第27話「勇者の、はじまり」
その、夜。
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魔法使いの——女性が——旅立った——後。
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誠は——アルフレートと——二人。
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店先で——夜風に——当たっていた。
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「——なあ、田中」
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アルフレートが——ぽつり、と——言った。
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「最近——転移してくる——者たちを——見ていると……昔の——自分を——思い出す」
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「昔の——アルフレート様、ですか?」
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「うむ」
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アルフレートは——夜空を——見上げた。
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「あの——厨二病の——若者たち。"我が、右腕の——闇が"、だの——"覚醒者"、だの……」
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「あれを——見ていると……こう——なんというか——身悶えする」
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「あはは。やっぱり——気持ち——分かるんですね」
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「……うむ。分かる。分かり——すぎるほど、な」
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アルフレートは——ふう、と——ため息を——ついて。
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そして——少し——ためらってから——言った。
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「——田中。俺の——昔の、話を——聞いて——くれるか」
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「え? もちろん——です」
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アルフレートは——しばらく——黙って。
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そして——ぽつり、ぽつりと——語り始めた。
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「——俺はな。実は……最初から——"勇者"、だったわけでは——ないのだ」
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「え?」
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「もっと——昔。ずっと——昔……俺は——ただの——"村人"、だった」
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「村人……?」
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誠は——首を——かしげた。
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「うむ。それも——ただの——村人では——ない」
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アルフレートは——遠い——目を——した。
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「決められた——場所に——立ち。決められた——言葉、だけを——繰り返す」
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「"今日も——いい、天気だね"。"村の、東に——魔物が——出るらしいよ"。……そんな——言葉を——毎日——毎日——同じように——繰り返すだけの」
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「——そういう——"存在"、だった」
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誠は——はっと——した。
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それは——まるで。
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——物語の、中の。
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脇役の——ような。
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「アルフレート様……それって……」
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「うむ。今の——言葉で、言えば……」
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アルフレートは——自嘲気味に——笑った。
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「——"NPC"、というやつ、だな」
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「——!」
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誠は——言葉を——失った。
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かつて——アルフレートは。
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村人を——「NPC」、と——呼んだり。
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自分にしか——見えない——「表示」の——話を——したり——していた。
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——あの、独特の——世界の——見え方は。
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彼が——元は——「そちら側」、だったから——なのか。
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「毎日——同じ——場所で。同じ——言葉を——繰り返す」
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アルフレートは——静かに——続けた。
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「何も——考えず。何も——望まず。ただ——決められた——役割を——こなす、だけ」
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「それが——俺の——"世界"、だった」
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「……でも」
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誠は——おずおずと——尋ねた。
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「アルフレート様は——今——ちゃんと——自分で——考えて——動いてます、よね。どうして——変わったんですか?」
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アルフレートは。
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——ふっ、と——少し——照れくさそうに——笑った。
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「……ある日、な」
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「決められた——言葉を——繰り返している——うちに……ふと——思ったのだ」
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「——"本当に——これで、いいのか"、と」
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アルフレートの——目が。
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遠い——記憶を——見つめる。
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「"俺は——本当は——もっと——すごい——存在なのでは、ないか"」
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「"この、右腕には——秘められた——力が——眠っているのでは、ないか"」
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「"俺こそが——選ばれし——者なのでは、ないか"、と」
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「……えっと」
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誠は——思わず——口を——挟んだ。
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「それって——完全に——あの、厨二病の——若者たちと——同じ……」
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「——言うな——!」
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アルフレートが——真っ赤に——なった。
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「わ、分かって——おる——! 恥ずかしいのは——分かって——おるのだ——!」
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「だが——その——"勘違い"、こそが……俺を——変えたのだ——!」
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アルフレートは——ごほん、と——咳払いを——して。
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続けた。
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「その——根拠のない——自信が——湧いた——瞬間……俺の中で——何かが——変わった」
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「決められた——言葉を——話すのを——やめ……自分の——足で——歩き出した」
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「そして——気づけば……俺の中に——"勇者"、という——文字が——灯っていた」
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「勘違いが……アルフレート様を——勇者に——した?」
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「うむ。……我ながら——情けない——話だが、な」
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アルフレートは——照れ隠しに——頭を——掻いた。
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「だが——今——思うのだ」
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「あの——恥ずかしい——"勘違い"、が——なければ……俺は——今も——決められた——言葉を——繰り返す、だけの——存在だった」
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「あの、厨二病の——若者たちも——同じ、かも——しれん。今は——恥ずかしくても……いつか——本物に——なるのかも——しれん」
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誠は——アルフレートの——横顔を——見つめた。
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決められた——役割しか——持たなかった——存在が。
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「本当は——もっと——できるはずだ」と——信じて。
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自分の——足で——歩き出して。
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そして——本物の——勇者に——なった。
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「……素敵な——話だと——思います」
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誠は——微笑んだ。
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「肩書きとか——最初の——役割とか……そういうの——関係——ないんですね」
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「アルフレート様が——アルフレート様に——なったのは——アルフレート様が——自分で——選んだから、なんだ」
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「……ふ。買いかぶり、だ」
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アルフレートは——照れて——そっぽを——向いた。
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けれど——その、耳は。
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少しだけ——赤かった。
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「——まあ、なんだ」
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アルフレートは——ごまかすように——言った。
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「あの——若者たちにも——優しく——してやれ、ということだ。昔の——俺、なのだからな」
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「はい。……ふふ。アルフレート先輩、として」
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「せ、先輩は——やめろ——!」
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二人は——顔を——見合わせて——笑った。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「アルフレート様が、昔の話を、してくれた。びっくり。アルフレート様、最初は、"勇者"、じゃ、なくて……ただの、村人、それも、決められた、言葉を、繰り返すだけの、"NPC"、みたいな、存在だった、って。だから、独特の、世界の、見え方を、するのか。でも、ある日、"俺は、本当は、もっと、すごい、存在なのでは"、って、思って……って、それ、完全に、厨二病だよね、って言ったら、真っ赤に、なって、怒られた。でも、その、勘違いが、アルフレート様を、勇者に、した、って。肩書きとか、最初の、役割とか、関係ない。自分で、選んだから、勇者に、なった。素敵だな。厨二病の、若者にも、優しく、しろ、昔の俺だから、って。アルフレート様、いい人だ。じいちゃん、人は、変われるんだね」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。アルフレートが——語った——「決められた——役割」、や——「本当の——自分」、という——話が。
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やがて——この、世界の——"仕組み"、そのものに——関わる……大きな——秘密の——入り口で、あったことを。
そして——「最初の——役割が——何であっても……本当の——自分は——自分で——決める」、という——アルフレートの——言葉が。
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——いつか——誠、自身にも——跳ね返ってくることも——今は……まだ、知らない。




