第26話「魔法学院へ、行く」
避難民の——受け入れが——落ち着いた——頃。
⸻
⸻
一人の——若い——女性が。
⸻
⸻
⸻
誠の、店を——訪ねてきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「あの……。すみません。この、町に——魔法を——学べる——場所は——ありませんか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
彼女も——また。
⸻
⸻
⸻
先日——空から——降ってきた——転移者の——一人、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
とんがり帽子に。
⸻
⸻
古めかしい——ローブ。
⸻
⸻
⸻
手には——真新しい——杖を——握っている。
⸻
⸻
⸻
⸻
「魔法を——学べる——場所、ですか」
⸻
⸻
⸻
誠は——首を——かしげた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「そういえば——隣町に——魔法学院、が——ありますよ。ちゃんとした——学び舎、です」
⸻
⸻
⸻
「——本当ですか! よかった……!」
⸻
⸻
⸻
⸻
女性は——ぱあっ、と——顔を——輝かせた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「あの……あなたは——魔術師、なんですか?」
⸻
⸻
⸻
誠が——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
女性は——少し——恥ずかしそうに——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「はい。……といっても——まだ——半人前で。もっと——ちゃんと——魔法を——勉強したくて」
⸻
⸻
⸻
「元の——世界では——一応——"魔法使い"、って——呼ばれてたんですけど……こっちに——来たら——レベルが——1に——なっちゃって」
⸻
⸻
⸻
「基礎から——学び直そうと——思って」
⸻
⸻
⸻
⸻
——なんとも。
⸻
⸻
⸻
謙虚な——魔法使い、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
他の——自称・主人公たちが。
⸻
⸻
⸻
「主人公は——俺だ」と——威張り散らす、中で。
⸻
⸻
⸻
この、女性は。
⸻
⸻
⸻
こつこつと——学び直そうと——している。
⸻
⸻
⸻
⸻
「えらいですね。ちゃんと——勉強しようって」
⸻
⸻
⸻
「そんな……。当たり前の——ことです」
⸻
⸻
⸻
女性は——照れて——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「私……昔から——そうなんです。分からない、ことが——あると——気になって。ちゃんと——調べたり——勉強したり——しないと——落ち着かなくて」
⸻
⸻
⸻
「変、ですよね。こんな、時に——のんびり——勉強だなんて」
⸻
⸻
⸻
⸻
「いえ。すごく——いいと——思いますよ」
⸻
⸻
⸻
誠は——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「僕の——じいちゃんも——言ってました。"地味なことを——丁寧に、飽きずに——続けろ"、って」
⸻
⸻
「あなたの——やろうと——してること、それと——同じだと——思います」
⸻
⸻
⸻
⸻
その、瞬間。
⸻
⸻
⸻
女性が——ふと——動きを——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……地味なことを、丁寧に……」
⸻
⸻
⸻
女性は——その、言葉を——小さく——繰り返して。
⸻
⸻
⸻
そして——不思議そうに——首を——かしげた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……なんだろう。今の——言葉……どこかで——聞いた——ような」
⸻
⸻
⸻
「え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
女性は——じっと——考え込んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「変ですね……。すごく——懐かしい——気が、して。胸が——あったかく——なるような……」
⸻
⸻
⸻
「でも——思い出せない……」
⸻
⸻
⸻
⸻
誠も——なんだか——不思議な——気持ちに——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——また、だ。
⸻
⸻
⸻
この、感じ。
⸻
⸻
⸻
賢者の、時も。
⸻
⸻
厨二病の——若者の、時も。
⸻
⸻
避難民の——女性の、時も。
⸻
⸻
⸻
そして——今も。
⸻
⸻
⸻
⸻
「あの……。僕たち——どこかで——会ったこと、ありませんか?」
⸻
⸻
⸻
誠が——思い切って——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
女性は——はっと——した——顔を——して。
⸻
⸻
⸻
そして——困ったように——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
「……分かりません。でも——なんだか——そんな、気が——します」
