第23話「沈みゆく、島々」
その、報せは。
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突然——もたらされた。
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「——大変だ——! 港町が——! 港町が——沈む——!」
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血相を——変えた——伝令が。
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町に——駆け込んできた。
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「——え!? 港町が!?」
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誠は——耳を——疑った。
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港町、といえば。
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この、町から——馬車で——数日の——距離に——ある。
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決して——小さくない——立派な——街、だった。
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「海の——水位が——一気に——上がったんだ——! 街の——半分が——もう——水の下——!」
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「住民たちは——命からがら——逃げ出して……こっちに——向かってる——!」
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「そんな……」
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誠は——絶句、した。
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これまでも。
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小さな——島が——沈んだ、という——噂は——あった。
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けれど——それは——遠い——南の、海の——話で。
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どこか——他人事、だった。
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——それが、今。
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すぐ——近くの——街が——沈んだ、という。
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「一色さん——!」
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誠は——ちょうど——町に——滞在していた——一色を——呼んだ。
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「聞きました——港町が——!」
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「ええ。……ついに——ここまで——来たのね」
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一色の——顔は。
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険しく——強張っていた。
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「海が——満ちる——速さが……明らかに——増している」
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「北の——氷が——溶けた——水が……海に——流れ込み続けているのよ」
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「どうすれば……」
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「まずは——避難民の——受け入れよ」
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一色は——即座に——判断した。
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「港町の——人々が——大勢——押し寄せてくる。地下の——住まいを——急いで——広げなければ」
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「食料も——水も——今の——倍は——要る」
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「——分かりました。すぐに——準備します」
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誠は——動き出した。
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こういう、時。
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誠の——動きは——早かった。
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「ルカ——! 保存食を——全部——出して——! エリナは——大鍋の——準備を——!」
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「グランデルさん——! 力仕事——お願いします——! 地下の——空間を——もっと——広げないと——!」
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「皆瀬さん——! 水の、網を——新しい——区画にも——伸ばせますか——!?」
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『まかせて』
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「おうよ——! 任せろォ——!」
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誠の——指示で。
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町は——一丸と——なって——動き始めた。
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そして——数日、後。
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港町からの——避難民が——到着した。
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その、数は——膨大、だった。
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疲れ果て。
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家財も——失い。
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ただ——命だけを——抱えて——逃げてきた——人々。
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「——大丈夫ですか——! こっちへ——! 水と——食べ物が——ありますよ——!」
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誠は——避難民を——迎え入れた。
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温かい——握り飯を——配り。
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冷たい——水を——飲ませ。
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疲れた——人々を——涼しい——地下へと——導く。
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「ああ……。ありがとう……。ありがとう……」
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避難民たちは——涙を——流して——感謝した。
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「もう——だめかと——思った……。街が——沈んで……何もかも——失って……」
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「でも——こうして——受け入れて——もらえて……」
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「無事で——よかった。生きてれば——なんとか——なりますから」
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誠は——一人、ひとりに——声を——かけて——回った。
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その、姿を。
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離れた——場所から。
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五人の——自称・主人公が——見ていた。
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「……なあ」
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武闘家が——ぽつり、と——言った。
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「あの、大量の——避難民を……あの、モブ一人が——さばいて——いるように——見えるのは……気の、せいか」
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「……気の、せいでは——ない、だろうな」
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英雄が——静かに——答えた。
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「見ろ。誰も——彼に——命じられて——いない。だが——皆——自然と——彼の——指示で——動いている」
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「あの——巨漢も。スライムも。技術者も。町の、人々も」
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「フフ……。不思議な——男、ですねえ」
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魔術師が——目を——細めた。
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「戦う、力は——ないくせに。あんな——大勢を——束ねている」
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「——ふん」
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光の勇者は。
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何も——言わず。
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ただ——誠の——背中を——見つめていた。
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その、目には。
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嫉妬とも。
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戸惑いとも。
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つかない——複雑な——色が——浮かんでいた。
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——一方、その頃。
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避難民の、中に——紛れて。
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誠は——ふと。
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また——あの——感覚を——覚えた。
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——きゅっ。
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胸の——奥が——なる。
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「……?」
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避難民の——一人。
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疲れ果てた——中年の——女性が。
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握り飯を——受け取りながら。
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じっと——誠を——見つめていた。
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「……あの。もし、かして……あなた……」
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女性が——何かを——言いかけた——その時。
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「——師匠——! こっちも——手が——足りません——!」
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ルカの——声が——飛んだ。
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「——あ、はい——! 今——行きます——!」
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誠は——慌てて——駆けていった。
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女性は。
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その、背中を——見送って。
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「……いえ。人違い、かしら……」
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小さく——首を——かしげて。
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そして——また——うつむいた。
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その、様子を。
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離れた——場所から。
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駄々丸が——じっと——見ていた。
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(——おや。あの——おかみさんも……か)
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駄々丸は——煙管を——ふかして。
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そして——小さく——ため息を——ついた。
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(——みんな……近くまで——来てるのに。あと——一歩、なんだがねェ)
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「大変な、ことが、起きた。港町が、沈んだ。海の水位が、一気に、上がって、街の半分が、水の下。避難民が、大勢、うちの町に、逃げてきた。みんな、家も、財産も、失って、命からがら。すぐに、地下を、広げて、握り飯と、水を、配って、受け入れた。一色さんも、グランデルさんも、皆瀬さんも、みんな、助けてくれた。避難民の、人たち、泣いて、感謝してくれた。無事で、よかった。……それにしても、島が、沈む速さ、明らかに、速くなってる。この、暑さ、この、海面上昇、一体、いつまで、続くんだろう。それから、避難民の、おばさんが、僕を見て、"もしかして"、って、言いかけて……人違い、かしら、って。あの、きゅっと、なる感じ、また、あった。なんだろう、本当に。じいちゃん、困ってる人が、多すぎて、僕、頑張らないと」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。島々が——沈みゆく——この——破滅が。もはや——止まらぬ——ところまで——来ていたことを。
そして——避難民の、中に。
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——彼を——「もしかして」、と——呼びかけた——あの——女性の、正体も。
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それに——気づいている——駄々丸が——なぜ——何も——言わないのかも——今は……まだ、知らない。




