第27話「屋台で大忙し」
勇者との「死闘」の翌日、大会は準決勝、決勝へと進んでいった。誠の対戦は既に終わっていたが、大会そのものは、まだ数日間続く予定だった。
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「田中殿、次の試合、見に来られますか」
バルガスが、そう誘ってきた。
「はい、せっかくですし、応援に回ります」
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誠は、観客として、残りの試合を見物することにした。しかし、闘技場の周りには、大勢の観客が押し寄せており、飲食の屋台も、大変な賑わいを見せていた。
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「くそ、また品切れか……」
「せっかく並んだのに……」
屋台の一つで、店主が困り果てた様子で、客に頭を下げているのが見えた。
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「あの、どうかしたんですか」
誠が、思わず声をかけた。
「ああ、旅の方かい。実は、この大会用に仕入れた食材が、想定以上の客入りで、すっかり底をついちまってな」
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「大会関係者からも、屋台の営業を止めるなら、代わりに違約金を払え、なんて言われてるんだ。かといって、食材の当てもねぇ」
店主は、頭を抱えていた。
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「あの、もしよければ、僕の店の食材を、少し融通できるかもしれません」
「え?」
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誠は、この大会のために、王都に来る際、店の商品——保存の効く漬物や、乾燥野菜、そしてタナカソウ——を、いくらか持参していた。もしもの時のために、と思っての用心だったが、まさかこんな形で役に立つとは思っていなかった。
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「これなら、日持ちもしますし、味付けにも使えると思います」
誠は、荷物から取り出した漬物や乾燥野菜を、店主に見せた。
「おお、こりゃ、上等な漬物じゃないか! これがあれば、簡単な料理を、すぐにでも作れるぞ!」
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こうして誠は、急遽、屋台の手伝いをすることになった。
「田中さん、これ、どう調理すればいいんだ?」
店主が、誠の持ってきた食材を前に、途方に暮れていた。
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「祖父から教わったレシピが、いくつかあります。手早く作れるものを、選びましょう」
誠は、腕まくりをして、屋台の厨房に立った。
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「まず、この漬物を細かく刻んで、こちらの乾燥野菜を戻して……」
誠の手つきは、迷いがなかった。祖父の店で、幼い頃から培ってきた調理の感覚が、自然と体を動かしていた。
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「よし、味付けは、この保存食の出汁を使いましょう」
「おお、いい匂いがしてきたぞ!」
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出来上がったのは、素朴だが、滋味深い味わいの汁物と、漬物を使った簡単な和え物だった。
「これは……美味いな!」
店主が、味見をして、目を見開いた。
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「これなら、すぐにでも売り出せます」
「田中さん、あんた、商売の神様か何かか!?」
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こうして、急遽再開された屋台には、あっという間に、長い行列ができた。
「おお、この汁物、体に染みるな!」
「この漬物、酒に合うぞ!」
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観客たちの評判は上々で、屋台は、あっという間に大盛況となった。
「田中さん、もっと手伝ってもらえないか! 人手が全然足りないんだ!」
店主が、悲鳴のような声で頼み込んできた。
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「わかりました。手伝います」
誠は、そう言って、袖をまくり直した。
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しかし、噂は、あっという間に周辺の屋台にも広まった。
「あそこの店、なんか、やたら美味そうな匂いがするな」
「田中さんとかいう人が、手伝ってるらしいぞ」
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「田中さん! うちの屋台も、手伝ってもらえないか!」
「うちも、人手が足りないんだ!」
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気づけば誠は、一つの屋台だけでなく、周辺の複数の屋台を、忙しく行き来する羽目になっていた。
「た、田中さん、こっちの味付けも、見てもらえますか!」
「田中さん、この保存食、まだ使えますか!」
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「ちょ、ちょっと待ってください、一つずつ……!」
誠は、目の回るような忙しさの中、それでも、一つ一つ丁寧に、対応していった。
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「田中さん!」
見物に来ていたバルガスが、その様子を見つけ、驚いた顔をした。
「試合を見に来たんじゃなかったのか!?」
「それが、なんか、こうなってしまって……」
誠は、額の汗を拭いながら、苦笑いした。
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「相変わらず、忙しない男だな、お前は」
バルガスは、呆れながらも、豪快に笑った。
「よし、俺も手伝おう! こう見えて、力仕事は得意だ!」
「本当ですか、助かります!」
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こうして、バルガスまでもが、屋台の手伝いに加わることになった。
「田中の作る料理、こりゃ美味いな! 俺も、また明日、食いに来るぞ!」
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夕方になる頃には、誠の手がけた屋台群は、大会会場でも一際目立つ賑わいを見せるようになっていた。
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「田中さん、これ、少ないですが」
一日の営業を終えた店主たちが、口々に、誠に報酬を差し出してきた。
「いえ、そんな、いただけません」
「何言ってるんだ、あんたのおかげで、今日一日、商売になったんだ。受け取ってくれ」
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誠は、恐縮しながらも、それぞれの店主からの感謝を、ありがたく受け取った。
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「田中殿、今日は、随分と活躍したようだな」
その日の夜、アルフレートが、宿を訪ねてきた。
「活躍というか、気づいたら、屋台を掛け持ちすることになってました」
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「決勝戦は、見に来られるか」
「はい、明日は、ちゃんと観客として見ようと思います」
「ふむ、それは楽しみだな」
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翌日、大会の決勝戦は、大盛況のうちに幕を閉じた。誠は、屋台の店主たちと一緒に、観客席から、優勝者への声援を送った。
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「田中さん、本当にありがとうございました」
大会の全日程が終わった後、屋台の店主たちが、揃って誠に頭を下げた。
「あなたのおかげで、今年の大会は、食事の面でも、大成功でした」
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「いえ、皆さんの努力の賜物です」
誠は、いつものように、謙遜した。
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村への帰り道、誠は、屋台の店主たちからもらった、様々な食材や調味料——中には、誠の店では手に入らない、珍しい香辛料もあった——を、大切に荷馬車に積み込んだ。
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「田中さん、お帰りなさい」
村に戻った誠を、エリナが出迎えた。
「ただいま、エリナさん」
「武闘大会は、どうでしたか」
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「それが……」
誠は、これまでの経緯——不戦勝、勇者との泥試合、そして屋台の掛け持ち——を、順を追って説明した。
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「田中さんって、本当に、武闘大会に出たはずなのに、最終的には、屋台の手伝いをして帰ってくるんですね」
エリナが、呆れながらも、笑いを堪えるように言った。
「自分でも、そう思います」
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その夜、誠は祖父のノートに、こう書き加えた。
「武闘大会が終わった。結局、まともに戦ったのは、アルフレート様との一戦だけで、あとは屋台の手伝いばかりしていた気がする。でも、色んな人に感謝されて、悪くない経験だった。じいちゃん、俺は、戦うより、こういう方が、性に合っているのかもしれない」
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窓の外、二つの月が、静かに輝いていた。
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まだこの時の誠は知らない。この大会での屋台の手伝いをきっかけに、多くの商人や料理人たちとの繋がりができ、それが後に、田中商会の販路拡大に、大きく貢献することになることを。
そして、この「戦うよりも、屋台の方が輝く男」という評判もまた、王国中に、静かに広まっていくことになることも——今はまだ、知る由もなかった。




