第21話「妖精族は、モンスターにあらず」
その日は。
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朝から——妙に——騒がしかった。
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「——待てェ——! 逃がすかァ——!」
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「——魔物め——! 成敗して——くれる——!」
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厨二病の——若者たちが。
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わあわあと——何かを——追いかけて——走っていた。
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「——な、なんだ?」
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誠が——店先で——首を——かしげていると。
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——どすん、どすん、どすん!
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地響きを——立てて。
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巨大な——影が——駆け込んできた。
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「——たた、田中の——旦那ァ——! 助けてくれェ——!」
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「——っ! グランデルさん!?」
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三メートルを——超える——巨躯。
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岩の、ような——筋肉。
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角の、生えた——厳つい——顔。
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——だが。
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その、顔は。
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半べそを——かいていた。
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「グランデルさん! どうしたんですか、その——格好で——汗だくで——!」
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「聞いてくれ——旦那! さっきから——あの、若いのに——追い回されてるんだァ——!」
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グランデル。
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前作の——仲間。
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かつては——妖精王、だったが。
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今は——鬼族——オーガの——長として——皆を——束ねている。
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見た目こそ——厳ついが。
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その——中身は。
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涙もろくて——お人好しの——優しい——大男、だった。
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「——いたぞ——! 魔物は——ここだ——!」
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厨二病の——若者たちが。
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店先に——なだれ込んできた。
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「——ふっ! 観念しろ——魔物め——!」
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「——その、禍々しい——姿——! 討伐——対象——認定——!」
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「ま、待ってください——!」
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誠が——慌てて——両手を——広げて——間に——入った。
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「この人は——魔物じゃ——ありません——! 僕の——大切な——友達です——!」
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「——何を——言う——! どう見ても——魔物では——ないか——!」
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若者たちは——聞く耳を——持たない。
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「あんな——大きくて——角の——生えた——恐ろしい——姿——! 魔王の——手下に——違いない——!」
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「——ひどいィ——! ワシ——そんな——悪いこと——してないィ——!」
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グランデルが——三メートルの——巨体を——縮こませて——めそめそと——泣いた。
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(——見た目で——判断——しすぎだよ……)
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誠は——ため息を——ついて。
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そして——きっぱりと——言った。
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「いいですか。この人は——れっきとした——妖精族——オーガの——長、です」
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「疑うなら——身分証を——お見せします——ちゃんとした——身元の——ある方——です——!」
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「み、身分証……?」
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若者たちが——きょとん、と——した。
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「魔物に——身分証、など——あるのか?」
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「魔物じゃ——ないですってば——! グランデルさん、あれ——見せて——あげてください」
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「お、おう」
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グランデルは——ごそごそと——懐から。
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立派な——証書を——取り出した。
似ても似つかない若き日の体長20cm程度だった妖精時代の顔写真いりである。
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「これが——ワシの——身分証だァ。オーガ族の——長、グランデル。ちゃんと——各国と——同盟を——結んだ——正式な——一族——だァ」
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若者たちは。
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その、証書を——おそるおそる——覗き込んだ。
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「……ほ、本当だ」
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「オーガ族……長……。正式な……一族……」
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「……魔物じゃ、なかった……」
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若者たちは——きまり悪そうに——顔を——見合わせた。
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「そ、その……すまなかった。魔物と——早合点して……」
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「いいんだ——いいんだァ」
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グランデルは——たちまち——機嫌を——直して——豪快に——笑った。
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「ワシの——見た目が——怖いのは——よく——言われる、からなァ! はっはっは!」
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——なんとか。
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誤解は——解けた。
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「——だが」
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そこへ。
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騒ぎを——聞きつけた——光の勇者が——やってきた。
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「オーガ族の——長、だと? ならば——ちょうど——いい」
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光の勇者は——グランデルを——見上げて——言った。
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「その——力——見込んで——頼みが——ある。俺の——魔王討伐に——力を——貸せ」
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「主人公たる——俺の——仲間に——加えて——やろう。光栄に——思うがいい」
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すると——グランデルは。
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きょとん、と——した——後。
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——きっぱりと——首を——振った。
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「いや。断るゥ」
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「——な、なんだと?」
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光の勇者が——目を——見開いた。
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「主人公たる——俺の——誘いを——断ると——いうのか?」
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「おうよ」
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グランデルは——腕を——組んで——言った。
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「ワシが——力を——貸すのは——旦那——田中の——旦那だけだァ」
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「その——モブに——だと?」
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「モブ——じゃ——ないィ」
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グランデルは——むっと——した。
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「旦那は——ワシらを——見た目で——判断——しなかった——恩人だァ」
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「星喰いの、時も——旦那が——いたから——ワシらは——救われたァ」
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「主人公が——どうとか——知らんが……ワシは——旦那に——ついていくィ。それだけだァ」
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光の勇者は。
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ぐっ、と——言葉に——詰まった。
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「……なぜ、だ」
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光の勇者は——誠を——睨んだ。
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「なぜ——お前のような——モブに——あんな——巨漢が——従う。魔王を——倒すわけでも——ないのに」
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「主人公は——俺だ。強さも——俺の、方が——上のはずだ。なのに——なぜ——だ」
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誠は——困って——頭を——掻いた。
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「うーん……。強さとか——主人公とか——そういうの——じゃ——ないと——思いますよ」
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「グランデルさんとは——ただ——一緒に——大変な——ことを——乗り越えた——仲、っていうか」
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「困った、時に——お互い——助け合った。それだけ——です」
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「……それだけ、だと」
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光の勇者は。
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しばらく——誠を——見つめて。
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そして——何も——言わずに——立ち去った。
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その、背中が。
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どこか——寂しげに——見えたのは。
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気の、せい——だろうか。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「大変だった。グランデルさんが、厨二病の、若者たちに、"魔物だ"、って、追いかけられて、うちに、逃げ込んできた。三メートルの、大男が、半べそ、かいて。見た目で、判断、しすぎだよ。身分証、見せて、やっと、誤解が、解けた。"オーガ族の、長"、って。若者たち、平謝り。グランデルさん、"見た目が、怖いのは、よく言われる"、って、豪快に、笑ってた。優しい人なのに。それで、光の勇者さんが、グランデルさんを、仲間に、誘ったけど、"断る。ワシは、旦那に、ついていく"、って。勇者さん、"なぜ、モブに、従う"、って、僕を、睨んだ。困った時に、助け合った、仲、それだけ、って言ったら、黙って、行っちゃった。なんか、背中が、寂しそうだった。じいちゃん、見た目で、判断しちゃ、だめだよね」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。光の勇者が——「なぜ、モブに、従う」、と——問うた、その、問いこそが。
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やがて——この、世界の——すべての——者が——ぶつかる……最大の——謎で、あったことを。
そして——その、答えを——誠は——もう——口に、していた、ことも。
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——「困った、時に——助け合った。それだけ」。
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その、あまりにも——ささやかな——答えの——中に——すべてが——あったことも——今は……まだ、誰も——気づかない。




