第25話「キャプテン・フェイラー」
翌朝。
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キャプテン・フリーダムは。
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——性懲りも、なく。
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また——太陽を——睨んでいた。
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「——ふむ。昨日は——不覚を——取ったが……」
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「今日こそ——あの、太陽という——悪党を——倒して——みせる——!」
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「——待った待った——!」
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誠が——慌てて——止める——より、早く。
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店の、隅から。
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煙管を——くわえた——駄々丸が——のっそりと——出てきた。
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「——旦那。ちょいと——待ちなせェ」
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「——む? なんだ——OLD——MAN」
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駄々丸は——扇子を——ぱちり、と——開いて。
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フリーダムを——上から下まで——眺めた。
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「あんさん——名前を——なんと——言いなすった?」
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「——うむ! 自由と——正義の——ヒーロー——! キャプテン・フリーダム——だ——!」
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「フリーダム、ねェ」
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駄々丸は——にやり、と——した。
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「あっしが——見るところ……その、名前は——ちょいと——看板に——偽り、ありでさァ」
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「——なんだと——!?」
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「だってェ——あんさん」
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駄々丸は——扇子で——空を——指した。
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「昨日——太陽に——挑んで——黒焦げ。今日も——また——挑もうと——して……どうせ——また——黒焦げ、でしょう?」
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「……ぐ」
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「その、調子じゃ——明日も——明後日も——黒焦げ。ずーっと——失敗、し続ける」
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駄々丸は——ぴしゃり、と——扇子を——閉じた。
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「そんな、お人は——"フリーダム"、じゃ——ござんせん」
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「——キャプテン・"フェイラー"。失敗の——キャプテン、でさァ」
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「——フェ、フェイラー、だと——!?」
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フリーダムが——愕然と——した。
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「——ぶはっ!」
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そばで——聞いていた——厨二病の——若者たちが——吹き出した。
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「キャプテン・フェイラー——! ぴったりだ——!」
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「毎回——黒焦げに——なってるもんな——!」
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「——うぬぬ——! 失礼な——! 俺は——フリーダムだ——!」
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「へいへい。じゃあ——今日は——太陽に——挑まねえ、と——約束——できやすかい?」
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「……そ、それは」
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フリーダムは——ぐっ、と——言葉に——詰まった。
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「……挑む」
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「なら——フェイラー、でさァ」
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「——うぬぬぬぬ——!」
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誠は——思わず——吹き出しそうに——なるのを——こらえた。
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(——駄々丸さん、容赦ないなあ)
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「——まあまあ、フリーダムさん」
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誠が——とりなした。
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「太陽に——挑むのは——やめましょう? どうせ——勝てないんですから。それより——昨日みたいに——家を——建ててくれた方が——みんな——喜びますよ」
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「……む。しかし——ヒーローが——悪を——見過ごす、わけには……」
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「太陽は——悪じゃ——ないですってば」
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——と。
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その時。
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駄々丸が——ふと——真顔に——なって。
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ぽつり、と——言った。
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「……いや。旦那」
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「え?」
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「案外——あの、フリーダムの、旦那が——一番——正しい、こと——言ってるのかも——しれやせんぜ」
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誠は——きょとん、と——した。
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「どういう——ことですか?」
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「いやね」
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駄々丸は——煙管を——ふかして。
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空の——太陽を——見上げた。
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「あの、旦那は——"太陽が——この、世界の——一番の——悪だ"、と——言って——挑んでる」
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「みんなは——それを——笑ってる。太陽が——悪な——わけ、ないってね」
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「……はい」
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「でもねェ、旦那」
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駄々丸の——目が。
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すっ、と——細くなった。
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「本当に——そうで——ござんすかね」
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「この、暑さ。溶ける——氷。沈む——島。……全部——あの、太陽の——せい、だと——したら?」
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——どきり。
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誠の——心臓が——跳ねた。
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「駄々丸さん……それって……」
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「——いやいや」
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駄々丸は——ぱっ、と——いつもの——飄々とした——顔に——戻った。
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「——ただの——年寄りの——戯言でさァ。忘れて——おくんなせェ」
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「太陽が——世界を——焼くだなんて……そんな——馬鹿な、話——ありゃしません」
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そう——言って。
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駄々丸は——また——煙管を——ふかし始めた。
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けれど——誠の——胸には。
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その——言葉が。
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ずしり、と——残った。
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——全部、あの——太陽の——せい、だとしたら。
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まさか。
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そんな——はず——ない。
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——でも。
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なぜだろう。
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その——「まさか」、が。
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やけに——胸に——引っかかった。
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「——さあ——! 御託は——いい——! 俺は——行くぞ——!」
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そんな——空気を——ぶち壊すように。
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キャプテン・フリーダムが——飛び立った。
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——そして——三十秒後。
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——ボンッ。ヒュゥゥゥ……ドサッ。
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「……FREEDOM……」
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黒焦げに——なって——落ちてきた。
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「——だから——キャプテン・フェイラーだ、って——言ってるでしょうが——!」
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誠は——思わず——ツッコミながら。
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井戸水を——ぶっかけた。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「フリーダムさん、今日も、太陽に、挑もうとした。駄々丸さんが、"毎回、黒焦げに、なって、失敗ばかり。フリーダムじゃ、なくて、キャプテン・フェイラー(失敗)だ"、って。厨二病の、若者たち、大爆笑。ひどい、あだ名。でも、当たってる。フリーダムさん、結局、飛んでって、また、黒焦げ。学ばないなあ。……でも、駄々丸さんが、変なこと、言った。"あのフリーダムが、一番、正しいのかも。この暑さ、氷、島、全部、太陽の、せいだとしたら?"、って。どきっと、した。まさか、太陽が、世界を、焼くなんて。でも、駄々丸さん、すぐ、"年寄りの、戯言"、って、笑って、ごまかした。……なんか、胸に、引っかかる。まさか、ね。じいちゃん、駄々丸さん、たまに、鋭いこと、言うんだよな」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。駄々丸が——「戯言」、と——笑って——引っ込めた——その、言葉が。
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——世界の——核心を——ずばりと——突いていたことを。
そして——毎回——黒焦げに——なる——「失敗の——キャプテン」、が。誰よりも——早く——本当の——敵の——正体を——見抜いていた、ことも——今は……まだ、誰も——気づかない。