⸻
⸻
⸻
「私、こっちに——来る——前の——ことが……あまり——よく——思い出せなくて」
⸻
⸻
⸻
⸻
「思い出せない?」
⸻
⸻
⸻
「はい。名前とか——魔法とかは——覚えてるんですけど……それ、以前の——ことが……もやが——かかったみたいに」
⸻
⸻
⸻
⸻
——記憶が、ない。
⸻
⸻
⸻
そういえば——アルフレートも。
⸻
⸻
⸻
「昔のことは——思い出せない」、と——言っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
(——転移してくると……昔の——記憶を——失うのかな)
⸻
⸻
⸻
誠は——ぼんやりと——思った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——まあ、いいや」
⸻
⸻
⸻
女性は——気を——取り直した。
⸻
⸻
⸻
「とにかく——魔法学院、行ってみます。教えて——くれて——ありがとう——ございました」
⸻
⸻
⸻
「あ——はい。気を——つけて。困ったことが——あったら——いつでも——戻ってきてくださいね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「はい……!」
⸻
⸻
⸻
女性は——嬉しそうに——頷いて。
⸻
⸻
⸻
そして——隣町の——魔法学院へと——旅立っていった。
⸻
⸻
⸻
⸻
その、後ろ姿を——見送りながら。
⸻
⸻
⸻
誠は——胸の——奥の。
⸻
⸻
⸻
あの——きゅっと、なる——感覚を。
⸻
⸻
⸻
しばらく——さすっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——と。
⸻
⸻
⸻
いつのまにか——隣に——駄々丸が——立っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
「——旦那」
⸻
⸻
⸻
「わっ! 駄々丸さん、いつのまに」
⸻
⸻
⸻
「今の——お嬢さん」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——魔法使いの——去った、方を——見つめて。
⸻
⸻
⸻
ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「旦那は——気づいて——おられやせんが……あの、お嬢さんも——ね」
⸻
⸻
⸻
「え?」
⸻
⸻
⸻
「……いや」
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——ふっと——笑って——首を——振った。
⸻
⸻
⸻
⸻
「なんでも——ござんせん。ただ——ね、旦那」
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——煙管を——ふかして。
⸻
⸻
⸻
遠い——目を——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
「近頃——旦那の、店に——来る——お人にゃあ……妙に——旦那と——"縁"、のある——お人が——多い、気が——しやしてね」
⸻
⸻
⸻
「気の——せい、ですかね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「縁……ですか」
⸻
⸻
⸻
「へえ。……ま、いずれ——分かりまさァ」
⸻
⸻
⸻
⸻
駄々丸は——それ、以上は——何も——言わず。
⸻
⸻
⸻
ただ——にんまり、と——笑っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
(——駄々丸さん、絶対——何か——知ってるよなあ)
⸻
⸻
⸻
誠は——訝しく——思ったが。
⸻
⸻
⸻
聞いても——教えて——くれない、ことは。
⸻
⸻
⸻
長い——付き合いで——よく——分かっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「魔法使いの、女の人が、店に、来た。魔法を、学べる場所を、探してて。隣町の、魔法学院を、教えた。他の、主人公さんたちと、違って、すごく、謙虚で、"レベル1に、なったから、基礎から、学び直す"、って。えらいなあ。"分からないことが、あると、ちゃんと、調べないと、落ち着かない"、って。じいちゃんの、"地味なことを、丁寧に"、の話を、したら、その人、"どこかで、聞いた気がする、懐かしい"、って。また、あの、きゅっと、なる感じ。その人も、"こっちに来る前の、記憶が、あんまり、ない"、って。転移すると、記憶、失うのかな。アルフレート様も、そうだった。……駄々丸さんが、また、意味深に、"旦那と、縁のある、お人が、多い。いずれ、分かる"、って。絶対、何か、知ってるよね。じいちゃん、駄々丸さん、教えて、くれないんだよなあ」
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
まだこの時の誠は知らない。魔法学院へと——旅立った——あの、魔法使いが。
⸻
そして——賢者が。厨二病の——若者が。避難民の——女性が。
⸻
——みな——かつて——同じ——教室で——机を——並べた……懐かしい——顔ぶれで、あったことを。
そして——彼らが——失った——記憶の——奥で。誠の——「地味なことを、丁寧に」、という、言葉に——涙ぐみそうに——なる——その、理由も——今は……まだ、知らない。




