第20話「水の、網」
一色の——技術で。
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地下は——ずいぶんと——涼しく——なった。
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だが——一つ、だけ。
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どうしても——解決——できない——問題が——あった。
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「——水、か」
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一色が——腕を——組んで——唸った。
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「地下に——人が——増えれば——それだけ——水が——要る。飲み水。煮炊きの——水。体を——洗う——水」
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「井戸だけ、では——とても——足りないわ」
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「そうなんです……」
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誠も——頭を——抱えた。
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地下の——あちこちに——人が——住むように——なった、が。
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その——すべてに——水を——行き渡らせるのは。
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容易な、こと、では——なかった。
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「地下水の——ある——場所は——限られてる。そこから——遠い——住まいには——水を——運ぶしか——なくて」
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「でも——それだと——人手が——いくらあっても——足りません」
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誠が——困り果てて——いた——その時。
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——ぴちょん。
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足元で。
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小さな——水音が——した。
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「……ん?」
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誠が——足元を——見ると。
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透明な——スライムが——一匹。
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ぷるん、と——跳ねていた。
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『——ひさしぶり、だね。誠』
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「——っ! この、声は——!」
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頭の——中に——直接——響く——声。
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穏やかで——静かな——その、声を。
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誠は——よく——知っていた。
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「——皆瀬さん!」
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『うん。おひさしぶり』
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皆瀬。
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前作の——戦いを——共に、した——仲間の——一人。
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無数の——スライムが——集まって——一つの——意識を——なす。
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「霧霊スライム族」の——集合意識、だった。
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目は——見えない。
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けれど——音と——気配で——世界を——感じ取る。
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そして——星喰いとの——戦いでは。
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その、身を——レンズに——変えて——世界を——救う——助けと——なった。
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「どうして——ここに?」
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『世界が……熱く——なってる。水が……乱れてる』
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皆瀬の——声は。
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相変わらず——たどたどしく。
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けれど——確かな——意志を——持っていた。
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『わたしたち——スライムは……水の、流れが……分かる』
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『地下の……水脈も……全部』
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「——え!?」
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一色が——身を——乗り出した。
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「地下の——水脈が——分かる、というの?」
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『うん……。どこに——水が——あるか。どこに——流せるか……感じ取れる』
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「それは——すごい——ことよ!」
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一色の——目が——輝いた。
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「水脈さえ——分かれば——効率よく——水路を——引ける。無駄な——掘削も——いらない」
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『それに……』
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皆瀬は——静かに——続けた。
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『わたしたち——スライム、自身が……水を、運ぶ——網に、なれる』
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「網に……?」
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『うん。仲間の——スライムを……地下じゅうに——広げて……体を——繋いで……水を、送る』
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『そうすれば……どんなに——遠い——場所にも……水が、届く』
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誠は——はっと、した。
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——繋いで。
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その、言葉に。
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前作の——戦いが——蘇る。
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皆瀬たち——スライムを——繋ぎ手にして。
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世界中を——一つに——した——あの、戦い。
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「そうか……。皆瀬さんたちが——繋がって——水を——運んで——くれるんですね」
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『うん。誠が……昔——教えて、くれた』
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皆瀬の——声が。
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どこか——嬉しそうに——聞こえた。
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『一人ずつ、じゃ……できないことも……繋がれば——できる、って』
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「……はい」
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誠は——微笑んだ。
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こうして。
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皆瀬たち——スライムが——地下に——広がった。
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透明な——体を——繋いで。
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地下じゅうに——網の目のように——張り巡らせて。
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水脈から——水を——汲み上げ。
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遠い——住まいの——隅々まで。
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清らかな——水を——送り届ける。
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「——水が——出た——!」
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「——こんな——奥まで——!?」
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「——ありがたい——! これで——安心して——暮らせる——!」
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地下の——人々が。
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歓声を——上げた。
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スライムの——水の、網は。
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地下で——暮らす——人々の。
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大切な——命綱に——なった。
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「——ありがとう——ございます、皆瀬さん。本当に——助かりました」
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『ううん……。誠こそ』
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皆瀬は——静かに——言った。
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『困った、人が、いたら……放って、おけない。誠は……昔から……変わらないね』
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「そう——ですかね」
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『うん……。だから……わたしたちも……力を、貸したく、なる』
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誠は——照れて——頭を——掻いた。
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けれど——その、言葉は。
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なんだか——じんわりと。
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胸に——染みた。
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そして——ふと。
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離れた——場所で。
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その——やりとりを——見ていた——賢者が。
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小さく——呟いた。
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「……妙な、男だ」
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賢者は——じっと——誠を——見つめた。
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「スライムの——集合意識が……自ら——力を——貸す、だと。あの——誇り高い——種族が」
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「あの、男は——一体……何、者、なのだ」
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賢者の——胸に。
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小さな——疑問が——芽生えた。
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だが——その、答えは。
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まだ——誰にも——分からなかった。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「地下の、水の、問題で、困ってたら……皆瀬さんが、来てくれた! スライムの、皆瀬さん。久しぶり。皆瀬さんたち、スライムは、水の流れが、分かるんだって。地下の、水脈も、全部。それで、仲間の、スライムが、繋がって、地下じゅうに、水を、運ぶ、網に、なってくれた。すごい! どんな、遠い、住まいにも、水が、届くように、なった。みんな、大喜び。皆瀬さんが、"誠が、昔、教えてくれた。一人ずつじゃ、できないことも、繋がれば、できる"、って。嬉しかったな。"誠は、困った人を、放っておけない。昔から、変わらない"、とも。……なんだか、照れちゃう。前作の、仲間が、こうして、力を、貸してくれる。ありがたいなあ。じいちゃん、僕は、いい仲間に、恵まれてるよ」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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まだこの時の誠は知らない。皆瀬たちが——地下に——張り巡らせた——この、"繋がりの、網"、が。
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やがて——もっと——大きな——"繋がり"、の……ささやかな——始まりで、あったことを。
そして——賢者が——抱いた——「あの、男は——何者だ」、という——小さな——疑問が。
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——いつか——世界の——誰もが——問う……大きな——問いに——変わっていくことも——今は……まだ、知らない。




