——脇から。





扇子を——持った——駄々丸が——ひょっこりと——現れた。






「駄々丸さん——! なんで——ここに——!?」





「いやァ——面白そうだから——ついてきちまいましてね」






駄々丸は——にやり、と——して——行列を——指した。






「——これ、見てくだせェ。傑作でさァ」






聞けば——こういう——ことだった。






魔王軍には——奇妙な——決まりが——あった。






——「強敵は——一人ずつしか——出てこない」。






「なぜ——ですか——!?」





誠が——魔族の——一人に——尋ねると。






「知らん。昔から——そう——決まっておる」





魔族は——けろり、と——答えた。






「四天王も——幹部も——必ず——一人ずつ——順番に——戦う。それが——我らの——掟だ」






「いや——全員で——一斉に——かかれば——勝てますよね!?」





「……まあ——そうだが」





魔族は——気まずそうに——目を——そらした。






「——掟だから——な」






そして——勇者側にも——問題が——あった。






「——主人公は——俺だ——! 俺が——先に——戦う——!」




「——いいや——俺だ——!」




「——フフ——私です——!」






自称・主人公たちが。





「誰が——最初に——魔王軍と——戦うか」で。





——揉めに——揉めていた。






「——収拾が——つかん——!」





「——ならば——並べ——! 並んで——順番を——待て——!」






こうして。





両陣営とも——きちんと——一列に——並んで。





「一対一の——順番待ち」を——することに——なった——のだ、という。






「……なんですか——この——茶番」





誠は——頭を——抱えた。






「——それがねェ、旦那」





駄々丸が——扇子を——ぱちり、と——開いた。






「並ぶのは——いいんですがね。順番を——巡って——また——喧嘩が——始まる」




「割り込みだ——なんだ、と——大騒ぎで——さァ」






「——だから——ワシが——整理券を——配ることに——した——!」





駄々丸は——胸を——張って。





——束の——木札を——取り出した。






「へえ——勇者側の——整理券は——あっしが——担当で——ござい——!」




「——はい、一番——二番——三番——! お並びの、皆さん——札を——お取りくだせェ——!」






「……駄々丸さん、それ——楽しんでますよね」





「——バレやしたか」






「——ときに、旦那」





駄々丸が——にんまり、と——した。






「魔王軍の、方が——整理係が——おりやせんで。手が——足りねェんで——旦那、頼まれちゃ——くれやせんか」





「——ええ!? 僕が——魔王軍の——整理係——!?」






「へえ。誰かが——やらねば——収拾が——つきやせん」






見れば——確かに。





魔王軍の——行列は。





——ぐちゃぐちゃ、だった。






「——おい——! 俺が——先だろう——!」




「——いいや——俺が——四天王の——序列——三位——!」




「——押すな——! 列から——はみ出るな——!」






「……ああ、もう——分かりました——!」





誠は——ため息を——ついて。





木札を——受け取った。






「——はい——! 魔王軍の——皆さん——! 整理券——配りますよー——!」




「——順番に——! 押さないで——! 列から——はみ出さないで——ください——!」






「——おお! すまんな、人間!」




「——四天王・第二位、承った——!」




「——中間管理職・魔将、こちらへ——!」






魔族たちは。





意外にも——素直に——整理券を——受け取って——並んだ。






「……なんで——僕が——魔王軍の——整理を」





誠は——遠い——目を——した。






「——あ、そこの——魔物さん——! 列から——はみ出てますよ——!」




「——おっと——すまん——!」






そして——両陣営の——整理が——ついた——ところで。





いよいよ——「一対一の——順番待ち——決戦」、が——始まった。






「——一番の、方——! どうぞ——!」





「——ふはは——! 我こそは——魔王軍——四天王が——一人——!」





「——ふん——! 俺が——相手だ——!」






——ドンパチ。






「——うおおお——! 覚えて——おれ——!」





「——はい——次の、方——どうぞー——!」






——ドンパチ。






「——はい——次の、方ー——!」






まるで——役所の——窓口、だった。






「……ねえ、駄々丸さん」





誠は——整理券を——配りながら——ぽつり、と——言った。






「これ——魔王軍が——一斉に——かかったら……五分で——終わりますよね?」





「——そりゃァ、もう」





駄々丸も——けろり、と——頷いた。






「向こうさん——数百は——おりやすからね。一斉に——来られたら——勇者の、旦那がたなんぞ——ひとたまりも——ござんせん」





「なのに——なんで——一人ずつ——なんですか」






「——掟——だ、そうで」





「……掟」






二人は——顔を——見合わせて。





そして——深く——ため息を——ついた。






「——なんだかねェ、旦那」





駄々丸が——煙管を——ふかしながら——言った。






「勇者も——魔王も——ご立派な——ことを——言ってやすが……」




「結局——決められた——順番を——律儀に——守って——並んでる、だけ、でさァ」






「……そうですね」





「そんな——ことしてる——間にもねェ」





駄々丸は——ちらり、と——空を——見上げた。






「——世界は——じりじりと——灼けてるんですがねェ」






その、言葉に。





誠は——ふと——手を——止めた。






——そうだ。





こうして——行列を——作って。





律儀に——順番を——守って——戦っている——間にも。






——暑さは。





一日も——休まず——増し続けている。






「……早く——終わらせないと」





誠は——空を——見上げて——呟いた。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「魔王軍が、本当に、見つかった。びっくり。でも、現場に、行ったら……長い、行列が、二つ、できてた。魔王軍には、"強敵は、一人ずつしか、出てこない"、っていう、謎の、掟が、あるらしい。"なんで? 全員で、かかれば、勝てるのに"、って聞いたら、"掟だから"、って。勇者側も、"誰が、最初に、戦うか"、で、揉めて、結局、並ぶことに。それで、駄々丸さんが、勇者側の、整理券を、配ってて……なぜか、僕が、魔王軍の、整理係を、やらされた。"押さないで、列から、はみ出ないで"、って。なんで、僕が、魔王軍の、交通整理を。魔族の人たち、意外と、素直だった。……駄々丸さんが、"勇者も、魔王も、決められた順番を、律儀に、守って、並んでるだけ。そんなことしてる、間にも、世界は、灼けてる"、って。……本当だよ。早く、終わらせないと」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。



まだこの時の誠は知らない。行列を——作り。順番を——守り。律儀に——一人ずつ——戦う——その、営みの——すべてが。



——世界の——本当の——危機の——前では。



——なんの——意味も——持たなかったことを。


そして——整理券を——配りながら——誰よりも——早く——「早く——終わらせないと」、と——空を——見上げた——その、モブこそが。



——ただ一人——本当の——時計を——見ていた、ことも——今は……まだ、誰も——気づかない。

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