第30話「地上が、灼ける」
季節は——巡っていた。
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いや。
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正しくは——巡らなかった。
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秋も——冬も——来ないまま。
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ただ——暑さ、だけが。
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日ごとに——増していった。
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そして——ついに——その日が——来た。
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「——師匠——! 大変です——!」
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ルカが——血相を——変えて——駆け込んできた。
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「地上に——出た——おじさんが——倒れました——!」
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「——なんだって——!?」
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誠は——すぐさま——地上へ——駆け上がった。
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——その、瞬間。
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肌が——ちりちりと——灼けた。
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「——っ! なんだ——この——熱さは——!」
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息を——吸うと——喉が——焼ける。
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日差しは——もはや——光では、なく。
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——刃の——ようだった。
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「——おじさん——! しっかり——してください——!」
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倒れた——男を——誠は——必死に——引きずって。
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地下への——入り口まで——運んだ。
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「——水を——! 早く——!」
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冷たい——水を——飲ませ。
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濡れた——布で——体を——冷やす。
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やがて——男は——うっすらと——目を——開けた。
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「……すまねえ……。ちょっと——畑を——見に——行っただけ、なんだ……」
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「無茶——ですよ——! 昼間の——地上は——もう——人が——いられる——場所じゃ——ありません——!」
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誠は——珍しく——声を——荒らげた。
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「……そうか。もう——そこまで、か」
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男は——力なく——笑った。
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「わしの——畑も……もう——おしまい、か」
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誠は——何も——言えなかった。
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その日を——境に。
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町の——決まりが——一つ——増えた。
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——日中の——外出、禁止。
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「昼間は——絶対に——地上に——出ないで——ください——!」
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誠は——地下の——広場で——皆に——呼びかけた。
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「用が——ある、なら——日が——落ちてから——! 必ず——水を——持って——! 一人では——行かないで——!」
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人々は——静かに——頷いた。
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——こうして。
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人々の——暮らしは。
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完全に——地の底へと——移った。
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畑は——夜に——耕す。
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水は——地下水路から——引く。
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光は——鏡で——導く。
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地上は——もはや。
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——人の、住む——場所では——なくなった。
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だが。
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そんな——灼熱の——地上に。
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——まだ——居座り続ける——者たちが——いた。
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「——ぐっ……あ、暑い……!」
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「——だ、だが——退けん——! ここで——退いては——主人公の——名折れ——!」
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自称・主人公たち、である。
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彼らは——灼けつく——地上で。
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汗だくに——なりながら。
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——まだ——「主人公は——俺だ」、と——言い争っていた。
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「——皆さん——! 何——やってるんですか——! 早く——地下へ——!」
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誠が——呼びに——上がると。
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「——モブは——引っ込んで——おれ——!」
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光の勇者が——ぜえぜえと——息を——切らしながら——叫んだ。
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「——これは——主人公の——座を——賭けた——戦い——! 途中で——降りる、など——できるか——!」
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「そんなこと——言ってる——場合じゃ——!」
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「——うるさい——! 俺は——主人公——なのだ——!」
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「主人公は——皆を——救う——存在だ——! だから——俺は——ここで——退けん——!」
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誠は——言葉に——詰まった。
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——おかしな——話、だった。
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「皆を——救う」、と——言いながら。
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その、皆は——とっくに——地下に——避難している。
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彼らは——誰も——いない——灼熱の——地上で。
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——「誰が——皆を——救う——主人公か」、を——争っている。
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(——なんだか……)
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誠は——ふと——思った。
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(——寂しい、な)
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「……分かりました」
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誠は——ため息を——ついて。
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そして——手に——持っていた——桶を——地面に——置いた。
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「じゃあ——せめて——これ——飲んでください」
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桶には。
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冷たい——麦茶が——なみなみと——注がれていた。
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「——っ」
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五人が——一斉に——桶を——見た。
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「倒れられたら——僕が——困りますから。運ぶの——重いんですよ、皆さん」
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誠は——それだけ——言って。
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さっさと——地下へ——降りていった。
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——残された——五人は。
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しばらく——桶を——見つめて。
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そして——結局。
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——ごくごくと——飲み干した。
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「…………うまい」
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武闘家が——ぽつり、と——言った。
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「……ふん」
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光の勇者は——何も——言わず。
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ただ——空になった——桶を——じっと——見つめていた。
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灼熱の——地上に。
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「主人公」を——争う——者たち。
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涼しい——地の底に。
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人々の——暮らしを——支える——モブ。
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その、二つは。
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この日——はっきりと——分かれた。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「ついに、昼間の、地上に、出られなく、なった。おじさんが、倒れて、運んだ。日差しが、もう、光じゃ、なくて、刃みたい。喉が、焼ける。町の、決まりで、日中の外出、禁止に、した。畑は、夜に、耕す。人の、暮らしが、全部、地下に、移った。……なのに、主人公さんたちは、まだ、灼けつく、地上で、"主人公は、俺だ"、って、争ってる。"主人公は、皆を、救う存在だから、退けない"、って。でも、その、皆は、とっくに、地下に、いるんだよ。誰も、いない、地上で、誰が、皆を、救うか、争ってる。なんだか、寂しく、なった。麦茶だけ、置いて、降りてきた。……全部、飲んだみたい。じいちゃん、僕は、地下で、できることを、やるよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。この日——地上と——地下に——分かれた——二つの——姿こそが。
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——やがて——この、世界が——出す——"答え"、そのもので——あったことを。
そして——誰も——いない——灼熱の——地上で——叫び続ける——者たちが。
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いつか——地の底の——静けさに——たどり着く、その、日まで。
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——まだ——長い——道のりが——あることも——今は……まだ、誰も——知らない。




